09/19 私の音楽仲間 (424) ~ 私の室内楽仲間たち (397)
苦手とヒトは言うけれど
これまでの 『私の室内楽仲間たち』
今回は、まず譜例をご覧いただきましょう。
ある弦楽四重奏曲の緩徐楽章で、その冒頭部分です。
[演奏例の音源]は、以前にもお聴きいただいた
もので、関西の仲間とご一緒したときのものです。
Violin が S.さん、K.君、チェロが N.さんです。
テーマは、まず Vn.Ⅱが奏で、5小節目から Vn.Ⅰが
歌います。 a は、その中心となっているモティーフです。
同時に鳴っている対位は、まずチェロが演奏します。
これは、モティーフ b が中心になっています。
↑
この対位を5小節目から引き継ぐのは Vn.Ⅱです。
最初はテーマ、後半は対位。 一人二役の大活躍
ですね。
ここで絶妙な役割を果たしているのが、モティーフ c。
テーマの一部分でありながら、引き続き、対位の重要
モティーフとして活躍します。
5小節目からの対位は、“c + b” という構造である
ことが解ります。
…と今回は、いきなり理屈っぽくなってしまいました。 でも
それと裏腹に、音楽はなんと美しく、自然に流れていることで
しょうか。
これ、Beethoven の弦楽四重奏曲 ニ長調 (Op.18-3) の
第Ⅱ楽章です。
「彼は、美しいメロディーを書くのが苦手だった。」 これは、
時折見かける記述ですが、果たしてそうでしょうか?
百歩譲って、彼の作品には「美しいメロディーが少ない」…
としましょう。 しかしそれは、「苦手だった」…ということには
なりません。
特に、この楽章のテーマを聴く限りは。
いえ、作品18 の四重奏曲シリーズ全体を見ると。
さらに、それだけではありません。 交響曲第1番と、第2番。
緩徐楽章はもちろんのこと、全楽章とも、若々しい抒情性に、
そして美しいメロディーに満ちているように感じられます。
この路線をそのまま歩んでも、彼は後世に名を残す作曲家
になったかもしれませんね。 この作品18 の6曲は、28歳を
迎える年に作られました。
しかし彼の作風は、このあと劇的に変わります。
あの交響曲第3番変ホ長調『英雄』 (Op.55) は、33~34歳
の年に。 また3曲の四重奏曲『ラズモーフスキィ』 (Op.59)
は、36歳の年に作られたとされています。
共に中期の傑作とされ、際立つ特徴は、“全体の構成感”、
“モティーフの徹底的な展開” だと言われています。
以後、もし「美しいメロディーが少ない」…作品ばかりだと
すれば、それは、彼が求めた “音楽の内容” が左右した
結果だからではないでしょうか。
さて、最初の弦楽四重奏曲、Op.18-3 に戻りましょうね。
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(続く)