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絵本の話を中心に、好きなもの、想うことなど。

1994年・暑い6月

2012-12-08 17:00:33 | 好きな本

先月、久しぶりに読んだムシェロヴィチ本がおもしろかったので、
邦訳されているもので、未読だった残り1冊を、市外の図書館への貸出
リクエストを出して、借りてきました。



11月に読んだ『ロブロィエクの娘』は1996年のはなしで、
今回のこの本は、その2年前の6月おわりの4日間が描かれています。

主人公は、ボレイコ家の三女のナタリアですが、長女ガブリシャの
娘たち‥プィザとラウラ(ちびトラ)を連れて、海辺の町まで出かけなければ
ならなくなり、突然現れた「いらいら男」から逃げるために、目的地を前に
列車を降りたり、見知らぬ場所でキャンプしたり‥。
特にちびトラの、へんに機転がきく行動のおかげで、ナタリヤは振り回されっぱなし
の珍道中が繰り広げられるのです。

ロードムービー的なナタリアたちとは反対に、家で待つしかないガブリシャたちの
「静」の描写の対比もおもしろく、やはりボレイコ家にとってガブリシャの存在は
大きいなと、また今回も思ったのでした。

暑くて眠れないガブリシャが、早朝、ベランダから外を見ていたら
そこへドムハヴィッツ先生が登場する場面があり、家へ招き入れて朝食を共に
するのですが、その二人の会話は、なかなかよかったです。

赤ちゃんを見つめながら、その子の将来を思うガブリシャが最悪のことを
つい考えてしまうと、とためらいがちに言い流そうとすると、先生はこう言うのです。

賢くて善良な人間になるとしたら、もちろん多くの痛みがこの子を待ちうけて
いるだろう。
だが、それは彼が出会う最悪の事ではない。最悪というのは、一生をテレビの前で
坐って過ごし、満腹にさらに満杯の皿を重ね、しかもそのことに何の疑問も感じず、
穏やかな心でいることだ。一瞬たりとも罪の意識を感じない。何の痛みもない。
閉鎖的で、自己満足的。

中略

生きること、行動すること。大事なのは自分のためではなく、他の人のために。
そう、他の人のためにだ。少しづつ、一歩一歩、レンガを一個一個積み重ねる
ように。

ガブリシャの悩みは、子を持った母なら、だれでも一度は考えたことが
あるに違いないことで‥この子は幸せな人生を歩むことができるだろうか、
なにか恐ろしいことが起こって、この子の行く手を阻むのではないか等など‥。

遠いポーランドで暮らす(本の中の)ガブリシャが、同年代の友であるような、
親しい気持ちでとても近くに感じられました。


本文とは関係ありませんが、この本の見開きに、ポーランドの地図が
載っています。ポズナニという町がどこにあるのか、ワルシャワはどこなのか、
それを見ればわかるのですが‥ポーランドという国は、ロシアやドイツや
チェコなどに囲まれているのだなあと、あらためて思いました。
北へ行けば、ロシアがあり、西へ行けばそこはドイツとの国境‥
島国で生まれ、島国で生きている自分には、地続きで、よその国があると
いう感覚は一生持ち得ないものなのでしょうね。


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