あしたはきっといい日

楽しかったこと、気になったことをつれづれに書いていきます。

印象の深さ

2021-08-26 21:19:45 | 別れる

俳優の辻萬長さんの訃報に、20年前に観た舞台を思い出した。

坂手洋二さん作・栗山民也さん演出の『ピカドン・キジムナー』は、戦後日本復帰を迎える沖縄で暮らす人々に、広島で被爆した人、そして、朝鮮半島にルーツを持つ人の思いが紡がれた物語…と言ったらいいだろうか。感染症の影響が広がる前から、舞台を観に行く機会はすっかり減っていたけど、また、それほどたくさんの舞台を観てきた訳ではないけど、特に印象に残る作品だ。

僕はこの作品で初めて辻さんのことを知った。そして、その後テレビで拝見することは無くはなかったけど、覚えているのは朝ドラ『なつぞら』くらいだ。それでも、拝見する度にあの舞台の上の、沖縄の家の居間に座る辻さん演じる父親の姿を思い出す。

坂手さんもブログで辻さんの訃報について触れられていた。坂手さんにとっても印象深い作品だと思う。

舞台はその瞬間を愉しむものだけど、その印象は作品によって観る者の心が震えた分だけ印象深くなり、そして、その印象は観終えた後も残っている。その記憶は、僕が命の灯を消すその日までずっと僕を支えてくれるだろう。

ありがとうございました。そして、お疲れさまでした。


ひとり

2021-08-22 20:43:59 | 見上げる

これまで、全てを一人でやってきたなどとは思ってはいないし、実際に様々な場面で誰かの助けを得ていた。でも、自分から率先して「相談してみよう」と思うことはあまりなかったし、今もない。ただ、仕事を進めていく上で独断では決められないことについては、上司や部下に相談している。

幼くして父を亡くしたこともあり、母に頼られていた。その重圧を感じながらも、生い立ちからして仕方ないと思っていた。兄もいるものの早くに家を出て行ってしまい、頼れるのは妹だけだけど、嫁いでいるのでそうそう頼ることも難しい。

振り返ってみると、あの時誰かに相談できていればという分岐点は一つ二つではない。ただ、そこに立ち戻って違う道を選んでいたからといって正解が出せるはずでもなく、今ここにいる自分はその都度自分なりに判断してきた結果であると納得している。そもそも、何が正解かなんて決めるのは難しいし、先日お会いした久保田沙耶さんが言っていたように「生きてるだけで丸儲け」と思えればいいのかも。

とはいえ、これから先もそんな強引な生き方を続けられるかと思うと不安になる。支え合える人がいたらいいな…と。結婚とか家庭とかを今も諦め切れないけど、支え合えるのは夫婦や家族だけでもないだろう。近い将来必ずその時は訪れる。その時までに何らかの形を見つけたい。

そんなことを思いながら、いま自分がしなければならないのは、職場で悩んでいる人を一人にしないようにすることだと思い直し、明日を、その先を生きていこう。

まあ、こんなことを書くときはだいたい疲れていたり気分が落ち込んでいたりする時だけど、ここで僕が倒れてしまったら…と、全身に力を込める。


ふた跨ぎ、み跨ぎ

2021-08-08 10:27:51 | 旅する

先月末、栃木に出掛けた。(動画はこちら

あまり遠くには行けないけど、ほんの少し日常から離れてみたいと思っていた。いや、そんな時間が必要だった。そしてふと「カクテルの街」というフレーズを思い出した。

宇都宮はむしろ「餃子の街」として知られている。駅前には餃子の像もある。もちろん「餃子を食べに行く」というのも理由にはなるだろうけど、それは日帰りでもいいし、それよりもまず、僕がそれを望んでいない。餃子が嫌いという訳ではないものの、ぎょうざの満州で満足しているから…でもないか。まあ、それを食べに行くにしても買いに行くにしても、ちょっと距離はあるけど…と、餃子の話で引っ張るつもりもない。

金曜日、午後少しまで勤務をしてから職場を後にし、一旦家に帰り身支度を整えてから上野駅に向かった。17時少し前に出発する列車を選んだので余裕はあったけど、上野駅に着くとまっすぐ地下ホームに急いだほうがいいというタイミングだった。

各駅電車のグリーン席でも良かったけど、割引きっぷならほぼ同じくらいの金額でかつ所要時間が半分くらいならと、新幹線を選んだ。その割引きっぷ(トクだ値)は以前はチケットを発券して乗車するタイプだったけど、最近になりSuicaを利用するタイプに変わり、僕は今回それを初めて利用した。Webで購入後にSuicaと紐づけをして、それがされたことをメールで知らせてくれるんだけど、ANAのアプリ(他の航空会社も同様だと思う)のように、予約情報を確認することができればいいんだけど、モバイルSuicaアプリを立ち上げてもその情報を確認することができなかった。もしかしたらできたのかもしれないけど… で、新幹線改札を通過したらその旨メールで案内が届き、ようやくその仕組みを理解した。

上野から40分余りで宇都宮に着いた。各駅停車に乗っていたら、おそらく小山で途中下車し改札を出ずに駅そばを食べていただろうと、ほんの少し妄想し、ホテルまでの道を歩くことにした。ところが、思ったよりも距離があり、湿度も高く、マスク着用が暑さに追い打ちをかけた。「夕食抜きでカクテル」という漠然としたプランを持っていたものの、オリオン通りの居酒屋さんに入ることにした。

数件のお店が同居し、どのお店に席を取っても他のお店の品を注文することができるという。暑さで喉がカラカラだったこともあり、漠然としたプランを置いておき「飲み放題付けて!」と頼んだ。元が取れるなどとは思わないものの、注文の都度財布と相談する必要がないのはいいのかもしれない。

僕は、静岡おでんのお店に案内されたんだけど、考えてみれば、静岡に行った時もおでん屋さんに入った記憶はない。それが栃木県の県都である宇都宮でというのは、それはそれで面白いし、せっかくだからと静岡おでんを愉しんだ。

ちょっとした荷物に加え、「仕事の疲れ」、「暑さ」、「飲み過ぎ・食べ過ぎ」を背負い込んでホテルにチェックインしたのは20時過ぎ。ちょっと休んでから出掛けようとベッドに横になり、目覚めたのは22時をかなり過ぎた頃だった。「夕食抜き」は消えたものの「カクテル」を目指しホテルを出た。

事前に2件のお店に目星を付けていて、まずはホテルに近い果実酒が魅力的なお店に向かった。

エレベーターに乗り込んだら…今日から休業? 新型コロナウイルス感染再拡大の影響がもう出ていた。残念に思いながらもう1件を目指した。幸いなことに、こちらのお店は開いていて、先にいらしていたお客さんの楽しい語らいが聞こえてきた。

日頃バーに寄ることもなく、そういった嗜みを持っていたら…なんて頭で考えるより、メニューを開いて「これっ!」と思ったものを頼めばいい。お店の雰囲気もあり、一人静かにグラスを傾けていた。

ふと、横にいらした男性氏が席を外された際に、お連れの女性に会話を振られた。黒板に書かれたヴィンテージウイスキーが気になっているという。「しれっと頼んじゃったら?」と茶化すように返したのは、彼女がそんなことをする筈はないと思っていたから。実際、男性氏が席に戻られてからそのウイスキーを注文されていた。そして、男性氏が値切ることを忘れていなかったことに、そういうお客さんに支えられているお店だということを再認識させられた。

さすがに僕はそこまでの勇気はなく、それでも半分見栄を張りちょっとお高めのウイスキーを注文した。鹿児島と埼玉・秩父のウイスキーをブレンドしたそのウイスキーが放つアルコールに「これがウイスキーだった」と一瞬噎せ返り、舌を潤すような意識で口に含み、その香りを楽しんだ。時間とコストを考えるのは貧乏症の悪い癖だけど、このウイスキーは価格以上に楽しめるなと思った。

バーテンダーさんから、週明けには栃木でも蔓延防止措置が適用され、営業をどうされるかといったお話を伺った。感染が拡大する度にお酒を提供するお店がやり玉に挙げられる。確かに、大声で騒ぐようなお店はリスクが高いのだろう。ただ「独り酒、手酌酒」程度であればいいのでは…と、言い出したら切りがないのかもしれない。今は我慢の時、でも、我慢を強いるだけではなく、息継ぎのための確実な支援がないと、こういう憩いの場所がなくなってしまうのではと不安に思う。

落ち着いたらまた訪ねたいと思いながら、日付を跨いでホテルに戻った。

 

翌朝、まだ前夜の疲れが残っている中、宇都宮の街を散歩した。緑も多く、暮らしやすい街なのかなと思いながら。今までも行く先々で同じように思うんだけど、実際には思ったのとは違うのだろうというのもわかる。たまに訪ねるくらいがいいし、それを忘れないうちにまた訪ねたい。

ホテルの朝食バイキングには、千本松牧場のソフトクリームが並んでいて、迷わず食事の後にいただいた。「もう1回」と思ったけど、僕が最後のお客さんだったようで、早めに引き上げることにした。エレベーターに乗り込む際に入口の看板を下ろされていたのを見かけ、その判断は間違えてはいなかったと思えた。

前日の反省(?)を踏まえ、ホテルから駅まではバスに乗った。途中、前日通りかかった玩具店を車窓から眺めた。「黄ぶな」は無病息災を願うものだそうで、今だからこそ買っておくべきだったという後悔は先に立たず。これも旅あるあるだな。

宇都宮からローカル電車に乗り、黒磯に向かった。途中から蜻蛉が1匹迷い込んできてどうしたものかと思案していた。次の駅についても降りる様子が見られず、重い腰を上げて車外へと逃がしてあげようと思ったのだけど、換気口に吸い寄せられたりとなかなか簡単にはいかず、他のお客さんの手をお借りしようやく逃がしてあげられた。もしかしたら別の駅で降りたかったのかもしれないけど、自己満足かもしれないけど、あれで良かったと思う。

黒磯駅というと、各駅停車で東北線を北上する旅人が必ず足を止めなければならない場所だ。僕も8年ほど前にこの駅で乗り換えたけど、改札を出るのは初めてだ。で、駅を出てすぐ近くにきれいな建物があり、一旦は街に脚を踏み出したものの、暑さもありその建物に入った。

その建物は図書館で、中にはカフェも入っていてゆっくりと時間を過ごせる場所だった。乗り継ぐバスまで時間があったので、僕もジュースを1杯いただいた。

 

黒磯駅からバスに乗り、1時間ほどで板室温泉に到着した。で、この日の目的地はこちらの旅館。宿泊ではなく、アーティスト・久保田沙耶さんの作品展が開かれているのを知り、ついでと言ったら失礼だけど、せっかくだからと訪ねてみた。

宿泊のお客さんもおられる中、足早に作品を鑑賞した後に玄関先の小屋で休んでいたら、久保田さんご本人から声を掛けられた。お宿の方が気にかけてくれて彼女に伝えてくれたのだろう。

香川・粟島の『漂流郵便局』で出会って以来注目させてもらっていることなどを話しながら、彼女から今後の予定を伺った。「貧乏暇なし…」と謙遜されていたけど、今回の旅館での作品展もそうだけど、それだけ彼女の作品が注目されているということだと思う。で、紹介された展示会(曙橋・SYP Gallery、茨城県つくば市)にも足を運んでみたい。そして、いつかこちらの宿に泊まりに伺いたい。

 

 

ほんの少しとはいえ、ご禁制の県跨ぎを二つ、いや三つしての旅となった。最近は行く場所を詰め込まないようにしているけど、帰りのバスまでの時間をのんびり過ごせたのも良かったな。そう、久保田さんと「ここを訪ねるためのバスが少ない」ということから、「瀬戸内を巡る船旅に似ているかも」という話になった。

「いつになったらそんな旅を楽しめるようになるのか」と思うか、それとも「いつか楽しめるようになったらあそこに行きたいな」と思うか。もちろん二者択一ではないけど、今は後者を楽しめたらいいかな。