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金閣寺

2014年01月11日 20時29分38秒 | 小説

三島 由紀夫の代表作。

三島由紀夫の作品はほぼ全読したが、最近また読み返すもいいなと選んだのが本作品である。

昭和25年7月2日、金閣寺全焼。  詳細を書いてゐるサイト http://yabusaka.moo.jp/kinkakuji.htm およびWiki(写真あり) http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%87%91%E9%96%A3%E5%AF%BA%E6%94%BE%E7%81%AB%E4%BA%8B%E4%BB%B6

があるので参考にされたし。

三島由紀夫はこの事件にヒントを得て、この小説を書いたらしい。 実際の事件では犯人は自殺を図るのだが、小説では放火したあとに「生きやうと思つた」と主人公に語らせてゐる。

上記のサイトを見ればわかるが、犯人は元々「精神的に神経の細かい人」だつた印象を受ける。 三島もそれを感じたのであらう、この小説に出てくる「私」は観察力が鋭く、感じなくてもいい事を感じ、それに左右されて自身の行動を決めたり翻したりとの行動を描く。

小説の主人公は吃音であり、それにコンプレツクスを持つてゐる。この部分は実際の犯人と一緒である。そして寺の息子であり、父親が無くなり母親から重度の期待を寄せられてゐた事も一致してゐる。

三島はここで「柏木」「鶴川」といふ人物を登場させ主人公の心理をより深く描き出してゐる。 主人公とおなぢく鹿苑寺に来てゐた「鶴川」、彼は真っ当な人間に描かれてゐる。 だが、主人公が進学して出会ふ「柏木」といふのは主人公の心理を細かく描くのに大役を果たす性格に描かれてゐる。

「柏木」は生まれつき内翻足 (足首の関節の異常などで、足の裏が内側を向いて外側部だけが地についているもの。先天性のものが多い)といふ障害を負つてゐる。彼は、その「障害」を利用して女を幾人も誑かすのだが、それは「障害を見る他の人の心理」をたくみに見ぬき、利用するものであつた。正直、悪人なのだが、この「柏木」を登場させたことで主人公の心理がさらに細かく浮き上がるのである。

そこに、三島の感覚の鋭さといふか、小説家としての才能といふものを見て改めて驚嘆せざるをえないのである。 

「果たし得ていない約束」の有名な一説 

 私はこれからの日本に大して希望をつなぐことができない。このままいったら「日本」はなくなってしまうのではないかという感を日ましに深くする。日本はなくなって、その代わりに、無機質な、からっぽな、ニュートラルな、中間色の、富裕な、抜け目がない、ある経済大国が極東の一角に残るであろう。」

まさにその通りになつてゐるではないか・・・「日本を取戻す」とした首相が現在就任してゐることと並行して「右傾化」なる呼ばれ方をする行動が頻発してゐる。 それを思ふと、三島由紀夫が昭和45年11月25日に「三島事件」と呼ばれる行動に出たことは、彼独特の感性で数十年後を見たからではないかと思ふのである。今、三島由紀夫がこの時の行動に出たなら当時とはまた違つた世間の印象になるのではないか? http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%89%E5%B3%B6%E4%BA%8B%E4%BB%B6