地球の裏からまじめな話~頑張れ日本

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証券関係の話題について、証券マンとしての意見を述べていきます

ライブドア問題~分割と時価総額と財務諸表と

2006-01-22 02:46:10 | ライブドア問題
どうも自分の頭の中が若干混乱気味なので少し整理してみたいと思う。

ライブドアの件に関して、仮に同社が違法な行為を行っていたのであればこれは証券マン的見地からも当然許されない行為であり、それはきちんと罪を償う必要がある。

しかしながら現在の報道を見る限りでは、決算報告書の虚偽記載に関してはそれは非常に分かりやすいので良いとして、投資事業組合と本体との関係云々、また正式合併公表前に既に本体と表裏一体の投資事業組合が事実上被買収企業の株式を買い取っていたと言うケースにおいて、当初は散々風説の流布が言われていたけれど、果たしてこの場合の本当の問題点は一体どこにあるのか、私自身良く見えない。
法的に見てどうなのか、この辺はきちんとした答えが出て来よう。

私が何よりこれらの件で問題にしたいのは、分割やら時価総額経営に関する世の中のご意見である。それらを証券マンから見たらそれはどう映るのか?
世の中特にマスコミの垂れ流し記事の大半は、違反行為と同列にこの辺のやり方をも、さもやはり違反であるかのように錯覚させる書き方をしているように見える。

また、現在話題になっている会計士の方のBLOGもざっと目を通させていただいたが、彼は時価総額経営云々は虚業の錬金術に過ぎない旨をおっしゃっているが、ではそれは私にはどう映るのか?

その辺の事をもう少し僭越ではあるが書いてみたい。

まずは分割であるが、これは我々からすれば、やはり「何が悪いの?」と言わざるを得ない。
きちんと企業には認められた資本政策であり、これを使って株主に対して報いるってのが基本的な考え方であるのだから。
ちなみに株式分割ってのは昔は無償増資と言われていて、私が証券会社に入った当初は「おお、○○社、無償だって!」みたいな言い方をしていた。
この分割なり無償てのは、昔から市場にとっては株価が反応する結構大きな話題であった。特に単位株が大きかった、すなわち基本最低単位が1000株がほとんど、って時代の「1割無償」ってことは株主は1000株持っていれば100株を貰え、また100株は取引単位ではないので、証券会社が当該企業に「買い取り請求」と言うのを代行して、その100株分は株主は現金で貰えたわけであるね。
堀江氏はこの分割を巧みに利用して、自社株数を激増させたわけで、また結果的に百円単位で買える株にしたため、株主数が激増して、被害を拡大した、と言われているが、果たしてそこに因果関係があるのかどうか、この辺の感覚が私は世間とはちょっとずれるのだ。
つまりどんなに分割をして株数を増やそうが、あくまでも株価は結果として上がっている訳で、基本分割しても当該企業に魅力を感じる投資家が少なければ株価は簡単には上がらない。
むしろ本当に株価を上げたければ、株式数が極端に少ない方が効果的であろう。
かつてYAHOOジャパンが上場したときの株数、数字は忘れたけど極端に少なく、結局品薄現象を引き起こして連日株価が高騰したのは、私がドイツに居た90年代の終わりごろだったと思う。
もちろん分割後、新株が印刷されるまでの間のタイムラグを利用して品薄現象を引き起こし云々、の報道も知っている。しかしあくまでもそれは制度上の問題点であって、仮に意図的に利用したとしても、結果的にそういうシステムになっているのだからこれは仕方が無いだろう。
これは分割では無いけれど、ある企業が大きな増資をした場合、その株券が出来て来るまでの間に、新株マーケットが立つケースがある。最終的にその新株は旧株と同じになる訳だけど、それまでの間、投資家はそこで売買が出来る場合がある。もちろん最初に「売り」を出来るのは新株をもらう予定者だけになるが、別に「買い」から入るなら誰でも出来るはずである。またこの旧株マーケット(と言うか通常のマーケット)と新株マーケットには実は多少の値段差が生じるので(これは基本流通量の違いによる)、その両者でのアービトラージをする投資家が居たりする。
受け渡しはその新株の正式発行日になるので、1ヶ月先とかになる。ちなみに記憶では、大きいところでは、NTTドコモが増資したとき、そのマーケットが立っていた、と思う。(確かドコモだったよなぁ)


確かに100分割!とかはマーケットにインパクトがある。それは今まで誰もやって来なかったから、ってのがそのインパクトが生じる理由だと思うが、それが諸悪の根源で中味のない錬金術と言う論法は少々証券マン的見地からすると短絡的に思えてしまう。
しつこいけれど株価の動きは基本その需給関係、すなわち売り手と買い手のバランスによって決まるわけで、そして各人が売り手になるか買い手になるかは各人のその会社に対する評価で決まるわけだ。
分割をすればそれだけ発行済み株数が増加するわけで、理論的には株式の希薄化(ダイリューション)が起こるので理論株価は下がる。それを分かっていつつもさらに当該企業に魅力を感じる投資家、つまり買い手に回る投資家が多いから、結局株価は上がる訳であって、分割=株価上昇を単に結びつけて、結論は派手な分割=悪の根源、と言う論調には納得できないのである。


時価総額。
果たしてこの時価総額を上げることがどうしていけないのだろうか。
どんな会社だって自社の株式の価値を高めるべく日々努力しているわけで、これは否定出来ない事実でしょう。
一般企業の経営者や社員の方たちは実は想像以上に自社の株価に敏感で、もちろんその会社が正しい方向に伸びていけばそれらは数字やら結果やらを通して投資家に認知されて株価が上昇するわけだ。
ストックオプション制度なんてのは、まさに「一生懸命やって会社が儲かれば株価が上昇するから、そしたらこのオプションを行使すれば一種ボーナスが手に入るぞ。行使価格を現在の株価よりも高い水準に設定するけど、それ以上の株価になるようみんなで頑張ろうぜ」ってことで、結局株価が高くなりゃ時価総額だって上昇するわけで、堂々と自社の時価総額を前面に出すことが何故いけないのか、不思議であるね。
マスコミは連日のLDのストップ安によって「LD時価総額xx億低下」「グループ全体での時価総額xxx億を失う」って書いているけど、それは事実だから正しい。
ただゆえに時価総額を前面にしてそれを売りにして来た姿勢をこき下ろすのはどうか。

この件でその会計士の方のBLOGのNo.2から少々抜粋させて頂くと、
『テレビに顔を出してはコメントしている大学教授、証券マン、証券アナリスト等、この人達は株とか企業の実態を本当にご存知なのでしょうか。疑問ですね。
(中略)
ホリエモンは、会社経営の基本は企業価値を高めることだ、というのですが、これについては全く異論はありません。ご説ごもっともです。
ところが彼の言っている企業価値とは、いったいなんでしょうか。どうやら株式時価総額と言われているものらしいのです。
(中略)
しかし、ここには大きなトリックがあり、ごまかしがあるのです。それは、企業価値イコール株式時価総額としていることで、この2つは似て非なるものなのです。このすり替えこそ、ホリエモン・マジックの中核となるものです。』

我々証券マンやアナリストの仕事はその会社の財務諸表を分析することだけでは無い。
会計士氏のご意見はもっともなのだが、我々の視点から見れば、時価総額の多寡だって立派な企業価値の尺度になる。もちろん「イコール」ではないかも知れないが、時としてそれがイコールとして捉えられる時もあるだろう。
また我々は、本業での利益やら、利益の伸び率、果ては配当性向やらPERやPBR、同業他社比較での競争力、その他業態によってはそれらのプロダクトの循環的要素、そして当該会社の次なる戦略やらを勉強して、そしてそれらを投資家の意見とすり合わせて将来の予測を分析して、ではこの株は現在高いか安いかを判断しているのであるね。
では氏の言う企業価値とは一体何なのか、ここに示されていないのは少々残念であるなぁ、と。

私のような一フロント証券マンが普段PLやらBSをじっくり見るなんて事は確かにまず無い。あるとしても決算発表の時くらいだろう。しかしながらその会社の株価を考える過程においては、上に述べたようにあらゆることを検討課題としている。つまり企業活動のある期間の集大成が財務諸表に乗っかり、それが発表されるのが決算発表でそれは物凄く重要であるけど、それだけじゃないのである。仮に決算数字が悪くてもそれがすぐに売り推奨に繋がるわけでは無いし、物凄く良い決算を発表しても中味は特別利益がほとんどで本業は変わっていないとなればもしかしたら売りを推奨するかもしれない。
財務諸表分析はあくまでも「現在完了形」であり、我々の仕事はどちらかと言うとそれは元にはするけれど「未来形」なのであるね。
ゆえに、氏がおっしゃる「この人達は株とか企業の実態を本当にご存知なのでしょうか」の部分の、証券マンやらアナリストが単にテレビに出ていた人たちを指すのであれば私には関係ないが、もし一般的な話をされているとしたらそれはちょいとカチンと来るな。

我々証券マンだって、ではLD社の様々な指標はどうなのかは知っているし、それは投資家の方々も一緒だろう。
時価総額2000億を豪語していても、それだけじゃないよね、ってのは株式投資をされている方はみんな分かっているはずで、それでも時価総額が2000億になったのは紛れも無く投資家のコンセンサスが「買い」だったからに他ならないわけで、それを上手に使って経営をしている側がどうこう言われるのはどうも筋違いな気がするんだよな。もちろんそこに不正があったならば、それは全く別な話なので、しつこいけど念のため。

とりあえずやっぱりまとまりの無い文章で申し訳ないけれど、本日は以上。