自民党の一部政治家たちが、アメリカなどの歴史学者に対して呉善花『なぜ「反日韓国に未来はない」のか』と産経新聞社『歴史戦—朝日新聞が世界に巻いた「慰安婦」の嘘を討つ』の英訳本を多数送付していることが話題になっています。
モンタナ州立大学の山口智美氏によりますと、本の差出人は自民党の猪口邦子参議院議員となっているそうです。
本に添えられた猪口議員の署名による書状には、韓国等によっていかに歴史がねじ曲げられているかを明らかにしているのがこの2冊の本であり、ぜひ読んで欲しいと書いてあるそうです。
同じ本はオーストラリア国立大学のテッサ・モーリス=スズキ教授のところにも送られてきたようです。テッサ教授は誰とは名指ししていませんが、「自民党の有力メンバーから英語圏(主にアメリカ)の学者、ジャーナリスト、政治家に対して、求められていない贈り物が届いた」と言っています。テッサ教授の紹介によれば、呉善花氏の本は自分の出身国である韓国を貶め、日本による植民地支配を正当化する内容だそうです。また産経新聞社の本は河野談話を否定し、慰安婦の被害者として名乗りを上げた韓国の女性たちは金のために嘘の証言をしていると断定しているそうです。
まあ日本には昔から愛国党のような極右は常にいたわけで、そういう人たちが変な主張をすることはさほど驚くに値しません。しかし、今回の件が怖いのは、自民党の国際情報検討委員会という組織を挙げて反韓・反「慰安婦」のプロパガンダを繰り広げているらしいことです。安倍首相は村山談話や河野談話の立場の堅持を約束したばかりですが、その政権を支える与党から、河野談話を真っ向から否定する内容のメッセージが英語圏の各界に届けられています。こんなことが起きると、安倍政権の本音はやっぱり歴史修正主義だと思われてしまうでしょう。
本を受け取った山口氏は、書状がお粗末なので、よもや本当に猪口議員が出したのではあるまいと思って議員事務所に電話をかけたら、なんと本人を含めたチームで送付に取り組んでいるのだという回答でした。山口氏に対して猪口議員は、慰安婦問題に関して日本はアジア女性基金を設立するなど頑張ってきたと話されたそうです。私の理解によれば、日本政府としては日韓条約がある以上、元「慰安婦」が名乗り出ても政府補償はできかねるが、河野談話を受けて、民間からの償い金を元「慰安婦」に支払うためにアジア女性基金を設立しました。その基金を評価するということは猪口議員は河野談話を擁護する立場に立つということであって、送っている本の主張と矛盾しています。
テッサ氏が鋭く指摘するように、日本の一部における独善的な議論を反映したこの2冊の本を自民党議員が海外に発信することは、日本に対する理解を深めるどころか、安倍政権に対する疑念を深め、ひいては日本人一般が歴史修正主義に立っているかのような誤解を招くゆゆしき行動で、国益を大いに損ねていると思います。聡明な猪口議員がどうしてそのことに気づかず、こんな愚行に荷担してしまったのでしょう。
いったい何のためにこんなクズ本をアメリカ等に一生懸命発信しているのでしょう。
その理由として2つ考えられます。1つは山口氏も指摘していることですが、「日本(の右翼)の主張を対外発信した」ことを国内の右翼的な人たちにアピールしたいからかもしれません。彼らは韓国側の宣伝によってアメリカの知識人が慰安婦問題を誤解していると思いたがっていますから、自分たちの主張がアメリカに届いたことで溜飲を下げている側面はあるでしょう。もう一つは、あまり考えたくないことですが、アメリカの知識人たちに対する脅迫の意味もあるのかもしれません。どうやら今年5月にテッサ氏や山口氏を含む英語圏の日本学者多数が署名した「日本の歴史家を支持する声明」に署名した学者たちを中心に本が届けられたようです。この声明は、朝日「誤報」事件に続く歴史修正主義の総攻撃に対して日本の歴史学を守れと声を挙げたものですから、それに署名するような学者たちに歴史修正主義そのものであるこんなクズ本を届けても、反発を買うばかりであることは目に見えているでしょう。そんな人たちに敢えて送るのは「あんたの言動を我々は見ているよ」という警告なのではないでしょうか。誰かを罵倒し非難するビラや本が自宅に突然届いたら誰しもギクッとするでしょう。そういう効果を狙っているのではないでしょうか。
モンタナ州立大学の山口智美氏によりますと、本の差出人は自民党の猪口邦子参議院議員となっているそうです。
本に添えられた猪口議員の署名による書状には、韓国等によっていかに歴史がねじ曲げられているかを明らかにしているのがこの2冊の本であり、ぜひ読んで欲しいと書いてあるそうです。
同じ本はオーストラリア国立大学のテッサ・モーリス=スズキ教授のところにも送られてきたようです。テッサ教授は誰とは名指ししていませんが、「自民党の有力メンバーから英語圏(主にアメリカ)の学者、ジャーナリスト、政治家に対して、求められていない贈り物が届いた」と言っています。テッサ教授の紹介によれば、呉善花氏の本は自分の出身国である韓国を貶め、日本による植民地支配を正当化する内容だそうです。また産経新聞社の本は河野談話を否定し、慰安婦の被害者として名乗りを上げた韓国の女性たちは金のために嘘の証言をしていると断定しているそうです。
まあ日本には昔から愛国党のような極右は常にいたわけで、そういう人たちが変な主張をすることはさほど驚くに値しません。しかし、今回の件が怖いのは、自民党の国際情報検討委員会という組織を挙げて反韓・反「慰安婦」のプロパガンダを繰り広げているらしいことです。安倍首相は村山談話や河野談話の立場の堅持を約束したばかりですが、その政権を支える与党から、河野談話を真っ向から否定する内容のメッセージが英語圏の各界に届けられています。こんなことが起きると、安倍政権の本音はやっぱり歴史修正主義だと思われてしまうでしょう。
本を受け取った山口氏は、書状がお粗末なので、よもや本当に猪口議員が出したのではあるまいと思って議員事務所に電話をかけたら、なんと本人を含めたチームで送付に取り組んでいるのだという回答でした。山口氏に対して猪口議員は、慰安婦問題に関して日本はアジア女性基金を設立するなど頑張ってきたと話されたそうです。私の理解によれば、日本政府としては日韓条約がある以上、元「慰安婦」が名乗り出ても政府補償はできかねるが、河野談話を受けて、民間からの償い金を元「慰安婦」に支払うためにアジア女性基金を設立しました。その基金を評価するということは猪口議員は河野談話を擁護する立場に立つということであって、送っている本の主張と矛盾しています。
テッサ氏が鋭く指摘するように、日本の一部における独善的な議論を反映したこの2冊の本を自民党議員が海外に発信することは、日本に対する理解を深めるどころか、安倍政権に対する疑念を深め、ひいては日本人一般が歴史修正主義に立っているかのような誤解を招くゆゆしき行動で、国益を大いに損ねていると思います。聡明な猪口議員がどうしてそのことに気づかず、こんな愚行に荷担してしまったのでしょう。
いったい何のためにこんなクズ本をアメリカ等に一生懸命発信しているのでしょう。
その理由として2つ考えられます。1つは山口氏も指摘していることですが、「日本(の右翼)の主張を対外発信した」ことを国内の右翼的な人たちにアピールしたいからかもしれません。彼らは韓国側の宣伝によってアメリカの知識人が慰安婦問題を誤解していると思いたがっていますから、自分たちの主張がアメリカに届いたことで溜飲を下げている側面はあるでしょう。もう一つは、あまり考えたくないことですが、アメリカの知識人たちに対する脅迫の意味もあるのかもしれません。どうやら今年5月にテッサ氏や山口氏を含む英語圏の日本学者多数が署名した「日本の歴史家を支持する声明」に署名した学者たちを中心に本が届けられたようです。この声明は、朝日「誤報」事件に続く歴史修正主義の総攻撃に対して日本の歴史学を守れと声を挙げたものですから、それに署名するような学者たちに歴史修正主義そのものであるこんなクズ本を届けても、反発を買うばかりであることは目に見えているでしょう。そんな人たちに敢えて送るのは「あんたの言動を我々は見ているよ」という警告なのではないでしょうか。誰かを罵倒し非難するビラや本が自宅に突然届いたら誰しもギクッとするでしょう。そういう効果を狙っているのではないでしょうか。