ワインな ささやき

ワインジャーナリスト “綿引まゆみ” (Mayumi Watabiki) の公式ブログ

第22回 Marcel Richaud@「キャッチ The 生産者」

2009-02-02 11:10:37 | キャッチ The 生産者
「ワイン村.jp」 (社団法人日本ソムリエ協会 オープンサイト)(2004年5月~2008年12月終了)に連載していた「キャッチ The 生産者」(生産者インタビュー記事)を、こちらにアップし直しています。
よって、現在はインタビュー当時と異なる内容があることをご了承ください。

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  (更新日:2006年5月11日)

第22回  Marcel Richaud  <Domaine Marcel Richaud>



「私は職人です」と言う マルセル・リショーさんは、フランスの コート・デュ・ローヌ の Cairanne(ケランヌ)村 で 有機農業による自然なワインづくりをしています。

<Marcel Richaud>
52歳。妻のマリーさんとの間に4人の子供あり。
趣味はハングライダーとバイク。
血液型はA型。(マリーさんの血液型はO型)。


テクニックに頼らない自然なワインづくり

このところ、「自然派」を唱える生産者が増えてきました。
その名の通り、栽培過程でも醸造過程でも化学的な薬剤類は使わないつくり、ということですが、
リショーさんは敢えて「自然派」ということを声に出さないのだとか。
それは、彼が自然なワインづくりに行き着いた過程に理由があるようです。





Q.ケランヌ村とは?
A.AOCコート・デュ・ローヌ・ヴィラージュには、ワイン名に村名を付けることを許されている村があります。ケランヌ村もそのひとつで、18ある村の中ではトップクラスのワインを生み出すとされています。
(コート・デュ・ローヌ・ヴィラージュ・ケランヌの認定は1967年)

ケランヌは南ローヌのオランジュの街の北東にあり、典型的な地中海気候です。ワインのアルコール度数は、 赤は12.5%以上、ロゼと白は12%以上と規定されています。

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<参考>AOCコート・デュ・ローヌ・ヴィラージュ(18)

Rochegude,Rousset les vignes,Saint Maurice,Saint Pantaleon les vignes,Chusclan, Cairanne,Rasteau,Roaix,Sablet,Seguret,Valreas,Visan,Laudun,Saint Gervais,Massif d'Uchaux,Plan de Dieu,Puymeras,Signargues
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Q.ケランヌ村の特徴について、もう少し詳しく教えてください。
A.ケランヌでは、荒れた台地にブドウ畑が散在しています。日照量が多く、夏は非常に暑くて風が強いのですが、風のおかげで湿気が飛び、病虫害の被害はなく、ブドウが健康に育ちます。

砂質、粘土石灰質、大きな石混じり、とさまざまな土壌から得られるブドウは、ワインに複雑味をもたらし、不作といわれる年にも柔軟に対応ができます。
また、ワインに石灰質土壌によるブドウのミネラル分を感じるのがケランヌの特徴です。

Q.32年前からワインづくりをしているということですが?
A.父の時代はブドウを栽培して協同組合に売っていましたが、私の代から瓶詰めを始めました。醸造学校などには行っていません。全くの独学です。醸造庫や熟成庫なども自分でつくったんですよ。

Q.あなたは現在「自然派」と言われていますが?
A.最初の10年くらいは技術を極めたワインづくりをしていました。ありとあらゆるテクニックを駆使したワインをつくっていましたが、なかなか売れず、非常に悩んでいました。

ところが、あるときパリのビストロで素晴らしいワインに出会ったんです。ソムリエに聞くと、それは土壌をよく表現しているワインだと言います。

そうか、私もケランヌのという土地の個性を生かしたワインをつくらねば!そのためにはどうしたらいいだろうか?行き過ぎたテクニックを捨ててみようか?と、テクニックをひとつひとつ捨てていった結果、おのずと自然なつくりになってきました

Q.テクニックは一切否定しますか?
A.土壌の味を表すワインをつくることが大事だと思いますので、ワインづくりにはできるだけ人間の手が介入しない方がいいと考えています。ブドウの持っているものを全部引き出してあげたいんです。

しかし、テクニックを全く使わないために土壌の味を殺してしまうことになるのなら(そうした生産者もいますが)、多少使っても、きちんと土壌を表すワインをつくる方がいいと思います。

Q.ワインづくりで大事なことは?
A.まずその土地の土壌を理解することです。土壌の味、ブドウ本来の味を出していくためには、生産量を落とし、よい品質のブドウをつくらねばなりません。
また、地元の古いブドウを守っていくことも大事ですので、クローンを使うのではなく、セレクション・マサル(ブドウの枝から挿し木で増やしていく方法)により自分で増やしています。

Q.あなたのワインの特徴は?
A.私のワインは、清潔でピュアな、きちんとしたワインです。たしかに、栽培から醸造まで化学薬剤を使わないことによるリスクはありますが、リスクのない状態で瓶詰めできるようにしています。
また、ヴィンテージの差よりも土壌の違いを表すワインです。ノンフィルターで、補酸なども一切行いません。なお、ワインを守るため、わざと全てのワインに少しガス(二酸化炭素)を残して瓶詰めしています

Q.現在所有している畑について教えてください。
A.50ha所有していますが、そのうち40haをドメーヌものとして瓶詰めし、10haは協同組合に貸すなどしています。これが手をかけられる限度で、ちょうどいい広さだと思っています。これ以上広げるつもりはありません。これでひとまず食べていけますしね(笑)。
従業員は10人います。化学的な技術(除草剤や殺虫剤など)を使えば人手は少なくてすみますが、手作業で行うには人が必要です。モラルに欠けたワインはつくりたくありません。私は職人ですから

Q.貸し出している10haの畑の手入れ方法は、貸出先に任せているのですか?
A.いいえ、どちらも同じように我々が手をかけてブドウを育てています。化学的なものは一切使いません。畑の雑草は残します。土には空気がたっぷり含まれ、ミミズもいます。

Q.輸出の割合、輸出先について教えて下さい。
A.90%がフランス国内で消費されています。国内400店ほどのワインショップ、レストランなどに入っています。輸出先は、アメリカ、イギリス、日本です。





<テイスティングしたワイン>

1)Cotes du Rhone Village Cairanne Rose 2004
セニエ方式でつくったロゼ。春から夏の季節にオススメ。ピクニック、食前酒、魚のグリルなどに、よく冷やして。

2)Cotes du Rhone Cuvee Printemps 2005
ボージョレ・ヌーヴォー的な位置づけとして、2005年のキャラクターを知ってもらうためにつくったというカジュアルでフルーティーな赤。ラベルのデザインは毎年変わるそうです。ラベルはアーティストに依頼して「春」のイメージで描いてもらっています。


2005年の「春」のイメージ

3)Cotes du Rhone Les Garrigues 2004
ガリーグ(潅木の生えている土地)のワイン。ボディがしっかりとし、タンニンが豊かでスパイシーで、ブドウの種を噛んだ感じがあるので、ハーブやトマトを使った料理や仔羊などがオススメだそう。

4)Cotes du Rhone Village Cairanne 2004
甘草、香草、ミネラルの香りがあり、全てのバランスを取ってつくられたワイン。

5)Estrambords 2003
リショーさんが「限界ギリギリの思いでつくった」というワイン。猛暑に見舞われた年だったけれど、ミネラルが残り、バランスが取れたとのこと。

6)L'Ebrescade 2001
ケランヌからラストー村にかけて広がる土地で、どうしても手に入れたかったため、2倍のお金を払ったとのこと。300mの高台にあり、南向きなので、北から吹くミストラルが当たりません。古い樹齢のムールヴェドル、グルナッシュ、シラーからつくられています。ミネラル、酸、ブドウが完熟した年でした。

7)L'Ebrescade 2003
リショーさん曰く「アクシデントのワイン」。糖度が非常に上がったため、発酵の際に残った糖のせいで甘く感じます。
「樹齢50年の完熟したグルナッシュ(100%)のポテンシャルを出し切りました」とリショーさん



 右から順に1~7



ワインはどれも「バランス良くエレガント」なスタイルです。
南ローヌというと、アルコールが高くて濃厚なイメージがありますが、リショーさんのワインには、穏やかなやさしさがあります。


1)のロゼ以外は全部赤ワインです。

白ワインはつくっていないんですか?白を飲みたくなったら、どうするんですか?」と尋ねたところ、

実はほんの少しだけ(5%)白ワインをつくっているとのこと。
魚料理やフロマージュ・ブラン(熟成させる前のフレッシュな白いチーズ)に合わせて楽しんでいるそうです。


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インタビューを終えて

リショーさんは「無口」だと聞いていたのに、次の質問になかなか入れないほど絶(舌?)好調。ワインづくりのこととなると、話が止まらないようです。

趣味はハングライダーとバイク。今回の来日では、ぜひホンダやトヨタの工場見学に行きたいと思っていたそうですが、時間が取れなかったので、次回はぜひ!と、少年のようでした。

そんなリショーさんを支えるのが、妻のマリーさん

「マリーが経理と営業、従業員管理など、全て取り仕切ってくれています。家族の力は大きいです」と言うリショーさん。

4人のお子さん(30~15歳)のうち、末っ子の女の子がワインに興味を持ってくれているようなので、彼女がワインづくりを引き継いでくれることを期待しているとか。

「世界各地のワインと競合することで、多くのワインはその土地のオリジナルから離れていきました。元のオリジナルの土壌をそのまま表した、誠実で素直なワインこそ消費者のためになるワインです。私は消費者が喜んでくれるワインをつくりたいと思っています」

テクニックを知り尽くしたリショーさんだからこそ出てくるこの言葉。
そして、いつのまにか辿り着いたという自然なワインづくり。

「自然派」という手法が目的になりがちな昨今ですが、彼が敢えてそれを語らないのには、そんな背景があるようです。 ワインを飲む側にとって、こうした生産者の気持ち&姿勢というのは、なんとも嬉しいことではありませんか。


取材協力:有限会社ベスト・マーケティング・オフィス
      クラブ・パッション・デュ・ヴァン


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