ワインな ささやき

ワインジャーナリスト “綿引まゆみ” (Mayumi Watabiki) の公式ブログ

第11回 Weingut Josef Leitz@「キャッチ The 生産者」

2009-01-07 12:55:33 | キャッチ The 生産者
「ワイン村.jp」 (社団法人日本ソムリエ協会 オープンサイト)(2004年5月~2008年12月終了)に連載していた「キャッチ The 生産者」(生産者インタビュー記事)を、こちらにアップし直しています。
よって、現在はインタビュー当時と異なる内容があることをご了承ください。

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  (更新日:2005年6月11日)

第11回  Eva Fricke  <Weingut Josef Leitz>



今回は、久しぶりの女性生産者の登場です!
この5月、ドイツワイン基金の『Riesling &Co. World Tour 2005』が大阪、東京、横浜で開催されましたが、そのプレゼンテーションに『ワイングート・ヨセフ・ライツ』の代表として参加したのが、エヴァ・フリッケさんです。

<Eva Fricke>
ラインガウ出身の27歳。
ライツ醸造所の娘さんではありませんが、栽培と醸造のディプロマを取得後、スペインやオーストラリアのワイナリーで研修を重ね、2002年からライツに勤務。


ライツ醸造所は、ドイツワイン生産地の中でも素晴らしいワインを生み出すといわれるRheingau(ラインガウ)のリューデスハイムにあり、設立は1985年と比較的最近です。当初は花屋との兼業で、畑も3haしかなく、近くの人たちにワインを売るような小さな家族経営のワイナリーでしたが、徐々に畑を拡大し、2000年になる前くらいから輸出に力を入れ始め、生産量を伸ばしてきています。日本ではまだ輸入会社が決まっていませんが、ぜひ積極的に売り出していきたい!と意気込むエヴァさんに、ライツのワインをテイスティングしながら、色々なお話をうかがいました。





1) Riesling Dragonstone 2004
QbAクラスに該当するややカジュアルなワインで、半辛口よりやや甘めのタイプ。果実味が豊かでフルーティで、酸味がしっかりしています。
エヴァさんのおすすめの飲み方は、アペリティフとして、また、東南アジアの力強い味付けの辛い料理などと一緒に。夏にテラスで気軽に、という「テラスワイン」にも最適とのこと。




2) Rudesheimer Bischofsberg Riesling Auslese 2004
非常にキレイでクリーンな、薫り高いワインで、まだ少々発泡しています。というのも、これはサンプルで持ってきたもので、ラベルに書かれた「Auslese」の文字はエヴァさんの手書き。繊細でエレガントな甘さが魅力の、上質なワインです。 畑は山
の斜面の石とロームの混ざった土壌で、「かなり個性的な味を楽しんでもらえると思います」とエヴァさん。




3) Rudesheimer Kirchenpfad Riesling Beerenauslese 2002 (左)
4) Rudesheimer Kirchenpfad Riesling Trokenbeerenauslese 2003 (右)
どちらも素晴らしい甘口ワイン(お値段も高価です!)で、BAの方はなぜかイチゴのようなベリーの甘いニュアンスを感じました。
TBAは甘さの凝縮感が非常に強く、とろーんとした口当たりで、アプリコットのフレーバーがあります。

2003年はドイツも非常に猛暑で乾いた年であったため、貴腐がつかず、ぶどうはカラカラの干しぶどう状態になったとのこと。

この極甘口に合うエヴァさんのオススメマリアージュは、青カビのチーズやフォアグラ。
今回はこの甘口ワインと一緒に、激甘の赤いベリーのソース(イチゴやラズベリーなど)のかかったデザートをいただいたのですが、極甘口といえど酸がしっかりしているので、激甘のデザートとも素晴らしいマリアージュでした。


ライツのワインは、「エレガントでミネラルが豊富」で、「酸と残糖のバランス」を重視するスタイル。
辛口のトロッケンタイプのワインにも果実の自然な甘さを感じるのは、試飲をして、いいと思った段階で発酵を止めるので、発酵されずに残る果糖によるものとか。



Q.あなたのライツでの役割は?
A.夏から秋は、ほとんど畑に出ています。従業員はオーナーと私と事務担当の3名だけなので、私は、栽培、収穫から醸造までの全ての過程に関わっています
また、経営責任者でもあります。ラインガウ地域は男性社会なので、女性がここまで担当させてもらっているのは珍しいことです。

Q.ライツ醸造所について詳しく教えて下さい。
A.当初畑は3haだけでしたが、その後、小さい良い畑を徐々に買い集め、現在は26haを所有しています(生産量は年間約19,000ケース)。
しかし、大量生産ワインではなく、品質に注意したワインづくりを行っています。また、昔風の古臭いイメージから脱却し、新しいイメージを打ち出していくための、さまざまな工夫を試みています。 ワインは100%リースリングのみです。

リューデスハイムの畑は、場所によりローム(黄土)やシーファー(粘板岩のスレート)といった土壌の違いがあるのですが、その土壌の違いが出せるようなワインづくりをしています。
もちろん、化学肥料や農薬などは使わず、自然のままの栽培を行い、畑仕事は100%手作業です。
9月から10月にかけて房を選りすぐり(グリーンハーベストに該当)、1本の樹から1.2~2.0kgの実が得られるよう、約4~6房を残します。
収穫は10月から11月にかけてで、平均収穫量は60hl/ha(最良の畑では30hl/ha)です。

Q.良い畑は、そう簡単に手に入るものなのですか?
A.この地にはかつて、小さくて古いワイナリーがたくさんありました。しかし、後継者がいないところは畑を手放さざるをえず、そうしたところから良い畑を選んで買うのです。
私たちは本当に良い畑を持っています。が、現在VDP(*1)でエアステス・ゲヴェックス(*2)と認定されている畑は持っていません(ライツはVDP会員)。認定されている畑よりも私たちの持っている畑の方が良いものがあるのですが…。私は、VDPの認定基準には疑問を感じています 。

Q.新しいイメージを打ち出している、という具体例は?
A.例えば、アメリカやイギリス向けに力を入れている「ドラゴン・ストーン」ですが、モダンなデザインのエチケットにし、商品名も英語の「Dragonstone」としました。これだけで年間7万リットルも売る人気商品です。
これはドイツ国内ではほとんど売られていないのですが、アメリカでは、ドイツの辛口リースリングといえば「ドラゴンストーン」と認識されるまでになっていて、非常に成功しています。
(*「Dragonstone」は商標登録もしています) 。

Q.現在の輸出の状況は?
A.生産量の80%が輸出で、輸出先も、アメリカ、イギリスに加え、デンマークやノルウェー、カナダなどにも拡大してきました。日本では、今回のプレゼンテーションでも人気の高かった「Dragonstone」と「Rudesheimer Bischofsberg Riesling
Spatlese Trocken」、「Rudesheimer Berg Roseneck Riesling Spatlese」の3アイテムを売り出したいと考えています。日本のマーケットは私が担当する予定です。


(*1)VDP:
"ファウデーペー"と読み、ドイツ優良ワイン生産者協会のこと。

(*2) エアステス・ゲヴェックス
ラインガウ地域の辛口ワインのトップ・クオリティのものに付けられる肩書きで、格付けされた畑のぶどうからつくられたものに限るなどの厳しい条件があり、VDPによって認定が与えられる。




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インタビューを終えて

ドイツでも、学校を卒業してもすぐに仕事には就かず、しばらくはフラフラしている若者が多いそうですが(どこの国も同じ?)、エヴァさんは卒業と同時に世界各地のワイナリーで実践を積んできたので、若くして今の地位を得ることができた、と言います(エヴァさん、かなりのしっかりものです!)。

ドイツでも伝統あるラインガウ地域というと、気難しそうな年配の男性が口数少なくワインづくりをしているような図を想像してしまいがちですが、ライツでは、消費者の嗜好に合わせた、ターゲットを絞り込んだワインづくりや販売戦略を行い、また、エヴァさんのような若い女性を重要なポジションに置くなど、革新的ともいえるワイナリー経営で、成功を収めています

これからは、このライツのような考えを持ったワイナリーがどんどん出てきそうですし、ドイツは確実に変わりつつあります。

*ライツでは生産するワインの100%がリースリングということですが、実は0.5haのシュペートブルグンダー(ピノ・ノワール)の畑も所有しており、今年はそれから新しいワインをつくる予定とのこと。
エヴァさんは「赤のゼクトなんてどうかしら?」と言っていましたが、果たしてどんなワインが出来上がるでしょうか?注目です。

(ライツ醸造所のHP: http://www.leitz-wein.de


*取材協力: ドイツワイン基金


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