ようこそRAIN PEOPLES!超バラバラ妄想小説『雨族』の世界へ! since1970年代
「雨族」
断片22-焼却場Ⅵ~F・クラウネン③
僕は今し方、抱いた針の先ほどの好感を撤回し、唯一の肉親を撃ち殺し客観的で不敵な笑いを浮かべる、その神経に驚愕し嫌悪した。
こいつは蛇だ。
地の底の悪鬼に魅入られた蛇だ。
僕は、まじまじと蛇男F・クラウネンを観察した。いったい、どういう奴なのだ?
年齢不詳。
彼はD・クラウネンの双子の弟なのだから確実に三十三歳であるに違いないのだが彼から年齢を読み取るのはクラゲの年令を読み取る様なものなのだ。
彼の着ているメタリックなぴったりとしたブルーのスーツがまた訳のわからない異界的なスクランブルな印象を与えていた。
どうして僕は、この男の相棒にならなければならないのだろう。
できたら、それは避けたい。とても避けたい。
僕は視線をずらし、窓から細かい雨に打たれて小さく震える灰色の風景を眺めてから、落合さんに笑いかけた。
落合さんも優しく笑った。
そして小さな声で僕に言った。
「{えふ}ぼっちゃまの言うことは、気になされないように。{えふ}ぼっちゃまは、とても変わっていますから。{えふ}ぼっちゃまは自分の事をデウス・アブスコンディタスだと言っておるんです。そういう風に理解すれば良いのですよ」
デウス・アブスコンディタス。
神は愛を怒りの中に隠して表現する。
こいつは神か!
「それに{えふ}ぼっちゃまは三年間イスラエルの死海で一人で過ごしておりまして、ついこの間帰ってきたばかりなのです。まだ日本人社会の人間関係に馴染めないのです」
死海?
僕は、これ以上の混乱を避けたいので、とりあえず彼の性格をこう規定する事にした。
デタラメ。
彼は無神経で冷酷でデタラメなのだ。
とりあえず、そう思っておく事にした。
その方が彼を、デウス・アブスコンディタス的性格と考えるより、ずっと理解しやすい。
生後、すぐに政府のラボに隔離されたり、三年間、死海で過ごしたり、双子の兄を撃ち殺したりした謎が明らかにされていけば、それはまた変わってくるかもしれない。
僕はさっきから彼を完璧に嫌悪しながらも妙な魅力を感じていた。
ひょっとしたら彼は冷酷な運命の力によって、僕には想像もつかないような精神構造を形成してしまったのかもしれない。
でも、今はデタラメなんだ、と考えよう。
精神異常者だとだけは考えたくなかった。
F・クラウネン。デタラメな男。
彼はいつもデタラメな行動をして人を驚かす。
デタラメの為に死海で三年間一人で過ごし、デタラメの為に兄貴を撃ち殺した。
デタラメという目的のために。メチャクチャだ。
僕だって、デタラメなんだ。
皆、メチャクチャでデタラメで何もわからず、そうして、ある日突然、死んでいってしまうんだ。
断片22 終
This novel was written by kipple
(これは小説なり。フィクションなり。妄想なり。)