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「雨族」
断片69- ぷーたろー
13年後~⑪
更衣室でシャワーを浴びて、ジーパンとTシャツ姿になって部屋に戻ると、ユウちゃんがメガネをかけてタバコを吸っていて、その横で、まだ、ぐーすか眠っているターボーを指さした。
「コージと女どもは花火と菓子を買いに行ったよ。ターボーは、このとおり死んでるよ。復活したら恐ろしいよ」
とユウちゃん。
「夕食を喰いに行く時に、起こせばいいさ」
と僕は言い、時計を見ると6時だった。
しばらく沈黙が訪れた。僕もタバコを吸い、寝転がって天井を見つめた。黒い気味の悪いしみが、ところどころに広がっていた。
空虚。何だかとても空虚な気分に充たされた。
僕は何だか、このまま2度と動けなくなってしまうような気がした。そこで、思いきって、ターボーを蹴っ飛ばしてみた。
「ぐおう」
という叫びが上がった。そして、ゆっくりとターボーは上半身を起こして、片方ずつ足を上げた。
「ここは、どこだ?」
とターボーは言った。
僕とコージはニヤニヤ笑っていた。ターボーは頭を何度か、ぶるっぶるっっと振り、両手を閉じて開いて、タバコをくわえた。
「海か?皆、もう泳ぎ終わったのか。くそ、俺は酔って寝ちまったんだ。お前ら、何で起こさなかったんだ。俺は泳ぎたかったんだ」
とターボーは目つきを険しくする。
「さあ?なんとなく、そぉっとしておいたんだ」
とユウちゃんが言い、
「ここは海だ。明日も泳げるよ」
と僕が言った。
ここは、どこだ?か、と僕は思った。僕は本当はどこにいるんだろう?本当は、どこにいるべきだったんだろう。ただただ過ぎて擦り切れてゆく人生の時間と空間の中で、僕は、どの位置にいるんだろう。
僕は子供だった。少年だった。青年だった。そして中年になって老人になってゆく。どこだ。全然違う場所にいる事だって、できたはずだ。
どうして、ここにいるんだろう。30才くらいから、僕はよくこうした疑問にかられる。そして何の解答もなく、どこへいくのか分からない。
ここは、どこだ?わからない。
そうして、いつか、ふっと死んでゆくんだろう。
3人で、ぼぉ~っとタバコを吸っていると、コージたちが大量の花火と菓子類を買って戻って来た。
女たちが入ると途端に賑やかになった。どの菓子がユニークだとか、どの花火が過激そうだとか、ホテルの「マツモトタダシ」という名札をつけた受け付けがマヌケだとか、わいわいやってる。
ユウちゃんもターボーも参加して、ゲラゲラ笑っている。僕は何だか頭の芯が、もわぁ~っとしてきたので、いま一つ話に乗れず、うつろな目をして皆の顔を順番に見ていた。
でも何だか楽しかった。
こめかみから何か、もやついたものがスルスルと、抜けていくような気がした。
7時頃、皆で夕食を食べに行った。
皆で料理の批評をしながら食べた。まずいけど、こんなもんっしょ、という結論に至った。
僕は生来、どんな食べ物をもあまり旨いと思った事がない。特にまずいと思った事もない。
食事。それは、唯、腹を満たし栄養を摂取するだけのものとしか思えない。旨いも、まずいも無い。どうでもいい。ただ食べればいい。
こういう面でも僕は一般的ではないのだろうか?他人は本当のところ、腹の底でどう思っているのだろう?分からない。でも、どうでもいい事だ。
僕は僕のどっかの根っこの部分で食事が嫌いだ。
生物の命を大量に奪って摂取する。死骸を切り刻んでこねくり回して飾りつけ味を付けて喰う事を楽しむ。そんな事をする暇があったら、ぼんやりと空でも見てた方がよっぽどマシだと思う。
世の中から食事というものが無くなってしまえば、どんなに良いだろう。
僕は、よく、そう思う。
断片69 終
This novel was written by kipple
(これは小説なり。フィクションなり。妄想なり。)
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