ワインな ささやき

ワインジャーナリスト “綿引まゆみ” (Mayumi Watabiki) の公式ブログ

第40回 Agricola Allegrini@「キャッチ The 生産者」

2009-05-13 09:51:24 | キャッチ The 生産者
「ワイン村.jp」 (社団法人日本ソムリエ協会 オープンサイト)(2004年5月~2008年12月終了)に連載していた「キャッチ The 生産者」(生産者インタビュー記事)を、こちらにアップし直しています。
よって、現在はインタビュー当時と異なる内容があることをご了承ください。

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  (更新日:2007年11月11日)

第40回  Marilisa Allegrini  <Agricola Allegrini>

今回のゲストは、イタリアはヴェネト州のヴァルポリチェッラにある
アッレグリーニの6代目、マリリーサ・アッレグリーニさんです。


<Marilisa Allegrini> (マリリーサ・アッレグリーニ)
アッレグリーニの6代目。
マーケティング担当。


三兄妹が支えるヴェネトの名門ワイナリー  - Allegrini -

マリリーサさんの父で5代目のジョバンニ氏が1983年に亡くなった後、アッレグリーニを継いだのがマリリーサさんたち3人兄妹でした。

長男のウォルターさんは栽培、次男のフランコさんは醸造、そしてマリリーサさんはマーケティングと、3人が力を合わせてアッレグリーニを支えていくことになりました。



Q.ワイナリーのあるヴァルポリチェッラはどんなところですか?
A.ヴェネト州のヴェローナ北部に位置しています。ヴェローナはヴェニスとミラノのちょうど中間地点にあります。
ヴァルポリチェッラのすぐ西側にはガルダ湖というイタリア最大の湖(大きさは日本の琵琶湖の約半分)があって、これがブドウ栽培にとてもいい影響を与え、特別な気候(マイクロクライメット)を生み出します。


Q.ヴァルポリチェッラでのアッレグリーニの位置付けは?
A.ヴァルポリチェッラは協同組合が多く、しかも自社畑を持っているワイナリーは意外と少ないんです。
そんな中、アッレグリーニは自社畑を持ち、自分のブドウでワインを生産している数少ないワイナリーのひとつで、家族で代々やっています。

自社畑があるのは父のおかげで、父は1950年代に本格的に畑を購入して拡大しました。年間生産量は90万本と、中規模ワイナリーといえるかと思います。


Q.ヴァルポリチェッラのワインには、単なる“ヴァルポリチェッラ”と“ヴァルポリチェッラ・クラシコ”がありますが、2つの違いは何でしょうか?
A.ヴァルポリチェッラは2000年以上も前から続くイタリア有数の歴史あるワイン産地です。この古い時代から続く栽培地域が現在“ヴァルポリチェッラ・クラシコ”と呼ばれているエリアで、オリジナルのヴァルポリチェッラはここでつくられていました。

しかし、1968年にDOCのルールができたことにより、安くておいしいと評判だったヴァルポリチェッラの需要が上がり、それに応えるためにヴァルポリチェッラのエリアを拡大したのです。それが“エンラージドヴァルポリチェッラ”(拡張された…の意味)で、場所はクラシコエリアの東側になります。

この拡大されたエリアが単なるヴァルポリチェッラで、クラシコエリアの2倍の広さがありますが、量を求めてワインの品質が低下していくに従い、だんだんと寂れてきました。“量”の時代は終わり、“品質”の時代に変わってきたからです。


Q.品質的にどう違うのでしょうか?
A.クラシコエリアはガルダ湖により近い場所にあるため湖の影響を大きく受け、畑は丘陵地の斜面にあります。
クラシコエリアの東側に位置するエンラージドはガルダ湖から遠く離れ、畑は平地が多くなります。
丘の上の畑は収穫量は減るものの、高い品質のブドウが得られます。一方、平地では収穫量は多くなりますが、ブドウの品質が低下します。

そのため、生産量ではクラシコエリアは25%、エンラージドは75%ですが、単一畑やスペリオーレタイプの上質ワインの比率はクラシコが75%、エンラージドが25%と逆転します。
また、アマローネやレチョートといった手のかかる特別なワインにおいても、クラシコは87%、エンラージドは13%です。こうしたクラシコエリアの高品質傾向は、ますます強まってきています。



Q.ヴァルポリチェッラで重要なブドウ品種について教えてください
A.最も重要なブドウはコルヴィーナです。80%まで使用することができ、サクランボの風味やタンニンをワインに与えます。

ワインに甘さとコクを与えるのがロンディネッラで、5~30%まで使用できます。

収穫量の多いモリナーラは、かつて5~25%まで使用することができましたが、2003年に法改正があり、今はオプション品種となりました。
当社では2003年ヴィンテージからアマローネには入れていません。というのも、モリナーラはピンク色で色味がなく、酸も高いため、加えるとワインが薄まるからです。

また、モリナーラは灰色カビ病に冒されやすい品種で、ボトリティス(貴腐菌)にするなら使うというメーカーはあるようですが、アッレグリーニではカビの付いたブドウは一切使いません。そうしたこともあり、当社では扱いが徐々に減ってきています。


Q.現在、ヴァルポリチェッラには国際品種も使えるようですが?
A.カベルネ・ソーヴィニヨンやメルロなどの国際品種が最大5%使え、サンジョヴェーゼやバルベーラも使えます。ですが、カベルネやメルロはコルヴィーナの特徴を消してしまいますので、当社ではコルヴィーナとはブレンドしません。


Q.アッレグリーニは中規模ワイナリーながら、ヴァルポリチェッラのリーディングプロデューサーと言われていますが?
A.アッレグリーニは歴史もあり、自社畑も多く所有しているだけでなく、さまざまな研究や技術革新への投資も行ってきました。それが評価され、各ワイン専門誌で高い評価を得ていて、ヴェネト州ではNO.1、イタリアでもトップ5に入る生産者とも言われています。


Q.研究や技術革新とはどんなものですか?
A.アマローネをつくる際には、“アパッシメント”と“リパッソ” という伝統的な2つの手法があります。
前者はブドウを乾燥させる手法で、乾燥させて水分が減って糖度の高まったブドウを搾ったものを発酵させます。
後者は1回目の発酵を終えたマストにアマローネの搾りかすを加え、もう一度発酵させる手法です。よりアルコール度数が高くなり、ストラクチャーが強く、余韻の長いワインになりますが、果実味がなくなり、苦味や酸化のニュアンスが強くなるので、当社ではやめようと思いました。

そこで、70%(コルヴィーナ)は収穫後すぐに醸造し(12%のアルコール度数のワインになる)、残りの30%(コルヴィーナ以外のブドウ)は4ヶ月間乾燥させてからプレスして果汁を引き出し、最初のワインに加えて再び発酵させています。
これにより、アマローネのニュアンスを持ったアルコール13.5%ほどのワインができます。
「Palazzo della Torre」(テイスティングの3番目のワイン)がこの方法でつくったもので、私たちはこのワインを「ベビーアマローネ」と呼んでいます。



Q.アパッシメントにも技術革新があるということですが?
A.ブドウを乾燥させる際には、ワラで編んだ敷きマットの上にブドウを広げて行うのが伝統的ですが、このマットはあまり衛生的ではありません。洗うとボロボロになって翌年は使えなくなしますし、毎年買うと高く付きます。
また、この方法は天候に大きく左右され、アパッシメントの途中でブドウが腐ったり、カビが出たりしたことがあったので、当社はマット使用をやめ、1998年に乾燥施設の建物をつくりました。

乾燥が自然に行われることはもちろん大事ですが、天候が悪いときはテクノロジイを使い、理想的な状況をつくってあげることも必要だと考えたからです。

浅めのプラスティックケースにブドウを入れて運び、そのままパレットにセットします。パレットの列の間は空気の循環のために空けておきます。大きなファンを設置して風を循環させたり、建物のドアは天候によって開けたり閉めたりして、細かく調整を行っています。
乾燥は最初の4日間が重要で、4日のうちに茎の水分がだいぶ飛びます。その後大きな部屋に移します。ケースの上下の入れ替えは特に行いません。アマローネ用のブドウで約4カ月、レチョート用で約5カ月乾燥させます。


Q.新アパッシメントの効果はいかがでしょうか?
A.これにより、複雑な香りの要素を融合し、ブドウの持つ果実味とリパッソのような凝縮感を持つワインが生まれました。
アルコールは強くないですが、酸化しないスタイルのアマローネになり、より料理との相性が良くなったと思います。



<テイスティングしたワイン>


Soave 2006
「2003年に畑を購入し、2004年VTから生産しています。ガルガーネガ80%、シャルドネ20%で、シャルドネを加えているのは、ガルガーネガの繊細さに力強さを加え、支えてくれるからです。
この白ワインには樽は全く使いません。ブドウの素直な凝縮感がワインにそのまま出るようにつくっています。あるコンペティションで、ソアーヴェの有名な生産者に勝ったこともあり、私はこの出来にとても満足しています」(マリリーサさん)

Valpolicella Classico 2006
「当社のスタンダードなヴァルポリチェッラで、これにはモリナーラも少しブレンドしています。各地に散らばっている畑のブドウを使って仕込み、品質が良ければアマローネにします。フレッシュな感じを出したいので、このワインにはオークは使いません。チェリーのアロマを素直に出したいと思っていますし、あまり寝かせず、2、3年で飲んでいただきたいと思っています。
パスタや、トマトソースを使った料理、さまざまな地中海料理に合う赤ワインです。普通は赤ワインとトマトソースの組み合わせは難しいと言われますが、このワインなら全く問題なく、ヴェニスの魚料理にも相性ピッタリです」(マ)



Palazzo della Torre 2004 (sample)
「東向きのなだらかな畑で、この地方によく見られる石を積み上げたテラス状になっています。樹齢は47年です。新しいリパッソの手法で仕込み、私たちがベビーアマローネと呼んでいるワインです」(マ)

La Grola 2004  (sample)
「1979年に購入し1995年に拡張した、当社で一番大きなシングルヴィンヤードの25haの畑です。当初からダブルグイヨで始めました。これも技術革新のひとつで、ブドウに凝縮感を出すために、密植度を4200本/haから6500本/ha(コルヴィーナの限界)にしました。ガルダ湖に最も近い畑で、空気の循環も日当たりも良く、土壌もコルヴィーナに適しています」(マ)



Villa Giona 2003
「畑は平地にあり、ここにコルヴィーナを植えると平凡になるので、国際品種を植えました。50%がカベルネ・ソーヴィニンヨン、40%がメルロで、フランスのボルドースタイルのワインですが、10%シラーがブレンドされています。熟成をフレンチオークの新樽で18~24カ月熟成しています」(マ)

Amarone Classico 2003
「このアマローネと次のレチョートはほぼ同じ方法でつくられています。レチョートは甘口ですが、アマローネは辛口ワインです。アパッシメントを施したブドウを完全に発酵させたのがアマローネで、発酵を途中で止めたのがレチョートです。収穫時点での糖度はほぼ同じくらいですが、アマローネのワインとしての残糖は4g/lで、アルコールは15.4%です」(マ)



Giovanni Allegrini 2004 (Recioto) (sample)
「父の名前、ジョバンニという名の付いた甘口ワインのレチョートで、DOCは“レチョート・デラ・ヴァルポリチェッラ・クラシコ”になります。
アパッシメントの期間は5カ月で、重さが約半分になった2月に破砕と除梗をして発酵させます。残糖分は145g/lで、アルコールは14%です」(マ)


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インタビューを終えて


赤ワインのイメージが強いアッレグリーニでしたが、
今回、白ワインのソアーヴェを初めて試飲し、その素晴らしい出来に驚かされました。



輝くようなゴールドの外観。深みのある熟れたフルーツの香りがあり、口にすると豊かな果実味がやわらかく広がり、酸も穏やかで、ほどよい厚みを感じます。

価格を見ると、デイリーにも楽しめそうな懐にやさしいプライス!

アッレグリーニは、ソアーヴェの選択肢を見事に広げてくれたといえるでしょう。


そして、伝統的なヴァルポリチェッラを見ると、さまざまな改革に取り組み、しかもその成果をキチンと出している点に拍手を送りたいと思います。

今後もアッレグリーニの動向は要チェックです。



実は、長男のウォルターさんが2003年に亡くなりました。
大変残念で悲しいことではありますが、その悲しみを乗り越え、現在はマリリーサさんとフランコさんの2人がアッレグリーニを支え、ウォルターさんの分まで頑張っています。



取材協力: 株式会社スマイル

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