ポコアポコヤ

食べ物、お菓子、旅行、小説、漫画、映画、音楽など色々気軽にお話したいです(^○^)

ネタバレ注意! 「サラバ!」西加奈子 感想

2015-02-28 | 小説・漫画他

今回は、一部白文字ではなく、ネタバレで全部感想を書いているので、注意です!


上下巻、1日で一気に読ませてもらいました。
特に上巻は面白く、あっという間に読み終わってしまい、後日にする予定が、すぐに下巻に取り掛かって・・という感じで、朝から晩までかかりましたが、こういう風に一冊の本に引き込まれて、読書で一日を終えるというのは久しぶり。

とても面白い本だったのですが、読み終えた時の気持ち的には、爽快とかではなく、なんだかなあ・・・という気持ちがあったかもしれません。でも、勢いがある本でした。4つ★半

常にマイノリティ側でいて注目されていないと癇癪をおこす、ワガママな姉、こんな子供が自分の娘だったら・・・と考えると恐ろしいです・・。まあ、この娘の母も、母である前に永遠の娘さんって感じなので・・。綺麗で子供のような処のある女性。そして、ひたすら優しい父。2人の個性的な女性となるべく波風立たせずに暮らすために、そのすべを身につけた歩。この4人家族を中心に、周りのユニークな人達と、イラン・エジプトの海外赴任体験と宗教感を描いたお話。

上巻で私が印象に残ったのは幼稚園時代の「クレヨン」のところ。笑ったなー、既に幼稚園児の世界で、こんな事が行われていたとは。
あとエジプト時代は、凄く興味深く読ませてもらいました。西さんの実体験から来る物だから、とてもリアリティが感じられたし。
私も生まれて初めて行った海外がエジプトだったので、その衝撃は凄いものがありました。今でもエジプトは特別な国であり、大好きです。

カイロに住む日本人の子供が、庶民のエジっ子と、凄く貧しいエジプトの子供と、彼らに対する気持ちや態度、つい少し笑顔を見せてしまう、その心理描写が、非常に良く描かれていて、唸りました。
歩は身なりはみすぼらしいが美しく気品を漂わせているエジプトで少数派の宗教コプト教のヤコブ少年と親友になる。2人は双方の言葉が解らないのにもかかわらず、ちゃんと意志疎通ができて、特別な関係になるのだけれど、彼らの共通の言葉が「サラバ」なんですよね・・。ここらへんは、凄く良かった!

歩が日本人の友達といる時に、ヤコブに偶然遭遇した時に、つい目を伏せてスルーしてしまいます。後に逆の立場、ヤコブとその親類がシーツを運んだりする仕事をしている最中に、偶然歩と会います。その時にヤコブも目を伏せるのだけれど、その理由は、歩が勝手に想像していたのとは全然違っていたことが解ります。ヤコブは自分の家族に愛情たっぷりで誇りを持っているのでした。ここらへんも、凄くグサグサ来まくりです。

その後、カイロから戻って、日本の公立中学校での様子。
歩は姉の影響から「私が! 私を見て!」というタイプの女性、そして可愛くても自分が可愛い事を知っている女子は嫌いでした。
そんな中、学校内で、とある地味めの女の子を好きになって、付き合うものの、自信を得たその子が違う女へ、自分が苦手なタイプの女に変貌してしまった感じになり、結局別れてしまう。男同志つるんで楽しくやってる方が好きという歩の気持ちなども、異性である西さんはとても詳細に描いていらっしゃいました。男性目線で、そこを読むと、その通りなのか、それとも違うでー!なのか・・・。

中学くらいから、歩は自分がカッコいい事、女子にキャーと言われるルックスなことを自覚していきます。
わざわざ男子校を選んで高校に入学し、そこで須玖という、控えめで謙虚で、実は知識人な、すばらしい人格者の親友ができます。2人は学園祭でDJブースをやったことがきっかけで、彼女も出来て、モテる最上級の高校時代を過ごすのでしたが、下巻で須玖は神戸の震災に衝撃を受け、酷く落ち込み、学校に来なくなってしまいます。

下巻では、東京の私大に入った歩が思う存分チャラ男としてやりまくり、それに飽きた後、映画サークルに入ります。
そこで、サークラーのビッチ鴻上なずなと知り合います。彼女を軽蔑し、自分だけは絶対彼女と寝ないと固い決意をするも、妙にうまが合う2人はとても親しい友達同志になるのでした。
歩は、晶そして、紗智子という、美しくて優しいアーティスト系の彼女が、その時代時代でいますが、別れてしまいます。

中でも、紗智子との別れは、歩が気の毒でした。今まで姉のことを誰にも言えずにいて、それを全部打ち明け、「辛かったね」と言ってもらえたのに、翌朝彼女は姉にどうしても会いたがります。そして勝手にコンタクトを取り、写真を撮ってしまうのでした・・。これは裏切られた感がありますよね・・・。

それからの歩は転がる様に段々と・・残念な方向に行ってしまいます。
あんなに充実感があったライターの仕事も、なあなあになって行き、急に髪の毛が抜ける様になって、薄毛を気にするようになっていきます。今までカッコよかった自分に対する世間の目(女性の)が、明らかに前と変わった事に酷く傷つくのでした。そして、内心では、こんなレベルの女は自分にそぐわないのに・・・と思っている澄江と、なあなあに交際しています。

そして、ある日の仕事で、あの須玖に偶然再会できるのです!
須玖はは死のうと思ったものの、ティラミスに救われ、売れないお笑い芸人となっていたのでした。
そして、鴻上とも偶然再会し、3人の趣味仲間でワイワイ飲むのが唯一の楽しみでした。
そんな中、澄江が他の誰かと浮気?しているのを、間違ってボタンを押してしまったのか・・携帯の通話から聞いてしまいます。
その直後、鴻上と須玖が結婚するというではありませんか・・・。ショック過ぎて、つい「鴻上がかつてビッチだったことを知ってるのか?」と意地悪な事をつい言ってしまい、自己嫌悪に陥る歩。(そんな過去の事は、寛容な優しい彼ら2人にとってどうでもいいことだった)

歩がそんな状態なのに、あの姉はというと、散骨の旅の途中、チベットでまともな白人の教師の男性と知り合い、ユダヤ教信者になり結婚して、まっとうになっているではありませんか!そして長年確執のあった母と仲良くなり、歩に説教じみた話をするという・・・。
全くもう・・茫然な展開に。
私はワガママで自己中で手のつけられない姉が読みながら嫌いだったので、この展開にはあっけにとられたし、あの姉から上から目線な口調で何か言われるのは、なんだかなあ・・・という気持ちになってしまいました。歩があまりに可哀想だと思いました。
家族内で早く大人にならなくてはならなかった可哀想な歩。でも外では友人に恵まれ、モテモテで、上手い事世渡りしてきた彼が、髪の毛が薄くなったことくらいで(それだけじゃないけど、かっこいい仕事からも段々遠ざかって行ったゆえのオーラや雰囲気が消失したこともあると思われ)、ここまで落ちてしまうなんて、そりゃ無いよー。髪が薄くなったって、ちょい悪オヤジでモテてる人だって沢山いるし。

そして、両親のいざこざの理由が解ります。父はもともとは母のとても親しい先輩と婚約していて、彼女を捨てて母と一緒になったこと。
彼女がその後もずっと一人でいて、若くして癌になり、死ぬ目前にもう一度父に会いたいという手紙を送って来ていたこと。その一件以来、夫婦は喧嘩が多くなり・・・。
いやー、それにしても、この父も可哀想過ぎます・・・。出家してしまうとは・・。そしてお母さんもお父さんと別れた後、色々な人と付き合っては別れて・・再婚もするが、別れて・・を繰り返します。

矢田のおばちゃんが 何かにすがりたくて、信じられる何かを求めて、既存の宗教に頼る人が多いが、宗教の違いで悲劇的な対立が起こったり、教義の名のもとに迫害されている人がいることを知っていたがゆえに、何も教義がなく、人に何も強要せず、なにも与えず、ただそこにあるだけのものが「サトラコヲモンサマ」だった。
その名は実は猫のチャトラの肛門から由来するのだった・・・。

歩は「アラブの春」の後、カイロにヤコブに会いに行きます。ヤコブは立派になっていました。そして「大切なのは、違う人間が、違う人間であることを認めて、そして繋がることだ。宗教なんて関係ないんだ」と言うのでした。
歩は、ふっきれて、小説を書いてみようと前向きな気持ちになれたみたいです。がんばれー!

西さんは幼少時代に過ごしたエジプトで、政変が起きて、多い人が困難な状況に置かれているのに胸を痛めていたんだろうなーと思います。
本作は、直木賞を取られたそうで、おめでとうございます。
今まで沢山の西さんの小説を楽しく読ませてもらっていて、結構ファンです。今後もどうぞがんばって面白い小説をドンドン書いてください。期待しています。

そうそう、最近、婚約破断・恋人が去っていってしまった、という立場に置かれたケースの話を、くしくも3編続けて読んだんですよ。
この「サラバ」のお父さんは、元恋人への贖罪の気持ちが凄くて、一生引きずるほどの申し訳なさをずっと持ち続けて来たのだけれど、角田光代さんの「平凡」で登場する、あるお話での女子は、逞しく^^。また別のお話では、妻が他の男のもとに行ってしまった夫は、すったもんだの挙句、結局「許す」という事を選びそうな処で終わります。 

私の中で、なぜか角田さんと西さんって、全く違った作風なのに、なんだろうな・・・どこかが何か通ずる感じがするんですよね。勝手なイメージでですが、早稲田とかの高学歴な大学時代を経て、古着とかモテ系じゃない服や髪型が好きで、ディープな映画や音楽に詳しくて、海外ネタが結構多く、そこそこモテて、自由を愛し・・そして何より小説を書くのが大好き!みたいな・・。そういえば猫を愛するところも同じだ・・。

西加奈子 2014-10-29

舞台 
「ふる」「ふくわらい」
しずく
漁港の肉子ちゃん
炎上する君
「あおい」「さくら」感想
きりこについて

コメント (4)    この記事についてブログを書く
« 「平凡」角田光代 感想 | トップ | 南インド料理ミールス、スー... »

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
西さん (存在する音楽)
2015-03-01 06:51:36
latifaさん おはようございます。
少し春めいて来ましたね。

西加奈子さんのは『炎上する君』しか読んでいませんが、気になる作家で、次々と読もうと思っているうちに直木賞受賞のニュース。

latifaさんのレビューでまた読みたい本が追加されました
返信する
存在する音楽さん☆ (latifa)
2015-03-01 17:25:55
こんにちは、存在する音楽さん
こちらは雨の日曜日です。そちらはいかがでしょうか・・・
昨日などは、とても春らしく、でも花粉も酷そうです・・。

西さんは関西弁の本が多いので、関西の人には、喜んで受け入れられる方も多いんじゃないかなあ・・・と推察です。

「炎上する君」も面白かったなー
返信する
Unknown (しずく)
2019-08-13 08:28:40
これ、トップ10にはいるぐらいに好きな本でした。続いて何作か読んだけど今作以上のにはぶつからなかったです。 感想は残さなかったような気がします。
豊富な闘病体験は書かないようにしてるのよ。きついことは忘れて忘れて忘れまくって次へ進もうと~ 逃げ一手の私。タブレットからで簡潔明瞭になりました。
返信する
しずくさん☆ (latifa)
2019-08-13 11:01:27
しずくさん、こんにちは
しずくさんちで西加奈子さんを検索してみましたが(ブクログでも)引っかかって来なかったです。残念・・・。

私も、この小説凄く気に入ってました。
2015年のベスト3に入れていました。
短編集ですが「炎上する君」も、面白いですよ。

そうなんですか・・・
しずくさんは、山登りとか色々アクティブに活動されている印象があって、そんなご病気とかされていた・・というのは全然わかりませんでした。
あえて書かずにいたのね・・・。
私もなんだかんだと病気がちです。
そういう風には見られないんですけどね。

なるべく違う方(楽しい事とか)を見る様にして、やって行きましょうね
返信する

コメントを投稿

小説・漫画他」カテゴリの最新記事