≪熊の場所≫・・
恐怖とはいったいなんだろう
2008-02-13
「熊の場所」(舞城王太郎)講談社文庫 400円
■世の中には怖いことがたくさんあります。
わけのわからない隣人だとか、
会社や学校でのいじめとか、
本当にわけのわからないひとからの誹謗中傷とか、
たまらないです、まじ、いっぺんに解決できないところが。
この小説の「僕」もそうなんです。
あるとき、友達のマー君がランドセルをぶっちゃけるんですが、
そこから猫の尻尾がでてくるんですよ。
尻尾があるということは猫は殺されたんだ、と。
でもって、「僕」はその恐怖を乗り越えられないんですね。
でも、何とか克服したいではないですか。
「僕」はまだ小学5年生なんですが、どうしたのか。
ここで「僕」は父親の経験を思い出すわけです。
大学生のときにね、父親は現地のガイドさんと
ユタの原生林を歩いていて、熊に遭遇してしまうんですよ。
ふたりであわわわと逃げるのだけど、ガイドさんのほうが
逃げ足が速かった。すわ、もうだめか・・でも、ひとりが
助かるならいいか・・とお父さん、思うわけなんですね。(すごい!)
ところがそのガイドさんが、転倒してしまって、
お父さんが助かる運命に逆転するんですよ。
ほ、やれやれって思うじゃないですか。
ところがこのお父さん。これから一生あの恐怖と向き合うのか。
そう思うわけです。で、何をしたかというと、
銃を携えて、熊のいる場所に戻るんですよ。
恐怖を絶つためには、その源にたたなければいけないと!
そこで必死にめちゃくちゃに撃ちまくって、とうとう熊を
倒してしまうわけなんです。
ガイドさんはすっごく恩に着るんだけど、
お父さんは「いや、あんたのために闘ったわけじゃない。
俺は自分の恐怖と闘っただけだ」って言う。
「僕」はこの父の話を思い出して、マー君に近づきます。
本当に猫殺しをしているのかどうか、確かめようと・・。
恐怖のかたまりなんだけど、父の≪熊の場所≫に戻らなければ
ならないと考えるのですね。
圧倒的な恐怖の中、マー君と僕はサッカーをするんです。
そこでひょんなことからマー君を突き飛ばしてしまう。
そんなことでも優位にたてるんですね。
そこで終わればいいんだけど、付き合いが深まっていって、
マー君ちに泊めてもらったりするようになるんです。
こどもって一人の子とスッゴク仲良くなったりしますからね。
それで泊まっていると、マー君の気配がするんです。
息がかかりそうなくらいに・・。
で、「僕」はマー君が猫の次に自分を殺そうとしているのではないかと、
考えはじめるわけなんですね。
このあたりの心理状態がすっごく微妙なんですよ。
死というものに魅入られるというか、マー君から離れられない・・
自分が殺されるのかと思っていた「僕」なのですが、
次に殺され始めたのは犬でした・・。
そして夏休み、とうとう、ひとりの男の子が
こつぜんと姿を消すのです・・・。
マー君が男の子を殺したのじゃないか。
「僕」の詮索は続きます。
そしてマー君がいうのです。
いなくなった男の子の居る場所を知っていると・・。
■「僕」にとっての熊の場所。
それを乗り越えることができたのか。
「マー君」はそもそも何だったのか。
■とても読みやすい文体なのです。
小学5年生といわれて、違和感がないです。
だけど、扱っていることはとても本質的であって、
原初的。恐怖ったら最初の感情であって、
最大の感情っていうか、にんげんにとって
一番負担を強いる感情ですからね。
あの、スタンドバイミーの世界とすこしだけ、
ほんのすこしだけ、リンクするみたいな気がします。
あれは4人の少年が「死」を見にいこうとするけど、
これも「死」に魅せられるというか、
「死」のちかくに引き寄せられてしまうというか・・。
物語を読んでいるあいだは、まちがいなく「僕」の
視点になっているわけですよね。
小学5年生になってむきあう、特異な友達。
一度読んでみてください。
「好きになりますよ」・・かどうかは、
わかりませんけども(笑)
読みやすい文体だけに、その恐怖もひとしおな気がします。
この間、友人と、人はなぜ恐怖に惹かれるのか、っていう話を5時間くらいしてて、お互いの今までに観た、怖すぎる(グロいのではなくて精神的に追いつめられる、とか)夢の話とかをしてたので、結構タイムリーでした。
>恐怖ったら最初の感情であって、
最大の感情っていうか、にんげんにとって
一番負担を強いる感情ですからね。
>「死」に魅せられる
これ、すごい分かります。
少年さ故なのかな、でも、人間の根本にそれは眠っている気がします。
自分の恐怖感の原因に立ち向かう、ってすごく怖くて乱暴な方法かもしれないけれど、上手く行けば一番効果的なのかも。
子供の強い感受性と想像力で受けとめた体験は、やはりその人の原体験としてずっと残っていくのでしょうね。
昔森の中でひとりで迷って、日が暮れそうになって、恐怖におののきながら、泣きながら裸足で森を駆け抜けた体験を思い出しました。。
一方で、私は極度の恐がりなのに、度々、乱歩の世界やサイレントヒル的な世界を猛烈に覗きたくなります。偏に好奇心とは言えない気もしますね。この執着心は。
意味不明でごめんなさい。。
この記事、朝寝ぼけ眼で携帯から読んだんですけど、寒気しましたよ~。恐怖に向き合うという行為は、ハンパなことじゃないです。だってもっと恐ろしい事が待ち受けているかもしれないし。「僕」は恐怖の正体にある意味とり憑かれ、やっぱり更なる恐怖を目撃・体験するようですね。・・・こわっ!!!
でも面白そうだ~タイトルからは全く想像出来ない内容でした。
恐怖について 一言
恐怖が分からない人間は 死にます よく 自分は怖いもん無しなんて いきがる 男性がいますが 恐怖をしってる 事こそが生きる意味で 慎重さや知恵を働かせてくれますよねよく確かめもせず 何かに突っ込む事は 命を縮める事ですぞ~ 臆病は 悪い事ではないですよ(笑)
これ!絶対読みます!
私の場合は「好きになりますよ」確実です。
怖いもの見たさというか、人は「恐怖」に惹かれるものですね。
私も「怖い」ものは大好きです。
但し根はチキンなので、自分の身は安全だと保障された上での好奇心ですけど(笑)
だから「僕」や「僕」の父親みたいに、実際に恐怖とは立ち向かえないかも。
って藤原さんと話していたときに、
藤原さんが教えてくださった方なのです。
アルファベットにはこだわらない、ってことで
このひとではないかも、ということになったのですが。
それにしても三島由紀夫文学賞を獲ってる方なのです。
全然知りませんでした(汗)
ずいぶん前に読んだ本なのですが、レビューするのが、
とっても難しくて、実は昨夜悶々としてました(爆)
恐怖について、ゆっくりと読んでほしいです。
でも実は短編だったりします。
本の装丁だって相当に可愛いですし、
黙ってたら童話だと思っちゃう。
朗読を始めてびっくり、みたいな(汗)
これはすごく実写向きだと思います。
映画にならないかな、でも、R12くらいに
しないとやばいかもしれません。
お父さんのエピソード、マー君との
息詰まるやりとりとか、とても絵画的に
描けそうな気がします。
でも松山くんができそうな役はないですね;
学校の先生で特別出演とか。
もう、そりゃあ、あんなにすごいひとが
チョイ役で出てるよーのノリですね。
という話のときに藤原さんが教えてくださった
ひとですよね。
読んで面白かったのでびっくりしました。
その節はありがとうございました。
(で結局誰だったのでしょう・笑)
ホラームービーとかは多分に道徳的に創られて
いますよね。遊び人な男女は殺されて、まじめな
奥手な女の子は助かりました、みたいな。
だけど、「リング」とか「呪怨」といった
映画がでて、かならずしもそんなこと何の
役にもたたないリアルさがでてきて、
恐怖が倍増してきた気がします。
リアルに近づいたというか。
倍増した恐怖には何で応戦したらいいのでしょうね。
テレビ画面から貞子が出てきたとき、
「すみませんでした!」って、
わけもなく叫んだのを思い出します(笑)
うららさんだったら、食指が動くと思ってました!
なんせ、乙一さん大好きですもんね。
そう、GOTHに近いものがありますよ。
それにしてもうららさんも思うでしょう?
乙一、GOTHぐらいの、早く書いて!って。
若いときにたくさん書いておいてほしいですよね。
それにしても、本はすごく面白いのですが、
レビューは難しかったです。
でもずっと本のレビューをしていなかったので、
意地でも紹介しようと思っていました。
私のその怨念のような思いで、余計に怖そうな
感じがするのかもしれませんよ(笑)
3編の中でこれが1番読ませるかな。一般的に読みやすい内容だし。
恐怖心と残酷性、実は誰にでもあるものだと言うことがシビアに伝わって来る作品。
この人のでは「世界は密室で出来ている」と言うのが1番好きなんです。
違う作品「阿修羅ガール」で以前レビュー書きましたけど、「熊の場所」を含めてそれ以前の作品を踏まえた、『個々の認識する世界とその居場所とは何か?』みたいな話です。
http://blog.goo.ne.jp/isl-211/e/ad58c4313e7b6384bc975ee6e6511c87
ただいま、阿修羅ガールのレビュー、読ませて
いただきました。さすがSHIMAさん、
納得しました。舞城さんって、読まされているな
と思いつつ、ひきこまれてしまいます。
「熊の場所」の最後にはあぜんとしましたが、
この作品は実写化されないのかなと思いました。
視覚的に非常にみごたえがある感じがしたので。
主人公は子どもですが、子どもに見せるには躊躇
しますね。
一瞬、モップガールを思い出してしまいました!!