日々是好日

身辺雑記です。今昔あれこれ思い出の記も。ご用とお急ぎでない方はどうぞ・・・。

Smith夫妻の2007Lexus 350 ESは今どこに?

2010-02-26 17:08:15 | Weblog
Stieg Larssonの「The Girl with the Dragon Tattoo」も余すところ100ページを切ってしまった。大きな山場を一つ超えてこれから終息に向かうのだろうが、まだまだ先に二転三転が待ち構えているような気がする。この週末で読み終えるだろうがなんだか惜しいような気がする。少し先延ばしするのもいいなと思っているところに生のミステリー材料が転がり込んできたものだから、ついそちらに目を向けてしまった。米議会で行われたトヨタ公聴会で、自分の運転している2007Lexus 350 ESが暴走したというRhonda Smithさんの証言である。その一部をトヨタ 米公聴会で浮かび上がった問題点 日本では大丈夫?で取り上げたが、ポイントを私なりに次のように要約した。

要点はこうである。高速を走行中に速度を上げるためのキック・ダウンをすることなくレーンを変えたところコントロールが効かなくなり、①勝手にギアがシフト・ダウンしてクルーズ・ライトが点灯した。ガス・ペダルは踏んでいないのに速度が増すのはクルーズ制御のためだと思い、②クルーズ制御を外したのに速度は増え続け80 mphに達した。③ブレーキを踏んでも速度は下がらない。終に85‐90 mphになり、④シフトレバーをニュートラルに入れるとエンジンの回転数がさらに上がった。そして100 mphになる。⑤緊急ブレーキをオンにしたままシフトレバーをパーク以外のすべての位置、そしてほとんどは後退に入れていたが効果はなかった。そういう事態から9分ほど経って、⑥とくに何もしないのに車がゆっくりではあるが速度が下がり始めたので車を左の中央分離帯に寄せた。エンジンの回転数は上がったり下がったりで、33 mphになってはじめてエンジンを切ることが出来た。でもラジオは点いたままだった。
(強調と①②③④⑤⑥の追加は変更部分)

この部分だけでも私には素直に理解できないことが多いので、それだけでもミステリアスなのである。またその反面、いろいろと憶測を加えることも出来る。まず①は簡単で、フロアマットが急にずれたかなにかでガス・ペダルを押し込んだ可能性が考えられる。②ではクルーズ制御を外したとしてシフトレバーがどの位置にあったのかが分からない。ドライブ位置だと加速が続いたとしても不思議ではない。問題は③である。なぜブレーキがきかないのか。トヨタの説明では電子スロットル制御システムに安全装置が施されており、決して加速の方向には動かないとしているので、ここでの食い違いは疑問として残る。いずれにせよ駆動力が制動力を上回ったことが推測される。④でガス・ペダルが押されているままシフトレバーをニュートラルに入れるとエンジンの回転数が上がるのは分かるが、この状態でもブレーキが効いたようではないので説明がつかない。⑤にあるように走行状態でシフトレバーを後退位置に入れるなんて、なにかのギアが壊れそうな気がするので私なんかは恐ろしくて出来ないが、Lexusだから出来たことなのだろうか。⑥では正確に証言をたどると、これまで行ってきたいろんな操作ととくに異なる操作をしたわけではないが速度が下がり始めた、となるが、ガス欠になりはじめたのか、それともフロアマットがガス・ペダルから外れてきたのか、そして車が停まったときにシフトレバーの位置はどこだったのか、この証言からは分からない。この証言部分に限ってもこのような疑問が答えられないまま残るのである。

証言の後の方で、車が停まってから夫のEddieさんが現場に駆けつけて様子を見たが、このような事態を引き起こしたような異常なことはなかったし、アクセルについても異常はなく、またアクセルを押さえつけたままににしたような物は何もなかったと述べている。Eddieさんがレッカー車を呼んで車を牽引して貰うためにキー(key fob)を運転手に渡したが、牽引のための作業中、運転手に頼まれてEddieさんが車に乗り込みシフトレバーをパークからニュートラルに入れたところ、エンジンが何回も回転して車が動き出しそうになった、と言うのである。元来key fobが車中にあって起動ボタンを押してエンジンが動き出すとのことであるから、起こりえないことがまた起こったことになる。これにはEddieさんも運転手もあぜんとし、このことが事実であることを運転手が記した公正書類があると述べている。その後、再現したのだろうか。

Smith夫妻とトヨタ、およびNHTSAとの交渉がなかなか進展しなかったが、2007年4月11日になって(NHTSAの?)Safety Defects EngineerであるMr. D. Scott Yonががやってきて、Seviervilleのカーディーラーに保管していた車を検査することになった。この辺りの証言は次のようである。

He seemed to arrive with the preconceived idea to sell to us, that it was a floor mat problem. We continually insisted that it was not the mats, but instead somewhere in the electronics. Mr. Yon, along with my husband, took the vehicle on a short test drive. Mr. Yon performed several tests at a speed of 50 mph or less. These tests included placing the car in neutral while accelerating, and trying to stop the vehicle with the accelerator engaged and the foot brake fully applied. The transmission did disengage when put in neutral, but the car would not come to a complete stop with the foot brake engaged. Upon returning to the car lot, Mr. Yon and my husband placed the vehicle on a hydraulic lift and removed the wheels and tires. All of the brake pads were totally burnt up and the rotors and drums were ruined. Eventually this was something we had to pay to repair ourselves.

After insisting it was “probably” floor mats, Mr. Yon issued his final report and put the blame on the floor mats. These floor mats were a heavy gauge rubber mat placed on top of the summer mats by the dealer. It would have taken a magic trick for this mat to turn up enough or slide forward enough to cause this SUA. The report was issued on May 2, 2007. In it Mr. Yon claimed to have performed a test with the floor mat in our presence that would show cause for the floor mat to be blamed. This was never demonstrated to us or shown to us that it could ever happen accidently. Once again we advised NHTSA and Mr. Yon that this SUA problem was going to eventually cause the loss of life and serious injury.

All of the brake pads were totally burnt up and the rotors and drums were ruined.ということで、車のブレーキがきわめて異常な状態になっていたことは事実として残ったが、このブレーキが疲労していなかったら、シフトレバーをニュートラルにして、アクセルとブレーキを両方同時に踏み込めば車は停止したことが示唆されるので、このテストの時点で電子制御系の異常が確認されなかったことになる。その一方、These floor mats were a heavy gauge rubber mat placed on top of the summer mats by the dealer. It would have taken a magic trick for this mat to turn up enough or slide forward enough to cause this SUA.という部分で、heavy gaugeというからかなり丈夫な、ということは厚めのフロアマットがsummer matsの上に敷かれていたことが浮かび上がった。さらにこのフロアマットが動くはずがないと思い込んでいるSmith夫妻に対して、検査官はフロアマットが動いた可能性を指摘することで双方の見解が真っ向から対立していることが分かる。それなら運転最中にフロアマットをガス・ペダルの上に乗るように動かして、Rhondaさんが経験したようにガス・ペダルを踏まないのに加速するなど異常が発生するかどうか、験せばいいじゃないかと私は思う。それを検査官はSmith夫妻の立ち会いの下で行ったと言い、夫妻はそんなことは一切知らないと突っぱねる。水掛け論である。それならそれで改めてフロアマットの実験をやればいいではないか。

Rhondaさんはおそらくパニック状態になっていただろう。後になってあの時はこうしたと思い出したとしても、その客観性を証明するのはきわめて難しいと思う。だからこそ、異常事態が再現できるかどうかが真相解明の大きな手がかりになるわけだから、考えられるあらゆるテストを躊躇するべきではない。その意味では検査官がフロアマットのテストを行ったとする報告の方が私には受け入れやすい。私が検査官の上司で、そのようなテストをしていない報告書を持ってきたら、即刻フロアマットテストを行うよう間違い無く指示するだろう。それが分からない検査官ではないと思うからである。

ところで私の最大の疑問は異常走行したSmith夫妻のLexusという物的証拠が完全な?形で残されているのに、何故それを徹底的に調べなかったのかということである。飛行機が海中に墜落した場合に、もし機体が回収できなれば事故原因の解明がかなりやりやすくなることだろう。とくに電子機器の不具合は技術者が見守っている時に都合良く現れてくれるとは限らず、長期間の観測が必要になることだろう。このLexusを使ってトヨタなりもしくは第三機関が異常走行の状態を再現できれば、おのずから原因が限られた範囲に絞られることであろう。それを行うのに法律的な問題があるのかも知れないが、技術的科学的には多くの人を納得させられる結論が出てくることはまず間違い無かろう。今からでも遅くないと思いSmith夫妻のLexusが今どうなっているのだろう考え出したところ、なんとも思いがけないニュースにぶち当たった。

急加速したトヨタ車、その後はトラブルなし
2010年 2月 24日 16:50 JST

 【ワシントン】米下院エネルギー・商業委員会が23日開いたトヨタ自動車の大量リコール(回収・無償修理)問題をめぐる公聴会で、急加速を経験したとして証言したロンダ・スミスさんのトヨタの「レクサスES350セダン」が、現在も使用されており、何のトラブルも起こしていないことが分かった。米高速道路交通安全局(NHTSA)の広報担当者が24日明らかにした。

 同スポークスマンによれば、NHTSAが先週、同車の新しいオーナーに聞いたところ、「走行距離3000マイル弱のところで購入し、何のトラブルも経験せずに走行距離は2万7000マイルになった」と答えたという。スミスさんは証言で、2006年にテネシー州のハイウェーで制御不能の急加速に見舞われ、時速100マイル(約160キロ)になった恐怖の経験を涙ながらに語った。その後、スミスさん夫妻は同車を売却した。

 報告を受けたNHTSAの検査官は、フロアーマットがアクセルペダルに引っかかったことが原因と判断した。しかしスミスさん夫妻は、フロアーマットのせいではないと主張。スミス夫人は、車が速度を上げる前にクルーズ・コントロール・ライトが点滅したことから、電子制御系の問題と考えている。

記者: Kate Linebaugh
(The Wall Street Journal)

これが事実だとすればなにをか言わんや、である。Smith夫妻の証言と同時にこの事実を明らかにしていない米議会の公聴会の公正性はどう判断すべきなのだろうか。さらにはこのような報道が現れた。

US: Toyota acquires Lexus cited in congressional hearing
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Summary: Toyota Motor has taken possession of the Lexus sedan driven by Rhonda Smith, who testified at a congressional hearing on Tuesday about an incident of sudden acceleration.

Word count: 272

Date: 25 February 2010

Source: just-auto.com editorial team

今頃(Date: 25 February 2010)になってUS: ToyotaがこのLexusを手に入れたというのである。これ以上の詳しい内容は私の手が届かないので分からないが、あまりにも遅すぎたトヨタの対応である。

事実は小説よりも奇を思いがけず味わってしまったところで、またDragon Tattooの本に戻ることにしよう。

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