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「雨族」
断片20-焼却場Ⅳ~F・クラウネン
落合さんは微かな品の良い笑顔のまま、僕に近づいてきて乾いた手で握手をするとブルーのスーツの男を紹介してくれた。
「こちらは、{えふ}ぼっちゃまです。動力ぼっちゃまの双子の弟なんですよ」
やはり、F・クラウネンだった。落合さんは続けた。
「動力ぼっちゃまに双子の弟がいたなんて、ご存知無かったでしょう。ちょっとした事情がありましてね。{えふ}ぼっちゃまは生れるやいなやクラウネン家の手の届かない政府のラボに隔離されてしまいましてね ・ ・ ・」
僕は、その時、室内の冷ややかな空気が細かい氷の繊毛に変異した様に感じた。
F・クラウネンが突如として振り向いて突き刺さる様な声を発したのだ。
「落合!それ以上言うな!」
F・クラウネンは一言怒鳴るとナイフでザッパリと切り裂いたような口を閉ざして僕の顔を貫くように見た。
彼の眼差しは実際、僕を通りぬけ、背後の壁さえ通りぬけ、永劫の彼方の絶望的な暗黒世界を凝視しているみたいだった。
僕は、ごく必然的に彼の目を見返した。
そして彼の両目の色が違う事に気が付いた。
右目が、瞳孔がほとんど確認できないような古いコンクリート壁のような灰色で、左目が、薄いブルーだった。
彼はどう見ても人間ばなれしていた。
茶色の薄い眉毛に人工的にそげた頬。
僕は、これこそ誰もが冷酷な顔だと認めざるを得ないだろうと思った。
F・クラウネンは、僕に興味を失ったとでもいうようにふらふらと視線をずらし、ぼそぼそとつぶやいた。
「お前が{ロミ}か。兄貴に俺の事は聞いているだろう。俺は今どういう気分に陥っているかわかるか?」
僕は彼が何を感じているのか全くわからなかった。
死神とでも対話しているような雰囲気なのだ。
僕は細かく震えるように首を振った。
「俺はお前を射殺したい気分なんだ。兄貴は俺に射殺される時にお前の事を頼むと言い残していった。お前を援助しろとな。ところがお前は醜悪だ。平凡きわまりない中年男だ。貧相な特徴の無い顔、狭い肩、薄い胸、ふくらんだ腹、短い足、ぼさぼさの髪。先が思いやられる。いいか、これから俺はお前の相棒になるんだ。くそ!俺は兄貴の頼みごとだけは絶対守るんだ」
僕は傷ついた。
僕は、あまり人は嫌いにならないたちなのだが、F・クラウネンに関しては、すぐに潰れた芋虫よりも嫌いになった。
僕の方こそ彼を射殺したかった。
それに彼の言っている内容が僕には感情的にとても理解できなかった。
兄を射殺しておいて兄を敬愛している口調なのだ。
僕はその事を考えているうちに、何故か“ベラクルス”という映画を思い出してしまった。
バート・ランカスターがゲーリー・クーパーに撃たれニヤリと笑って死んでいく。
ゲーリー・クーパーはバート・ランカスターの事を敵対しながらも評価していて、それでも決闘しなければならない。
死にゆくバート・ランカスターがクーパーに誰かさんの事を頼むと言い残しても、それはそれで納得できるのだ。
ひょっとしたら、FとD・クラウネンの関係はそんなものだったのかもしれない。
しかし、F・クラウネンはどうみても、そんなタイプの人物には見えなかった。
でも、人は見かけによらない。
断片20 終
This novel was written by kipple
(これは小説なり。フィクションなり。妄想なり。)