ワインな ささやき

ワインジャーナリスト “綿引まゆみ” (Mayumi Watabiki) の公式ブログ

第48回 Tenuta di Petrolo @「キャッチ The 生産者」

2009-07-23 10:46:43 | キャッチ The 生産者
「ワイン村.jp」 (社団法人日本ソムリエ協会 オープンサイト)(2004年5月~2008年12月終了)に連載していた「キャッチ The 生産者」(生産者インタビュー記事)を、こちらにアップし直しています。
よって、現在はインタビュー当時と異なる内容があることをご了承ください。

-----------------------------------------------

  (更新日:2008年7月21日)

第48回  Luca Sanjust  <Tenuta di Petrolo>

今回は、アモーレの国イタリアから、
『テヌータ・ディ・ペトローロ』 の超ナイスなイケメンオーナー、
ルカ・サンジュストさんの登場です。



<Dr. Luca Sanjust> (ルカ・サンジュスト)
1959年生まれ。ローマ大学博士課程修了(ルネッサンス期のイタリア美術史を専攻)。
卒業後は画家として活躍。
1993年にペトローロに参加。現在は3代目当主。


トスカーナのペトリュス?!

イタリアのトスカーナといえば、キアンティやブルネッロ・ディ・モンタルチーノ、そして、“スーパータスカン”と呼ばれる素晴らしいワインがひしめく銘醸地。
各生産者がそれぞれの個性を生かしたワインづくりを行い、世界的に高い評価を得ています。

そんな中、 “トスカーナのペトリュス” (シャトー・ペトリュスはボルドーのポムロルで非常に評価&価格の高いワイン)と呼ばれているワインがあるという話を耳にしました。
それが、テヌータ・ディ・ペトローロがつくる 『ガラトローナ』 (Galatrona) とのこと。
ガラトローナとは、いったいどんなワインなのでしょうか?

*ガラトローナは標高450mに建つ古い塔の名前で、中世の建物がそのまま残っています。

このガラトローナタワーの下から山の中腹、さらにふもとにかけて、ペトローロのブドウ畑が広がっています。



Q.画家だったあなたが、なぜワイナリーのオーナーに?
A.元々ペトローロは祖父が1947年に購入したワイナリーなのです。

それを私の母が引き継いだのですが、息子の私に戻ってきて欲しいと言われたので、母の願いを受け入れてワイナリーを継ぐことにしました。

でも、どうせ継ぐなら自分がつくりたいワインをつくりたいと思ったのです。コストなんて無視しても、です(笑)。

ペトローロでは、以前はキアンティ・コッリ・アレティーニというDOCGワインをつくっていました。しかし、キアンティは市場の求める価格のもの、つまり安いワインにしかならないのでやめました。

今は2つのIGTワイン(サンジョヴェーゼ100%の『トリオーネ』とメルロ100%の『ガラトローナ』)とヴィンサント(甘口ワイン)だけをつくっています。



Q.メルロ100%の『ガラトローナ』をつくるきっかけは?
A.母と私の時代になった時、土地に可能性があるので投資をすべきだとアドバイスを受け、良いワインをつくるには全部植え替えが必要だとも言われました。しかし、その当時は、そんなことはできませんでした。

そこでまず、サンジョヴェーゼ100%で『トリオーネ』をつくりました(1988年が初ヴィンテージ)。その後、1990年にメルロを1区画だけ植えたところ、非常に良いブドウが得られたので、『ガラトローナ』をつくってみました。典型的なキアンティのガラストロ土壌の下に粘土層があり、メルロに最適な土壌だったからです。

偉大なメルロのつくり方は、親交のあったティエポン・ファミリー(ボルドーのポムロルで、シャトー・レグリーズ・クリネ等を所有)から学びました。

現在はカベルネ・ソーヴィニヨン、カベルネ・フラン、プティ・ヴェルドを試験的に植えています。ボルドーで、メイン品種にほんの少しだけスパイス的に別の品種を加えてワインをつくることを学んだので、ガラトローナに加えるのも面白いかなと思っています。


Q.ペトローロの畑はどういうところにありますか?
A.ここは地理的にはトスカーナの中心で、キアンティの南西に位置し、オリーブやブドウ栽培で何千年もの歴史がある土地です。植物は地中海風のものが多く見られます。海からの風が流れてくるので、同じトスカーナでもブルネッロ・ディ・モンタルチーノに近い気候で、トスカーナの海岸の暖かい気候条件に恵まれています。

土地は、祖父の時代には31haでしたが、今は全敷地面積が300haになりました。
ブドウ畑が31ha、オリーブ畑が20haで、その他にも農作物を育てています。
周りは森に囲まれ、ワイルドでナチュラルな、祖父の時代からのそのままの環境を残しています。



高品質で有名なルカさんのオリーブオイル


Q.あなたのワインづくりの哲学は?
A.ワインは畑でつくられるもので、偉大なワインをつくるための90%は畑で決まります。年間を通して観察し、すべてをコントロールすることで最後が違ってきますので、我々はほぼ100%のコンディションになるように持っていくように努めています。

ブドウがワインになるには自然のコンディションが重要です。しかし、人間が扱うと壊してしまうものもありますので、失うものを最小限に抑えながら完璧なブドウをつくり、それを100%ワインに反映させられるよう、慎重なワインづくりを行っています。


Q.畑およびセラーで、具体的にどんな作業をしていますか?
A.祖父の時代には、植樹数は1haあたり1500本程度でしたが、今は5000本に密植しています。また、1haあたりの収量も1/6~1/7に減らしました。以前は1本の樹から10kgのブドウを収穫していましたが、今はメルロで500g、サンジョヴェーゼで700~800gです。

また、ブドウの樹のバランスを取るため、年2回のグリーンハーベストを行っています。畑は1ha、2haと小さく点在し、熟すタイミングが異なるため、収穫は小区画ごとに行います。

100%ナチュラルなものをつくりたいと思うので、自然酵母で発酵させます。こうすると発酵は自然にスムーズに進みます。大きなセメントコンクリート(ポムロルで伝統的に使用される)で発酵させ、完了後に樽(サンジョヴェーゼとメルロは別)に移します。

樽の中ではオリの上に6~8カ月置き、ブルゴーニュと同様のバトナージュ(オリとワインを攪拌すること)を行います。こうすることで抽出が進み、バランスが取れてきます。

樽を使うと、ごく少量の酸素が入るミクロオキシデーション効果が得られます。
樽は香りを付けるものとして使うのではなく、ワインをよく成長させ、うまく酸化熟成させるために使っています。


Q.“偉大な”(メルロ)というのは?
A.技術的には、どこでも良いワインがどんどんつくれるようになってきています。しかし、良いワインと偉大なワインの間には大きな違いがあります。

偉大なワインをつくるには、土壌、気候はもちろん、どれだけ畑でしっかり仕事をし、素晴らしいコンディションに持っていくかが重要です。それに加え、たくさんの”(“神のキス”とルカさんは表現)も必要で、ここまででワインの出来の90%が決まります。

残り10%が人間の仕事ですが、畑でもセラーの中でも、人間は自然をヘルプするのみです。ワインづくりというのは、自然を文化に変えるものですが、私の役目は、自然の美しさや懐の深さをワインに映し出す手助けをし、見守るだけです。


Q.この地のメルロの可能性はいかがでしょうか?
A.サンジョヴェーゼの偉大なワインの生産地はブルネッロ・ディ・モンタルチーノなどに限られますが、メルロは比較的どこでも育てられます。しかし、偉大なメルロのワインをつくることは容易ではなく、熟したタンニンがあり、エレガントで、バランス良く、良い酸味、最適なpH値etc....が求められます。メルロは過熟厳禁なブドウで、アグレッシブ過ぎたり、ヘビー過ぎたり、ポッテリとふくよか過ぎたりするのもいけません。

ワインはグラス2杯で充分というものではなく、食事をするのに良いものでないといけません。キリッとした酸、なめらかなタンニン、長い余韻が感じられ、果実味があり、1本開けたら飲み切れるものをつくりたい、と思っています。

ガラトローナは、トスカーナのワインというよりメルロのワインとして認識されています。粘土質土壌や気候条件などが揃い、色々な幸運に恵まれ、初ヴィンテージの1994年からカルトワインとして担がれました。現在の生産は年間15000本ですが、将来的には2万本に増やしたいと思っています。




Q.サンジョヴェーゼについてはどう考えていますか?
A.他と違い、非常に気難しいブドウです。うまくつくらないと薄っぺらくなってしまいますが、良さを最大限に引き出すと、我々に喜びを与えてくれるワインになります。果実味、酸、長いフィニッシュ、バランスの良さが特徴です。

ペトローロのサンジョヴェーゼの畑は斜面にあります。土壌には石がたくさんあるため水はけが良く、サンジョヴェーゼにとって理想的です。畑は標高200~450mの間に広がるので、さまざまな個性を持ったブドウができ、ワインにより複雑性を与えます。

このサンジョヴェーゼでつくった『トリオーネ』こそ我々の魂だと思っています。



ハチミツもつくっています


<テイスティングしたワイン>

Torrione  (サンジョヴェーゼ100%)


2004
04年のトスカーナはファンタスティックなヴィンテージで、ブドウがよく育ってよく表現され、喜びを与えるものになっています。フルーツと酸のバランスが良く、余韻も長く、あたたかみのある味わいです。熟した丸み、丸いタンニンを感じるかと思います。

2003
酷暑の年です。葉を残して日光をブドウに当てないようにするなど、暑さからブドウを守るのに苦労しました。味わいに熟した感じがあり、飲み頃を迎えています。トリオーネはピュアなフルーツを表現したいと思うワインですので、他の何の風味も加えません。

2002
雨が多く、夏が寒い冷涼な年でした。そこで厳しい収量制限を行い、7~8月は何度も畑を回って手間をかけました。その結果、通常の50%以下の収穫量になってしまい、母と妹に責められましたが、パーカーからこの良くない年の中で最高という評価をもらいました。

2001
非常にファンタスティックな年です。まだ若々しいですが、すでにサンジョヴェーゼの熟成感が出ています。しかし、あと5~10年は楽しめます。
今の人は早飲みの傾向が強く、飲み頃を迎えないまま終わってしまうので残念です。


Galatrona (メルロ100%)


2004
02年は雨、03年は猛暑と、難しい年が続きましたが、04年は色々な幸運に恵まれた年になりました。各ガイド誌で高い評価をいただけて光栄です。

2002
飲み頃を迎えつつあります。きれいで、今までのガラトローナで初めてのスタイルです。家に友人を招いた時にこの02年を楽しんでいます。


Vinsanto


1998
糖度が高いとワインが変質しない、ということは古い時代からわかっていました。かつてのワインもヴィンサントのような糖度の高いスタイルだったのではないでしょうか?

10~2月にブドウを部屋に入れて乾燥させますので、プレスしても少量の果汁(15%)しか得られません(通常のワインの場合は65%)。プレス後は樽の中で発酵させ、コルクをしてセメントで固め、8年間放置します。

10樽つくっても4樽は普通の出来にしかならず、すごく良い出来の6樽だけを瓶詰めします。よって、ハーフボトルで年間300~500本程度しか生産できません。ヴィンサントは最近注目されていますが、工業的につくられたものもあり、名声を汚しています。これは非常に残念なことです。

---------------------------------------

インタビューを終えて

「良い年は何もしなくても良いワインができますので、悪い年といわれる年ほど偉大なワインをつくる腕の見せ所です。大規模生産者は毎年そこそこのワインをつくっていますが、小さな生産者は、注いだ努力の成果がてきめんにワインに現れてしまいます。

私は偉大なメルロのワインをつくりたいと思っています。しかし、皆の手の届くプライスで最高品質ワインをつくりたいのです。サンジョヴェーゼのワインは、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノの半分のプライスで提供していきたいと思っています。

私は銀行や投資家ではありませんし、金儲けをしようとは思っていません。人に喜びを提供したいだけです。10分でも1時間でも、私のワインで楽しんでもらいたいと思います。

もちろん、自分自身でもワインを楽しみます。しかし、私は食事をしない時はワインを飲みません。祖父はよく、ワインは食事と一緒にあるもので、食事と切り離すものではないと言っていました。本当に、良いワインは食事をよりおいしくしてくれると思っています」と、ルカさん。

自分の信じる最高のものをつくること、―それは決して自己満足ではなく、人が喜んでくれる(味わい、品質、価格etc…)から必要かつ重要なこと、とルカさんは考えます。



肝心のワインの味わいですが、サンジョヴェーゼの『トリオーネ』に関しては、年ごとに個性がありますが、私の好みは2001年。なめらかで、エキス分が凝縮したような味わいが素晴らしく、年月を重ねたワインの魅力が楽しめました。

メルロの『ガラトローナ』ですが、04年はさすがに良い年といわれるだけの内容になっていて、甘さ、なめらかさ、深み、旨味、複雑味があります。02年は難しい年なのに、果実の甘味、よく熟した感じがきれいに出ています。

なお、ペトローでは栽培は完全にオーガニック。しかし、認証を取るつもりはないようで、

「自分が良いと思ってやっているのだから、認証なんて取っても取らなくても良いと思って」と、ルカさん。

とにかく、自分の信じる道を素直に進んでいるルカさんですが、独善的ではなく、まわりをよく見ながら進む柔軟さがあります。

我々消費者側にとっては、ルカさんみたいな生産者は頼もしい限り。
ペトローロの名前は脳のメモリにインプットしておかねば!ですね。



(取材協力)株式会社スマイル


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 中華料理とワインのマリアージュ | トップ | 第49回 Domaine Louis Moreau... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

キャッチ The 生産者」カテゴリの最新記事