06/14 1,000小節は天国? 地獄?
これまでの 『その他の音楽記事』
関連記事
1,000小節は天国? 地獄?
スピード感も一過性
一つの楽章だけで小節数が643もある、そんな弦楽
四重奏曲があります。
「まさか…」とお考えかもしれませんね。
しかも、演奏は7分そこそこで終わってしまう。 これ、
本当なんですよ?
「あ、知ってるよ。 あれじゃないかな?」 曲をご存じで、
さっそく譜面を取り出した方はいますか?
"正解" の発表は後ほど。 しばらくご一緒にお付き合い
ください。
200年近く前に、交響曲の怪物が登場しました。
例の "Beethoven の第九" で、当時の常識では、"交響曲
の形式の破壊" と言ってもいいほど。 ヴィーンの音楽界を
大混乱に陥れました。
その原因は、もちろん第Ⅳ楽章ですね。 小節数にして940
もあります。
演奏時間は、あるサイトの数字によれば22~26分。
最も長いのは、バーンステインの "26分23秒"、次いでフルト
ヴェングラーの "25分10秒"。 オケは共にヴィーン フィルです。
短い方では、22分を切る演奏もありました。 しかしそれでも
及ばないのが、先ほどの "643小節、7分" というハイ ペース。
「何を言ってるんだ。 単純に小節数だけ見たって、意味が
無いだろう。 まず問題なのは、曲の拍子だよ?」
そのとおりですね。 あの "歓喜のテーマ" の部分は 4/4
拍子で、テンポは "2分音符=80" と書かれています。
もしこのとおりに演奏すれば、"1分間に40小節" という計算
になりますね。 今日聞き慣れたテンポよりは、かなり速く、私
には違和感があります。
ところがこの前後には、"けたたましい 3/4拍子のプレスト"
が置かれています。
指定されたテンポは、"66小節を1分間で"! 1秒以内に
3つの拍子が収まってしまうという、驚異的な速さです。
オーボエやファゴットはお手上げ。 しかし、そんなことには
無頓着なのが Beethoven です。 喧騒の表現に打ってつけ
なのが、この狂乱ペースなのでしょう。
この終楽章は、ほかにも幾多の部分から成っています。
構造は異様で、分析者の頭痛の種。 単純に小節数だけ
を見ても、確かに意味がありません。
その点では、この曲の第Ⅱ楽章のほうが、まだ単純です。
スケルツォとトリオの交代で、拍子は異なりますが、実質的
には、速い音楽のまま。
関連記事 『ヴィーンの中継プレー』
小節数は954もありますが、いくら遅いテンポでも15分以内に
収まります。
逆に、カラヤン、ベルリン フィルの演奏では、"10分26秒" と
いう数字もあります。 ただし、「繰り返しをしているかどうか」
…を確認しないと、厳密な比較は出来ませんが。
ちなみにスケルツォ部分は 3/4拍子ですが、指定されたテンポ
だと、"1分間に116小節"! これは "2小節をほぼ1秒で演奏
しろ"…ということになるので、先ほど以上に演奏不可能です。
参考サイト [ベートーベン交響曲第9番の概要と演奏]
「曲の長さは天国的だ。」 有名な Schumann の言葉ですね。
彼はまた、「これは Beethoven 以来の最高の器楽作品だ。」
…と語ったとも言われます。
これ、"Schubert の 大きなハ長調 交響曲" のこと。 今日
では "第8番" と呼ばれています。 演奏時間は50分、場合
によっては60分もかかる曲。
長いのは演奏時間だけでなく、息の長さ! 「一つの部分
に明確な終りがあってから、先へ進む」…ような、区切りは
感じにくい曲なのです。 特に、最初の二つの楽章は。
いや、第Ⅲ楽章トリオの木管、楽器間の "掛け合い" で
進んで行く第Ⅳ楽章も、やはり似たようなもの。 結局、曲
の全部がそうです。
これが、曲の印象をさらに長くしています。 鑑賞者だけ
でなく、演奏者にとっても。
「おい、お前、どう思う? メロディーの一つぐらいは、今までに
出て来たかな…?」
リハーサル中に、楽員同士が交わした会話の内容だそうです。
楽章は第Ⅰ楽章。 単なる伝説でしょうが、笑い話だとしても、
うまく核心を突いていると思います。
さて、この交響曲のフィナーレ、第Ⅳ楽章は、実に1155小節
もあります。 2/4拍子、Allegro vivace と書かれていますが。
参考サイトによれば、演奏時間は11~16分。 しかし演奏側
としては、「行けども行けども先が見えない」…というのが実感
です。
[シューベルト交響曲第8番の概要と演奏]
そして、この楽章には、繰り返し部分が385小節あります。
…足すと、1,540小節…。
「そんなに長いのが嫌なら、速いテンポで、さっさと終わら
せればいいじゃないか…!」
そんな、簡単に言わないでくださいよ…。 細かい音符や、
難しいリズムだらけなんだから、それでは自分の首を絞める
ようなもの。 テンポの主導権は指揮者にありますし。
二拍子とは言っても、通常は "一つ振り" の快速テンポ。
指揮者はいくらでも速く振れますが、演奏者はその間に
"三連符の8分音符6個"、"16分音符を8個" を、正確に
入れ続けなくてはなりません。
かと言って、テンポがゆっくりだと、苦しみは長引くばかり…。
天国的な長さ、それに、地獄の責め苦が続きます。
さて、肝心の弦楽四重奏曲の話が、まったく手付かずですね。
小節数が643あり、7分で終ってしまう、一楽章の曲。
えーと、それ、何だったかな…? 忘れちゃった……。
Schubert の "息の長さ" どころか、物事を放置して未完成
のままにしてしまいました。 相変わらずの悪いクセです。
[Schubert の 交響曲 ハ長調 D944]
[音源ページ ①] [音源ページ ②]