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絵本の話を中心に、好きなもの、想うことなど。

エミリーに球根を贈った少女

2005-11-04 17:25:06 | 好きな絵本

 クロッカスの球根を買いに行った時、もちろんユリの球根も、
売り場で見ました。私、ユリの花がとっても好きなんです。けれど、
それの球根は大きくて、ごつごつしていて、それに単価も高くって
(一つや二つではなく、ある程度の数の球根を植えたかったので)
ちょっと手が出ないなあと、思っていました。

 ユリの球根で思い出すのは、ほるぷ出版から出ているこの絵本です。
エミリー マイケル・ビダード文 バーバラ・クーニー絵 掛川恭子訳 

 表紙に描かれている青いコートを着た女の子は、エミリーではなく、
このお話の語り手の「わたし」です。詩人のエミリー・ディキンソン
妹とともに住んでいる向かいの家に越してきたのです。 
エミリーは近所で評判の「なぞのひと」。20年近くも家の外に出たことが
ないらしいのです。

「わたし」の家は3人家族。ピアノが上手なお母さんに、花の手入れが好きな
お父さん。エミリーがお母さんに宛てた手紙(ピアノで奏でる曲を聞かせに
来てくださいという主旨)の中に入っていた花が「ブルーベル」であることも、
それがとても、もろい花だということもお父さんは知っていました。
お母さんが、花をもっていっていいわ、と言ってくれたので、ブルーベルは
少女のものになりました。
 
「わたし」はお父さんと一緒に、サンルームで花に水遣りをしながら、
エミリーのことを色々尋ねます。興味しんしん‥。
「詩ってなあに?」の問いに対して、お父さんはこんなふうに答えます。

 「ママがピアノをひいているのをきいていてごらん。
  おなじ曲を、なんどもなんども練習しているうちに、
  あるとき、ふしぎなことがおこって、その曲がいきもの
  のように呼吸しはじめる。きいている人はぞくぞくっと
  する。口ではうまく説明できない、ふしぎななぞだ。
  それとおなじことをことばがするとき、それを詩と
  いうんだよ」

 
お母さんが、エミリーの家にピアノを弾きに行く前の日、「わたし」は、
エミリーの家が正面に見える窓辺に、ユリの球根を一列に並べます。
元の家から木の箱に入れて持ってきた大切な球根です。少女は、かさかさで、
死んでいるように見える球根も、なかに命がひそんでいるから 
春になったらぐんぐん大きくなるのだと、お父さんが話してくれたことを
ふしぎななぞだと思っています。
 世の中とかかわろうとしない、人と触れ合うことを拒む、エミリーのような
人間がいることも、また少女にとっては「ふしぎななぞ」です。
 
 ふしぎななぞが世の中にはたくさんある。

 少女は、謎は謎のままとして肯定します。そしてブルーベルを貰ったように、
自分からもエミリーへ贈ることができるものをさがします。

 エミリーと同じような、真っ白い服の両ポケットから少女が差し出した
ユリの球根。描かれている少女とエミリーは、こわいほどに無表情ですが、
しんとした佇まいの中から静かな喜びが、時間とともに染み出てくるのが
わかります。

 やがて春になりー。

 「わたし」はお父さんに手伝ってもらいながら、ユリの球根を
自分の部屋の下に植えます。高い生垣のむこうにある庭で、きっとエミリーが
球根をうめているにちがいないと、その姿を思い浮かべながら。

 
 こうして最後までお話をたどっていくと、エミリー・ディキンソンという
孤高の詩人が実在の女性であったなら、彼女にユリの球根を贈った多感な少女も
またほんとうに居たように、私には思えてなりません。
 でも、だいじなことは、どこまでが本当で、どこからが作ったお話かではなく、
どれくらいお話の中に入り込み、お話の世界に浸り、そこから感じ得たものを
胸の中の自分の場所に、しっかりと残しておく、ということだと思います。


 


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8 コメント

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エミリー!! (本棚の魔女)
2005-11-09 23:16:58
rucaさん、こんにちは!



エミリー!! エミリ・ディキンソン、大好きなんです!!

静かに内側が燃えている、暖炉の熾の炎のような熱さと激しさが・・・。

10代の頃、何度も何度も読んでました。

バーバラ・クーニーも大好きなんです。

命のひそむ言葉と、命のひそむ絵。

人の想いは、その人よりもずっと長く生き、遠くまで旅をするものですね。
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遠い旅の果て (ruca)
2005-11-11 15:03:23
魔女さん、こんにちは。



>人の想いは、その人よりもずっと長く生き、遠くまで旅 するもの



名言ですね。何度も何度も読み返してしまいました。



エミリー・ディキンソンさんの作品、絵本「エミリー」の最後に載っているものしか読んだことないんです。

今度、ぜひ読んでみたいと思っています。



それにしても、クーニーの描く絵、作品としての絵本は、どれも素敵なものばかりですね。ふうー。
返信する
エミリ (憂愁書架)
2006-02-17 10:44:11
エミリ・ディキンソンを検索していて、このサイトを知りました。雰囲気がとてもいいですね。



 「でも、だいじなことは、どこまでが本当で、どこからが作ったお話かではなく、どれくらいお話の中に入り込み、お話の世界に浸り、そこから感じ得たものを胸の中の自分の場所に、しっかりと残しておく、ということだと思います。」



 ほんとにそのとおりだと思います。子供の時の感動はいつまでも心に残って、生涯いろいろな影響を与え続けるのかもしれません。突然のコメント、失礼いたしました。

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コメントありがとうございます (ruca)
2006-02-17 17:43:55
憂愁書架さん、こんにちは。そしてはじめまして。



足跡残していただいて、とても嬉しいです。

『エミリー』はB・クーニーの作品の中でも、特に好きなもので、とても(気持ちの中で)大切にしています。

出会ったのは最近で、子供時代にはまったく知らなかったのですが。



エミリ・ディキンソンについては‥もっともっと知ってからでなければ、何を語ることはできませんが、よかったら、また遊びにきてください。
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お久しぶりです。 (春生)
2006-04-11 21:40:45
ご無沙汰しています、こんばんは。絵本のブログ、久しぶりに更新しました。とはいえ、HPのほうでUPしていたものを手直しして、載せただけなんですけれど(^^;

この『エミリー』ブログのほうにUPしたら、rucaさんのところと繋げていただこうと思っていました。トラックバック、させていただきました。後追いになりって、ごめんなさい。



また久しぶりに開いて、読んだのですが、やっぱり素敵な絵本ですよね♪
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春生さん、こんにちは (ruca)
2006-04-12 14:21:14
ほんとうにお久しぶりです。たまに訪ねては「てぶくろ」のままのページを見て、春生さんどうしているのかしら?と思っていました。



>HPのほうでUPしていたものを



春生さんのHPは、ブログとはまた別にあるのですね。

そこへはブログからリンクしているのでしょうか?伺ってみたいです。



『エミリー』はほんとうに素敵な本ですよね。

春生さんからのコメントを読んで、久しぶりに自分の記事を読んだら、また本を読み返してみたくなりました。

春生さんのところへもTBさせていただきますね。(時間がたったあとでも、繋がっていくのってすごく嬉しいし、楽しいです。これからもよろしくお願いします)
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Unknown (春生)
2006-04-13 09:17:15
おはようございます♪トラックバック、ありがとうございました。本当に、繋がって、いろんなところに枝葉が広がっていくことが、ネットの楽しみでもありますね。

おかしなところや、怖いサイトの方など、勝手に繋げれたりして、HPの運営、めげてしまった時期がありました。お休み期間も長かったし、中途半端なサイトですが、細々と続けておりますのでよろしければ、ご覧くださいね。

最近では、マイペースに、PCに触りたいと思うときだけにしか、触りません。ですから、すっごっくスローだったり、いっぱいUPしたりしてます(^^;

メールも300通近く貯まってしまうことも多々。殆どが宣伝ですけれど…。

そんなふうですけれど、気長にお付き合いしてくださいませ。ペコリ。



返信する
またまた春生さんへ (ruca)
2006-04-14 11:06:37
こんにちは。

春生さんのおうちの方の天気はいかがですか?

こちらは、朝には雨が上がり、「明るい曇り空」です。

陽が射してきそうで、お日様がまだ雲の中にあるって

いうこういう状態、わりと好きです。



こちらこそ、気長にお付き合いうよろしくお願いします。(ぺこり)
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