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「雨族」
断片68- ぷーたろー
13年後~⑩
結局、ユウちゃんはホテルにメガネを取りに戻り、その間に我々は、マユミとコージを砂に埋めた。
彼らの上に砂を山盛りにし、マヤ文明の文字のようなものを、僕は刻んだ。
クロエとチカは、あちこちから流木を拾ってきて、そこに突き刺した。
砂製の奇妙な古代遺跡が誕生した。
自力で砂から抜けられなくなったマユミとコージを残して、僕とクロエとチカは再び海に泳ぎに行った。
「出してくれー出してくれー」
と、砂に埋もれた2人がハミングしていたが、放っておいた。
僕たちは今度は大波に気をつけながら沖へと沖へと、どんどん泳いで行った。
さっきの夢がフラッシュバックしてきた。僕は頭を振ってさっきの夢の残滓を追い払い、ぐんぐん遠くへと泳ぎ続けていった。
クロエとチカが、ずっと後ろの波間に見え隠れしている。遠くで監視員が僕に注意をしているようだ。
僕は泳ぐのを止め、仰向けに海に浮んだ。 ぷかりぷかり。
いつか見た夢のデジャヴ。
僕は手足を、じっと波にまかせて揺れている。光。海原。空。薄い雲。
僕は水で、できている。水でできている僕が、水でできてる惑星に浮いて、夕暮れの天空に目をこらしている。
誰も、ここまで来ない。海と風の音だけがする。
僕は、このまま、ぐっと体を固くして沈んでゆく事もできる。水死体になって水の中で一人、漂う。
僕は何ができるのか?これから僕は何をするのか?いったい僕と言う存在は、どんな老人へと変化してしまうのだろうか?クロエは、これからも僕と暮らすのだろうか?チカに僕は好意を抱き続けるのだろうか?ターボーは、ドラッグをやめないのだろうか?ユウちゃんとコージは、いつまでブラブラしているのだろうか?僕は本気で笑えるだろうか?僕は悲しいんだろうか?苦しいんだろうか?楽しみとは何だろう?一般的とは正しいと言えるのだろうか?何故、基準が作られるのだろうか?働く事は正しい事だと誰が決めたんだろう?
働かず、一般的でないという理由で、社会は、ありとあらゆる面で人を孤立させ、生を奪ってゆく。
いつの日か、僕にも幸福が訪れるだろうか?僕の幸福って何だ?
いつの間にか僕は、波に押されて、砂浜の見えるところまで来ていた。僕は体を反転して、ゆっくりと浜に向かって泳いだ。泳ぎながら皆の姿を探したが、誰も見あたらなかった。
砂浜に上がって、マユミとコージを埋めた場所に行ってみると、ボコッと穴が2つ並んでいた。ビーチマットのところへ行くと、もう、そこには砂しかなかった。
僕はずいぶん長い間、ぷかぷか浮いていたようだ。そういえば、あたりが、だいぶ暗くなり、ひと気も失せている。
僕は1人、とぼとぼと夕暮れの砂浜をホテル目指して歩いた。
皆、どこかへ行っちゃった。
僕を残してホテルに戻ったんだろう。
断片68 終
This novel was written by kipple
(これは小説なり。フィクションなり。妄想なり。)
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