ワインな ささやき

ワインジャーナリスト “綿引まゆみ” (Mayumi Watabiki) の公式ブログ

第 6回 Weingut Louis Guntrum@「キャッチ The 生産者」

2008-12-28 13:47:57 | キャッチ The 生産者
「ワイン村.jp」 (社団法人日本ソムリエ協会 オープンサイト)(2004年5月~2008年12月終了)に連載していた「キャッチ The 生産者」(生産者インタビュー記事)を、こちらにアップし直しています。
よって、現在はインタビュー当時と異なる内容があることをご了承ください。

-----------------------------------------------

  (更新日:2004年12月11日)

第 6回  Louis Konstantin Guntrum  <Weingut Louis Guntrum>



第6回目のゲストは、 ドイツのRheinhessen(ラインヘッセン)にある"Weingut Louis Guntrum"(ワイングート・ルイ・グントルム)の若き11代目、ルイ・コンスタンティン・グントルムさんで、今回はドイツを訪問してのインタビューです。(2004年10月訪問)


<Louis Konstantin Guntrum>
1648年から続くワイナリーの11代目。実際にはもっと古い歴史があるようですが、戦争で記録が失くなってしまったとのこと。
グントルム家が現在の土地に移ってきたのは1920年で、1923年には現醸造所が建てられました。伝統を重んじながらも近代的技術を用いたワインづくりがグントルムのコンセプト。
輸出先は世界約80ヶ国にもわたり、現在コンスタンティンは、経営者としての敏腕ぶりを発揮中です。



ドイツのワイン生産地は国土の南西部に集中していますが、ラインヘッセンはちょうどそれらの中心付近に位置し、北側はラインガウ、西側はナーエ、南側はファルツといった生産地域に囲まれています。
ラインヘッセンはドイツ最大のワイン生産地で、品種ではミュラー・トゥルガウ、ドルンフェルダー、シルヴァーナー、リースリングの順に生産が多く(ドルンフェルダー以外は白品種)、どちらかというと大量生産の安ワイン的なイメージがありました。
しかし、そのイメージを脱却しよう!という若い世代の動きも活発になりつつあり、今後注目したい地域のひとつといえます。



ニーアシュタインの丘から望むライン河

ルイ・グントルムの醸造所はNierstein(ニーアシュタイン)という地区にあります。醸造所の目の前をライン河が流れているので、道路が発達していなかった時代には、船を使ってのワイン輸送に大変便利なロケーションだったようです。

ライン河はマインツで西に向きを変えるまで、ラインヘッセン地域の東側を南から北に流れています。ここニーアシュタイン付近では、ライン西岸の緩やかに連なる丘の斜面にぶどうが植えられ、畑は東から東南を向いています(この斜面は"ラインテラス"と呼ばれています)。
ライン河の東の対岸は見渡す限りの平地で、こちらはジャガイモ畑だそうです。



ライン河に向かう急な斜面のラインンテラスの畑

訪問した10月の後半は、ちょうど仕込みの真っ最中。せっかくだから、この時期ならではのテイスティングをしましょうと、醸造所地下のステンレスタンクから直接白ワインのモスト(*1)をいただきました。

仕込み直後のものから、だいぶワインに近づいてきたものまでありましたが、外観はどれも"にごり酒"のように濁っています。

まず、仕込み直後のものの味わいはぶどうジュースそのもので、アルコール度数も1%しかありません。
少し日数を経たモストもまだまだジュース風で、アルコール度数は5~6%。
その次は"Federweisser"(フェーダーヴァイサー)(*2)という状態のものでしたが、これも口当たりがよく、ゴクゴク飲めてしまいますが、「これをくいっと飲んだら、かなり危険だよ(笑)」とコンスタンティンさん。
実はこれのアルコール度数は12%でした。

なお、エクスレ度(*3)がゼロ?!というモストも試してみましたが、舌が痺れるほど超辛口でエグみもあり、この段階ではとても飲めたものではありません。これが華麗な辛口ワインに変化するというのですから、なんとも不思議なものです。



地下セラーで(左は2004年4月に就任した醸造長)


訪問した日はお天気も良かったので、「畑の中でテイスティングをしましょう!」と言うコンスタンティンさんの提案で、ニーアシュタインの丘の上に移動することに。
畑まで車で狭い農道を登って行きますが、ここの"ラインテラス"はとても急で、作業する人にとってはかなりキツそうです。

土壌はサラサラの赤土で、土が固まってスレート状になった破片があちこちに散らばっていました。
余談ですが、帰国後、履いていたクツの底や側面を見たら、ここの赤土がべったりと付いていました。かなり粒子のキメは細かいようです。


今回のテーマは『辛口リースリング』ということで、コンスタンティンさんが以下の白ワイン7本を用意してくれました。(最後の2本はオマケの甘口です)

1)Niersteiner Pettenthal Riesling Kabinett Trocken 2003

2)Guntrum Classic Oppenheimer Sacktrager Riesling Spatlese Trocken 2002

3)Niersteiner Bergkirche Riesling Kabinett 2003

4)Niersteiner Rehbach Riesling Spatlese 2003

5)Oppenheimer Schutzenhutte Riesling Auslese 2002

6)Pinguin Eiswein 2003 (甘口)

7)Oppenheimer Kreuz Silvaner Beerenauslese 1976 (甘口)




Q.ラインヘッセンのワインの特徴は?

A.リースリングは酸に特徴があり、クリスピーで、グリーンアップルのニュアンスもあります。
リースリングやシルヴァーナーはラインヘッセンでは歴史ある品種で、ルーレンダー(ピノ・グリのドイツでの呼び名)も伝統的ですが、今はマーケットから消えつつあります。
しかし、これら各種のぶどうからつくられるさまざまなタイプのワインは、さまざまなシーン別に楽しむことができるワインです。


Q.ルイ・グントルムのワイン生産について教えて下さい。

A.自社畑は9haですが、50ha分のぶどうを買っています。全体の50%がリースリングで、残り50%が他のぶどう(約10種類)からのワインです。白ワインが多いですが、シュペートブルグンダー(ピノ・ノワールのドイツでの呼び名)やカベルネ・ソーヴィニヨンなどの赤ワインもつくっています。


Q.貴社ではリースリングを多く生産しているようですが、リースリングの魅力とは?

A.リースリングの特徴は"酸"にあります。この酸は食事のためにあり、食欲を湧き立たせてくれます。また、クリームたっぷりの食事にもこの酸が合うんですよ。ほら、口の中がさっぱりするでしょう?
リースリングは健康にも良く、社交的な飲み物で、良いディスカッションのお供にもなったりします。(-いいことづくめですね-笑)。


Q.土壌の違いによるワインの味わいの違いを教えて下さい。

A.この地区で代表的な村は"ニーアシュタイン"と"オッペンハイム"ですが、
ニーアシュタインの畑はサラサラの赤土ですので、ワインもライトなタイプに仕上がります。
それに対して、オッペンハイムは重たい土質なので、土壌の水分をよく保ち、ワインはリッチでフルボディタイプになります 。


Q.スクリューキャップタイプの栓のワインもあるようですが?

A.当社では1リットルボトルにスクリュータイプの栓を採用しています。これらはスーパーマーケットなどで売られるデイリータイプ用ですが、スクリューキャップでも充分その役目を果たしますし、使い勝手も良いのではないでしょうか。
25年以上保管するワインであればコルクの方が望ましいと思いますが…。
なお、"王冠"タイプの栓は、ワインをフレッシュに保つことができる栓だと思います。


Q.このリースリングは一部が貴腐化(*4)していますが、収穫はどのようにするのですか?

A.まず、貴腐化した部分だけをていねいに手で摘み取ります。貴腐菌はその粒の周辺の粒にも付くことになるので、後日、それらの粒が完全に貴腐化したら摘み取る、ということの繰り返しで、何回かに分けて収穫することになります。




Q.ぶどうはすべて手摘みですか?

A.畑によって違い、手摘みのところもあれば、機械で収穫する畑もあります。
ちょうど今機械で収穫している畑がありますので、見に行きましょう!



丘の上からだいぶ下った、ちょうどライン河に面した畑に到着すると、赤い収穫機が活躍していました。畑では機械を操作する人がひとりで広い畑を担当していました。収穫機のスピードはかなり速く、あっという間に斜面を降りて行きました。


(*1) モスト:
ぶどうから得られる果汁で、赤ワインなどは果皮や種子も含む。

(*2) フェーダーヴァイサー:
まだ発酵途中の濁ったワインで、いわば"どぶろくワイン"。仕込みから数週間程度の限られた時期の9~10月頃に、ワイナリーの直売所などで買うことができる。まだ炭酸ガスが発生しているのでコルクは打たれておらず、残念ながらお土産には不適当。地元で飲むのが楽しい"旬"のワイン。

(*3)エクスレ度:
ドイツの物理学者エクスレが発明した、果汁の糖度を調べる比重計によって表される数値のこと。果汁に含まれる糖分はアルコールに変わるため、ワインになったときのおよそのアルコール度数がエクスレ度から計算できる。

(*4) 貴腐化:
ボトリティス・シネレア菌の働きでぶどう粒の水分が失われ、エキス分だけを残した干しぶどう状態になること。こうして貴腐化したぶどうから天然の甘口のワインができるが、貴腐化する条件はかなり厳しいので、貴腐ワインは非常に稀少で高価。

---------------------------------------

インタビューを終えて  

伝統あるワイナリーに生まれながらも、若い世代らしく、最新技術の導入、外部からの新醸造長の抜擢、販売ネットワークの拡大など、非常に積極的で意欲的なコンスタンティンさん。
英語も堪能で、スーツ姿もぴしっと決まり、どこから見ても有能なビジネスマンですが、収穫のときは自らも畑に出るなど、現場をとても大切にしている様子。
明るく、人見知りしない気さくな性格と行動力が彼の武器のようで、彼の力で、ラインヘッセンのワインの評価がグーンと高まる日が来るのも、そう遠いことではないかもしれません。

ホームページ→ http://www.guntrum.de




さて、今回訪問したドイツですが、実は2005~2006年は日本におけるドイツ年、ということをご存知でしたか?ドイツの文化やスポーツなど、さまざまな分野でドイツが注目を浴びそうです。
もちろんドイツワインにも注目が集まること必至です。ドイツのワイン生産地では、この10年でかなり大きな変化が起こっています。ぜひ新しいドイツに目を向け、素晴らしいドイツワインを発見してみて下さい。



ドイツといえば、ハム類が自慢!


(*取材協力:ドイツワイン基金 http://www.dwfjp.com )


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 第 5回 Domaine C. et Claud... | トップ | 第 7回 Domaine Jean Pillot... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

キャッチ The 生産者」カテゴリの最新記事