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≪熊の場所≫・・恐怖とはいったいなんだろう  2008-02-13

2016-10-16 | 本・映画・ドラマのレビュー&気になる作品

≪熊の場所≫・・
恐怖とはいったいなんだろう
       2008-02-13


「熊の場所」(舞城王太郎)講談社文庫 400円


■世の中には怖いことがたくさんあります。
わけのわからない隣人だとか、
会社や学校でのいじめとか、
本当にわけのわからないひとからの誹謗中傷とか、
たまらないです、まじ、いっぺんに解決できないところが。

この小説の「僕」もそうなんです。
あるとき、友達のマー君がランドセルをぶっちゃけるんですが、
そこから猫の尻尾がでてくるんですよ。
尻尾があるということは猫は殺されたんだ、と。
でもって、「僕」はその恐怖を乗り越えられないんですね。
でも、何とか克服したいではないですか。
「僕」はまだ小学5年生なんですが、どうしたのか。

ここで「僕」は父親の経験を思い出すわけです。
大学生のときにね、父親は現地のガイドさんと
ユタの原生林を歩いていて、熊に遭遇してしまうんですよ。
ふたりであわわわと逃げるのだけど、ガイドさんのほうが
逃げ足が速かった。すわ、もうだめか・・でも、ひとりが
助かるならいいか・・とお父さん、思うわけなんですね。(すごい!)
ところがそのガイドさんが、転倒してしまって、
お父さんが助かる運命に逆転するんですよ。

ほ、やれやれって思うじゃないですか。
ところがこのお父さん。これから一生あの恐怖と向き合うのか。
そう思うわけです。で、何をしたかというと、
銃を携えて、熊のいる場所に戻るんですよ。
恐怖を絶つためには、その源にたたなければいけないと!
そこで必死にめちゃくちゃに撃ちまくって、とうとう熊を
倒してしまうわけなんです。

ガイドさんはすっごく恩に着るんだけど、
お父さんは「いや、あんたのために闘ったわけじゃない。
俺は自分の恐怖と闘っただけだ」って言う。

「僕」はこの父の話を思い出して、マー君に近づきます。
本当に猫殺しをしているのかどうか、確かめようと・・。
恐怖のかたまりなんだけど、父の≪熊の場所≫に戻らなければ
ならないと考えるのですね。
圧倒的な恐怖の中、マー君と僕はサッカーをするんです。
そこでひょんなことからマー君を突き飛ばしてしまう。
そんなことでも優位にたてるんですね。

そこで終わればいいんだけど、付き合いが深まっていって、
マー君ちに泊めてもらったりするようになるんです。
こどもって一人の子とスッゴク仲良くなったりしますからね。
それで泊まっていると、マー君の気配がするんです。
息がかかりそうなくらいに・・。
で、「僕」はマー君が猫の次に自分を殺そうとしているのではないかと、
考えはじめるわけなんですね。
このあたりの心理状態がすっごく微妙なんですよ。
死というものに魅入られるというか、マー君から離れられない・・

自分が殺されるのかと思っていた「僕」なのですが、
次に殺され始めたのは犬でした・・。
そして夏休み、とうとう、ひとりの男の子が
こつぜんと姿を消すのです・・・。

マー君が男の子を殺したのじゃないか。
「僕」の詮索は続きます。
そしてマー君がいうのです。
いなくなった男の子の居る場所を知っていると・・。


■「僕」にとっての熊の場所。
それを乗り越えることができたのか。
「マー君」はそもそも何だったのか。

■とても読みやすい文体なのです。
小学5年生といわれて、違和感がないです。
だけど、扱っていることはとても本質的であって、
原初的。恐怖ったら最初の感情であって、
最大の感情っていうか、にんげんにとって
一番負担を強いる感情ですからね。

あの、スタンドバイミーの世界とすこしだけ、
ほんのすこしだけ、リンクするみたいな気がします。
あれは4人の少年が「死」を見にいこうとするけど、
これも「死」に魅せられるというか、
「死」のちかくに引き寄せられてしまうというか・・。

物語を読んでいるあいだは、まちがいなく「僕」の
視点になっているわけですよね。
小学5年生になってむきあう、特異な友達。
一度読んでみてください。
「好きになりますよ」・・かどうかは、
わかりませんけども(笑)

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10 コメント

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怖いけれど惹かれる。。 (SS)
2008-02-13 11:46:52
とてもおもしろそうな本!
読みやすい文体だけに、その恐怖もひとしおな気がします。

この間、友人と、人はなぜ恐怖に惹かれるのか、っていう話を5時間くらいしてて、お互いの今までに観た、怖すぎる(グロいのではなくて精神的に追いつめられる、とか)夢の話とかをしてたので、結構タイムリーでした。
>恐怖ったら最初の感情であって、
最大の感情っていうか、にんげんにとって
一番負担を強いる感情ですからね。
>「死」に魅せられる
これ、すごい分かります。
少年さ故なのかな、でも、人間の根本にそれは眠っている気がします。
自分の恐怖感の原因に立ち向かう、ってすごく怖くて乱暴な方法かもしれないけれど、上手く行けば一番効果的なのかも。
子供の強い感受性と想像力で受けとめた体験は、やはりその人の原体験としてずっと残っていくのでしょうね。

昔森の中でひとりで迷って、日が暮れそうになって、恐怖におののきながら、泣きながら裸足で森を駆け抜けた体験を思い出しました。。
一方で、私は極度の恐がりなのに、度々、乱歩の世界やサイレントヒル的な世界を猛烈に覗きたくなります。偏に好奇心とは言えない気もしますね。この執着心は。

意味不明でごめんなさい。。

こわっ (れいちぇる)
2008-02-13 15:29:09
こんにちは~。

この記事、朝寝ぼけ眼で携帯から読んだんですけど、寒気しましたよ~。恐怖に向き合うという行為は、ハンパなことじゃないです。だってもっと恐ろしい事が待ち受けているかもしれないし。「僕」は恐怖の正体にある意味とり憑かれ、やっぱり更なる恐怖を目撃・体験するようですね。・・・こわっ!!!



でも面白そうだ~タイトルからは全く想像出来ない内容でした。
Unknown (藤原)
2008-02-13 19:16:13
連コメ失礼します

恐怖について 一言

恐怖が分からない人間は 死にます よく 自分は怖いもん無しなんて いきがる 男性がいますが 恐怖をしってる 事こそが生きる意味で 慎重さや知恵を働かせてくれますよねよく確かめもせず 何かに突っ込む事は 命を縮める事ですぞ~ 臆病は 悪い事ではないですよ(笑)
Unknown (うらら)
2008-02-13 19:21:48
樹さん、こんばんは~♪

これ!絶対読みます!
私の場合は「好きになりますよ」確実です。

怖いもの見たさというか、人は「恐怖」に惹かれるものですね。
私も「怖い」ものは大好きです。
但し根はチキンなので、自分の身は安全だと保障された上での好奇心ですけど(笑)
だから「僕」や「僕」の父親みたいに、実際に恐怖とは立ち向かえないかも。
SSさんへ (樹)
2008-02-13 23:07:52
この方は集英社でLの小説を書いた≪M≫って誰?
って藤原さんと話していたときに、
藤原さんが教えてくださった方なのです。
アルファベットにはこだわらない、ってことで
このひとではないかも、ということになったのですが。
それにしても三島由紀夫文学賞を獲ってる方なのです。
全然知りませんでした(汗)
ずいぶん前に読んだ本なのですが、レビューするのが、
とっても難しくて、実は昨夜悶々としてました(爆)
恐怖について、ゆっくりと読んでほしいです。
でも実は短編だったりします。
れいちぇるさんへ (樹)
2008-02-13 23:12:01
確かに題名からは程遠いですね。
本の装丁だって相当に可愛いですし、
黙ってたら童話だと思っちゃう。
朗読を始めてびっくり、みたいな(汗)
これはすごく実写向きだと思います。
映画にならないかな、でも、R12くらいに
しないとやばいかもしれません。
お父さんのエピソード、マー君との
息詰まるやりとりとか、とても絵画的に
描けそうな気がします。
でも松山くんができそうな役はないですね;
学校の先生で特別出演とか。
もう、そりゃあ、あんなにすごいひとが
チョイ役で出てるよーのノリですね。
藤原さんへ (樹)
2008-02-13 23:19:06
Lの小説を書いた集英社ゆかりのひとって誰?
という話のときに藤原さんが教えてくださった
ひとですよね。
読んで面白かったのでびっくりしました。
その節はありがとうございました。
(で結局誰だったのでしょう・笑)

ホラームービーとかは多分に道徳的に創られて
いますよね。遊び人な男女は殺されて、まじめな
奥手な女の子は助かりました、みたいな。
だけど、「リング」とか「呪怨」といった
映画がでて、かならずしもそんなこと何の
役にもたたないリアルさがでてきて、
恐怖が倍増してきた気がします。
リアルに近づいたというか。
倍増した恐怖には何で応戦したらいいのでしょうね。
テレビ画面から貞子が出てきたとき、
「すみませんでした!」って、
わけもなく叫んだのを思い出します(笑)
うららさんへ (樹)
2008-02-13 23:24:29
こんばんは。
うららさんだったら、食指が動くと思ってました!
なんせ、乙一さん大好きですもんね。
そう、GOTHに近いものがありますよ。
それにしてもうららさんも思うでしょう?
乙一、GOTHぐらいの、早く書いて!って。
若いときにたくさん書いておいてほしいですよね。
それにしても、本はすごく面白いのですが、
レビューは難しかったです。
でもずっと本のレビューをしていなかったので、
意地でも紹介しようと思っていました。
私のその怨念のような思いで、余計に怖そうな
感じがするのかもしれませんよ(笑)
舞城王太郎 (SHIMA)
2008-02-15 15:04:32
この人も好きな作家さんです。
3編の中でこれが1番読ませるかな。一般的に読みやすい内容だし。
恐怖心と残酷性、実は誰にでもあるものだと言うことがシビアに伝わって来る作品。

この人のでは「世界は密室で出来ている」と言うのが1番好きなんです。
違う作品「阿修羅ガール」で以前レビュー書きましたけど、「熊の場所」を含めてそれ以前の作品を踏まえた、『個々の認識する世界とその居場所とは何か?』みたいな話です。
http://blog.goo.ne.jp/isl-211/e/ad58c4313e7b6384bc975ee6e6511c87
SHIMAさんへ (樹)
2008-02-15 21:06:33
こんばんは。
ただいま、阿修羅ガールのレビュー、読ませて
いただきました。さすがSHIMAさん、
納得しました。舞城さんって、読まされているな
と思いつつ、ひきこまれてしまいます。
「熊の場所」の最後にはあぜんとしましたが、
この作品は実写化されないのかなと思いました。
視覚的に非常にみごたえがある感じがしたので。
主人公は子どもですが、子どもに見せるには躊躇
しますね。
一瞬、モップガールを思い出してしまいました!!

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