セルロイドの英雄

ぼちぼちと復帰してゆきますので宜しくお願いしまする。

【映画】ドッグ・デイズ

2006-05-29 00:39:19 | 映画た行

"Hundstage"

2001年オーストリア
監督)ウルリヒ・ザイドル
出演)マリア・ホーフステッター アルフレート・ムルヴァ エーリヒ・フィンシェス ゲルティ・レーナー フランツィスカ・ヴァイス ルネ・ヴァンコ クラウディア・マルティーニ ヴィクトール・ラートボーン クリスティーネ・イルク ヴィクトール・ヘンネマン ゲオルク・フリードリヒ
満足度)★★★★ (満点は★5つです)
シアター・イメージフォーラムにて

無目的にヒッチハイクを繰り返す女。異常に嫉妬深い恋人に悩む若い女。子供を交通事故で亡くし離婚した後も同じ家に同居する元夫婦。家政婦に亡き妻の服を着せストリップをさせる偏屈な老人。酒に酔った恋人とその友達によって乱暴な仕打ちを受ける女教師・・・。
夏のある日、ウィーン郊外の住宅地で繰り広げられる異常な人間模様を描いた群像劇。
2001年度ヴェネチア映画祭審査員特別大賞受賞作。

かのヘルツォークが「私はザイドルほどには地獄の部分を直視してはいない」とのたまわった、という不快作。

ウィーン郊外の小奇麗な住宅地、登場人物達はまあ普通の人々。
群像劇とは言え全ての挿話が最後に鮮やかにつながったり、ドラマチックに展開したるするわけでもなく。

じゃあ、何が「地獄」なのかと言うと、それはもう登場人物達の存在そのものが地獄、としか言いようが無い。身も蓋も無いですが。

この映画の登場人物達、とにかくその一挙手一投足がとにかく醜い。
デップリした腹を見せながらストリップするメイドの女性とそれを見つめるやはりデップリした老人。
乱交パーティに出入りする中年の女性。
若い恋人を待つ間念入りに化粧をする女教師。
その体型、その行動、その言葉、全てがとにかく醜悪。

そして狂言回し的に登場するヒッチハイカー・アナ。ある意味無垢な存在である彼女にも監督は容赦ありません。拾って貰った車の中で無邪気に人の欠点を指摘したり、聞かれても無いのになりやすい病気ベスト10をべらべら喋り続ける彼女もとにかく不快。
物語の終盤で彼女にある悲劇が訪れるわけですが、それさえも当然の報いにさえ見えてしまう。

この作品の登場人物、ほとんどが演技経験の無い素人の方々が演じているようです。
僕はこれがこの作品のミソだと思います。つまり、これがプロの役者が演じていたら、不快さをうまく演じてしまい、もっとフィクショナルになってしまったような気が。
素人だからこそ、自然に不快さを出せたというか。
もっと言ってしまえば、演じなくても普通の人間というのはそこにいるだけで不快なものなのかもしれず、それがまさにヘルツォークがこの作品に感じた地獄なのかもしれません。
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【映画】レント

2006-05-20 23:47:11 | 映画ら行


"Rent"

2005年アメリカ
監督)クリス・コロンバス
出演)アダム・パスカル ロザリオ・ドーソン アンソニー・ラップ ジェシー・L.マーティン ウィルソン・ジェレマイン・ヘレディア テイ・ディグス トレイシー・トムス イディナ・メンゼル
満足度)★★★ (満点は★5つです)
シネプレックス幕張にて

売れないロック・ミュージシャン、ストリート・パフォーマー、ダンサー、映像作家。
エイズ禍吹き荒れる1989年、ニュー・ヨークのイースト・ヴィレッジの若い芸術家達は家賃(rent)も払えない貧乏生活を送りながらも夢を持って生きている。
そんなイースト・ヴィレッジに再開発の話が持ち上がり、彼らは立ち退きを迫られるが・・・。
大ヒットしたロック・ミュージカルをほぼオリジナル・キャストで映画化。

この映画の予告編、良かった!
というか主題歌とも言える、"Seasons of Love"のキャッチーさったら無い。

  52万5,600分、あなたは1年を何で計る?
  日の出の数?夕日の数?夜中に飲んだコーヒーの数?
  ねえ、愛の数で計るってのはどう?


うーん、歌詞も素晴らしい。ロック・ミュージカルというと、大仰にアレンジされた野暮ったいロックのイメージが強くてまず観に行く気が起きない僕でさえ劇場に足を運ばせてしまうこの歌の説得力たるや。

この作品、まさに舞台に主要キャストが並んで無人の客席に向かってこの歌を歌うシークエンスで幕を開けます。

  あなたは1年を何で計る?
  彼女が学んだ真実の数?彼が泣いた数?
  彼の別れの数?それとも彼女が死
んだことで?

段々ゴスペル調に盛り上がる出演者たち。無人の観客席の向こうの僕ら観客たちにもその高揚感が伝わってくる素晴らしいオープニング。

・・・僕にとってこの映画はここまででした。本編はもうおまけみたいなもので。
いや、金は無いけど夢と時間だけは無限にある若い芸術家達の友情物語、ステロタイプな話ではあるけれど、これは良いんですよ。夢見る年齢を過ぎた僕(泣)でも(だからこそ?)グッと迫ってくるものがある。

だけどですね、ミュージカルの肝である音楽が自分の好みからするとやっぱり大仰すぎてダメでした。すごく野暮ったく聴こえてしまい。
まあ、これは好みの問題なので、この音楽に抵抗の無い人には感動できる作品なんだと思うし、ヒットしているのも頷ける内容ではあります。

ああ、"Seasons of Love"だけ欲しいんだけどなあ。これだけのためにサントラを買う気にはならないし、この曲シングルになってないのかな?

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【映画】僕の大事なコレクション

2006-05-20 22:28:27 | 映画は行

"Everything Is Illuminated"
2005年アメリカ
監督)リーブ・シュライバー
出演)イライジャ・ウッド ユージーン・ハッツ ボリス・レスキン ラリッサ・ローレット
満足度)★★★ (満点は★5つです)
アミューズCQNにて

ユダヤ系アメリカ人の青年ジョナサン(イライジャ・ウッド)は、ウクライナから移民してきた家族の記念となる物なら何でもコレクションし、ジプロックに保管したそれらのガラクタを壁に貼り付けている。
ある日、ジョナサンは病床の祖母から1枚の古い写真を受け取る。それは若かりし頃の祖父が若い女性と並んだ写真だった。
一族の来歴に興味を持ったジョナサンは、写真に走り書きされていた「アウグスチーネとトラキムブロドにて」というメモを頼りにウクライナに飛ぶ。

ずーっと前なのですが、『舞踏会へ向かう三人の農夫』(リチャード・パワーズ著/柴田元幸訳・みすず書房刊)という本を読んだのを思い出しました。詳細な内容はよく覚えてないのですが、一張羅を着て農道に佇む無名の3人の農夫を写した古い写真から、彼らの人生を想像して物語を紡ぎあげてゆくなかなか読み応えのある小説でした。

この小説の面白いところは、無名の人間に焦点をあて、その写真の中の佇まいだけを頼りに物語を膨らませていったところであり、それはこの映画にも言えることだと思います。

若い頃の祖父と若い女性がただ突っ立っているだけの写真。それはただの古い記念写真でしかないし、そこにはドラマのかけらさえ無い。
だけど、ジョナサンが、珍道中の末に現地の案内人アレックス(ユージーン・ハッツ)とその祖父(ボリス・レスキン)と共に祖父の故郷トラキムブロドを探し当てた末に知ったその写真の背景にある物語の重み。
それはその平凡な写真からは想像できないような苛烈なものだったし、その写真が導き出した真実は道行を共にした3人全てに大きな影響を与えるわけです。

平凡でつまらない物でも、人が触れてきた物にはその人の歴史が刻まれており、それが後世の人間を啓発する。"Everything Is Illuminated"というちょっと風変わりな題名には多分こういう意味がこめられていたんだと思います。

という、なかなか面白い題材の作品ではあったのですが、映画作品として観ると、いささか中途半端な印象でした。何と言うか、メリハリが利いていない。エキセントリックで潔癖症なジョナサンとクストリッツァ作品の登場人物のようなウクライナ人家族。面白そうな組み合わせなんですけどね、どこか手堅くまとめすぎたような印象。

イライジャ・ウッドは『エターナル・サンシャイン』『シン・シティ』に続いてまもやちょっと変わった役。この後には『フーリガン』なんていうのも控えていて。いよいよフロドの印象を払拭できそうです。
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【映画】隠された記憶

2006-05-07 23:31:36 | 映画か行

"Caché"
2005年フランス/オーストリア/ドイツ/イタリア
監督)ミヒャエル・ハネケ
出演)ダニエル・オートゥイユ ジュリエット・ビノシュ モーリス・ベニシュー ワリッド・アフキ レスター・マクドンスキ
満足度)★★★★ (満点は★5つです)
ユーロスペースにて

テレビの人気キャスター・ジョルジュ(ダニエル・オートゥイユ)と出版社に勤めるアン(ジュリエット・ビノシュ)は一人息子のピエロ(レスター・マクドンスキ)とともに、典型的な中産階級の家族として裕福な生活を送っている。
ある日、そんな彼らの家の軒先に何者かが置いていった1本のビデオ・テープ。彼らの家をただ延々と撮り続けただけのテープに初めは初めは取り合わないジョルジュ達だったが、続けて送り付けられてくるテープの中身は段々エスカレートしてゆき、その内容にジョルジュは徐々に幼少時の記憶を呼び起こされる。


冒頭、固定されたカメラで延々と写されるジョルジュの家。通りがかりの人々、時々横切る自動車、通勤に向かうアンの姿。
いつもと同じ朝の光景なのですが、そこに突然声がかぶさり、画面が巻き戻される。そこで観客はそれがビデオ・テープだということに気付く仕掛けです。
今まで観ていた平和な風景が突然何やら不気味なものに観えてくる、そんな軽い驚きを感じるウマイ演出。
自分達の日常だってもしかしたらこんな風に脆いものなのかもしれない、そんなことまで考えさせてしまう見事なツカミです。

それにしてもこの作品、感想が書きにくいです。
基本的にはミステリーなので、どうしてもその肝とも言えるオチに触れたくなってしまう。しかもそのオチがまた分かりにくい、というかどうとでも解釈できるようになっていて。
ラストで全ての謎が解決されることを期待していると肩透かしを食らいます。
むしろ本当の謎解きはそこからはじまるわけで、それは観客ひとりひとりが家に持ち帰らなければならない、という。
一人で観に行くのは辛い作品ですよ。
終わってからどうしても「あれはどういうこと?」と語り合いたくなる。
そこまで含めての作品、という気がします。

ちなみに僕はその「衝撃のラスト」、全く気付きませんでした。
かなり待ち構えていたんですけど、気付かないま画面が暗転。
あそここそ是非巻き戻して頂きたかった(笑)。

全く気付かなかっただけに、何と言うか、この映画の良さを半分も分かってないのではないか、なんて思わされてしまうところもあるのですが、分からなくてもこの作品は十分面白い。
それはこの作品がただの謎解き映画なのではなく、現在のフランス、ひいては世界の不安な空気をしっかり掴み取った、その骨太さにあるのではないか、と僕は思います。
コメント (20)
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【映画】グッドナイト&グッドラック

2006-05-07 20:55:47 | 映画か行

"Good Night, and Good Luck."
2005年アメリカ
監督)ジョージ・クルーニー
出演)デヴィッド・ストラザーン ジョージ・クルーニー ロバート・ダウニー・Jr パトリシア・クラークソン ジェフ・ダニエルズ フランク・ランジェラ レイ・ワイズ
満足度)★★★★☆ (満点は★5つです)
ヴァージン・シネマズ六本木にて

1950年代アメリカ。ますます高まる東西冷戦の緊張下、共産主義者排除という大義を掲げた上院議員マッカーシーは強引な告発を全米で行う。彼を批判しただけで共産主義者・国家への反逆者と見なされるような雰囲気の中、マス・メディアも大っぴらな批判を避けていたが、CBSの看板キャスター・エド・マロー(デヴィッド・ストラザーン)は敢然とマッカーシズムに立ち向かう。
実在の反骨の放送人・エド・マローの戦いを描いた実録映画。

アメリカ映画史にも大きな影を残すマッカーシズムですが、それを真正面から扱った映画作品って意外に少ない、というか聞いたことが無いような気がします。この問題、いまだに業界ではタッチーな話題なのかな?
なにしろ仲間を調査委員会に売ったエリア・カザンが後年オスカーの授賞式で名誉賞を取ったときにも相当数の参加者が拍手しなかったそうですから、いまだにその傷は深いのかもしれないですね。

そんな現代アメリカ政治史の汚点を反骨のハリウッド・セレブ・ジョージ・クルーニーが映画化したわけですが、これがなかなか洗練されたウェルメイドな作品に仕上がりました。

全編モノクロの社会派作品で、作りは相当地味です。
この作品から受ける印象は、例えばシドニー・ルメットの『十二人の怒れる男』やロバート・ロッセン(この監督も確かマッカーシズムの犠牲者)の『オール・ザ・キングスメン』のような、往年のハリウッド社会派作品に似ているかもしれません。
まあ扱っている題材が1950年代ということでそう思っただけなのかも知れませんが、少なくともその志に同質のものを感じました。

そんな生真面目な作品で主役エド・マローを生真面目に演じたのがデヴィッド・ストラザーン。
これがまたえらくカッコイイわけです。
毅然とした調子でマッカーシーを告発するエド。
放送の後、ほっと煙草を燻らせるエド。
全くもって大人の男の色気全開です。
この役者さんの演技を観に行くだけでもチケット代払う価値あり、です。
フィリップ・シーモア・ホフマンが受賞した今年のオスカー主演男優賞でしたが、デヴィッド・ストラザーンに転がり込んでも全然おかしくなかった。
映画における俳優の大切さを再認識した次第です。

ともすれば一本調子になりそうなこの生真面目な作品に良い感じでアクセントをつけていたのが随所に挿入されるジャズ・スタンダードの数々。『ハウ・ハイ・ザ・ムーン』だの『プリテンド』だのの名曲群をダイアン・リーヴスが軽ーく歌い上げています。

ジョージ・クルーニーの前の作品『コンフェッション』もなかなかの佳作でしたが、映像面では師匠ソダーバーグの影響も随分感じました。それに比べて本作は随分オリジナルな趣で。
自分にとって、新作が封切られたら必ず観に行く監督になりそうです。
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【映画】ブロークン・フラワーズ

2006-05-06 23:05:51 | 映画は行


"Broken Flowers"
2005年アメリカ
監督)ジム・ジャームッシュ
出演)ビル・マーレイ ジェフリー・ライト シャロン・ストーン フランセス・コンロイ ジェシカ・ラング ティルダ・スウィントン マーク・ウェバー
満足度)★★★☆ (満点は★5つです)
シネプレックス幕張にて

初老に差し掛かった元プレイボーイのドン・ジョンストン(ビル・マーレイ)は、IT関連のビジネスで成功し、今はよく言えば悠々自適、悪く言えば怠惰な毎日を送っている。
そんなある日、彼の元に匿名でピンクの便箋に書かれた手紙が届く。「あなたとの間に出来た子供はもうすぐ19歳になります」。自分に子供がいることに動揺を覚えた彼が隣人のウィンストン(ジェフリー・ライト)に相談したところ、ウィンストンは俄然乗り気になり、勝手に謎の手紙の書き手探しの算段を立て始める。ウィンストンに促されるままに20年前に付き合っていた女性達のリストを作るドン。
かくしてドンの昔の恋人探しが始まるのだった。

純粋な長編作品としては『ゴースト・ドッグ』以来久々の新作、カンヌでグランプリ受賞、主演は絶好調のビル・マーレイ、という無敵の好条件が揃ったジャームッシュの新作です。僕もこれはすごく楽しみにしていて早速シャンテ初日の3回目の回に行ったのですが、1時間前についたにも関わらず、ほぼ満席。良い席は空いてなさそうだったのでその日は断念、結局次の日に地元のシネコンで観ました。

今作のテーマは息子探しのロード・ムービー、そう、奇しくもヴェンダースの
『アメリカ、家族のいる風景』と全く同じ主題です。ヴェンダースは、気ままに生きてきた中年男が絆を求めてあがく様を真摯に、いささか生真面目に描いて成功したわけですが、ジャームッシュは相変わらず飄々と。

ビル・マーレイの演じる主人公、とにかくやる気が感じられない。
息子がいる、と聞いて当然心がざわつく訳ですが、おせっかいな隣人に何から何までお膳立てされないと全く動かない。「しょーがねえなあ」という感じで渋々過去の女性達を訪ねまわるわけですが、本人にやる気が無いわけで、昔の恋人たちと会ったって全然会話が弾むことも無い。
この会話の弾まないことによって生じる独特の間がもうジャームッシュ!

ただ、今作のジャームッシュはちょっと、ほんのちょっとだけど違います。
それは、ラスト近くの場面。
ドンが一所懸命走るんですよね。思わず。
全編受身だった彼がはじめて能動的に動く。
だけど、結局はそこで何も掴まえることが出来なくて、呆然と立ちすくむ。
まるで今まで送ってきた人生の空しさにはじめて気付いたかのように。
この感覚、今までのジャームッシュ映画には無かったものだと思います。

とぼけた感じに(特に後半)しっとりした情感も加わって
なかなかの作品ではあります。
だけど、僕が彼の他の作品と比べるとちょっとグッと来なかったのは、そんなドンの心持に共感出来るほどの経験の蓄積がまだ無いからなのかもしれません・・・。

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【映画】君とボクの虹色の世界

2006-05-05 23:25:12 | 映画か行

"Me and You and Everyone We Know"
2005年アメリカ
監督)ミランダ・ジュライ
出演)ミランダ・ジュライ ジョン・ホークス マイルス・トンプソン ブランドン・ラトクリフ カーリー・ウェスターマン
満足度)★★★☆ (満点は★5つです)
シネ・アミューズにて

靴屋の店員リチャード(ジョン・ホークス)は最近離婚したばかり、長男のピーター(マイルス・トンプソン)と次男のロビー(ブランドン・ラトクリフ)と一緒に男やもめの生活を送っている。
パフォーミング・アーチストを目指すクリスティーン(ミランダ・ジュライ)は高齢者向けをタクシーをして生計を立てている。ある日、得意客の要望で靴屋を訪れた彼女はリチャードに恋をする。不器用な二人の恋愛はなかなか進展しないが・・・。
リチャードとクリスティーンと周りの人たちのちょっと風変わりな人間模様を描いた、マルチ・アーチスト・ミランダ・ジュライの映画処女作。


観ている間はそうでも無いんだけど、後からジワジワーっとよくなってくる作品ってありませんか?観賞中はどうもインパクトが感じられなくてただただボーっとスクリーンを眺めているだけなんだけど、何故か忘れられない。日にちが経てば経つほど何か引っかかる。このミランダ・ジュライさんの映画処女作は僕にとってそんな作品でした。

表面的には、いかにもお洒落アーティストが作った映像作品な感じです(宣伝ではポスト・ソフィア・コッポラなんていう決め文句もありました)。確かに色使いや変人揃いの登場人物達はそれ風な感じだし、音楽なんかはAIRそっくりな手触りで、まんまソフィア・コッポラ作品のサントラのよう。

それでもこの作品に引っかかりを覚えるのは、不器用な登場人物達が不器用なりに人とのつながりを求めて静かにあがく様に魅かれるからなのだと思います。
台所用品をコレクションするリチャード家の隣家の少女。
エロ・チャットでしか自分をさらけ出すことの出来ないキュレーター。
通りかかる女子高生にしてほしいことを窓に張り出すリチャードの同僚・・・。
そんなヘンな彼ら、彼女らの行動がどうにも愛おしく。

「人はガラスと鉄に囲まれながら肌のぬくもりを求めている」
『クラッシュ』の中でドン・チードルが呟くこの台詞を何故か思い出しました。ガツンガツンとクラッシュする中で人間関係を確かめてゆくのがかのオスカー受賞作品なのだとしたら、こちらは恐る恐る、おっかなビックリに人間関係を作り上げてゆく。表現方法は全く持って違えど、主題は同じような気がします。

ミランダ・ジュライはじめ俳優陣は知らない名前ばかりなのですが、子供たちはかなり自然体な演技で好感が持てます。特に、リチャードの次男を演じたブランドン・ラトクリフ君、素晴らしい!あえてこじつければこの子は『クラッシュ』の透明マントの少女的な役回りに見えなくもないです・・・。
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【映画】プロデューサーズ

2006-05-04 23:39:04 | 映画は行

"The Producers"

2005年アメリカ
監督)スーザン・ストローマン
出演)ネイサン・レイン マシュー・ブロデリック ユマ・サーマン ウィル・フェレル ゲイリー・ビーチ ロジャー・バート
満足度)★★☆ (満点は★5つです)
日劇PLEXにて

1959年のニュー・ヨーク。ブロードウェイの落ち目のプロデューサー・マックス(ネイサン・レイン)の作品は酷評続きで長続きせず、日々の生活にも困る有様。
そんなところに会計事務所から派遣されてきた会計士・ブルーム(マシュー・ブロデリック)の「最初から大コケ間違い無しの作品を作れば出資者に配当を出さなくて良いから儲かる!」という一言に閃いたマックスは、史上最低のミュージカルを作ることを思いつく。
もともとブロードウェイのプロデューサーを夢見ていたブルームも迷った末にその企画に参加、かくして最低のミュージカル製作が始まる。
原作はブロードウェイで大ヒットになったメル・ブルックスのミュージカル作品。


ハリウッド黄金時代のミュージカルの名場面ばかりを集めた『ザッツ・エンタテイメント』という作品があります。あれ、すごく楽しいんですよね。アステアだのジーン・ケリーだのエスター・ウィリアムズだのの豪華で優雅で、まあ脳天気なミュージカル・シーン満載で。ケネディ暗殺やベトナム戦争を経験する前の健全なアメリカのイメージがとてもまぶしい。

僕がこの映画を何故観に行ったのかと言えば、ひとえにその往年のハリウッド作品の雰囲気を求めて、ということにつきます。何しろ舞台版オリジナルでも監督を務めたスーザン・ストローマンが、あのMGMミュージカルの最高峰『雨に唄えば』のイメージを目指して作った、という訳ですからね。これはワクワクします。

ということで結構期待して観に行ったのですが・・・うーむ、どうもあまりノレませんでした。この作品、結構お下品なんです。いや、下品な映画が嫌いな訳では無いんですけど、この作品にはそれを求めていなかったというか。
なにしろ、主人公マックスは糊口をしのぐために老嬢たちのセックス・パートナーになって小切手をせびり取ってたりします。どうもそういうちょっとグロテスクな設定がピンと来なかったんです。
まあ、グロテスクって言ったって現代の劇映画と比べたら全然ショッキングなわけでは無いのですが、やっぱり夢のミュージカル作品ですからね。僕はもう、時代錯誤って言われても良い位の徹底して口当たりのまろやか~な作品にしてほしかったんです。うーん、潔癖症!

役者陣もそれほどピンと来なかったのですが、中ではゲイの演出家のアシスタント役を務めたロジャー・バートは良かったですね。あの「イエースススススス・・・」ってすごくないですか、無意味に(笑)。
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