録画人間の末路 -

人は記録をしながらじゃないと生きていけない

メディアの悪影響~質屋の例

2013-04-22 10:08:31 | Weblog
今週(2013/4/22の21号)の雑誌、"少年ジャンプ"に「DARK PAWN -闇の質屋-」という、以前「ぬらりひょんの孫」を書いていた椎橋寛氏の新作読み切りマンガが掲載されています。わたしはマンガの評論家ではないので内容にどうこういいませんが、冒頭の部分だけ一言。
主要登場人物は質屋の店員で、「15万は金がいる」と言って持ち込まれた腕時計をを偽物と断定し、3000円の値段を付けています。ここで質屋やこういう中古品売買をやる人なら絶対やっちゃいけない行為をいくつかやっているんです。
まず、偽物と分かっているのに"オメカ"と、おそらく架空のブランド名を呼んでいること。偽物の時点でそのブランドを語っているだけの別物ですから、ブランド名で語ってはいけません。「実はオメガの偽物だからオメカと呼んでいる」のかも知れませんが、そういう描写はありません。
もっと悪いのが、3000円でも値段を付けていること。これを見て「本物は高い、偽物は安い」と勘違いする人が出てくるかも知れないじゃないですか。そうではありません。「偽物は一文の価値もない」んです。確かにマンガとしてなら、その後の店長(主人公)登場シーンにつなげるのに何かしら値段を付けないとうまくいかないのでしょうが、一応そっち方面で食っている人間から見ると、ちょっとマズイシーンです。「偽物でもただの時計としてなら・・・」という言い訳セリフも載ってますしねぇ。偽物なんて激安でも売ったら後でトラブルの元ですし、法律に引っかかる可能性も大ですから売ることはできないですよ。例え100円10円でも店の損で落とすしかないです。他ブランドの名前を飾りにでも付けた時点で、その品物には一円の価値も無くなるんです、出来れば価値無しと言う判断ではなく、マイナスにしたいくらいです。もちろんマンガですから舞台は日本ではないファンタジー世界ですし、日本の慣習や法律とは違うと言われればそれまでですが、世間への影響はどうしてもありますので、少し考慮して欲しかったな、と。じゃぁどうすれば良かったのか、と言いますと、例えば「すごいダイヤの指輪」を持ってきた、と見せかけて実は人工のニセダイヤを使った指輪だったので「ダイヤに見えるように作ってありますがニセモノで石は一文の価値もありません。値段が付くのは指輪そのものに使われている金の部分だけですね」というような鑑定ならOKです。これはわたしも実際やったことありますし。ニセダイヤを取って地金としてなら業者に売れるんですよ。
あと、これは「絶対やってはいけないこと」ではないですが、偽物の説明とかも普通やりません。偽物製造への情報流出を恐れて業界内でも情報のやりとりはあまりないんですから。まぁマンガですからしょうがない、の範疇ですけどね、仕事覚えたての生意気盛りの頃なら口を滑らすでしょうし。ちなみに偽物を持ってきていて「どこが違う?教えろ」としつこく食ってかかる人がたまにいますが、わたしはこう答えています。
「全部違いますよ、偽物ですから。どうしても部分的な違いを見つけて欲しいなら、まずあなたがわたしに本物と同じところを教えてからにしてください」


マンガとは別ですが、同じくメディアの取り上げた質屋の影響という繋がりで、こっちも取り上げてみましょうか。又聞きの話ばかりになってしまいますのでネタとして温存はしていても放っておいた話なのですが、ちょうど良い機会なので。
日本放送協会が地上波テレビで放送している「クローズアップ現代」という番組があります。それで少し前に「偽装質屋」というものが取り上げられていました。高齢者がほとんど値段の付かないような品物を持ってきた場合に、例えば10万円というあり得ない値段を貸し付ける偽装質屋が存在する、という話です。ただし、それにつく利息は銀行の口座からの自動引き落としにさせる、という条件付きでした。事実上「年金を担保にした契約」にさせていたのです。質屋はいわゆる「利息制限法」が適用されず、「質屋営業法」という別の法律に基づいて利息の割合が定められているため、高金利を付けることが可能です。いわゆるサラ金業者の多重債務などで法律的制限が厳しくなり、悪徳業者はあらたな貸し金の手段として質屋を利用することが多くなっているのです。もちろん本当の質屋は、高金利と引き替えに相応のリスクを負っていますから単に利息の高さに甘えているわけではありません。利用者は借りた金に利息を付けて返すことが出来なければ、質入れした品物を取り戻すことをあきらめる「質流れ」を選択すれば良いだけです。「質流れ」された品物は売って損失の補填にあてられますが、元の質入れ値段以上で売れるとは限りません。原価割れしてやっと捌ける程度になるかも知れないのです。かと言って、安くしすぎるとちゃんと受け出し(お金を返して質入れ品を引き取りに来ること)てもらえたときの利息収入が少なくなりますし、なにより質入れしてもらえずによその店へ行かれてしまいます。値段はそこら辺のバランス感覚や店の方針で付けられますので、店によって値段が違うんです。一方、偽装質屋は、そのデメリットを負いません。利息の支払いを自動引き落としにさせることで、「質流れ」させないようにしてしまっているのです。しかも、その支払いは高齢者の年金収入を前提に、その支給日を引き落とし日にしていました。事実上年金を担保に、高金利など質屋の有利な部分だけを使って高利貸しを行っていたのです。まともな質屋なら、少なくとも利息の支払いを口座からの自動引き落としにさせることはありません。高い利息も法律で上限は決まっているだけで下げるのは店の自由ですから、金額が上がるに従って利率を下げるのが普通です。品物の保管など、手数もかかるわけですから、利息にはその分も入っているのです。

・・・というような、質屋と偽装質屋の違いが番組内では絶えず説明されていました。実は偽装質屋が日本放送協会で取り上げられるのはこの時で二度目。一度目は「クローズアップ現代」ではなかったようですが、偽装質屋だけが取り上げられて普通の質屋との違いが語られず、あたかも「質屋の中にはこういう悪質な商売をしている店が存在する」かのように放送されたようなのです、そっちの方は見ていないので細かい説明は出来ませんが。さすがに抗議があったらしく「クローズアップ現代」では違いを明確にする演出が施されました。番組自体もそのフォローが目的だったのかも知れません。「偽装質屋は本来の質屋とは全く異なる悪徳業者」として~実際そうなんですが~取り上げられました。
ところが、視聴者は必ずしもそう見てくれる人ばかりでは無いようです。業界としては見て欲しくなかった、「年金を担保にお金を借りられる質屋が存在する」という部分だけを頭の中に残してしまった人もいたらしく、放送翌日に「年金を担保にしてくれる質屋があるそうだが、紹介してくれ」、「年金を担保に金を借りられないか」という電話での問い合わせが、決して多くはないようですが、一部の質屋さんにあったのだそうです。そのお店では当然断ったのですが「そういうのは○○(先の番組内で偽装質屋があると取り上げられた地名)じゃないとダメか」などと捨て台詞を吐かれたとか。
本気で借りるわけではなく、好奇心とかどこかのメディアが隠れて取材目的でその店に行ってみたかったので聞いてみた、など目的だった可能性もあります。特に「年金で貸してくれ」などと問い合わせてきた人は、いざ返すときになると「年金を担保に金を貸すのは偽装質屋と言って警察に取り締まられるそうじゃないか。いいのか? 警察に訴えるぞ」などと脅して誤魔化すことつもりだったかも知れません。なお、偽装質屋を法で取り締まるのは簡単ではないようです。価値のない品物で高額なお金を貸すこと自体は別に違法でもなんでもありません。そうでないと最初に取り上げたよう偽物に引っかかったら、持ち込んだ相手ではなく質屋側が違法行為を行った、という扱いになってしまいますからね。
まぁ危うきに近寄りたがる人は少ないと思いますが、メディアの影響というのは結構バカにならないものなのです。それも簡単な、悪意の感じられる方向にのみ話は流れていきやすいのが現代の傾向です。難しいですが、注意していきたいものですね。

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15 コメント

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Unknown (EWACザック)
2013-04-22 19:20:41
たかだかマンガ(架空)の話じゃないですか
そんなに目くじら立てるほどの事でしょうか?
それなら マンガでいうならコナンや金田一、
またはTVのサスペンス物や相棒なんか毎回殺人が起きてるので
人間としてやっちゃいけないことだとクレームつけてるのと同じくらいのレベルだと思うんですが・・・・
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Unknown (krmmk3)
2013-04-22 23:10:08
>EWACザックさん
別に目くじら立てているわけではありません、突っ込みたかっただけです。
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Unknown (Unknown)
2013-04-23 00:58:43
私もたまたまその番組を見てました
プロの方にこういうのもなんですが質屋は買取業ではなくて貸金業ですよね

当然質流れしてしまった時の事も考えないといけませんが,利子を付けて返してもらえるなら客を見てOKと言う事も普通にあることじゃないですかね

質入れ品は担保ですから\3000の担保価値はなくても流れないと思えば貸す,つまり投資ですね
きちんと質受けしてくれれば利子で儲かるわけでそれが本来の業務じゃないでしょうか

流れた時のことしか考えず質入れさせないならリスクはないので,特別に認められている金利も廃止するのが筋じゃないでしょうか
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Unknown (krmmk3)
2013-04-23 01:32:27
>2013-04-23 00:58:43さん
おっしゃるように、3000円程度なら受けるケースもあるでしょう。ただ、その場合でも偽物は、特に要求金額があった場合は絶対に受け付けません。来店者が偽物と知らずに持ってきたケースでも、お店で偽物(とされたような感じ取られる)評価をされた瞬間、「大事なもので、必ず受け出すから」と人情要求でお金を受け取った場合、そのままとぼけて流してしまうケースの方が圧倒的に多いようです。基本的に「人を見て、人を信用して」というのはおとぎ話です。
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Unknown (misgis)
2013-04-23 01:40:59
>一度目は「クローズアップ現代」ではなかったようですが

2013年1月8日ニュースウォッチ9 ”高齢者を襲う偽装質屋”ですね。質屋は老舗が多いという先入観をもっているためか、一部の悪徳業者なのだろうと自然に解釈しておりました。
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Unknown (とり)
2013-04-23 19:21:48
>基本的に「人を見て、人を信用して」というのはおとぎ話です。

重い言葉だ……
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Unknown (なんだかなぁ)
2013-04-23 20:09:40
>「人を見て、人を信用して」というのはおとぎ話です。

カスタマーセンターにて日々魑魅魍魎と格闘している立場の者としては、至極真っ当な言葉だと思いますね。
信用なんて言葉を声高に叫ぶ人間ほど信用できないですし。
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Unknown (krmmk3)
2013-04-24 00:24:58
>misgisさん
見てましたか。時間の経過を考えると、苦情のフォローのための番組、という見方も間違っていないようですね。

>とりさん
「信用してくれ」と言う言葉を信じてだまされた偽物ブランド腕時計、自戒を込めて使い続けてます。見た目は本当によくできていて素人では絶対わからないレベルですが、一日10分は平気で遅れるのでふつうの時計としても役に立ちません。毎日何度もネジの調整をしなければならないので人差し指の爪が削れてます。それでも使ってます、臥薪嘗胆。

>なんだかなぁさん
痛い目にあいますからね・・・。ウチはお金の問題もありますから、一人裏切られたら10人分の売り上げがパーです。簡単に信用・人情は使えませんね。
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Unknown (AMKZ)
2013-04-24 07:47:07
トラスト・ミーって特に信用ならない言葉のひとつでしたね。(日米間では殊更)
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Unknown (とり)
2013-04-24 10:37:04
>自戒を込めて使い続けてます。

! ……うむむむむ、むう。
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