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グローバルシステム---現状分析3;問題の整理と分析

2011-09-25 | ことばとコンピュータ
2.現状分析と改善提案
ここでは、現状調査で見つけた問題の分析と改善提案の方法をサンプルで説明する。

(1)問題の整理と分析
ヒアリング中に見つけた問題(Issue)は、業務フローの右端の摘要欄にその内容を説明する。すべての調査を終えたとき、業務フローから問題だけをエクセル(Excel)でコピーして一覧表にまとめる。下の表は一覧表のサンプルである。

                問題の一覧表(サンプル)
 出典:筆者著“生産管理の理論と実践” COMM Bangkok、2010

サンプルの左端に示す「分野」「Issue No.」「問題の内容」は業務フローからコピーしたものである。右端の「原因機能」は問題の原因になっている機能である。サンプルに示した原因機能の他に必要な機能があれば追加して良い。

たとえば、上のサンプルのIssue 1-1(問題1-1)は、「基礎情報」「見積り・受注」「原価計算」の不備による問題と仮定する。したがって、これらの欄の○印を付けた。この要領ですべての問題の原因を特定して、該当する機能に○印を付ける。

(2)改善提案
すべての問題の原因を特定し終えたとき、類似した問題をグループ化して、改善策を検討する。このとき、原因機能別の○印の数をサンプルに示すようなグラフにして、今 工場で起こっている問題の傾向を読み取る。また、工場の整理整頓や従業員の態度なども参考にする。

さらに、ヒアリング中に頭の中で模索していた改善案を、ここに整理した情報にもとづいて具体的な改善提案へと発展させる。

具体化した改善提案に番号を付けて、下の表に示すような「改善提案の一覧表」を作成する。この表は、改善提案とその提案が解決する問題を示している。また、それぞれの改善提案の具体的な内容、改善に必要な日数の推定、期待効果、推定コストをA4版用紙2~3ページにまとめる。このとき、改善提案を業務改善とシステム改善に分けておく。

                改善提案の一覧表(英語版のサンプル)

外国での現状分析は、サンプルのように現地社員も理解できる英語で記述するのが望ましい。英語で記述すれば、日本語から現地語への翻訳の手間とコスト、さらに誤訳なども防止できる。

次に、改善提案の優先順位を決定する。この決定には関係者全員が参加する。

これは経験則になるが、業務とシステムの改善からそれぞれ3つの改善を、優先順位の高い順に選択する。改善提案を6つに絞り、担当者(業務と兼任)を指名して、正式なプロジェクトとして提案を実行する。残りの提案は、関係者の課題として自発的な改善活動に委ねる。

以上、現状分析の手順を簡単に説明した。この方法は、工場に限らずあらゆる業界に応用できる。

最後に、過去の経験から次の点をアドバイスする。
1)現状分析は、最初から最後の改善提案までを一人の分析者で実施するのが望ましい。
  理由:
  1.複数の分析者が分業すると判断に個人差が生まれ、現状分析の一貫性が損なわれる。
  2.複数では、その日のヒアリングをその日中に業務フローに仕上げるのは困難になる。
  3.チームワークの報告書は分厚く、かつ総花的になる。しかし、中身の切れ味は悪い。
2)ヒアリングは工場と事務所の直接作業者からだけ、管理職からはヒアリングしない。
  ただし、実務をこなす管理職からのヒアリングは実施する。
  理由:
  1.現在のあるがままの姿を調査するのが目的である。むろん結果は管理職に知らせる。
  2.日本では、本音と建前を注意深く識別する。
  3.ヒアリングでは、自由回答型質問(Open-ended Questions)を多用しない。
  例:あなたはどう思いますか?

次回の現状分析4は、タイの日系工場の改善事例を紹介する。

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グローバルシステム---現状分析2:調査の方法

2011-09-09 | ことばとコンピュータ
(2)調査の方法
ここでは、工場(製造などの直接部門)と事務所(生産管理や経理などの間接部門)を例にとって説明する。

まず、各職場の管理職とリーダークラスの人々に現状調査の方法を、次のように説明する。
1)ヒアリングを受ける作業担当者は、現状だけを説明する。(今後の目標や計画の説明は不要)
2)ヒアリングのための資料作成は不要
3)製造現場の作業担当者からのヒアリング時間は、5~10分程度
4)必要に応じて、使用中の帳票を1枚だけコピーする。
5)翌朝、昨日のヒアリング内容を業務フロー(業務の流れ図)で確認する。所要時間は、5~10分程度

工場の作業だけでなく、製品データの管理、売掛/買掛や原価計算なども調査する。

(3)業務フローの作成
工場内でのヒアリング調査は、直接材料から仕掛品、仕掛品から完成品に向う流れに乗って進める。枝葉の流れにはあまり時間を費やさない。受注や経理処理などの間接部門の作業は、帳票の流れとシステム処理(入出力作業)にしたがってヒアリングを進める。

ヒアリングで得た業務の内容を、エクセル(Excel表計算シート)に展開する。エクセルシートは、A4縦、上辺幅5分の4のスペースを業務フロー作成に使用、右端5分の1のスペースを摘要欄に使用する。業務フローのスペースの中央に、ボックス(箱型の枠)を描き、その中に作業名を書く。たとえば、「電話による受注」や「最終組立て」などのボックスを作る。

ボックスの左側に使用する材料や帳票(Input:インプット)、右側に作業で作成した品物や帳票(Output:アウトプット)を矢印で示す。ボックスの替わりに業務システムの画面でも良い。

そのボックスの下に次の作業のボックスを書き、下向きの矢印で連結する。次の作業では、新しい材料や帳票、あるいは上のボックスのOutputの一部が、下のボックスのInputになる場合もある。

ボックス(作業)の順序を、できるだけ上から下に流れるように配置する。また、各作業のInputとOutputの流れを左から右に流れるように配置する。もちろん、作業の都合で逆方向の流れも起こりうる。他のページに続く時は、結合マーク(Connector:野球のホームベースの形)に記号を記入して、続き先に結びつける。このような作業や帳票や物の流れ図を、ここでは業務フローと呼ぶ。

必要に応じて、作業で使用したり作成する帳票を1ページだけコピーし、参照番号(Ref. No.)を付与する。参照番号付きのコピーは、参照資料として別冊にまとめて現状分析報告書に添付する。

もし、InputやOutput(帳票や品物)や作業の内容に問題があるとき、問題がある箇所の真横、摘要欄に問題の内容を簡単に説明する。問題の場所と摘要欄の内容説明を問題番号(Issue No.)で結びつける。問題がある部分と説明文に色付けして、視覚で関連付けることもできる。また、黄色と水色を交互に使い分けると、問題の混同を避けることができる。

                業務フロー(英文)のイメージ
 出典:筆者著“Theory and Practice of Production Management," COMM Bangkok, 2011

摘要欄の説明は短く、長くても50字を超えないように配慮する。後程、問題番号とその内容を一覧表に整理して、現状を分析する。

業務フローを作るとき、次の点に注意する。
1)ヒアリングは15時頃に切上げる。残りの時間で、明日までに業務フローを仕上げる。
2)帳票のコピーが必要なとき、そのコピーを手にするまで、次のヒアリングに移動しない。
  「後で下さい」ではなく、その場で入手する。(業務フロー作成に必要)
3)些細なことでも、気がかりな点は、問題番号を付けて右の摘要欄にメモする。
  職場の雰囲気や整理整頓、作業環境の気掛かりな点も記録する。
4)今日中に作成したフローを翌朝一番に、ヒアリングした人に確認する。
  口頭でなく業務フローで確認するので、短時間で終わる。
5)海外工場の場合は、業務フローを英語で作成する。業務フロー(英文)のイメージ参照
  英文による問題点の説明は、メモ書きのように英単語を並べるだけでも良い。(長文は禁物)
  (注)たとえば、タイでは技術系の「英/タイ辞書」は語彙も多く充実している。
  このため、現地社員にとっては和文より英文の方が辞書を引きやすく、また理解し易い。

現状調査の分析方法や注意事項は、次回の現状分析3で説明する。


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