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絵本の話を中心に、好きなもの、想うことなど。

もうひとりのゴールディー

2007-11-08 17:00:12 | 好きな絵本

今日は立冬なので、きょうから暦の上では、冬ということですね。

秋に読みたい音楽絵本‥「秋」の間に、3冊目を紹介することが
できませんでしたが、予定していたので、書いておこうと思います。


 ピアノ調律師
        『ピアノ調律師』
       M・B・ゴフスタイン 作



ゴールディーのお人形、わたしの船長さん、生きとし生けるもの、
作家‥

この1年半くらいの間に、それまで私の本棚になかった、ゴフスタインの
作品が次々とやってきました。絵本ブログとことり文庫さんのおかげです。
この『ピアノ調律師』もそんなふうに知った1冊でした。



主人公はデビー・ワインストックという名の女の子。2年前に両親が亡くなり
ピアノ調律師であるおじいさん、ルーベン・ワインストックに引き取られ
二人で暮らしています。

デビーの夢は、おじいさんのようなピアノ調律師になることです。
けれど、ルーベンはできることなら、デビーには裏方ではなく、
表舞台に立つピアニストになってもらいたいと思っています。

冬のある日、ルーベンはコンサートホールにグランドピアノの調律を
するためデビーをともなって出かけました。その時点では、
まだ古くからの友人で、有名なピアニストのアイザック・リップマンが
来ていることを知りません。予定が急に変更になり、その晩、
演奏をするピアニストはリップマンになったのです。

嬉しい再会の握手と、デビーを紹介したのち、
ルーベンはリップマンにこう言います。

「わたしはこの子にピアノを弾いてもらいたいのですが、この子は
ピアノの調律とか修理にばかり興味があるようで」
「そういう仕事は、ピアニストの指のためにはあまり良くないんだ
よ」アイザック・リップマンはデビーに言いました。
「でも、わたしはピアノ調律師になるの」デビーは小さな手でおじ
いさんの手を握ると言いました。


この本は65ページまであり、↑で抜き出した箇所は、話がはじまった
ばかりの16ページ目に書いてあります。このあと、ストーリーが
どんなふうに展開していくのかは、読んだときのおたのしみにとっておきます。




ピアノ調律師になりたい、というデビーのひたむきで真摯な態度は、
とても自然なかたちで、私のこころの一番深く、一番触れられたくない
ところにストレートに届きました。

泣きそうになってしまう本や絵本はたくさんありますが、
ほんとうに泣かされてしまった本は、ずいぶん久しぶりでした。

こんなに正直に、こんなにまっすぐ、自分の望みを語ることができる
デビーを心底羨ましいと思いました。

人生で自分の好きなことを仕事にできる以上に幸せな
ことがあるかい?

こうルーベンに語りかけた、リップマンの言葉に、また涙がこみ上げました。



デビーは、ものを作り出しはしませんが、自分の信じた自分の道を
自分の意志で歩んでいこうとする点において、もうひとりの
ゴールディーなのだと思います。

そして、私は、はらはらしながら、心配しながら、
すこしでも、社会的に、経済的に良い方向へと、自分の娘を導こうとしている
母親なのでしょうか‥本のはじまりのときの、ルーベンのように‥

難しいなあと、思います。

自分の問いに、自分で答えるのも、
いまだに、何かを願う気持ちを胸に抱えていることも。








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10 コメント

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したいこと (フラニー)
2007-11-09 01:08:00
rucaさん、こんばんは。
音楽絵本3冊目は、こちらだったんですね!だいすきですとも・・・。
小さいうちから、これになりたい!がぐらつかない人って、何か与えられている気がします。

リップマンのすてきな言葉は、いつもかみしめていたいですね。
本当に、親の立場ってやっかいだから・・・(笑)
でもわたしも最近、ずいぶんとラフに考えられるようになりました。
子どもが選んでいく道々で、たとえこちらの言葉を聞き入れないにしても、またそれはそれで、新しい道が開けるんでしょうしね。
要は、自分の責任で、好きなことしてくださいって(笑)思っています。
回り道から生まれる何かも、あるだろうと信じて・・・。
フフ、最近、とーっても、投げ気味です
返信する
私も (jasumin)
2007-11-09 13:31:01
同じようにこの本を知って、大好きになりました。
図書館には所蔵してなく、予約をしたら、購入してくれました。
私に買ってくれたわけではないけれど、すごく嬉しくなりお礼を言った覚えがあります。

一途にひとつの夢を追い続けること。
これができている人は、本当に羨ましく感じてしまいます。
自分がそうじゃなく、今に至っているから。
子どもにも、こういう部分を持って欲しいと思っても
それは「思わせる」訳には行かず・・・ですものね。
やはり、環境かな?
周りに何があるか、誰がいるか、その誰かがどう生きているか。

今の時点の子どもたちに、デビーのような明確なものが見えていないとしたら、
親の設える環境も大事かもしれませんね。
あ~、難しい・・・(苦笑)

ほんと、好きな1冊です。
やっと我が家にもやってくることになりました。
返信する
フラニーさんへ (ruca)
2007-11-09 17:23:17
こんばんは。

みなさんのおかげで次々と知ることができた
ゴフスタインの本の中でも、この本は私にとって
特別の中の特別です…
ことり文庫からうちに来たのはだいぶ前なのに
想うことがたくさんあり過ぎて、何も書くことが
できませんでした。

>これになりたい!がぐらつかない人って、
>何か与えられている気がします。

ほんとにそうですね~。すごく羨ましいです。

親としては、こどものことを一番に思わなくては
いけないし、また自然にそうなるものなのでしょうが
なんだか私は、いまだに自分の中でくすぶっている
もやもやをどうにもできずにもがいているような
気がしています。いい歳して恥ずかしいのですが。
娘のほうが、案外、気負わずに、さっさと自分の道を
見つけていくかもしれないなあ、なんて思って
みたり…です。
返信する
jasuminさんへ (ruca)
2007-11-09 17:36:29
こんばんは。

私も図書館にリクエストして買ってもらった本が
何冊かありますが。それってすごくうれしいし
いい気分ですよね?最初に手に取れるのも自分だし、
そのあとに、知らない人が何も知らずに(あたりまえ
だけど)借りていっているのを想像したり。

私は、ひとつの夢を追い続ける前の段階で、
自分が挫折したみたいな気持ちになっています。
デビーのように、こうしたい、こうなりたいって
宣言することすらできなかったのですから。
秘密主義だったのかなあ。

やっぱりやりたいことははっきり言わないとだめだと
最近悟りました。誰かに言って、ひっこみがつかない
状態にもっていかないと…。

娘にわたしが与えてあげられることや整えてあげる
ことなんかあるのかなあと思いますねえ。
リップマンの言葉を忘れないでいてくれることを
願うばかりです。

あ。でも、実践的なアドヴァイスならいくつかあって
「料理の上手な男の人と結婚したほうがいいよ」も
入っています(笑)。
返信する
 (くっちゃ寝)
2007-11-10 09:54:38
ゴフスタインの絵本。
私もrucaさんやフラニーさんのブログで出会って、
大好きな絵本作家のひとりになりました。

「ゴールディーのお人形」もこの「ピアノ調律師」も、
自分の生き方を勇気づけてくれる絵本ですね。

ウチでは長女が、デビーのように自分の夢を
まっすぐ語る(語れる)人なんです。
小学校のときから揺るがない夢。
今はそれに向かって(受験に)まっしぐら。
夢を持ちながら、それに向かって努力しなかった私には、
眩しいような、羨ましいような・・・。

だから、そんなに簡単になれるものではないよ、
とは言わないで、どこまでやれるか見守るつもり。
親としては無責任かもしれませんが、
自分のやりたいことがわかってるって、
それだけで幸せなことですものね。
返信する
 (こもも)
2007-11-10 18:09:13
ゴールディも大好きだけれど、私は・・・やっぱり、この本が、一番好きです。
デビーの直向さ、純粋さ。
すべてが、キラキラ輝いていて、まぶしくて・・・
この本が、どうして、こんなにも好きなのか。
今も、うまく言葉に出来ない位です。

デビーの真っ直ぐな眼差しを見ると、幼い頃の自分を思い出します。
ああ、私の原点は、あそこだったなって。
忙しさの中で、つい、忘れてしまいがちな、あのドキドキを思い出させてくれるデビー。
そして・・・
いつか叶えたいと密かに思っている夢のいくつかを
「まだ、あきらめないでいよう」と思わせてくれるデビー。
本当に、宝物のような物語です。

願わくば、息子も、デビーのように・・・と思うけれど。
こればかりは、ですね。
息子の人生は、息子の人生。
いくら、思おうとしても、難しい母なのです。
そこのところは、おじいさんの気持ちが良くわかって。
親というのは、難しいですね。
返信する
こんにちは。 (こうめ)
2007-11-10 18:12:27
生きとし生けるものの作者の紹介のところに、
ゴフスタインの、「仕事」にたいする言葉が載っていますよね。

ゴールディーやピアノ調律師は、
その、ゴフスタインが大切なものとしていた「仕事」
について、その思想をストレートにあらわしているって
このあいだすえもりブックスさんが、言っていました。

リップマンのことばは、きっとそのまま、
ゴフスタインの言葉。


こうめも、昔は、宣言なんてとてもできなかった。
ぜんぜん、デビーみたいな子では、なかったです。

今は、ずいぶんずうずうしくなって・・・

いろんなことを、まっすぐ、信じられるようになりました。

まわりの理解者たちも、やっぱり
はじめからそうだったわけではないと思います。

どっちがさきかは、にわとりと卵のように、わかりませんけど。

いまでも、次はなにを言いだすか、
ハラハラしています。きっと。
返信する
くっちゃ寝さんへ (ruca)
2007-11-12 11:22:41
こんにちは。お返事遅くなりました。

上のお嬢さんの目指していることって、何か文章書く
ことに関係しているお仕事ですよね、きっと。
小学生の頃から、それを目指し、そして、目指している
と公言できる環境にあったということは、すごく
羨ましいし、おとうさん、おかあさんの優しい見守りの
成果だと心底思います。

>親としては無責任かもしれませんが、
>自分のやりたいことがわかってるって、
>それだけで幸せなことですものね。

だから、無責任だなんて、どんでもない。
すてきなお母さんですね、くっちゃ寝さん!
京都方面の大学で、そういう学部があるのかどうか
わかりませんが、今がいちばん大変で、だけど一番
楽しみが広がる時期でもありますよね。心より応援
しています‥
返信する
こももさんへ (ruca)
2007-11-12 11:30:04
こんにちは。お返事遅くなりました。

こももさんも、デビー派でしたか‥おんなじだあ。
そして、ここのところもおんなじ↓

いつか叶えたいと密かに思っている夢のいくつかを
「まだ、あきらめないでいよう」と思わせてくれるデビー。

こう思うから、泣けてきちゃうのだなとわかって
いるんですけどね。


そして、こどもに対する気持ちもおなじ。
おじいさんの気持ちが痛いほど伝わってきますよね。
返信する
こうめさんへ (ruca)
2007-11-12 11:38:49
こんにちは。お返事遅くなりました。
それと、ことりタイムスの発行、ほんとにお疲れ様
でした。

『ピアノ調律師』はあんまり好きになりすぎたので
自分のブログに何か書くのは無理かなと思ってました。
でも、うまくまとまらなかったり、言葉にならない
気持ちも全部含めて、自分のブログ(=ダイアリー)
なので、書いておくことにしました。

>いろんなことを、まっすぐ、信じられるように
>なりました。

こうめさんが、今こういうふうに言えるということは
こうめさんの中に、ずっとずっと前から培われてきた
ものがあったからだなあと「根っこの部分」を思い
ました。



そうそう、全然本文と関係ないのですが、綿紡ぎの
敦子先生がご自身のブログで、工房からの風の印象的
な風景として、書いていた「女の子」ってこうめさんの
ことだったね。読んだかな?
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