「平凡」角田光代 感想

角田さんの本にしては、ちょっと珍しいポップな感じの装丁。
内容は、もしあの時ああしていたら・・・と自分の過去を振り返って、別の自分を想像すると・・という題材についての短編。
どの短編も面白く読みました。４つ★～４つ★半

書かれた時期は結構違っているんですね。今回この本を出す際に集められた様子だけれど、不思議と散らばってる感じがなかったです。

「もうひとつ」「月が笑う」「こともなし」「いつかの一歩」「平凡」「どこかべつのところで」
の6つの短編が収録されています。

「もうひとつ」
自分と夫と、その友人の不倫カップルで、ギリシャに4人で旅行。

「月が笑う」
★以下ネタバレ　白文字で書いています★
妻が他に好きな人が出来て、離婚を言い出した。なんと妊娠までしている。腹が立って、離婚承諾してやらないと思う。そんな時、タクシーの運転手から、昔、男の子を自らのミスで車で、はねてしまったが、その子が許すと言ってくれて、そのお陰で自分は随分助かったという話を聞かされる、その少年とはまさに自分の事だった・・。
少年時代の自分が、許さないということはこわいと思ったこと、許さない事と、許す事、どっちが楽か、許す事のほうが簡単だった・・・
忘れていた事を想い出し、今回の妻の事も、許そうと思う様になる。

「こともなし」
聡子は、かつて婚約まで行った彼氏が、他に好きな女性（靴屋で働いている）ができて、突然去って行った過去がある。
その後、やけくそ？で、自分に好意を持ってくれる男と自暴自棄に、付き合って結婚し、今は平凡だが幸せに暮らしている。
ブログでお料理や日々の事を綴ったり、パート先の女の子の恋愛話を聞いたりする毎日。

色々考えさせられるお話でした。
116頁で、「幸せじゃなかったら困るのよ」「誰が？」「私が」
「もし」で別れた、選ばなかった別の自分だ。という部分と、パート先の女の子の、クリスマスに彼氏の孫がインフルで連絡が取れず、会えなかった晩の事を、きっとこれから何十年先も思い出すだろう、5年後先、１０年後先に、あの時、別れてたのと、別れなかったのと、どっちが良かっただろう？と考えて、「あのとき別れて良かったんだ」と思うはず、いや、そんな事考えないところにいたい、どっちがどうだったかなんて思わなくてすむような、もし、なんて考えなくていいようなところにいたいって思ったから、別れた。という部分が、とても印象に残りました。

「いつかの一歩」
かつての彼女が、最近「トラ」という食事・呑み処をやっているのを知り、久しぶりに訪問する。
特に料理好きだったわけじゃない彼女が、何故こんなお店を出したのか？

「平凡」
学生時代の同級生は、今やお料理のカリスマで人気者になっていた。
久しぶりに彼女と会える事に気分が浮き立つも、実は彼女からの連絡が来たのは、かつて彼女が交際していた男と同姓同名の人間が家族と共に火事に遭ったというニュースを聞き、それがその本人かどうかを、その土地で調べたいという下心からだったことが解る。
不幸になれ、と呪った結果、ここまで酷い事までは望まなかったという友人。平凡すぎる様な人生を願った・・。
というのは、もしや高校時代に一人の男性を取り合った自分の事も・・・？？という、ちょっぴり怖さもある、ちょっと苦いお話。

「どこかべつのところで」
行方不明の猫を探していると、とある女性から猫目撃の連絡が来て、会いに行って、お茶を飲み話すことに・・。

これは切ない・・・。おにぎりを作って息子に持たせたために・・・。もし、ああしなければ良かったのに・・・という後悔、とても辛いですね・・・。

「平凡 」 2014/5/30　角田 光代

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