北海道新聞みなみ風の「立待岬」。5月10日掲載のタイトルは「狭小邸宅」。
「てめぇ、冷やかしの客じゃねぇだろうな。その客、絶対ぶっ殺せよ」。主人公の松尾が就職した会社では、「殺す」は客を落とすとか、買わせるといった意味で使われている。すばる文学賞を受賞した新庄耕の「狭小邸宅」は、首都圏にある不動産業界の過酷な営業の世界を描いたものだ。
「数字にならなきゃ意味ねぇんだよ」「お前らは営業なんだ。売る以外に存在する意味なんかねぇんだっ」。上司の罵声に激しい胃痛が襲いかかる。早朝から終電車まで働き続け、休日も出勤。繁華街では大きな看板を前後にぶらさげて宣伝する。一般企業の多くは「営業」が会社を支えているが、私のところもそれは例外ではない。だからこそ手に受話器をガムテープで縛り付けて営業電話をかけ続ける主人公の同僚の姿にも違和感はない。
一番高い買い物は家だ。高い物ほど買う側と売る側との駆け引きはスリリングである。狭い上に場所や日当たりも悪い都会の狭小地に建てられた住宅がペンシルハウス(狭小邸宅)。売ることのできない主人公は戦力外通告をされ異動させられるが、このペンシルハウスの物件が彼の状況を大きく変えていく。
売れなくても会社を辞めない主人公は下克上の世界でどう戦うのか。従業員に劣悪な環境での労働を強いる会社はブラック企業と呼ばれているが、「さっさと辞めろ」と言い続ける課長は単なるパワハラ上司ではなかった。辞めることを考えている新入社員にはヒントを与えてくれる1冊かもしれない。
(メディカルはこだて発行・編集人)
「てめぇ、冷やかしの客じゃねぇだろうな。その客、絶対ぶっ殺せよ」。主人公の松尾が就職した会社では、「殺す」は客を落とすとか、買わせるといった意味で使われている。すばる文学賞を受賞した新庄耕の「狭小邸宅」は、首都圏にある不動産業界の過酷な営業の世界を描いたものだ。
「数字にならなきゃ意味ねぇんだよ」「お前らは営業なんだ。売る以外に存在する意味なんかねぇんだっ」。上司の罵声に激しい胃痛が襲いかかる。早朝から終電車まで働き続け、休日も出勤。繁華街では大きな看板を前後にぶらさげて宣伝する。一般企業の多くは「営業」が会社を支えているが、私のところもそれは例外ではない。だからこそ手に受話器をガムテープで縛り付けて営業電話をかけ続ける主人公の同僚の姿にも違和感はない。
一番高い買い物は家だ。高い物ほど買う側と売る側との駆け引きはスリリングである。狭い上に場所や日当たりも悪い都会の狭小地に建てられた住宅がペンシルハウス(狭小邸宅)。売ることのできない主人公は戦力外通告をされ異動させられるが、このペンシルハウスの物件が彼の状況を大きく変えていく。
売れなくても会社を辞めない主人公は下克上の世界でどう戦うのか。従業員に劣悪な環境での労働を強いる会社はブラック企業と呼ばれているが、「さっさと辞めろ」と言い続ける課長は単なるパワハラ上司ではなかった。辞めることを考えている新入社員にはヒントを与えてくれる1冊かもしれない。
(メディカルはこだて発行・編集人)