ワインな ささやき

ワインジャーナリスト “綿引まゆみ” (Mayumi Watabiki) の公式ブログ

第26回 Mt.Langi Ghiran@「キャッチ The 生産者」

2009-03-01 09:59:04 | キャッチ The 生産者
「ワイン村.jp」 (社団法人日本ソムリエ協会 オープンサイト)(2004年5月~2008年12月終了)に連載していた「キャッチ The 生産者」(生産者インタビュー記事)を、こちらにアップし直しています。
よって、現在はインタビュー当時と異なる内容があることをご了承ください。

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  (更新日:2006年9月11日)

第26回  Dan Buckel  <Mt.Langi Ghiran>
 
オーストラリアはヴィクトリア州、グランピアンズ(Grampians)から、ユニークな経歴を持つワインメーカー、ダン・バックルさん が初来日しました。



<Dan Buckle >
元フェンシングの選手。
仕事をしていたワイン・バーでワインに開眼。
その後、醸造学校に進み、オーストラリアやフランス等で修行を重ねる。
1999年にヤラ・イェーリングステーション(ヴィクトリア州)にワインメーカーとして入社。
3年前から同系列のマウント・ランギ・ジランに移り、ワインメーカーとして活躍中。


黄色い尻尾を持った黒いオウム

ランギ・ジランはアボリジニの言葉で“黄色い尻尾を持った黒いオウムのふるさと”の意味。実際、グランピアンズには国立公園に指定されているランギ・ジランという花崗岩の山があり、黒いオウムが山の斜面を飛ぶ姿を見ることができるそうです。

ランギ・ジランのエリアはアボリジニのロックアートをはじめとした文化遺産の重要スポットでもあり、周囲にはブドウ園や農園が広がり、人々を惹き付けて止まない魅力ある土地です。

なお、この黄色い尻尾の黒いオウムは、ワインのエチケットにも鮮やかに描かれています。



Mt. Langi Ghiran
1963年 フラティン兄弟がグランピアンズにブドウを植え始める
1969年 フラティン兄弟によりマウント・ランギ・ジラン設立
1979年 トレヴァー・マスト氏がワインメーカーに就任(彼は現在もダンさんとともにワインメーカーを務める)
1987年 トレヴァー・マスト氏がフラティン兄弟からワイナリーを譲り受ける
2002年 ロスボーン・ファミリーがオーナーとなる



Q.ダンさんがワインメーカーになったキッカケは?
A.1995~96年頃に『ジミー・ワトソンズ・ワイン・バー』という、メルボルンで有名なレストラン&ワイン・バーで働いていた時に、創始者の孫に当たる人と一緒にワインセラーの管理をしていました。
歴史ある店なので古いワインが多く、リコルク作業をする時に古いワインを味見する経験をさせてもらったのですが、
「50年経ってもしっかりしたワインがあるなんてスゴイ!自分もそういうワインをつくってみたい!」と思ったのがワインづくりに興味を持ったキッカケです。

すぐに醸造学校に入り、卒業後はヴィクトリア州ヤラ・ヴァレーにあるコールド・ストリーム・ヒルズで2年間修行し、フランスのボルドーやブルゴーニュでも経験を積みました。

Q.『ジミー・ワトソンズ・ワイン・バー』には面白いエピソードがあるそうですが?
A.1930~40年代、創始者が自分の店で出すためのワインを樽で買い付ける際、できるだけ良い樽を選んでいたことにちなみ、“ジミー・ワトソンズ・トロフィー”というアワードが1962年に誕生しました。メルボルンのワインショーにおいて、樽に入れられて1年目の最高のワインに贈られる名誉ある賞で、オーストラリアでは特別なアワードとなっています。

Q.マウント・ランギ・ジランのあるグランピアンズというのはどのような土地ですか?
A.ここの地層は5億年前の古いグラニット(花崗岩)で、標高は350~650mとオーストラリアにしては高く、また、南から冷たい風が吹き、オーストラリアで最も寒い地域です。

1963年にブドウが植えられ、その後1980年代に樹齢の高いシラーズからのワインが有名になりました。“冷涼気候のシラーズ”として知られ、スパイシーで、潰したコショウの風味がするといわれています。

Q.冷涼というのは、どの程度ですか?
A.夏(1月)の平均気温が18.2℃で、吹く風も冷たく、冬(7~8月)は雪も降ります。
マウント・ランギ・ジランでは西に山があるので午後の日照時間が短くなり、夕方5時には暗くなってしまいます。

Q.ワインづくりで心がけていることは?
A.オーストラリアでは、ワインの85%が購入後24時間以内に飲まれてしまいます。ワインを熟成させて飲むことが少ないので、すぐに楽しめるようなワインをつくろうと心がけています。

オーストラリアのワインといっても、山地のワイン、崖のワイン、小川のワインetc…と、さまざまな場所でつくられています。オーストラリアにもテロワールが存在します。ブドウの育つ土壌や場所をぜひ見てください。
ワインメーカーはその土地のブドウを生かしたワインづくりをすべきで、自分の色を強く出すべきでないと考えています。

Q.今後どのようなワインをつくっていきたいですか?
A.2001年にブルゴーニュのドメーヌ・コンフュロン・コトティドに研修に行ったのですが、そこでは14haの畑から16のAOCワインをつくっていました。
小さい畑から異なる個性を持つワインができるのは面白く、マウント・ランギ・ジランでも、そんなワインをつくってみたいと思っています。小さいシングル・ヴィンヤードのワインは、近々実現できるかもしれません。

Q.日本の印象は?
A.日本に来るのは初めてですが、外国に来てみると面白いですね。我々のワインは冷涼な気候でつくられているためにエレガントですから、特に日本人に、また日本の料理に向くと感じました。

世界的に、ここ数年でヘビーなものからデリケートで食事に合うワインに人気が移ってきました。そうしたこともあり、涼しい気候でつくられたワインは、今後の人々の嗜好に合うといえるのではないでしょうか



<テイスティングしたワイン> 

White Wine

1)Billi Billi White 2004
2)Riesling 2004

思わず笑ってしまいそうな「ビリ・ビリ」という楽しい音を持つ名前は、ランギ・ジラン山に棲んでいたというアボリジニの王様の名前だそうです。植民地支配をしていたイギリス権力と戦ったとても強い王で、彼の名は川の名として残っています(ビリ・ビリ川)。

どちらも、冷涼な気候ならではの、酸がキリッとした心地良い白ワインで、
1)はセミヨンとリースリングのブレンド、2)のリースリングはミネラル感がたっぷりとしています。  

*いずれもスクリューキャップ使用




Red Wine

3)Billi Billi Red 2002
4)Cliff Edge Shiraz 2002
5)Shiraz 2003
6)Cabernet Merlot 1999

3)~5)はシラーズで、3)にはグルナッシュとムールヴェドルがブレンドされています。

2002年はとても良い年で、ペッパーの香りが特にエレガントに出ているのが特徴。
2003年は暑かった年なので、ペッパーの感じは弱めな代わりにナツメグぽい感じが出ています。

4)のクリフ・エッジはその名の通り(クリフは“崖”でエッジは“縁”の意味)、急な崖っぷちにある畑です。風が非常に強いため、1993年からは畑の70%をネットで覆っていますが、このネットはカンガルーからもブドウを守ってくれます。

5)はワイナリーのトップとなるシラーズで、古い花崗岩土壌の畑からブドウを選別し、100%フレンチオークを使用しています。

どの樽会社を使うかも非常に大事で、4つの会社を選び、緊密な連絡を取り合っています」とダンさんは言います。

6)はだいぶ熟成されつつあり、ユーカリっぽいスパイシーさも味わえます。




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インタビューを終えて


古いワインとの出会いでワインの虜になってしまったダンさんですが、その行動力とバイタリティはフェンシング仕込みの“攻め”の精神から来ているのかも?

どっしりとした体格と少年のような笑顔がとても親しみを感じさせますが、彼のつくるワインは、その容姿に似合わず(失礼!)、とてもデリケートでエレガント。

ダンさん自身も、アグレッシブなタンニンを持つワインは苦手で、エレガントなタイプが好きと言っていました。



オーストラリアのシラーズというと、濃厚でパワフルでスパイシー、というのがかつての印象でした。
しかし、オーストラリアで最も南に位置するヴィクトリア州は冷涼で、その中でもグランピアンズは夏の平均気温が18.2℃という涼しい地域ですから(日本じゃ考えられません!)、マウント・ランギ・ジランのシラーズに涼しげな上品さが感じられるのは、当然といえば当然なのかもしれません。

グランピアンズのシラーズは、ガツンとしたシラーズは苦手・・・という人にオススメです。

エレガントで酸のしっかりした白ワイン2種も、オーストラリアワインを選ぶときの幅を広げてくれそうです。

現在、単一畑でのワインも準備中ということですから、今後のマウント・ランギ・ジランの動向を見守りたいところです。


取材協力:ヴィレッジ・セラーズ株式会社


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