静かな場所

音楽を聴きつつ自分のため家族のために「今、できることをする」日々を重ねていきたいと願っています。

大植、大フィルのマーラー5番

2009年02月21日 15時54分09秒 | コンサート

大阪フィルハーモニー交響楽団

第425回定期演奏会



モーツァルト/ピアノ協奏曲第9番「ジュノム」

マーラー/交響曲第5番

ピアノ:ジャン=フレデリック・ヌーブルジュ

指揮:大植英次

コンサート・マスター:長原幸太


2月20日(金) 19:00開演
ザ・シンフォニーホール


やはり遅いマーラーだった。
今まで聴いたことのない遅さ。
その遅さを含めて今回の演奏をめぐっては、すでにネット上でも賛否両論いろいろあるようだ。
私は、まあ応援団みたいなもんだからってことでもないけど、「賛」の方。
東京公演のレビュー等で知ってたので、「激遅マラ5聴きたいモード」全開で臨んだから、違和感も特になく、聴き終えた後も「なるほど、こうであったか」と納得だった(そして・・・やっぱりちょいと疲れてましたけど 笑)。
でも、今回のテンポのことを知らずに以前の演奏を頭に描いてた方は、もしかしたら面食らったり拒絶反応出たりしたかも知れない。
それくらい、強烈な自己主張に満ちた演奏だった。所用時間についてはエンターテイメント日誌さんのブログに計測結果が記されている。ご参考に・・・。
あちこちのブログを見ると、1日目は金管ソロにミスもいくつかあったとのことだが、2日目は、肝心な所でのミス・ショットはほとんどなく、例えば冒頭トランペットなんぞは、私はかなり良かったのではないかと思った。
10年以上前に、同じ大フィルのマーラー5番を佐渡さんの指揮で聴いた。あのときは冒頭tpが大コケで・・・・今回、少なからずドキドキして聴いてたから。
で、今回、12小節のペット・ソロが見事に決まり、トゥッティへと見事に繋いだ瞬間は、なんか頭から足先まで電気が走ったように感動してしまった。

第1楽章・・・・なるほど!今までに聴いたどの演奏よりも遅い!
しかし、「重々しい足取りで、きびしく、葬列のように」というスコアの指示の言葉そのものだとも言えよう。
テンポが速い遅いって、ほとんど「大した違いではない」と思っている。特に実演では気にならぬ。
この曲の場合は「葬列のように」だから、「流れない」「引きずるように」「引っかかるような」テンポでもいいのだ。
それよりも、感じたのは例の葬送テーマと同時に鳴っているヴィオラの旋律のなんとも言えない存在感。
対向配置によって、ステージのあちにこちらから同時に異なった弔いの歌が聞こえてくるような、不思議な立体感があった。

第2楽章も遅い!
その遅さによって、激しい弦の刻みや管の細かい音符が目一杯鳴りきって進んでいく、そのエネルギー感と言うか圧迫感と言うか、クレンペラーやチェリビダッケのディスクで時々味わう、巨大な音の塊が眼前に迫ってくる、あの感じ。
巨大な円形劇場が客席共々ゆっくりと回り出したような恐ろしい雰囲気だった。
(この雰囲気はその後の楽章でも常に感じられ、曲の密度と言うか完成度がやや希薄だと思われる箇所では聴き手に忍耐を強いる状況になったかも知れない。)
練習番号12の手前、ティンパニのトリルをバックにチェロだけが歌うところは、大植氏がよくやる抑制された弱奏で、抑揚を抑えた中、まるで途切れ途切れのため息のようで聴いていて息が詰まった。
そして、最後近くの「勝利のコラール」も息の長い(大変だろうな、管の人)強奏で鳴っているバックのフルート達のうごめきも埋没せずに輪郭くっきりと聞こえてきて、こういうのは本当に好きだなあって・・・。

第2楽章を終えた時点では、この激遅アプローチは、曲のツボに完全にはまってて強烈な説得力だった。
ここまで大植さんに笑顔は全然無く、その痩せこけて阿部寛よりも上杉謙信みたいな、あるいはマーラーそのもののような感じだった顔も、第3楽章からは和らぎ、体の動きもおなじみの躍動感あふれるものになった。
しかし、テンポはやはり遅い。
三拍子をくっきりと踊るように振る。当然、前二楽章に比べたら曲調も明るく、曇天にようやく日が差してきたと言う感じだが、やはり重い重い。
今日のマーラーはとことん重いのだ。
マーラーが書いた音符の全てが、念入りに微速進行のMRIで透かされるかのように音化されていく・・・・「テキトウ」に過ぎていく瞬間は無いのだ、とでも言うように。
その周到さに、私は、今、目の前で繰り広げられている演奏(今、生まれている音楽)から何かを受け取らなければ、という集中を余儀なくされる。
聴き手としてその営みを充実感いっぱいと感じるか、単に窒息しそうなくらい重苦しいものと感じるか、感触も様々であっただろう。私は前者。

16分間を要した(時間計測は前掲のプログ参照)アダジェットは、ダイナミックスの幅を狭く取り、そして、強音の上限をかなり弱音層に設定した中で、微細なニュアンスを施した能面のような演奏。
「霊的」あるいは「禁欲的」という言葉が浮かんできそうなスタイルだった。
いやいや、言葉に置き換えると、それは何とでも言い様があろう。
とにかく、今まで私が聴いてきたのとは大きく違っており実に深々としたアダジェットだった。
風波ひとつない平らな湖面のような弦の響きのところどころにハープの一音一音が実にはっきりと美しくホール内の隅々にまで響いていく様を何かのスローモーション画像を見るかのように味わっていた。
私は「これも有り」だと肯定的、共感的に聴いていた。

終楽章も遅く、いささか「またか!」と思ってしまった。
クライマックスまで寝ていようか?などと不謹慎な緩みへの誘惑も心のどこかに生じたが、オケの人たちの直向な姿を目の前にしてはそんなことがてぎるわけもなく「必死で」聴いた。
最後の爆発を形容する言葉は無い。「いつもの大植パターン」と言ってしまえばそれまでだが、私は、そんな安直なイメージは持てない。
「分っちゃいるけどハメられる」「ハッタリ」・・・そうかも知れないが、曲中のそういう部分でそういうツボにはまった演奏だから決まるのである。
他の人が同様にやっても、おそらく決まらないだろう、ああいうのは。
聴衆の盛り上がりもなかなかのもので(普段の定演の様子を知らないから分らないけど)、足早に帰路につく人もいたけど、大半は最後まで熱く拍手を送った。多くのブラヴォーの中に一人「ブー」が聞こえたように思えたが気のせいかな???
団員が退き一度途絶えた拍手が甦りかけたが・・・・程なく消滅した。

録音用のマイクが林立してたし楽屋口にフォンテックのワゴン車が停まってたから、ひょっとしてCD化されるかも?
でも、録音では「遅さ」だけが独り歩きして語られそうな気もする。チェリの諸録音に対して時々見られるように。


1曲目のモーツァルトは・・・・このときは、実は5ヶ月ぶりに拝見した大植さんの激しい痩せっぷりに驚き、目の前で振っているのが、あのマエストロ・エイジだと、なかなか思えず、その違和感から抜け出せないままに曲が進んでいった。
ピアノの音も、私の場所で聴いた限りでは、そんなに魅力あるものじゃなかった。
ソロ・アンコールの「亜麻色の髪の乙女」は、曲が美しいからピアノからキラキラと音が立ち昇る感じで楽しめたが、演奏は、まあまあってところ。
マーラー1曲だけでもよかった。
座席はY列28。クワイヤ席。
 


・・・一気に書いちゃった文は読み直すといろいろとあれでして・・・今、ちょこっと修正(19時36分)





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9 コメント

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詳細ありがとうございます (謙一)
2009-02-22 00:21:14
指定のブログに行き、時間測定見ました。
実にマニア向け。初心者だったらつまらない以上に厳しいでしょうね。
曲を知っていること前提で、こういうのは?
だと思います。

2楽章、5楽章は、集中力落ちたら崩れそうだし、4楽章はシェルヘン指揮の遅いテンポより3分も遅い。
ライブだったらこれは相当集中力がいるし、聴くほうもぐったりするくらいでしょうね。

「ブー」はあって当然と思うのは、5楽章は飛ばして気持ち良くさせてと思ったら、そうはいかなかった。という人、遅いなんて知らずいきなりこのテンポの世界なら仕方ないでしょう。
チェリビダッケは遅いとわかって聴きに行ってる最晩年は評価されてますが、予備知識なかったら怒るような演奏かもしれないですよね。

前半のピアニストはおととしに、ラヴェルのピアノ協奏曲を聴きましたが、3楽章の開始直後からぐちゃぐちゃで良い印象ないですが、今年はN響にも出るし事務所が売り出そうとしてるのかな。

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94分っ!! (appassionato)
2009-02-22 00:57:39
すごいなぁ~聴いてみたかったですね。。。
確実にCD1枚じゃ収まりませんね。。。笑
ちなみにボクの持ってるマラ5のディスクを
ほぼ全部確認してみましたが1番遅いのが、
1988年のハイティンク/BPOの78分26秒です。
フォンテックのCDが楽しみです。。。
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レスです (親父りゅう)
2009-02-22 07:53:38
>謙一さん

みくしぃでも、たくさんのコメントをありがとうございました。
たしかに3楽章と5楽章は、弾く方も聴く方も、えらい集中を強いられました。たまにはこんなコンサートもいいものですよ。


>appassionatoさん

CD出たらぜひ聴きたいですね。
2枚組のマラ5って売りにくいかも?
ボツにしないで下さいね>フォンテックさん

そう言えば、上岡さんのブル7も2枚組でしたね。
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はじめまして (ヒロノミンV)
2009-02-22 22:01:30
 初めてコメントさせて頂きます。
 自分は岡山に住んでいる大フィルのファンで、大植さんのコンサートに3年ほど前から足しげく通っています。三重から駆けつけてらっしゃる親父りゅうさんに、勝手に親近感を抱きました。
 僕も東京公演や1日目のレポートを事前に食い入るようにして読んで、相当覚悟して臨んだんですが、第3・第5楽章については悶絶しながら聴きました。
 しかし、もう二度と聴きたくないのか、といえばまったく逆で、どうしてもあの日のマラ5を再び聴けるものなら聴きたいと、心の奥底から欲している自分が居ます。
 収録はフォンテックが行っていたんですね。この演奏を世にと問うて欲しい気もしますが、あの日のあの会場に居なければ伝わらない『何か』が欠落してしまうのも・・・と、複雑な心境です。
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>ヒロノミンVさん (親父りゅう)
2009-02-22 23:38:49
こんばんは。ようこそ、おいでくださいました。
時々、お見受けしておりました。

私も同感で、も一度聴けるのなら、必ず馳せ参じることでしょう。
テンポのこと以上に、あの演奏の切実さ、あそこまで曲に込められた「声」というか「中身の全て」を描こうとされたことに感動しました。
私は、今回でまだ彼の実演は5度目です。
これからも聴きつづけていきたいとあらためて思った次第です。

>フォンテックが録音

確かな情報ではありませんよ。楽屋口に車が停まってたので「たぶん、そうかな?」と思っただけで、違うかも知れません。

よろしかったら、またお越しくださいませ。
今後ともよろしくお願いいたします。

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いや~、長かった! (かず)
2009-02-23 21:59:36
こんばんは。はじめまして。
自分も20日の演奏聴きましたよ。
ヒロノミンVさんと同じく岡山からです。
想像を絶するテンポで正直疲れたというのが本音ですが、
こんな5番もありかな?とも思いましたね。後で・・・
激しいブーも聞こえたけど、「う~ん、やっぱり」と
思うくらい個性的でしたね。やっぱり同様でなんか複雑・・・
一番良かったな、と思うのがドビュッシーのプレリュードと
いうのもやっぱり複雑・・・
その晩はそんなすっきりしない気分で酒飲んでました。
自分の感想のみで失礼しました。

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>かずさん (親父りゅう)
2009-02-23 23:56:13
はじめまして。
ようこそお越し下さいました。

>激しいブーも聞こえたけど

やっぱり、あれはブーイングでしたね。私の席からはブラヴォーと拍手に埋没して、はっきりとは聞き取れなかったのです。

人それぞれ、いろんな感じ方がありますね。
激しく拒絶反応を起こした方からどっぷりと浸って、あの巨大な音楽に飲み込まれた方まで・・・・。
いずれにしても、すごい主張に満ちた、そして、私には不思議と恣意的ではなく「必然的」な瞬間に満ちたマーラーでした。
確かに、ちょっと疲れましたけど・・・(苦笑)。
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興味深いです (ゆき)
2009-02-26 10:02:49
マーラーにお詳しい聴衆のかたたちに
こんなにも衝撃を与えるなんて
大植さんはすごいエネルギーの持ち主なのですね!
静かでゆっくりな音楽ほど難しいので、
プレイヤーのかたたちも大変だったでしょうね。


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>ゆきさん (親父りゅう)
2009-02-26 23:19:47
>すごいエネルギー

その通りだと感じました。なんか命をすり減らして音楽をやっているような・・・この感覚は今回だけでなく、映像で見た「星空コンサート」での名曲でさえも感じられました。全力投球ですね。


>プレイヤーのかたたちも大変だったでしょうね

確かに大阪フィルの皆さん、大変だったと思います。東京公演も含めて三度の本番を、あの集中を強いられる演奏で敢行したのですからね。
あのあと、ディスクで5番を聴いても、あの巨大なフィナーレの残像がちらついて、「また聴きたい」と思わずにはいられません。
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