(写真)フランスの大規模スーパーの店内
先月のフランスにおける一連の都市暴動事件では、改めてフランスがかかえる社会経済上の問題がクローズアップされました。その中で、移民系フランス人の失業問題、教育問題と並んでフランス市場全般における国際競争力の不足、中でも雇用慣行の見直しがやはり避けて通れない課題として浮上してきています。これまで「自由化(リベラリザシオン)」と言えば「弱肉強食のアングロ・サクソン的競争第一主義であり、フランスの社会モデルと相容れない」と否定され、欧州統合も「域内自由市場を作って国際競争力を高めるためではなく国際競争から欧州の社会モデルを守るため」と説明(日本でFTAといえば逆に「あくまで開かれた地域主義に基づく発想で、WTOの自由化路線とは競合しない」と説明されますが)されてきたフランス。しかし、実際には、フランス人が週35時間労働制と長期休暇を享受し、手厚い社会保障の保護を受ける中、低下した労働生産性を補ってきたのがまさに移民を中心とする外国人たちで、合法・非合法を含めて彼らの働きなしにはフランスは現在の経済水準を維持できなかったのではないかと言われています。さすがに近年では、国際競争の荒波を受けてフランス人自身の賃金水準も均され、それに対して「解雇反対!」「購買力の維持を!」と訴えるストライキが各産業で頻発していますが・・・。
フランス的雇用慣行の行き詰まり、そして外国人による下支えという構図は、ここリヨンでも見ることができます。例えば、飲食業。「グルメの街」として知られるリヨンには「ミシュラン」社の推奨するいわゆる「星つき」レストランも数件集まっていますが、実はこれらのお店の多くで日本人をはじめとする外国人が、お客からは見えないところで、調理師あるいは雑用係として働いています。無論、日本人に関して言えば、何も本国で働き口か無いから出稼ぎに来ているという訳ではなく、むしろこれまで調理師の経験もあり、フランスのレストランやケーキ屋で修行したいと思っているプロの方が多い訳ですが、彼らは「修行で働いている」という意識であるため(また、一定期間働けば「フランスの本場レストランで修業経験あり」という肩書きを入手できるため)低い賃金水準でもガマンする傾向がある結果、フランス人オーナーからは「極めて安い賃金で勤勉に働く良質の労働力」と見られています。また、彼らが毎日規定の労働時間をオーバーしてでも熱心に働くからこそ、フランス人職員は「35時間労働制」の建前を守ってもなお経営が成り立ちます。日本人の場合は、それでも一定の「知的財産権の移転」がなされればそれで低賃金も補償されることになるのかもしれませんが、そうではない一般的な外国人労働者の場合、こうした二重の雇用慣行は「同一労働、同一賃金の原則」に反し、ただただ差別的なものとなります。それでもこの二重形式が維持できるのは、やはり高い失業率(そして不法入国者にとっては不法就労という後ろめたさ)がその背景にあるのかもしれません。ちなみに、リヨンは特に観光客を目当てにした飲食業が発達した結果、安くてサービス水準もよい優良店から、高くてサービスが無きに等しい問題店まで幅広く存在しており、中には腐った肉や床に落とした肉を洗い、調味料で誤魔化して出す悪質店もあるようです(実際に悪質店で研修していた仏人の友人談)。
フランス的雇用慣行の弊害は、何も外国人に対してだけではありません。当のフランス人の若者の勤労意欲をも蝕んでいます。例えば、これは日本でも勤務経験があるさるフランス人の友人の話ですが、彼がかつてリヨン市内のある大型スーパーに7~8人のグループのリーダー(正社員)として勤務していた頃、2度、3度と勤務時間に1時間以上も遅刻して来る従業員(これまた正社員)がいたので、彼がその従業員を呼んで注意したところ、後になってその注意された従業員が彼の上司(マネージャー)に「苦情」を申し立て、かえってマネージャーから「君のやり方は従業員に厳しすぎる。彼(従業員)はよく働いているし、1時間遅刻した際は1時間残業しているから大目に見てやってくれ」と注意を受けたことがあるそうです。この大手スーパーはフランスは勿論欧州各国にも進出している有名大企業なのですが、現場の従業員は一事が万事この調子で、少々の遅刻は勿論のこと、業務時間中もダラダラ仕事をしながら同僚と雑談する、果てはあろうことかお客さんに対して暴言を吐くといった始末。さすがにそんな場面に出くわした彼は改めて部下の従業員を厳しく叱責したそうですが、それがまた部下としても気に入らなかったらしく、結局前出のマネージャーに苦情が申し立てられ、却って彼のほうが「君のやり方は日本的過ぎる」と注意を受けたそうです。結局、「このような環境で働くことは時間の無駄だし、自分のキャリアアップは望めない」と決意した彼はこの会社を辞職したそうですが、そんな彼は「グループリーダーががんばって仕事をしても、部下はついてこないどころか『リーダーが働いている分自分達はラクができる』とサボる口実にし、むしろ働きすぎを煙たがる」「35時間労働制、長期バカンスと甘やかされた現代のフランス人は、自分達が如何に恵まれた環境にあるか理解していない」と憤慨していました。無論、以上の話は私の友人の一つの体験談であって、この例ばかりを以ってフランス人の勤務態度を一般化することは必ずしも適切ではないかもしれませんが、顧客としてスーパーを利用する立場の私から見ても、腐った野菜も陳列したままにする(フランスでは、新鮮な野菜とそうでないものを見分けるのはお客の責任で、例え買ったバナナにカビが生えていても一旦レジを通ってしまえばそれまでになる)、客から質問されてもマトモに答えない(むしろ面識の無い客同士で「あの商品はあのあたりにあるんでしたっけ?」と会話して売り場を探し当てる)といった仏スーパーの実態を見れば、上記の話が決して例外ではないと思えてきます。高学歴で勤勉な少数精鋭のフランス人と、平均的な学歴で勤務態度も普通なフランス人、更には低学歴・低職歴の移民系フランス人の三極に分化し、三者間の格差がどんどん拡大している(そしてそれに伴い社会の不安定性も増えている)というのが、フランス労働市場の実情なのではないでしょうか。
元々、農業を中心とする豊かな国土と広大な植民地に支えられてきたフランス経済。ある意味、「あくせく働かないと先進国になれない」日本等とは異なり潜在的には「豊かな国」なはずなのですが、今後進展することはあっても縮小することはないであろう経済のグローバリゼーションを前に、「フランス的社会モデル」という標語に逃げ帰っているだけではダメだということが徐々に理解されるようになりつつあります。一連の都市暴動事件は、そうしたフランス労働市場の構造改革を求めるものでもあったと言えそうです。
最後に、私の個人的な経験から。もしフランスの見知らぬ街で、ガイドブックも何もなくて廉価で美味しいレストランを探したいとき、外国人が(裏方、厨房でではなく)フロアでウェイターとして働いているお店(そして、むしろオーナーの仏人が裏方で働いている)、しかもその外国人がイキイキと働いているお店があれば、そこは大抵「廉価で美味しいレストラン」と言えます。
楽天以外にコメントするのに慣れていないもので
タイトルに自分のブログのタイトルを書いたりして
今赤面してます(笑)
私はこちらに住んでる割に仏語もまだまだ、社会の知識も浅いので今日の貴ブログは大変勉強になりました。
いつかアルバイトでもしたいのですが果たしてみつかるかな。
本当にフランス人の勤労態度にはしょっちゅうむかついてます(笑)書いてらっしゃるフランス人、まったくハラタツ輩ですね。
スターアカデミーの日記も本当に興味深く、読んでから観るとさらに面白く楽しめました。
ありがとうございます!
太ってる子、マガリーでしたっけ?彼女がスターに選ばれたのには驚きましたが。
日本ではありえないなと思いました。外見重視ですものね。
でも本当に歌唱力がすごいので、あとお金と手間をかけてどれだけ美しく変身するか楽しみです!
また、ブログ拝見しました。リヨンにお住みなんですか?ステキな写真がいっぱいで、牽き込まれました。また遊びに行かせて頂きます!
それでは。
大変興味深い記事で参考になりました。とりわけ次のご指摘が印象に残ります。
「高学歴で勤勉な少数精鋭のフランス人と、平均的な学歴で勤務態度も普通なフランス人、更には低学歴・低職歴の移民系フランス人の三極に分化し、三者間の格差がどんどん拡大している(そしてそれに伴い社会の不安定性も増えている)というのが、フランス労働市場の実情なのではないでしょうか。」
日本も「下流社会」の出現とやらで、マスコミも大きくとりあげています。グローバリゼーションの展開が早過ぎ、潮流にうまく乗れる人々と取り残される人々の格差は、明らかに広がっているように思われます。
景気回復と労働力人口の減少で、新卒市場には改善の動きが見えますが、新しい雇用体系が安定するまでには、かなりの変動がありそうです。
平穏な新年となることを祈っております。