静かな場所

音楽を聴きつつ自分のため家族のために「今、できることをする」日々を重ねていきたいと願っています。

林光/水ヲ下サイ(詩・原民喜)を聴く

2014年02月10日 22時09分11秒 | その他(邦人作品)
若干修正(本日23時過ぎ) 

 新しい東京都知事が決まり、原発の再稼働の可能性が昨日より増した今日は、久しぶりにこの曲を聴いてみたくなりました。
 前にも書きましたが、音楽の中には「ふだんは積極的に聴きたくないけども、時には心して聴くべき曲」があるでしょう。
 この曲も、そんな1曲です。




林 光/カンタータ第1番「水ヲ下サイ」(詩・原民喜)


合唱:福島県立会津農林高等学校合唱部



指揮:高麗正宣



録音:1970年(第23回全日本合唱コンクール)


 私たちが現役高校生の頃、全国合唱コンクールで常勝団体と言えば、山形西(女声)、兵庫県立神戸(混声)、そして、この会津農林などが記憶に強烈に残っています。崇徳や安積が出てくるのは、もっと後でした。

 この「水ヲ下サイ」は、もう伝説的な超名演。
 レコードは持っていませんが、当時、合唱仲間に借りてカセットにコピーして残してありました。

 林光は、この曲を1958年に「カンタータ」として発表しましたが、後にこれを第1楽章として、第2楽章「日ノ暮レチカク」、第3楽章「夜」を71年頃に作曲し「原爆小景」としました。
 当時の東京混声合唱団のレコードでも3曲の「組曲」形式になっていました。後で知ったのですが林氏がさらにもう1曲追加したのは2000年になってからと言うことです。
 この演奏は、まだ単独の曲だったときです。
 これは「歌」と言うよりはまさに「情景」。原爆投下直後の広島の街の人々の姿を、そのまま言葉と響きで描いたような音楽です。
 聴いていて、美しいとか迫力がどうとか、ではない違うものを伝えている音楽です。
 1958年、戦後13年だった当時の林光が、それこそペン先から血を滲ませながら書いたのではないかと思えるほどの切実さ。
 詩を眼で追いながら聴いていただきたい。
 そう思います。

 かつて、私も出場した合唱コンクールで審査員として講評のマイクを握られた皆川達夫氏は「コンクールでは団体ごとに泣かされるのでハンカチを何枚も用意する」と仰られていましたが、この演奏は、そういう類の最たるものでしょう。
「いい成績を採りたい」とか「ミスをしないように」というようなことは些細なこと、時には生々しい叫びを発する彼、彼女たちは全く詩と音楽にのめり込んでいます。何十日間もの練習を通して完全に心身と同化したこの音楽と詩、そのものになっているとさえ言いたくなる。
 ステージに「そのとき」の惨状が再現されているかと思えるほどに。
 終盤には歌っている生徒さんの嗚咽もはっきりと聞こえます。







水ヲ下サイ


水ヲ下サイ
アア 水ヲ下サイ
ノマシテ下サイ
死ンダハウガ マシデ
死ンダハウガ
アア
タスケテ タスケテ
水ヲ
水ヲ
ドウカ
ドナタカ
オーオーオーオー
オーオーオーオー

天ガ裂ケ
街ガ無クナリ
川ガ
ナガレテヰル
オーオーオーオー
オーオーオーオー

夜ガクル
夜ガクル
ヒカラビタ眼ニ
タダレタ唇ニ
ヒリヒリ灼ケテ
フラフラノ
コノ メチヤクチヤノ
顔ノ
ニンゲンノウメキ
ニンゲンノ










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6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (ナニワ)
2014-02-11 23:20:59
最初は、水を求める歌のよう。
だけど、次第に四方八方の地面からの呻き声が、自分に向かって来るような・・・。
林光さんと言えば、大河ドラマの「花神」のテーマ曲を覚えています。
空に向かって軽やかに飛ぶような。

この歌は初めて聞きました・・・。
衝撃を受けました。
Unknown (親父りゅう)
2014-02-12 23:23:10
ナニワさん、こんばんは。

林さんもけっこう多様な作風の人みたいでしたが、これは高校生の時に聴いて本当に衝撃でした。
こういう表現方法というか、「訴え方」があるのかと・・・。
東京混声合唱団のレコードは、もっとクールで金属の表面みたいな冷やかさを感じましたが、こっちのはかなり情緒的です。
高校生にしかできないスタイルかも知れませんね。
Unknown (モト)
2014-02-19 13:11:25
少しごぶさたしました。

こういう詩曲を学生が歌い、コンクールに出ていたのも、時代というか。今だったら、選曲に反対する親、顔をしかめるコンサート主催者、評価する感性もないひもつき審査員が出てきそうです。

佐村河内氏の件について、さすがに中山千夏がいいことを書いていました。
記事の引用ブログですが。
http://blog.goo.ne.jp/nybach-yoko/d/20140210
Unknown (親父りゅう)
2014-02-23 17:26:19
モトさん

毎度のことながら、えらいレス遅れました。
すみません。

こういう内容の曲は、最近はどうなのでしょうね?
現代音楽も合唱曲も、すっかり最近の状況には疎くなっていますので分かりませんが、例の図書館での破られ事件とか、ある漫画本を子どもに読ますなという風潮とかから考えると、たぶん少なくなっているかも?と思えますね。

例のゴーストライター問題については、いろんな角度からの声が噴出していますね。
ネットでの意見はともかく、ちら見したTVでのタレントさんたちの意見には腹立たしいものもありました。
当時のメンバーの一人です (前田仁)
2017-07-16 00:42:44
今から47年前だと思います。
私が高校1年生の時の合唱コンクールメンバーの一人です。
私はバリトンで参加致しておりました。
未だに当時の事は鮮明に覚えております。
勿論当時のレコード版も有り、その後CDに数曲変換されております。その後は銀賞・銅賞でしたけど・・・。


前田さん (親父りゅう)
2017-07-16 18:06:48
コメント、ありがとうございます。
参加メンバーの方からコメントいただくとは驚きであり、また嬉しく存じます。

私たちは地方大会(中部大会)止まりの3年間でしたが、全国大会に出場される団体は、どのような練習をしているのだろう?とか、よく話し合っていたものです。
ありがとうございました。

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