一般財団法人 知と文明のフォーラム

近代主義に縛られた「文明」を方向転換させるために、自らの身体性と自然の力を取戻し、新たに得た認識を「知」に高めよう。

安田節子著『自殺する種子』

2009-06-25 07:11:10 | 活動内容

食をめぐる政治経済学

安田節子著  『自殺する種子』 

 
 昨年の6月、知と文明のフォーラムが主宰するセミナーに安田節子さんをお招きして、2日間にわたってお話を伺った。食をめぐって展開されるお話は、そのソフトな語り口とは裏腹に、現代社会の酷薄な実情を白日の下にさらす、まことにショッキングな内容であった。

これは本にして、多くの人に読んでもらわなければならない――セミナーが終了したとき、私は安田さんに新書の執筆を依頼した。そしてセミナーからちょうど1年後、『自殺する種子――アグロバイオ企業が食を支配する』というタイトルで出版の運びとなったのである。この本には、長年消費者運動に関わってこられた安田さんの豊富な体験と深い知識、さらにそこから培われた実践的な思想が、十分に反映されていると確信する。

本書はなによりも、食をめぐる政治経済の本である。一読すると、現代世界の経済構造と、それを支える政治権力のあり方が見えてくる。食をテーマとしている故に、それらのあり方はより切実に、読む者の心に訴えかけるに違いない。

たとえば、2007年から08年にかけて世界を席巻した、穀物の異常な高騰がある。その影響を受けて、ハイチやバングラデシュでは餓死する人が多く出た。農業国でなぜ人が飢えるのか。その原因は、現在の世界銀行・IMF(国際通貨基金)・WTO(世界貿易機関)体制にあるのだと教えられた。ハイチやバングラデシュでは、債務の返済のため、バナナ、サトウキビ、綿花などの換金作物を作ることを強制され、自給農業が壊滅したのだ。主食はアメリカやフランスなど「農業国」からの輸入に頼ることになり、今回の食糧高騰で大打撃を受けることになった。

食糧高騰の理由も、バイオ燃料の拡大、気象変動、新興経済国の穀物需要拡大、投機マネーの流入、農業国の輸出規制と、明確に指摘されている。なかでも、投機マネーの流入の影響がもっとも大きいとされ、利潤を得るためには手段を選ばない、資本主義経済の本質が暴かれている。

本書のハイライトは、第3章「種子で世界の食を支配する」と、第4章「遺伝子特許戦争が激化する」である。タイトルの『自殺する種子』もこれらの章から採られている。生命を次世代に伝える、生物のもっとも根源的な存在である種子が、なぜ自ら生命を絶つのか?  この背景には、止まるところを知らないバイオテクノロジーの進化と、それを支配するグローバル企業の存在がある。

種の第2世代を自殺させる、遺伝子組み換えによる自殺種子技術。次の季節に備えて種を取り置いても、その種は自殺してしまうので、農家は毎年種を買わざるを得なくなる。まさに究極の種子支配技術である。モンサントやデュポンなど巨大アグロバイオ(農業関連生命工学)企業は、遺伝子工学を駆使した自殺種子や除草剤耐性種子(除草剤も抱き合わせにして)を世界中に売り込むことで、莫大な利益を上げているという。

 一方アメリカ政府は、遺伝子そのものにまで特許を認めることで、グローバル企業の後押しをしているのだ。「食」はまさに、アメリカの国家経済戦略の要なのである。

本書はさらに、アメリカ追随の近代的日本農業の破綻を見据えた上で、あるべき食と農の未来を展望する。地域に根差した有機農業こそ、日本の自然を護り、安全で美味しい食物を生み出すことができるのだと、結論している。

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安田節子著『自殺する種子――アグロバイオ企業が食を支配する』
 平凡社新書469巻■208頁■定価756円(税込み)

 ■目次より
 はじめに:なぜ種子が自殺するのか
 第1章:穀物高値の時代がはじまった
          
――変貌する世界の食システム
 第2章:鳥インフルエンザは「近代化」がもたらした
          ――近代化畜産と経済グローバリズム
 第3章:種子で世界の食を支配する
          ――遺伝子組み換え技術と巨大アグロバイオ企業
 第4章:遺伝子特許戦争が激化する
          ――世界企業のバイオテクノロジー戦略
 第5章:日本の農業に何が起きているか
          ――破綻しつつある近代化農業
 第6章:食の未来を展望する
          ――脱グローバリズム・脱石油の農業へ
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 2009年6月24日
 J-MOSA



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