「ワイン村.jp」 (社団法人日本ソムリエ協会 オープンサイト)(2004年5月~2008年12月終了)に連載していた「キャッチ The 生産者」(生産者インタビュー記事)を、こちらにアップし直しています。
よって、現在はインタビュー当時と異なる内容があることをご了承ください。
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(更新日:2005年10月11日)
第15回 Johannes Selbach <Weingut Selbach-Oster>
<Johannes Selbach>
1959年生まれの46歳。
16歳の頃、家業を継ぎたい、自然に密着した仕事をしたいと決意。
ドイツのガイゼンハイム大学で経営学を2年学んだ後、アメリカに留学し、ドイツワインに興味のある教授に師事。研究テーマは、アメリカにおけるドイツワインのマーケティングについて。
卒業後は1985~87年までニューヨークでワイン関係の会社に勤務。
1988年にドイツに帰国してワイナリーを継ぎ、現在に至る。
ヨハネス・ゼルバッハさんは、ドイツといったらこの生産地を抜きにしては語れない、モーゼル・ザール・ルーヴァーのワイナリー 『ゼルバッハ・オースター』 のオーナーです。
今回は、日本へは何度も来ている日本通のゼルバッハさんに、モーゼルワインの魅力をたっぷりと伺いました。
モーゼルといったら“リースリング”!
ドイツワインのことをよく知らないという人でも、「モーゼル」という名前は、きっと耳にしたことがあるでしょう。
「モーゼル」とは川の名前です。フランスのボージュ山中を水源とする流れは、ルクセンブルグを通ってドイツに入り、大きく蛇行しながら流れてゆき、ゴブレンツでライン河と合流します。
このモーゼル川の上流はザール川とルーヴァー川に分かれているため、これらの3つの川の流域を合わせて「モーゼル・ザール・ルーヴァー」地域と呼んでいます。
モーゼル・ザール・ルーヴァーは、リースリング種からつくられる上質な白ワインを産する生産地として有名です。
モーゼル川がドイツ国内を流れる距離は約240km。
それだけの長さがあると、上流と下流ではだいぶ様子が違ってきます。上流地域は「オーバー・モーゼル」、中流は「ミッテル・モーゼル」、下流は「ウンター・モーゼル」と呼ばれていますが、銘醸といわれる畑は「ミッテル・モーゼル」に集中しています。
もちろん、ゼルバッハさんの『ゼルバッハ・オースター』も、このミッテル・モーゼルのツェルティンゲン(Zeltingen)という地にあります。
Q.ワイナリーの歴史について教えてください。
A.ぶどう園として1661年まで遡ることができます。
伯父がワイナリーを経営しています(J&Hゼルバッハ)が、私の父はぶどう栽培農家で、ワイナリーにぶどうを提供していました。
しかし、新しいワイナリーとして伯父のところから独立し、1964年から『ゼルバッハ・オースター』としてリリースしています。
ゼルバッハ・オースターは家族経営の小さなワイナリーです。
Q.モーゼルワインの最大の特徴は?
A.軽くてフルーティーな早飲みタイプから20~30年も熟成可能なものまで、幅広く楽しめるワインだということです。
モーゼルワインの飲み頃には3段階あります。
1) 若く生き生きとしたフルーティーさを楽しむ時期(5年未満)。
2) 人間でいえば中年期で、さまざまな複雑な要素が出てくる時期。晩年に備え、ミネラルやアロマが倍増します。
3) 人間なら晩年期で、今までとは違ったアロマをかもし出し、まろやかな味わいで、舌触りもよく、何杯でも楽しめます。
Q.では、あなたのワインの特徴は?
A.私は「リースリングのスペシャリスト」だと自認しています。
モーゼルの伝統を生かしたワインづくり、つまり、軽くてフルーティなタイプから、何十年も熟成させてから楽しむタイプまで、幅広く生産しています。
また、より畑の個性を反映させるワインづくりを行っています。
畑は16haありますが、ほぼ100%がリースリングで、ゼクト(=スパークリング・ワイン)用にヴァイスブルグンダー(=ピノ・ブラン)を少々植えています。
畑はすべて南向きで(大きく蛇行するモーゼル川には、川に対して南向き斜面の畑が存在します)、土壌は青いスレート(珪酸質の粘板岩の薄板)です。
傾斜は最大で70度もあり(!)、川に近い下の場所は湿気が多く、川面に反射する光を集めますが、山の上の場所は少し冷涼になります。
非常に急な斜面の畑
Q.ツェルティンゲンでは、いつ頃収穫を行うのですか?
A.私のところは、だいたい毎年10/18頃からリースリングの収穫を始めます。
畑の上下でも収穫時期が変わりますし、上級クラスのワイン用のぶどうは、アロマやエキス分をよりぶどうの粒にしみ込ませるため、11月の初旬に集中して収穫作業を行います。 。
Q.リースリングのシュペトレーゼクラスまでは、よく食事に合わせて飲むといわれますが、その上のアウスレーゼは、どのように飲んだらいいでしょうか?
A.モーゼルのアウスレーゼは食中酒としても楽しめます。
実は150年くらい前の晩餐会のメニューを見ると、メイン料理に合わせて、シュペートブルグンダー(=ピノ・ノワール)の赤ワインとリースリングのアウスレーゼが提供されています。アウスレーゼは、昔から食中酒としても楽しまれていたんです。
私はアンティパスト(前菜)に合わせたり、ナッツや、アロマが豊かな青カビのチーズと一緒に飲むのが好きです。それほど甘くないデザートと合わせてもいいと思います。
ほのかな甘さを持ったアウスレーゼが私の理想です。アウスレーゼは1杯で満足するワインではなく、2杯、3杯と飲みたくなるワインです。
Q.現在、輸出の割合はどのくらいですか?
A.輸出が6割で、国内消費が4割です。アメリカ、北欧、日本の順に多く輸出しています。
イギリスは重要なマーケットとしては考えていません。アメリカでは、かつては安くて甘いドイツワインが人気でしたが、最近は辛口タイプの比率が上がってきました。アジアの各国もマーケットとして大事ですが、もっとも重要なのは日本です。
繊細で素材を生かした料理が多い和食は私も大好きで、和食には白ワインが合うと思っています。ですから、今後もぜひ日本に力を入れていきたいですね。
<テイスティングしたワイン>
Zeltinger Sonnenuhr Riesling Auslese
(1983、1985、1989、1993、1995、1998、2001、2003年の垂直テイスティング)
同じワインが20年でどう変化するか?という、興味深いテイスティングです。
日常生活では、熟成期間が20年を超えるリースリングを飲む機会はなかなかありません。しかし、熟成したリースリングがこんなにも気品があり、ふくよかで、しかも酸が十分に残り、ミネラル感も感じられるものなのだということを、今回のテイスティングで実感させられました。
ヴィンテージが若くなるに従って、軽快で爽やかなフルーティー感が増してきますが、どれを取っても酸と甘さのバランスが良く、それぞれの時期ならではのおいしさを感じます。
ですが、セルバッハさんは「リースリングを飲むには忍耐が必要です」と言います。
確かに、数十年の熟成を経たリースリングの味わいは格別なものです。私たちは少し急いだ飲み方をしているかもしれません。
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■ インタビューを終えて
ドイツのリースリングは、アメリカで"リースリング・ルネッサンス"を巻き起こしました。地元消費が多いドイツワインが海外に輸出されるようになり、しかも"リースリング・ルネッサンス"といわれるような人気が出るようになるとは、ゼルバッハさんのお祖父さんやお父さんには信じられないことなのだとか。
「リースリングのワインは確かに糖分が多いかもしれませんが、それに負けない酸を持っています。そのため、30年は成長し続けるワインなのです。ですから、今から30年後にまた新たなリースリング・ルネッサンスが起きるかもしれませんね」とゼルバッハさんは言います。
「今まで、熟成した赤ワインに興味を持っていた人が、熟成したリースリングに興味を持つようになり、さらに、フレッシュなリースリングにも興味を持つようになってきました」。
リースリングからは、極甘口から半辛口、辛口、さらにゼクトまで、幅広いタイプのワインがつくられています。また、料理とのコンビネーションによっても、それらの味わいに変化が生まれます。そうした奥深さも、リースリングの魅力のひとつでしょう。
この日本でも、近いうちに"リースリング・ルネッサンス"が巻き起こるかもしれません。
*ゼルバッハ・オースターのホームページ http:// www.selbach-oster.de
(取材協力:ドイツワイン基金)
よって、現在はインタビュー当時と異なる内容があることをご了承ください。
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(更新日:2005年10月11日)
第15回 Johannes Selbach <Weingut Selbach-Oster>
<Johannes Selbach>
1959年生まれの46歳。
16歳の頃、家業を継ぎたい、自然に密着した仕事をしたいと決意。
ドイツのガイゼンハイム大学で経営学を2年学んだ後、アメリカに留学し、ドイツワインに興味のある教授に師事。研究テーマは、アメリカにおけるドイツワインのマーケティングについて。
卒業後は1985~87年までニューヨークでワイン関係の会社に勤務。
1988年にドイツに帰国してワイナリーを継ぎ、現在に至る。
ヨハネス・ゼルバッハさんは、ドイツといったらこの生産地を抜きにしては語れない、モーゼル・ザール・ルーヴァーのワイナリー 『ゼルバッハ・オースター』 のオーナーです。
今回は、日本へは何度も来ている日本通のゼルバッハさんに、モーゼルワインの魅力をたっぷりと伺いました。
モーゼルといったら“リースリング”!
ドイツワインのことをよく知らないという人でも、「モーゼル」という名前は、きっと耳にしたことがあるでしょう。
「モーゼル」とは川の名前です。フランスのボージュ山中を水源とする流れは、ルクセンブルグを通ってドイツに入り、大きく蛇行しながら流れてゆき、ゴブレンツでライン河と合流します。
このモーゼル川の上流はザール川とルーヴァー川に分かれているため、これらの3つの川の流域を合わせて「モーゼル・ザール・ルーヴァー」地域と呼んでいます。
モーゼル・ザール・ルーヴァーは、リースリング種からつくられる上質な白ワインを産する生産地として有名です。
モーゼル川がドイツ国内を流れる距離は約240km。
それだけの長さがあると、上流と下流ではだいぶ様子が違ってきます。上流地域は「オーバー・モーゼル」、中流は「ミッテル・モーゼル」、下流は「ウンター・モーゼル」と呼ばれていますが、銘醸といわれる畑は「ミッテル・モーゼル」に集中しています。
もちろん、ゼルバッハさんの『ゼルバッハ・オースター』も、このミッテル・モーゼルのツェルティンゲン(Zeltingen)という地にあります。
Q.ワイナリーの歴史について教えてください。
A.ぶどう園として1661年まで遡ることができます。
伯父がワイナリーを経営しています(J&Hゼルバッハ)が、私の父はぶどう栽培農家で、ワイナリーにぶどうを提供していました。
しかし、新しいワイナリーとして伯父のところから独立し、1964年から『ゼルバッハ・オースター』としてリリースしています。
ゼルバッハ・オースターは家族経営の小さなワイナリーです。
Q.モーゼルワインの最大の特徴は?
A.軽くてフルーティーな早飲みタイプから20~30年も熟成可能なものまで、幅広く楽しめるワインだということです。
モーゼルワインの飲み頃には3段階あります。
1) 若く生き生きとしたフルーティーさを楽しむ時期(5年未満)。
2) 人間でいえば中年期で、さまざまな複雑な要素が出てくる時期。晩年に備え、ミネラルやアロマが倍増します。
3) 人間なら晩年期で、今までとは違ったアロマをかもし出し、まろやかな味わいで、舌触りもよく、何杯でも楽しめます。
Q.では、あなたのワインの特徴は?
A.私は「リースリングのスペシャリスト」だと自認しています。
モーゼルの伝統を生かしたワインづくり、つまり、軽くてフルーティなタイプから、何十年も熟成させてから楽しむタイプまで、幅広く生産しています。
また、より畑の個性を反映させるワインづくりを行っています。
畑は16haありますが、ほぼ100%がリースリングで、ゼクト(=スパークリング・ワイン)用にヴァイスブルグンダー(=ピノ・ブラン)を少々植えています。
畑はすべて南向きで(大きく蛇行するモーゼル川には、川に対して南向き斜面の畑が存在します)、土壌は青いスレート(珪酸質の粘板岩の薄板)です。
傾斜は最大で70度もあり(!)、川に近い下の場所は湿気が多く、川面に反射する光を集めますが、山の上の場所は少し冷涼になります。
非常に急な斜面の畑
Q.ツェルティンゲンでは、いつ頃収穫を行うのですか?
A.私のところは、だいたい毎年10/18頃からリースリングの収穫を始めます。
畑の上下でも収穫時期が変わりますし、上級クラスのワイン用のぶどうは、アロマやエキス分をよりぶどうの粒にしみ込ませるため、11月の初旬に集中して収穫作業を行います。 。
Q.リースリングのシュペトレーゼクラスまでは、よく食事に合わせて飲むといわれますが、その上のアウスレーゼは、どのように飲んだらいいでしょうか?
A.モーゼルのアウスレーゼは食中酒としても楽しめます。
実は150年くらい前の晩餐会のメニューを見ると、メイン料理に合わせて、シュペートブルグンダー(=ピノ・ノワール)の赤ワインとリースリングのアウスレーゼが提供されています。アウスレーゼは、昔から食中酒としても楽しまれていたんです。
私はアンティパスト(前菜)に合わせたり、ナッツや、アロマが豊かな青カビのチーズと一緒に飲むのが好きです。それほど甘くないデザートと合わせてもいいと思います。
ほのかな甘さを持ったアウスレーゼが私の理想です。アウスレーゼは1杯で満足するワインではなく、2杯、3杯と飲みたくなるワインです。
Q.現在、輸出の割合はどのくらいですか?
A.輸出が6割で、国内消費が4割です。アメリカ、北欧、日本の順に多く輸出しています。
イギリスは重要なマーケットとしては考えていません。アメリカでは、かつては安くて甘いドイツワインが人気でしたが、最近は辛口タイプの比率が上がってきました。アジアの各国もマーケットとして大事ですが、もっとも重要なのは日本です。
繊細で素材を生かした料理が多い和食は私も大好きで、和食には白ワインが合うと思っています。ですから、今後もぜひ日本に力を入れていきたいですね。
<テイスティングしたワイン>
Zeltinger Sonnenuhr Riesling Auslese
(1983、1985、1989、1993、1995、1998、2001、2003年の垂直テイスティング)
同じワインが20年でどう変化するか?という、興味深いテイスティングです。
日常生活では、熟成期間が20年を超えるリースリングを飲む機会はなかなかありません。しかし、熟成したリースリングがこんなにも気品があり、ふくよかで、しかも酸が十分に残り、ミネラル感も感じられるものなのだということを、今回のテイスティングで実感させられました。
ヴィンテージが若くなるに従って、軽快で爽やかなフルーティー感が増してきますが、どれを取っても酸と甘さのバランスが良く、それぞれの時期ならではのおいしさを感じます。
ですが、セルバッハさんは「リースリングを飲むには忍耐が必要です」と言います。
確かに、数十年の熟成を経たリースリングの味わいは格別なものです。私たちは少し急いだ飲み方をしているかもしれません。
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■ インタビューを終えて
ドイツのリースリングは、アメリカで"リースリング・ルネッサンス"を巻き起こしました。地元消費が多いドイツワインが海外に輸出されるようになり、しかも"リースリング・ルネッサンス"といわれるような人気が出るようになるとは、ゼルバッハさんのお祖父さんやお父さんには信じられないことなのだとか。
「リースリングのワインは確かに糖分が多いかもしれませんが、それに負けない酸を持っています。そのため、30年は成長し続けるワインなのです。ですから、今から30年後にまた新たなリースリング・ルネッサンスが起きるかもしれませんね」とゼルバッハさんは言います。
「今まで、熟成した赤ワインに興味を持っていた人が、熟成したリースリングに興味を持つようになり、さらに、フレッシュなリースリングにも興味を持つようになってきました」。
リースリングからは、極甘口から半辛口、辛口、さらにゼクトまで、幅広いタイプのワインがつくられています。また、料理とのコンビネーションによっても、それらの味わいに変化が生まれます。そうした奥深さも、リースリングの魅力のひとつでしょう。
この日本でも、近いうちに"リースリング・ルネッサンス"が巻き起こるかもしれません。
*ゼルバッハ・オースターのホームページ http:// www.selbach-oster.de
(取材協力:ドイツワイン基金)
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