白き焔BLOG

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最後のマンガ展 井上雄彦(ネタバレ)

2008-05-31 04:06:36 | 日記
まずは、凄い・・・・・・としか言いようがなかった。マンガの枠を超えたマンガだと思った。

ネタバレしまくりですので、知りたくない方は回避お願いします。


バガボンドの最終話となるべき回というか、武蔵の最後の物語である。

マンガは読むものだと思っていたが、ここでは体感するものだった。

不思議の国のアリスのように、自分がマンガの中に入ってしまったような感じ。ただ、残念ながら混んでいて、自分の読む間で、その中を自由に動けないのが少し辛い。

書き込まれた山寺の次に、武蔵の「枯木鳴鵙図」を思わせる鴉が、余白をもってポツンと描かれる。静寂を感じさせる間。ポンと置かれたのは、顔半分を墨で塗られた巨大な武蔵のアップ。

時に広角で切り取られた風景あり、鳥瞰で見せる群集あり、アップで見せる顔があり。映画のようにも感じられるが、やはりこのリズム感はマンガだと思う。(残念ながら私は映画を一年に一本見ればいい方なので、映画と比較するのは申し訳ないのだが)

洞窟のようにうねうねとした動線に導かれ、再び大ゴマ。

一枚が完成された絵のようにも見えるが、あくまで、リズムを持ったマンガなのだ。

台詞は少ない。(文字での説明は最小限だ)しかしコマとコマの間に、武蔵の語りが聞こえてくるような気がするし、鳥の羽ばたきや、風を感じるようだ。

原稿はテクスチャも様々で、ケントボードにペンで細かく描きこまれたもの、キラキラと細かい光を放つ和紙、漆喰、美術館の白くペンキが塗られた壁面と多岐にわたる。

和紙の上に、墨痕が踊る、走る。等身大よりも大きな墨絵の迫力に、思わず息を呑む。ケントの上のシャープな線と、対比するようで、調和するという不思議。

水墨画のようでもあり、日本画のようでもあり、しかしマンガなのだ。この巨大な真白の紙に、最初の筆を入れるのは怖くないのだろうかと思った。どれだけ滲むか、予想しきれない部分もあるだろうに。

五輪の書は、五巻の巻物が描かれただけ。タイトルは記されていなかったと思う。

歴代の強敵が飾られた屏風仕立ての通路を通り、暗転した世界へ。壁一面が先ほどとは逆に黒く塗られ、黒地に白いコマが浮かび上がる。一気に内面の世界へ引きずり込まれていく。

魂のような丸い球体にたくさんの棘が刺さっている。一本一本が、武蔵が倒し、それによって武蔵を作り上げた男たちの記憶のようだ。棘が一本づつ抜かれていく。
最後に残された一本は、白い画面に本物のピンを刺し、ライティングによって影を強調されて表された。急に平面が、立体になる。表現方法がシンプルであるがゆえに、その鋭さにドキッとさせられた。こう来るかと。

武蔵が木刀を取り落とすシーンがあった。天井の高い真白の壁に、大きな絵が(絵の一枚一枚がヒトコマなのだが)、一列に横に並ぶ。ふと、絵の高さが下がっており、画面からはみ出した美術館の床に、木刀が落ちた。画面から抜け出たように。

ドスンと言う効果音はどこにも書かれていない。そんなものは必要がない。この木刀、近づくと細かい仕事がしてあるのだが、他のコマと連続して「読む」ためには、五、六歩下がらないとダメだ。視界に入りきらない。

木刀は、絵の中から現実に迫り来る二度目のもの。

そして・・・・・・次の部屋には彼岸が広がっていた。ざりり、ざりり、ざり・・・・・・。床に敷き詰められた砂。私が歩いた足元から染み出す音。最後に小さく落款が押されている。

あえて、最後の絵については書かないでおく。ある意味、ものすごい王道だった。

しかし、これは井上雄彦にしか出来ない表現だと思った。マンガという表現はここまで自由だったのかと感じる。しかしご本人もこういう表現方法を取るのは、これが最初で最後だろう。そういう意気込みが展覧会のタイトルからも伝わってくる。

こんな風にマンガを体感できる空間を提供することは、他の誰にも出来ないのではないか?(これ以降で似たようなことをする人は出るかもしれないが・・・・・・)そう思わせる衝撃があった。

シリアスな流れではあるが、ユーモアも忘れていない。ところどころに、そういう遊びはあるし、ふと見た壁に蝶や花が描かれていたりする。なんだか世界への愛を感じる。それは老境にある武蔵自身の心象風景のようだ。

絵に近づけば、その墨のテリや、細かな部分も見れる。しかし少し離れて見たほうが、全体はつかめると思う。武蔵も木を見てばかりではなく、森を見ようとしたではないか。

バガボンド(もしくは宮本武蔵がどんな人だったか)を知っているとより楽しめる。しかしマンガが好きな人なら、体験しても損はない。日本語を読めない外国の人にも、見てもらいたいなぁ。すごいよ! 日本は!


筆づかい師として好きなのは岡野玲子さんと、小林智美さん(この方はむしろイラストではあるが)なのであるが、このサイズで世界と相対してしまう井上さんはすごい。やはり男という筋力がモノを言う気がする・・・。

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