ワインな ささやき

ワインジャーナリスト “綿引まゆみ” (Mayumi Watabiki) の公式ブログ

第49回 Domaine Louis Moreau @「キャッチ The 生産者」

2009-07-24 10:17:58 | キャッチ The 生産者
「ワイン村.jp」 (社団法人日本ソムリエ協会 オープンサイト)(2004年5月~2008年12月終了)に連載していた「キャッチ The 生産者」(生産者インタビュー記事)を、こちらにアップし直しています。
よって、現在はインタビュー当時と異なる内容があることをご了承ください。

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  (更新日:2008年8月21日)

第49回  Louis Moreau  <Domaine Louis Moreau>

今回は、久しぶりのフランス、しかも、 意外にもここで紹介するのは初めての生産地“シャブリ”から、 ちょっとお茶目な(?)ルイ・モロー氏の 登場です。



<Louis Moreau> (ルイ・モロー)
1965年生まれ。モロー家の6代目当主。
カリフォルニア大学フレズノ校で醸造・栽培学を修了。
カリフォルニアとフランスで修行の後、1994年にドメーヌの代表となる。
1995年にドメーヌ・ルイ・モローを設立。


シャブリで赤丸急上昇中のドメーヌ

                  ―Domaine Louis Moreau―

パリの南東約200kmに位置するシャブリのブドウ畑は、南北20km、東西15kmの丘陵地帯に広がっています。

シャブリのAOCは4つあり、シャルドネから、酸と骨格のしっかりとした白ワインがつくられています。

 ・Petit Chabis
 ・Chabis
 ・Chabis 1er Cru
 ・Chabis Grand Cru

私たち日本人にとっても、 “フランスの白ワイン”といわれたら、まずシャブリを思い浮かべる人も多いほどポピュラーな存在ですが、ルイさんは、この伝統的
なシャブリの土地でどのようなワインづくりをしているのでしょうか。





Q.モロー家は古い歴史の家系ということですが?
A.1814年、樽職人をしていた祖先(ジョセフ・モロー)がシャブリに移り住んだのがモロー家のはじまりです。
ジョセフはシャブリのブドウ栽培家の娘と結婚し、生まれた息子アレキサンドルもブドウ栽培農家の娘と結婚したため、モロー家は婚姻によってブドウ畑を増やしていきました。



Q.あなたがドメーヌ・ルイ・モローを設立したのは1995年ですが、それ以前のブドウづくり、ワインづくりはどうなっていたのでしょうか?
A.1966年に父ジャン・ジャックが当主となり、1970年に65haの畑で『ドメーヌ・ド・ヴィエヴィル』(Domaine de Bieville)を設立しました。

さらに父は、1975年にネゴシアンの『J.Moreau et Fils』を設立

しかし、1986年には当時のビジネスパートナーに売却しました。

ただし、ブドウ畑は手元に残し、ドメーヌ・ド・ヴィエヴィルの畑のブドウをJ.モローに供給するという契約を結びました。

その契約の一部が1994年に終了したため、新たに畑を購入し、私と妻で『ドメーヌ・デュ・セードル・ドレ』(Domaine du Cedre Dore)を立ち上げました。

Q.となると、現在モロー家は3つのドメーヌを経営しているということですが、その中で、『ドメーヌ・ルイ・モロー』はどういう存在ですか?
A.シャブリの中心を流れるスラン川の両岸に自社畑を持つことができ、ワインのレンジが広がりました。
シャブリの4つのAOCのうち、シャブリ、プティ・シャブリ、シャブリ1級をつくれるようになったのです。

さらに2002年には、ブドウの供給契約をしていた畑の契約満了により、4つのグラン・クリュと1級畑のヴァイヨンが復帰しました。これらの畑は父と折半してそれぞれで管理しています。

ということで、現在のドメーヌ・ルイ・モローの自社畑は50haで、シャブリの4つのAOCすべてを生産し、ドメーヌでありながら、ある程度のワイン量をつくることができる、というのが特徴です。
しかも、すべての流れを監視できるのは、ドメーヌだからこそです。


Q.シャブリの1級は広い範囲に広がっていますが、どういった特徴があるのでしょうか?
A.まず、スラン川の左岸か右岸かで違ってきます

例えば、左岸のヴァイヨンは南西向きの畑で、果実味が多く、ふくよかな特徴のワインになります。芳香性が高く、熟成するとアカシアの香りが出てきます。

同じ左岸でも、ヴォリニョーは南東向きの畑なので、日照がやや少なくなり、香りに華やかさが欠けるかもしれません。涼しいのでタイトな味わいになります。

グラン・クリュを擁する右岸は南西向きの斜面になり、日照の恩恵を受けたワインができます。




Q.グラン・クリュにはどういう特徴があるのでしょうか?
A.シャブリ全体では4000haの畑がありますが、グラン・クリュは100haと非常にわずかです。
グラン・クリュ畑7つはすべてスラン川の右岸にあります。

グラン・クリュは、最も西のブーグロから川に沿って南東方向に広がりますが、土壌は北に行くほど粘土が多くなり、南に行くほど石灰質が多くなります
粘土が多いとワインはまろやかでやわらかいバランスのものになり、石灰質が多いとミネラル感が強いものになります。

7つの特徴を簡単にいうなら、ブーグロとレ・プルーズは骨格が比較的しっかりし、ヴォーデジールは花の香りが特徴で、ヴァルミュールはリッチなものになり、レ・クロやブランショはミネラルに富むものになります。


Q.グラン・クリュの中にモノポール(単独所有)の畑があるということですが?
A.モロー家は、レ・クロの最南端に“クロ・デ・ゾスピス”という0.8180haの小さな区画を所有しています。

1904年に3代目のジャン・ジョセフがオスピス・ド・シャブリから購入したもので、以来、モロー家の単独所有ですが、現在は親戚と折半しているので、ドメーヌ・ルイ・モローとしての所有は0.41haです。

南南西向きの畑で、土壌はキンメリジャンの石灰岩と石灰質粘土になります。



Q.あなたのワインづくりのこだわりは?
A.典型的な、シャブリらしいシャブリをつくろうと思っています。
テロワールを重視し、あまりいじらない、伝統的なワインづくりを心がけています。

つまり、よいブドウを収穫して、よいワインにするということで、果実味と酸味のバランスの取れたワインを目指しています。


Q.カリフォルニアでの経験が長いですが?
A.フランスと違う面を勉強できたので、それが今とても役に立っています。




<テイスティングしたワイン>



Chablis 1er Cru Vaulignot 2006
きれいでドライなワインで、タイトな印象を受けました。

「ヴォリニョーはスラン川の左岸、ベーヌ村に位置し、石灰質が多い土壌のため、ワインにミネラル感が強く出ます。南東向きの10haの畑で、涼しいため色調が淡く、タイトな味わいですが、熟成すると森の下草やキノコの香りが出てきます」(ルイさん)


Chablis 1er Cru Les Fournaux 2006
同じ1級ですが、位置的な要因が大きいのか、ヴォリニョーよりも果実味を感じます。

「フルノーはヴォリニョーから東に5km離れ、スラン川の右岸にあります。土壌はキンメリジャンを含む石灰岩と石灰質粘土で、畑は南西を向いています。グラがあり、果実味に飛んだ味わいで、ミネラル感と同時にきれいな酸も楽しめるワインです」(ルイさん)




Chablis Grand Cru Vaudesir 2004
桃のような甘い香りがあり、味わいに樽からのまろやかさと完熟フルーツを感じます。

「樹齢35年で、年間生産量2000本です。香りはフローラルで、味わいも果実味に富み、黄色い果肉のフルーツっぽさを感じるワインになっています」(ルイさん)


Chablis Grand Cru Blanchot 2004
よく熟し、まろやかで、酸が穏やかな印象を受けました。

「畑は0.1haと小さく、年間生産量は600本のみです。火打石のような香りが特徴で、石灰質が強いため味わいの余韻が長くなります。樹齢が20年とまだ若く、本領を発揮するにはもう少し時間がかかると思います。
樹は60年で植え替えています」(ルイさん)


Chablis Grand Cru Clos des Hospice dan Les Clos 2004 [モノポール]
酸がまろやかで全体のバランスが良く、だんだんと骨格やしっかりした輪郭の感じが出てきます。

「レ・クロの中にある区画ですから、ミネラル感も果実味もあり、芳香性が高い、というレ・クロの特徴を持っています。樹齢40年で、年間生産量2400本です」(ルイさん)


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インタビューを終えて

1995年に3つのドメーヌのブドウを全て醸造できるセラーを手に入れ、醸造設備とセラーを一新。

2004年から減農薬栽培(リュットレゾネ)に取り組み、現在はビオロジックに転換中。

ドメーヌ・ルイ・モローはシャブリの全レンジをリリースしていますが、ルイさんは栽培方法や醸造における品質向上に余念がなく、特に、畑からボトル詰めまでしっかりと管理したいからと、ドメーヌ元詰めにこだわったワインづくりを行っています。

特に期待できるのは、
2002年に戻ってきたグラン・クリュ畑と1級畑のヴァイヨン(計20ha)です。

ルイ・モローでは、すべてのワインの発酵をステンレスタンクで行い、熟成もステンレスタンクですが、このグラン・クリュと1級ヴァイヨン(一部)だけは木樽で熟成を行い、それぞれが持つポテンシャルを充分に引き出そうとしています。

ヴァイヨンの樹齢は60年で、ルイさんがいう植え替えの時期に来ていますが、今後このヴァイヨンの樹がどうなるのか見ものですし(個人的には残してほしい!)、4つのグラン・クリュがどのような素晴らしいワインに成長していくのか、大きく期待したいところです。



家族の絆と伝統を大事にしながらも、新しいことにバリバリとチャレンジしているルイさんは、外見はちょっと優男風ですが(笑)、鋼のように芯のしっかりした人物だと感じました。 


(取材協力)豊通食料株式会社



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