MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

スピード感も一過性

2012-06-19 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

06/19 私の音楽仲間 (397) ~ 私の室内楽仲間たち (370)



             スピード感も一過性




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 前回は、小節数と演奏時間を中心に、あれこれご一緒に
見てきました。

 いずれも19世紀初頭に作曲された交響曲です。

 ① Beethoven の第九、第Ⅳ楽章
    940小節、21'25" ~ 26'23"。

 ② Beethoven の第九、第Ⅱ楽章
    954小節、10'26" ~ 15'21"。
 (繰り返すと、小節数はこれより多くなります。)

 ③ Schubert の "大きなハ長調"、第Ⅳ楽章
   1155小節、11'11" ~ 15'56"。
 (繰り返すと、1,540小節。)

 演奏時間は、ベートーベン交響曲第9番の概要と演奏シューベルト
交響曲第8番の概要と演奏
に見られるもので、一例に過ぎません。




 ただし、単純にこれらを比較することも出来ません。

  "第九 Ⅳ楽章" は、異質な部分が、少なく数えても8つ続き、
それぞれは拍子もテンポも異なります。 おまけに、レチタティー
ヴォもあれば、フェルマータもあり、遅延の原因だらけです。

  "第九 Ⅱ楽章" は、それより構成は単純です。 テンポ
も速いまま。 でも実質的には "スケルツォとトリオ" が交錯
する楽章なので、3/4拍子と 2/2拍子が何度も交代します。



 終始 "Allegro vivace"、2/4拍子なのが、 の SCHUBERT。
しかし最初の385小節間を「繰り返してから先へ行け」…という
指示があります。

 忠実に演奏すれば1,540小節になりますが、怠惰な私は演奏
ごとにチェックしていません。 したがって、これも比較は無理。

 ただし、①、②に比べれば "ハイ ペース" と言えるでしょう。




 さて、今回の話のきっかけとなった曲は、ある弦楽四重奏曲
でした。 一楽章のみで 「643小節、演奏時間は7分以内」…と
いう、さらにハイ ペースの曲です。

 "Molto vivo"、3/8拍子と記されています。 一小節間に八分
音符が3個しか無いのですから、"回転が好い" のも当然。

 その上、うち74小節間 (130~203) は 6/8拍子で書かれている
ので、3/8拍子に換算すれば 717小節分あることになります。



 ただし、"遅延要因" もあります。 途中20小節余は、"Recit
(-ativo)" と書かれている自由な部分。 ここでは "rit(ardando)"
と "a tempo" が交錯します。

 それでも演奏時間は7分に収まるのです。




 これ、フーゴ・ヴォルフの "セレナーデ" で、原題は
"イタリア風セレナーデ" (Italienische Serenade) です。



 最初は (1) 弦楽四重奏曲(1887年、27歳) として作られ、
次いで (2) 弦楽合奏に編曲 (1892年、32歳) されました。

 (1) と (2) の間に根本的な差はありません。 目立つのは、
"Rit." の部分が各ソロで演奏される点でしょう。



 さらにこの楽章を含む、4楽章の "管弦楽セレナーデ" を
作曲する予定だったと言われます。 しかし早過ぎる死は、
それを許しませんでした。 ヴォルフは43歳を前に、精神
医療施設で亡くなっています。

 その "遺志を継いだ"…のかどうか解りませんが、後にこれ
(3) 小管弦楽のために編曲したのが、レーガー。 作曲者
の亡くなった1903年には、すでに出版されています。

 編成は、木管各2、ホルン2、弦5分。 それに Viola 独奏
部があり、これは原曲の ViolinⅠのパートを中心に作られて
います。 編曲者レーガーは、当初イングリッシュホルンを
用いるつもりだったようです。




 管楽器の入った (3) にも、音符の違いはありません。
しかし何と言っても異なるのは、"色調の差" です。

 原曲 (1) では、剥き出しの弦楽器が4本で、程よく火花を
散らしていました。 その対決色は薄まり、色調は丸く調和
しています。 良くも悪くも。

 たとえば、驚くような高音が Vn.Ⅱに唐突に出現した "狂気"
は、(3) ではまろやかなフルートに姿を変えています。 また
メロディーでありながらスタカートが連続し、リズムが強調され
ていた八分音符は、往々にして滑らかなレガートになります。

 (1)、(2)、(3)、どれがいいかは、お好み次第です。




 音源サイトを見ると、今回もっとも事例が多いのが
(1) 弦楽四重奏曲版。 テンポは、ほとんどが "驚くほど
急速" です。

 次いで (3) 小管弦楽版。 テンポがかなりゆっくりに
なるのは、当然の成り行きでしょう。

 (2) 弦楽合奏版は、ほとんど見られません。 実際の
演奏頻度も、おそらくこのとおりではないでしょうか。



 個人的な好みを言わせていただければ、私は "急速" な演奏
は好きではありません。 もちろん、自分が弾けないからなので
しょうが、「速度を "売り" にする」のは、このような (楽しげな)
音楽でも考えものです。 どこを見ても、"Presto" とは書いて
ないのですから。

 "Molto vivo" は、"とても活発に、とても生き生きと"。 必ずし
も "急速に" を意味するとは限りません。 個々の八分音符が
生命力を発揮するためには、ある程度の時間が必要な場合も
あります。



 耳から入った音楽は、脳が認識し、心が奥で感じ、味わうもの
ですが、テンポが速過ぎると、その余裕がありません。 急速な
テンポは、感動要因の一つでしかありません。

 音楽は、ただ右から左へ。 急行列車ならまだしも、超特急に
なると、景色の微妙な彩を味わうのは、ほぼ不可能です。




 ちなみに、今回この曲に挑戦したのは、Violin 私、O.S.さん
Viola Sa.さん、チェロ Ma.S.さんの4人。

 演奏例の音源は、その最後の部分です。 お聞きのとおり、
演奏の内容を云々する以前の出来であることをお赦しください。
7分足らずの曲に、たっぷり一時間半をかけての "成果" です。




 以下は、音源サイトの中から、私が独断と偏見で選んだ、
"ちょっと変わった演奏" です。




      2005年12月29日第25回定期演奏会 (7'22")
          演奏:北大阪ユングゾリステン
    (コンサートマスター 杉山麻衣子) いずみホール

 指揮者無しの弦楽合奏。 みごとなアンサンブルを聞かせます。




       Dinelli percussive ensemble (6'36")

 鍵盤楽器アンサンブル? "一人シンセサイザー" のようにも
聞こえます。 テンポの速さが気にならない。 Beethoven の
メトロネーム表記が "常に速い" のも、なるほど、頷けます。

 「通常の管弦楽の音色より "イタリア的" のように思う。 気に
入ってもらえると幸い。」と書かれていますが、投稿者でしょうか。




           TV radio Géorgie.
      Premier violon: Levan Tchkheidze.
      Deuxième violon: Gueorgui Khintibidze.
      Alto: Artchil Kharadze.
      Violoncelle: Revaz Matchabeli
         (8'52" 実際は8分足らず)

 私には、"色合いの感じられる四重奏" です。




      Conductor: Hans Knappertsbusch
    Orchestra: Berlin Philharmonic Orchestra
           1952,live (10'23")

 これは大変な演奏! 所要時間だけを見ても、桁はずれ。

 結果的に、楽曲の半音階的構造が浮き彫りになっており、
聞えて来るのは、まさにヴァーグナの影響が色濃い音楽。
いや、"トリスタンの世界" と言ってもいいほどです。

 一時期ヴァーグナに私淑したヴォルフには、『ヴァルキューレ
のパラフレーズ』、『マイスタージンガーのパラフレーズ』などの
ピアノ作品があります。




   Celibidache Orchestra RAI di Roma - 1968
                (7'49")

 遅めのテンポですが、"鉛色の空" を感じてしまいます。




 お好みの演奏は、音源サイトの中にありましたか?