「ワイン村.jp」 (社団法人日本ソムリエ協会 オープンサイト)(2004年5月~2008年12月終了)に連載していた「キャッチ The 生産者」(生産者インタビュー記事)を、こちらにアップし直しています。
よって、現在はインタビュー当時と異なる内容があることをご了承ください。
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(更新日:2007年1月11日)
第30回 Christian Gosset <Gosset-Brabant>
今回から数回にわたり、2006年の後半に現地訪問した生産者を紹介していきたいと思います。
トップバッターは、フランスのシャンパーニュ生産者、“ゴセ・ブラバン” の クリスチャン・ゴセ 氏 です。
<Christian Gosset>(クリスチャン・ゴセ)
1964年生まれ。ゴセ・ブラバンの3代目。1985年からワインビジネスの世界へ。ブルゴーニュのドメーヌでの研修や、ワイナリー経営のマネージメントを学んだ後、ゴセ・ブラバンへ。
現在はゼネラルマネージャーとして手腕を発揮中。
アイ村で再会
ゴセ・ブラバンはシャンパーニュのヴァレ・ド・ラ・マルヌ地区にあるアイ村(Ay)のシャンパーニュ生産者で、現在はミッシェルとクリスチャン兄弟が運営しています。
弟のクリスチャンとは2006年7月に彼が来日した際に会っていたので、シャンパーニュに行く時があれば、ぜひクリスチャンを訪問せねば!と思っていました。
梅雨明けの蒸し暑い東京で出会ったクリスチャンと、初冬のアイ村で再会です。
ゴセ家は1584年からブドウ栽培に携わっていましたが、自分のところでワイン生産をするようになったのは(生産者元詰め、いわゆる“レコルタン・マニュピュラン”(RM))、クリスチャンの祖父ガブリエル・ゴセ氏の代から(1930年代)です。
ガブリエル氏の妻(クリスチャンの祖母)の旧姓が“Brabant”(ブラバン)だったため、ゴセ夫妻の新しいシャンパーニュは“Gosset-Brabant”(ゴセ・ブラバン)と名づけられました。
現在のゴセ・ブラバンは、兄のミッシェルが栽培と醸造を、弟のクリスチャンがマネージメントを担当し、兄弟が力を合わせて祖父母の意志を引き継いでいます。
アヴィーズの醸造学校で4年間学んだ兄のミッシェルは、まじめな職人気質で、ちょっとシャイ。
ガブリエル氏の姿は、ラベルやコルクに描かれた人物像で確認ができます。
まずは畑が見たい!という私の希望で、クリスチャンの運転する車に乗り、アイの畑へ。
畑は小高い丘がいくつも連なり、ずいぶん高いところにも畑が見られます。
Q.この畑は主にどの方向を向いていますか?
A.この斜面は南西向きですが、丘陵ですから、斜面によってさまざまな方向を向いています。東や北を向いている畑もありますよ。
Q.なぜ北向きの斜面にもブドウを植えているのですか?
A.北向きの畑から収穫されたブドウには酸味が乗るからです。これが、シャンパーニュをつくる際にちょうどよくバランスを取ってくれます。
Q.植えているブドウ品種は?
A.アイはピノ・ノワールが主体です。我々はシャンパーニュに9.6haの畑を所有していますが、その65%がピノ・ノワールで、シャルドネが15%、ピノ・ムニエが20%です。 樹齢は平均25年です。
Q.グラン・クリュ畑はありますか?
A.アイの5.6haのピノ・ノワールと、コート・デ・ブラン地区のシュイイ(Chouilly)のシャルドネ0.5haにグラン・クリュ畑を所有しています。
夕方、太陽が沈みかけて山の陰になる畑がある中、ずっと高い位置にある畑にはまだ太陽が当たっています(下の写真)。
なるほど、山の上の畑は日射にも恵まれるわけですね。
この丘陵地帯の畑を下り、今度はまったく別の、クリスチャンが“特別な畑”と呼ぶブドウ畑に連れて行ってもらいました。
Q.“特別な畑”というのはどういう意味ですか?
A.ブドウの樹の下の地面に雑草がたくさん生えているでしょ?これはわざとこうしています。除草剤とか、ケミカルなものをできるだけ使わないでブドウをつくりたいと思っているからです。
Q.ビオディナミですか?
A.ビオディナミを採用している友人はたくさんいるけれど、うちは今のところはビオディナミにするつもりはありません。なにかあった時の充分な対処ができませんから。
Q.ところで、2006年のシャンパーニュはどんな年でしたか?
A.8月は暑くて乾燥していました。その後の9月もとても良く、だからといって“楽な年”とは言えませんでしたね。例えば、2002年はどの地区も良かったけれど、2006年は場所によって差があります。ベストな場所では、量は多くありませんが、凝縮したブドウが収穫できました。
Q.ゴセ・ブラバンでは、ワインづくりに樽は使わないのですか?
A.ええ、ステンレスタンクしか使いません。というのも、シャンパーニュはブレンドによってつくり上げるワインだからです。ブレンドするそれぞれのジュースをクリアに保つためにはステンレスタンクが最適だと思っています。
ステンレスタンクがずらりと並ぶ醸造所内
Q.リザーヴワイン(注*1)はどうしていますか?
A.大手では2年、3年前のもの・・・と、大量にリザーヴワインをストックしておきますが、うちは小さな生産者ですから、1年前のワインをリザーヴワインとして取っておくだけで間に合ってしまいます。
Q.あれ?ラベルのデザインが変わりましたよね?
A.もっとゴセ・ブラバンのアイデンティティを表現し、わかりやすくするために変更しました。これだと、消費者に一目でゴセ・ブラバンのシャンパーニュだとわかってもらえると思ったからです。
紙質もナチュラルなものに変え、色とデザインはデザイナーと相談しながら18ヶ月かけて決めました。
Q.リニューアル後のラインナップはどうなっていますか?
A.シャンパーニュは "Cuvee Gabriel Grand Cru Millesime 1998”、“Cuvee de ”の4アイテムです。
Q.ゴセ・ブラバンのワインメーキングのコンセプトは?
A.“ワインメーカー”というよりも、まず“ワイングローワー”(グローワーは“栽培者”の意味)でありたいと思っています。つまり、良いワインのために、まずは良いブドウを選ぶことに力を注ぎたいです。
できるだけ樹齢の高い(30年以上)樹を選び、セラーではブドウのテイストを保つことを目指せば、ワインに何も手を加える必要はなく、自然に良いものができます。
その中で、“アイ村のテイスト(Tast of Ay)”を出していけたら、と思っています。
(注*1)
リザーヴワイン:前の年(もしくはそれ以前)につくってストックしておいたワインのこと。ノン・ヴィンテージ・シャンパーニュの場合、そのシャンパンハウスの個性を表現するためには、このリザーヴワインの存在が不可欠。アッサンブラージュの際にブレンドされ、ストック年数やブレンド比率はメーカーによってさまざま。
<テイスティングしたシャンパーニュ>
Tradition Premier Cru
フルーティでチャーミング。シャンパーニュというと身構えてしまいがちだけど、これは気軽に開けて楽しみたくなる、そんなシャンパーニュ。
「料理と合わせるのなら、複雑でなく、ファット(脂肪分たっぷり)でない、シンプルなものがいいですね。さっぱりした魚料理、ジャンボン・ペルシェ(ハム類)、サーモンのリエット(ペースト)、そして日本の料理にも合うと思います」(クリスチャン)
Mareuil sur Ay(ボディ、フレッシュさ、酸が特徴)、Avenay Val d’Or(赤のスティルワイン産地で、古いピノ・ノワールの樹がある)、Dizy(東向きの畑、ミネラリティ、ワインによいボディを与える)の3つのプルミエ・クリュの畑からのブドウ(ピノ・ノワール70%、シャルドネ20%、ピノ・ムニエ10%)を使用。最低18ヶ月はセラーで熟成させ、リザーヴワインの使用率は30%。ドサージュ(瓶詰め時に加える甘いリキュール)の量は、Brutは10g/リットル、Demi-Secには40g/リットル。
Rose Premier Cru
鮮やかなバラ色が美しく、さくらんぼの香りとチャーミングな酸味が魅力的。フレッシュさとボディのバランスが取れ、そこに複雑さも加わり、そのまま楽しむのはもちろん、料理との相性も良さそうなロゼ。
「森の香りがいっぱい感じられませんか?香りと味わいのバランスが非常にいいシャンパーニュです。スモークサーモン、野菜や魚介の入ったテリーヌ、ツナを使った料理に。刺身にも合いそうですね。あまり火を入れすぎないクラフティ(クレープ生地の中にプリン液のようなものを流し、果物を散らして焼いたお菓子)などにも合うと思います」(クリスチャン)
Tradition Premier Cruと同じ3つのプルミエ・クリュの畑からのブドウ(ピノ・ノワール80%、シャルドネ10%、ピノ・ムニエ10%)を使用。最低18ヶ月はセラーで熟成させ、リザーヴワインの使用率は30%。Avenay Val d’Orの畑の樹齢の高
いピノ・ノワールでつくった赤ワインを10~12%加え、ロゼとしている。ドサージュは10g/リットル。
Cuvee de Reserve Grand Cru
白や黄色のフルーツのニュアンスがあり、ボディはしっかり。ミネラル感もあり、満足度の高いグラン・クリュ。
「アニスの香りも感じます。ミネラル感はテロワールから来ています。アイはボディのあるワインになりますが、土壌やスロープの傾斜角度、面などの条件でキャラクターも変わってきます。合わせるのなら魚料理、白身の肉料理に。キッシュなどもいいですし、天ぷら、寿司、刺身にもどうでしょう?」(クリスチャン)
AyとChouillyのグラン・クリュの畑からのブドウ(ピノ・ノワール80%、シャルドネ20%)を使用。平均樹齢は25年。一番絞りのみを使用。最低30ヶ月セラー内で熟成させ、リザーヴワインの使用率は25%。ドサージュは8g/リットル。
Cuvee Gabriel Grand Cru Millesime 1998
余韻が非常に長く、1本前のグラン・クリュよりもさらに複雑味があり、落ち着いています。さすがです。
「かなり複雑な味わいのシャンパーニュですから、料理はブルゴーニュの白ワインに合わせるようなタイプのものをオススメします。ラングスティン(オマール海老)、白身の肉にソースをかけたものとかですね。バターソースもいいですし、ちょっとスパイシーなソース、サフランが入ったソースもいいと思います」(クリスチャン)
その年の出来でつくるかどうかを決めていて、1998年以降は1999、2002、2004年を生産。ただし生産量は少なく、1998年で5000本。アイのグラン・クリュ畑からのブドウ(ピノ・ノワール70%、シャルドネ30%)を使用。1998年のシャルドネはアイのものだが、2002年はChouillyの畑のシャルドネを使用(年によって使う畑が異なるそう)。ピノ・ノワールの平均樹齢は35年。最低48ヶ月セラー内で熟成させ、ドサージュは6g/リットル。
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■ インタビューを終えて
シャンパーニュの最大の特徴は、複数年のワインをアッサンブラージュしてつくるノン・ヴィンテージ(NV)シャンパーニュにあります。
価格は最もお手頃ながら、その生産者の個性を明確に表現する看板商品といえるでしょう。消費者はこの個性を手がかりにして贔屓のシャンパンハウスを見つけることができるというわけです。
しかし、毎年同じ味わいのワインを生産し続けていくことは至難の技です。他の生産地では、出来の良くなかった年は「天候が悪かったから仕方ないさ」と片付けることができても、シャンパーニュではそうは問屋が卸してくれません。どんなに不作の年でも、きっちりと“いつものうちの味”を表現するワインをつくらなければならないのですから。
大手生産者(ブドウを購入してワインづくりを行うところが多く、“ネゴシアンマニピュラン”(NM)と呼ばれる)は、潤沢な資本力のおかげで充分な量のリザーヴワインのストックが可能で、毎年安定してワインづくりができるといえるでしょう。
しかし、小規模なRM生産者の場合、不作の年には充分な量のブドウが得られない上、リザーヴワインのストックも限られているので、“いつものうちの味”を維持していく苦労は並大抵のことではありません。よほど強い信念と意志がないと、シャンパーニュでRMなんてやっていけそうにないかも・・・、と思うのは私だけではないはず。
ゴセ・ブラバンは、このところ雑誌でもよく取り上げられ、ブームにさえなっている感のあるRM生産者です。ブルゴーニュでいうところの“ドメーヌ”同様、自分の手で育てたブドウでワインづくりを行うため、その生産者独特のコンセプトや個性が出やすく、その個性がRMの最大の魅力といえます。
ただ流行だからと追い求めるのではなく、彼らの信念や意志を充分に理解し、シャンパーニュづくりの苦労と努力も一緒に味わってあげたいものです。
取材協力:トーメンフーズ株式会社(現在は豊通食料株式会社に社名変更)
よって、現在はインタビュー当時と異なる内容があることをご了承ください。
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(更新日:2007年1月11日)
第30回 Christian Gosset <Gosset-Brabant>
今回から数回にわたり、2006年の後半に現地訪問した生産者を紹介していきたいと思います。
トップバッターは、フランスのシャンパーニュ生産者、“ゴセ・ブラバン” の クリスチャン・ゴセ 氏 です。
<Christian Gosset>(クリスチャン・ゴセ)
1964年生まれ。ゴセ・ブラバンの3代目。1985年からワインビジネスの世界へ。ブルゴーニュのドメーヌでの研修や、ワイナリー経営のマネージメントを学んだ後、ゴセ・ブラバンへ。
現在はゼネラルマネージャーとして手腕を発揮中。
アイ村で再会
ゴセ・ブラバンはシャンパーニュのヴァレ・ド・ラ・マルヌ地区にあるアイ村(Ay)のシャンパーニュ生産者で、現在はミッシェルとクリスチャン兄弟が運営しています。
弟のクリスチャンとは2006年7月に彼が来日した際に会っていたので、シャンパーニュに行く時があれば、ぜひクリスチャンを訪問せねば!と思っていました。
梅雨明けの蒸し暑い東京で出会ったクリスチャンと、初冬のアイ村で再会です。
ゴセ家は1584年からブドウ栽培に携わっていましたが、自分のところでワイン生産をするようになったのは(生産者元詰め、いわゆる“レコルタン・マニュピュラン”(RM))、クリスチャンの祖父ガブリエル・ゴセ氏の代から(1930年代)です。
ガブリエル氏の妻(クリスチャンの祖母)の旧姓が“Brabant”(ブラバン)だったため、ゴセ夫妻の新しいシャンパーニュは“Gosset-Brabant”(ゴセ・ブラバン)と名づけられました。
現在のゴセ・ブラバンは、兄のミッシェルが栽培と醸造を、弟のクリスチャンがマネージメントを担当し、兄弟が力を合わせて祖父母の意志を引き継いでいます。
アヴィーズの醸造学校で4年間学んだ兄のミッシェルは、まじめな職人気質で、ちょっとシャイ。
ガブリエル氏の姿は、ラベルやコルクに描かれた人物像で確認ができます。
まずは畑が見たい!という私の希望で、クリスチャンの運転する車に乗り、アイの畑へ。
畑は小高い丘がいくつも連なり、ずいぶん高いところにも畑が見られます。
Q.この畑は主にどの方向を向いていますか?
A.この斜面は南西向きですが、丘陵ですから、斜面によってさまざまな方向を向いています。東や北を向いている畑もありますよ。
Q.なぜ北向きの斜面にもブドウを植えているのですか?
A.北向きの畑から収穫されたブドウには酸味が乗るからです。これが、シャンパーニュをつくる際にちょうどよくバランスを取ってくれます。
Q.植えているブドウ品種は?
A.アイはピノ・ノワールが主体です。我々はシャンパーニュに9.6haの畑を所有していますが、その65%がピノ・ノワールで、シャルドネが15%、ピノ・ムニエが20%です。 樹齢は平均25年です。
Q.グラン・クリュ畑はありますか?
A.アイの5.6haのピノ・ノワールと、コート・デ・ブラン地区のシュイイ(Chouilly)のシャルドネ0.5haにグラン・クリュ畑を所有しています。
夕方、太陽が沈みかけて山の陰になる畑がある中、ずっと高い位置にある畑にはまだ太陽が当たっています(下の写真)。
なるほど、山の上の畑は日射にも恵まれるわけですね。
この丘陵地帯の畑を下り、今度はまったく別の、クリスチャンが“特別な畑”と呼ぶブドウ畑に連れて行ってもらいました。
Q.“特別な畑”というのはどういう意味ですか?
A.ブドウの樹の下の地面に雑草がたくさん生えているでしょ?これはわざとこうしています。除草剤とか、ケミカルなものをできるだけ使わないでブドウをつくりたいと思っているからです。
Q.ビオディナミですか?
A.ビオディナミを採用している友人はたくさんいるけれど、うちは今のところはビオディナミにするつもりはありません。なにかあった時の充分な対処ができませんから。
Q.ところで、2006年のシャンパーニュはどんな年でしたか?
A.8月は暑くて乾燥していました。その後の9月もとても良く、だからといって“楽な年”とは言えませんでしたね。例えば、2002年はどの地区も良かったけれど、2006年は場所によって差があります。ベストな場所では、量は多くありませんが、凝縮したブドウが収穫できました。
Q.ゴセ・ブラバンでは、ワインづくりに樽は使わないのですか?
A.ええ、ステンレスタンクしか使いません。というのも、シャンパーニュはブレンドによってつくり上げるワインだからです。ブレンドするそれぞれのジュースをクリアに保つためにはステンレスタンクが最適だと思っています。
ステンレスタンクがずらりと並ぶ醸造所内
Q.リザーヴワイン(注*1)はどうしていますか?
A.大手では2年、3年前のもの・・・と、大量にリザーヴワインをストックしておきますが、うちは小さな生産者ですから、1年前のワインをリザーヴワインとして取っておくだけで間に合ってしまいます。
Q.あれ?ラベルのデザインが変わりましたよね?
A.もっとゴセ・ブラバンのアイデンティティを表現し、わかりやすくするために変更しました。これだと、消費者に一目でゴセ・ブラバンのシャンパーニュだとわかってもらえると思ったからです。
紙質もナチュラルなものに変え、色とデザインはデザイナーと相談しながら18ヶ月かけて決めました。
Q.リニューアル後のラインナップはどうなっていますか?
A.シャンパーニュは "Cuvee Gabriel Grand Cru Millesime 1998”、“Cuvee de ”の4アイテムです。
Q.ゴセ・ブラバンのワインメーキングのコンセプトは?
A.“ワインメーカー”というよりも、まず“ワイングローワー”(グローワーは“栽培者”の意味)でありたいと思っています。つまり、良いワインのために、まずは良いブドウを選ぶことに力を注ぎたいです。
できるだけ樹齢の高い(30年以上)樹を選び、セラーではブドウのテイストを保つことを目指せば、ワインに何も手を加える必要はなく、自然に良いものができます。
その中で、“アイ村のテイスト(Tast of Ay)”を出していけたら、と思っています。
(注*1)
リザーヴワイン:前の年(もしくはそれ以前)につくってストックしておいたワインのこと。ノン・ヴィンテージ・シャンパーニュの場合、そのシャンパンハウスの個性を表現するためには、このリザーヴワインの存在が不可欠。アッサンブラージュの際にブレンドされ、ストック年数やブレンド比率はメーカーによってさまざま。
<テイスティングしたシャンパーニュ>
Tradition Premier Cru
フルーティでチャーミング。シャンパーニュというと身構えてしまいがちだけど、これは気軽に開けて楽しみたくなる、そんなシャンパーニュ。
「料理と合わせるのなら、複雑でなく、ファット(脂肪分たっぷり)でない、シンプルなものがいいですね。さっぱりした魚料理、ジャンボン・ペルシェ(ハム類)、サーモンのリエット(ペースト)、そして日本の料理にも合うと思います」(クリスチャン)
Mareuil sur Ay(ボディ、フレッシュさ、酸が特徴)、Avenay Val d’Or(赤のスティルワイン産地で、古いピノ・ノワールの樹がある)、Dizy(東向きの畑、ミネラリティ、ワインによいボディを与える)の3つのプルミエ・クリュの畑からのブドウ(ピノ・ノワール70%、シャルドネ20%、ピノ・ムニエ10%)を使用。最低18ヶ月はセラーで熟成させ、リザーヴワインの使用率は30%。ドサージュ(瓶詰め時に加える甘いリキュール)の量は、Brutは10g/リットル、Demi-Secには40g/リットル。
Rose Premier Cru
鮮やかなバラ色が美しく、さくらんぼの香りとチャーミングな酸味が魅力的。フレッシュさとボディのバランスが取れ、そこに複雑さも加わり、そのまま楽しむのはもちろん、料理との相性も良さそうなロゼ。
「森の香りがいっぱい感じられませんか?香りと味わいのバランスが非常にいいシャンパーニュです。スモークサーモン、野菜や魚介の入ったテリーヌ、ツナを使った料理に。刺身にも合いそうですね。あまり火を入れすぎないクラフティ(クレープ生地の中にプリン液のようなものを流し、果物を散らして焼いたお菓子)などにも合うと思います」(クリスチャン)
Tradition Premier Cruと同じ3つのプルミエ・クリュの畑からのブドウ(ピノ・ノワール80%、シャルドネ10%、ピノ・ムニエ10%)を使用。最低18ヶ月はセラーで熟成させ、リザーヴワインの使用率は30%。Avenay Val d’Orの畑の樹齢の高
いピノ・ノワールでつくった赤ワインを10~12%加え、ロゼとしている。ドサージュは10g/リットル。
Cuvee de Reserve Grand Cru
白や黄色のフルーツのニュアンスがあり、ボディはしっかり。ミネラル感もあり、満足度の高いグラン・クリュ。
「アニスの香りも感じます。ミネラル感はテロワールから来ています。アイはボディのあるワインになりますが、土壌やスロープの傾斜角度、面などの条件でキャラクターも変わってきます。合わせるのなら魚料理、白身の肉料理に。キッシュなどもいいですし、天ぷら、寿司、刺身にもどうでしょう?」(クリスチャン)
AyとChouillyのグラン・クリュの畑からのブドウ(ピノ・ノワール80%、シャルドネ20%)を使用。平均樹齢は25年。一番絞りのみを使用。最低30ヶ月セラー内で熟成させ、リザーヴワインの使用率は25%。ドサージュは8g/リットル。
Cuvee Gabriel Grand Cru Millesime 1998
余韻が非常に長く、1本前のグラン・クリュよりもさらに複雑味があり、落ち着いています。さすがです。
「かなり複雑な味わいのシャンパーニュですから、料理はブルゴーニュの白ワインに合わせるようなタイプのものをオススメします。ラングスティン(オマール海老)、白身の肉にソースをかけたものとかですね。バターソースもいいですし、ちょっとスパイシーなソース、サフランが入ったソースもいいと思います」(クリスチャン)
その年の出来でつくるかどうかを決めていて、1998年以降は1999、2002、2004年を生産。ただし生産量は少なく、1998年で5000本。アイのグラン・クリュ畑からのブドウ(ピノ・ノワール70%、シャルドネ30%)を使用。1998年のシャルドネはアイのものだが、2002年はChouillyの畑のシャルドネを使用(年によって使う畑が異なるそう)。ピノ・ノワールの平均樹齢は35年。最低48ヶ月セラー内で熟成させ、ドサージュは6g/リットル。
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■ インタビューを終えて
シャンパーニュの最大の特徴は、複数年のワインをアッサンブラージュしてつくるノン・ヴィンテージ(NV)シャンパーニュにあります。
価格は最もお手頃ながら、その生産者の個性を明確に表現する看板商品といえるでしょう。消費者はこの個性を手がかりにして贔屓のシャンパンハウスを見つけることができるというわけです。
しかし、毎年同じ味わいのワインを生産し続けていくことは至難の技です。他の生産地では、出来の良くなかった年は「天候が悪かったから仕方ないさ」と片付けることができても、シャンパーニュではそうは問屋が卸してくれません。どんなに不作の年でも、きっちりと“いつものうちの味”を表現するワインをつくらなければならないのですから。
大手生産者(ブドウを購入してワインづくりを行うところが多く、“ネゴシアンマニピュラン”(NM)と呼ばれる)は、潤沢な資本力のおかげで充分な量のリザーヴワインのストックが可能で、毎年安定してワインづくりができるといえるでしょう。
しかし、小規模なRM生産者の場合、不作の年には充分な量のブドウが得られない上、リザーヴワインのストックも限られているので、“いつものうちの味”を維持していく苦労は並大抵のことではありません。よほど強い信念と意志がないと、シャンパーニュでRMなんてやっていけそうにないかも・・・、と思うのは私だけではないはず。
ゴセ・ブラバンは、このところ雑誌でもよく取り上げられ、ブームにさえなっている感のあるRM生産者です。ブルゴーニュでいうところの“ドメーヌ”同様、自分の手で育てたブドウでワインづくりを行うため、その生産者独特のコンセプトや個性が出やすく、その個性がRMの最大の魅力といえます。
ただ流行だからと追い求めるのではなく、彼らの信念や意志を充分に理解し、シャンパーニュづくりの苦労と努力も一緒に味わってあげたいものです。
取材協力:トーメンフーズ株式会社(現在は豊通食料株式会社に社名変更)
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