セルロイドの英雄

ぼちぼちと復帰してゆきますので宜しくお願いしまする。

【映画】楽日

2006-09-03 22:53:40 | 映画ら行


"不散"

2003年台湾
監督)ツァイ・ミンリャン
出演)チェン・シャンチー リー・カンション 三田村恭伸 ミャオ・ティエン シー・チュン ヤン・クイメイ チェン・シャオロン
満足度)★★★★★ (満点は★5つです)
ユーロスペースにて

雨のそぼ降る夜、閉館の決まった台北郊外の古い映画館では、その最後の日にひっそりと往年のヒット作『龍門客棧』が掛かっている。
映画館で働く切符切りの足の悪い女性(チェン・シャンチー)と映写技師の男(リー・カンション)、雨を避ける為に映画館に逃げ込んだ日本人男性(三田村恭伸)、かつてこの映画に出ていた老俳優達(ミャオ・ティエン、シー・チュン)・・・。
ひなびた映画館をさ迷う人々を『龍門客棧』の進行とあわせて淡々と描くツァイ・ミンリャン2003年の作品。

もう一年位前になると思います。スティーヴン・キングの小説を原作にした『ライディング・ザ・ブレット』という何ともB級な作品がひっそりと公開されていたのですが、キング・ファンの僕はいそいそと、都内で唯一の上映館に足を運んだわけです。
その上映館が歌舞伎町の新宿オスカー。
キレイで機能的なシネコンが増えている中、昭和で時が止まったような少し不思議な空間なんです。
しかも平日の昼間、掛かっているのも地味ーなB級作品ということでロビーにも人がまばら。というか上映10分前になっても自分しかいなかったという・・・。
僕はそのときこの世界からちょっとだけずれた異空間に迷い込んだような非現実的な感覚を覚えました。

都会に住む人間の孤独を的確に掬い取って映像化することにかけては世界を見渡しても右に出る者はいないと思われる(いや、本当に!)ツァイ・ミンリャン。
そんな彼が映画の黄金時代を知る古い映画館への鎮魂歌を作りあげてくれました。

シネコンやDVDに圧され、打ち捨てられるしかない小汚いハコ。既に廃墟のようなその建物の中を、やはり時代に取り残されたような様子の人々が無目的にさ迷う。
人々がこぞって映画館に訪れた黄金時代を偲ばせるその大きさも、人が殆ど来ない今となっては空虚さを強調するだけで。

だけどこの映画館は、長年に渡って人々の喜怒哀楽を見守ってきたわけです。その遠い記憶が刻み付けられた場所では不思議なことも起こる。
「ここには幽霊が住んでいる」
倉庫のような場所で、本人もまた幽霊のような謎の男が迷い込んだ日本人に語りかけます。
そう、時間が止まったようなこの空間では何事も起こりえるのです。
そこはまた静かな深海のようでもあり・・・。

もう何と言って良いのかわからない、隅々まで映画館文化への愛情が詰まった静かでしかも圧倒的な映像詩。
誰にでも勧められる作品ではないけれど、僕にとっては心の深いところにしっかりと残りました。
今年の私的アカデミー作品賞最有力作。

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【映画】ローズ・イン・タイドランド

2006-08-07 00:50:16 | 映画ら行


"Tideland"
2005年イギリス/カナダ
監督)テリー・ギリアム
出演)ジョデル・フェルランド ジェフ・ブリッジス ジェニファー・ティリー ジャネット・マクティア ブレンダン・フレッチャー
満足度)★★★★☆ (満点は★5つです)
恵比寿ガーデンシネマにて

ジャンキーの父親ノア(ジェフ・ブリッジス)とだらしない母親(ジェニファー・ティリー)と共に暮らす10歳の夢見がちな少女ジェライザ=ローズ(ジョデル・フェルランド)。
オーバードーズによる母親の死後、逃げるように祖母の住んでいた荒野の一軒家に引っ越した父娘だったが、ノアは早速ヘロインを射ちあちらの世界に行ってしまう。
お気に入りのバービー人形(の頭)と一緒に荒野を駆け回るジェライザ=ローズは、やがて奇妙な隣人達に出会う。
幼年期の少女から見える世界を幻想的に描いたテリー・ギリアム監督の新作。


テリー・ギリアム版『不思議の国のアリス』ということで。
この作品を観に来るお客さんはテリー・ギリアムだから観に来た人(2割?)と『不思議の国のアリス』的な雰囲気に魅かれて観に来た人(8割?)にキッパリ分かれるのではないでしょうか。
だけどですね、この作品、どちらかというと観客層の割合(管理人Kenの推定)と反比例してギリアム度が8割でアリス度が2割程度という、要はかなりギリアム指数が高いのです。
アリスな人達はビックリだったと思います。

なにしろ登場人物が皆ヘンテコ。
10歳の娘にヘロイン注射の準備をさせる父親とチョコに異常に執着する母親。
蜂に刺されないように肌を完全に隠して出歩く女と荒野のど真ん中で潜水艦を操縦したつもりになっているその弟。
ジェライザ=ローズの周りは、グロテスクに誇張されたエキセントリックでフリーキーな人間ばっかりなのですが、10歳の彼女はそんなまともじゃない人達を普通に受け入れます。

なにしろ彼女は普通の生活を知らない。
両親とほぼ世捨て人のような生活を過ごした後、母親が死んでからは荒野の一軒家に引越しさらに世間から隔絶される。
そこには社会というものは存在しないし、そもそも人がほとんどいない。

ジェライザ=ローズはそんな淋しい環境を無垢な想像力で補完していたんでしょう。その世界はやがて現実と虚構の差も曖昧になってゆき、観ているこちらもどっちがどっちだか分からなくなってゆきます。

やがて、クライマックスのある事件を経て、ジェライザ=ローズは初めてまともな大人の女の人に出会います。
このクライマックスの場面、夢のような(同時に悪夢のような)ジェライザ=ローズの世界を延々と観てきた後では何だかやけに現実感のあるシーンなのですが、何だか少し切なく思えるんですよね。
それは、想像力を縦横無尽に働かせて生きてきた子供時代は終わってしまい、彼女がこれから普通の大人になってゆくんだろうなあ、と思わせられるからなんだと思います。

短い子供時代の、不条理で楽しくてグロテスクで夢のような世界をしっかりと切り取った快作。

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【映画】レント

2006-05-20 23:47:11 | 映画ら行


"Rent"

2005年アメリカ
監督)クリス・コロンバス
出演)アダム・パスカル ロザリオ・ドーソン アンソニー・ラップ ジェシー・L.マーティン ウィルソン・ジェレマイン・ヘレディア テイ・ディグス トレイシー・トムス イディナ・メンゼル
満足度)★★★ (満点は★5つです)
シネプレックス幕張にて

売れないロック・ミュージシャン、ストリート・パフォーマー、ダンサー、映像作家。
エイズ禍吹き荒れる1989年、ニュー・ヨークのイースト・ヴィレッジの若い芸術家達は家賃(rent)も払えない貧乏生活を送りながらも夢を持って生きている。
そんなイースト・ヴィレッジに再開発の話が持ち上がり、彼らは立ち退きを迫られるが・・・。
大ヒットしたロック・ミュージカルをほぼオリジナル・キャストで映画化。

この映画の予告編、良かった!
というか主題歌とも言える、"Seasons of Love"のキャッチーさったら無い。

  52万5,600分、あなたは1年を何で計る?
  日の出の数?夕日の数?夜中に飲んだコーヒーの数?
  ねえ、愛の数で計るってのはどう?


うーん、歌詞も素晴らしい。ロック・ミュージカルというと、大仰にアレンジされた野暮ったいロックのイメージが強くてまず観に行く気が起きない僕でさえ劇場に足を運ばせてしまうこの歌の説得力たるや。

この作品、まさに舞台に主要キャストが並んで無人の客席に向かってこの歌を歌うシークエンスで幕を開けます。

  あなたは1年を何で計る?
  彼女が学んだ真実の数?彼が泣いた数?
  彼の別れの数?それとも彼女が死
んだことで?

段々ゴスペル調に盛り上がる出演者たち。無人の観客席の向こうの僕ら観客たちにもその高揚感が伝わってくる素晴らしいオープニング。

・・・僕にとってこの映画はここまででした。本編はもうおまけみたいなもので。
いや、金は無いけど夢と時間だけは無限にある若い芸術家達の友情物語、ステロタイプな話ではあるけれど、これは良いんですよ。夢見る年齢を過ぎた僕(泣)でも(だからこそ?)グッと迫ってくるものがある。

だけどですね、ミュージカルの肝である音楽が自分の好みからするとやっぱり大仰すぎてダメでした。すごく野暮ったく聴こえてしまい。
まあ、これは好みの問題なので、この音楽に抵抗の無い人には感動できる作品なんだと思うし、ヒットしているのも頷ける内容ではあります。

ああ、"Seasons of Love"だけ欲しいんだけどなあ。これだけのためにサントラを買う気にはならないし、この曲シングルになってないのかな?

コメント (6)
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【映画】ラストデイズ

2006-03-25 21:58:17 | 映画ら行

"Last Days"

2005年アメリカ
監督)ガス・ヴァン・サント
出演)マイケル・ピット ルーカス・ハース スコット・グリーン リッキー・ジェイ キム・ゴードン
満足度)★☆ (満点は★5つです)
シネマライズにて

リハビリ施設を抜け出した人気絶頂のロック・ミュージシャン・ブレイク(マイケル・ピット)は森の中の別荘に身を潜める。
1994年に猟銃自殺を遂げたカート・コバーンをモデルに、人気ミュージシャンの最後の2日間を最小限の台詞で淡々と描く。

春分の日に観にいったのですが、やけに混んでましたね。
若いお客さんがすごく多くて。
それは若者の間でガス・ヴァン・サントの人気があるからなのでは当然無くて、ニルヴァーナが今でもこれだけ支持されている、ということなんですね、多分。
かつてジム・モリソンやジョン・レノンがそうであったように世代を代表するロック・アイコン、カート・コバーン。
そんな伝説化したロッカーを、コロンバイン高校の無差別銃殺事件をモチーフに青春の不安定感や透明感を見事に掬い取った『エレファント』(傑作!)を作り上げたガス・ヴァン・サントが映画にする、これは期待してしまうわけです。

そんな今作、基本的な語り口は前作を踏襲(前々作『ジェリー』は観てないのですが、あれもこんな感じなのかな?)、一切の説明を廃し、台詞も最小限かつ断片的。映像と音でもって、成功の渦中でモミクチャにされ精神の均衡を失いつつある一人の音楽家の最後を淡々と綴ってゆきます。

しかし、この映画、僕には実にピンと来なかった。
映像と音で死期の迫ったミュージシャンの暗く混沌した内面世界に迫る、という意図があったのかもしれませんが、僕はその内面世界に感応できずじまい。
最後まで作品世界にアクセス出来ず。
結果として、「うーうー」と唸ったり、意味の無い言葉を呟き続けるブレイクをただひたすら無感動にポカーンと眺めている、という最悪のパターンでした。

主演したマイケル・ピットも、どうにも極限状態の音楽家には見えず、極限状態の音楽家をうまく演じようとしている俳優にしか見えなかったし、大フィーチャーされていたマイケル・ピットの自作曲にもさらに興をそがれて・・・。音楽監修にサーストン・ムーアが関わってたのなら、もっと何とかならなかったのかな、全く。

短い出番ながら、キム・ゴードン姐さんは貫禄ありましたです。
画面に出てくるだけで空気が変わるような存在感。
マイケル・ピットの演技にずーっとなじめなかっただけに、余計際立って映りました。

この作品、結構評判良いような気もするのですが、僕ももっと若いときに観たら感動しまくったのかもしれません・・・。
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【映画】ロード・オブ・ウォー

2005-12-31 11:45:15 | 映画ら行

"Lord of War"
2005年アメリカ
監督)アンドリュー・ニコル
出演)ニコラス・ケイジ イーサン・ホーク ジャレッド・レト ブリジット・モイナハン イアン・ホルム
満足度)★★★★ (満点は★5つです)
有楽座にて

幼少時にウクライナからアメリカに一家で移民したユーリ・オルロフ(ニコラス・ケイジ)。親の始めた寂れたレストランを手伝っていた彼だったが、やがて銃の密売に手を染める。
弟のヴィタリ(ジャレッド・レト)と共に商売を広げてゆくユーリ。ソ連の崩壊とともに闇市場に溢れ出した膨大な武器を扱うことにより、彼は世界でも指折りの武器商人に成り上がってゆく。


ユーリがリベリアの支配者バプティスタ(この人物は実在したのでしょうか?)と商談しているとき、ユーリの売り込む新品のピストルをためつすがめつしていたこの独裁者が、おもむろに側近を撃ち殺すシーンがあります。
唖然とするユーリ。「何をするんだ!中古になってしまうだろ!」

このユーリという人物、あくまでも優秀なセールスマンです。その商品である武器によって何が起こるのか、全く関心を持ちません。そこに需要があるから供給する。自分がやらなければどうせ誰かがやる。想像力無し。
この資質、実はセールスマンにとって必要な資質なのではないか、と思います。色々考えてたらモノなんか売れないんですよね。考えなければならないのはあくまでも製品の性能と、どれだけ儲かるか。負の側面には気付いてはいけないし、気付いたとしてもそれにはあえて目を向けない。もしくは積極的に隠すことまでする。
ユーリは、こういうある種麻痺状態にあるんだと思います。だから優秀なセールスマンたりえたのでしょう。

「死の商人」であるユーリに対して、その言葉の響きほど嫌悪感を抱けないのは、むしろ親近感さえ持ってしまうのは、そういう全うなセールスマン的な趣にあるんだと思います。どんな場所にもスーツで現れるユーリ。自分はあくまでもセールスをしているのだ、という主張なのかもしれません。

この映画の優れたところは、最後に、このある種麻痺した感覚にキチンと「いや、それは違うよ」とクギをさしてくれるところです。
ほぼラスト・シーンでのジャレッド・レト演じる弟ヴィタリの行動。
半ばユーリに感情移入していた僕は、このシーンで感覚麻痺から引き戻されした。

今年最後に観る映画として相応しいのかどうかはわかりませんが、ピリッとした良い映画です。年末の有楽座、結構混んでましたが、こういう映画に人が沢山来ているとちょっと嬉しくなりますね。
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【映画】乱歩地獄

2005-11-30 00:23:24 | 映画ら行

2005年日本
監督)竹内スグル(『火星の運河』)/実相寺昭雄(『鏡地獄』)/佐藤寿保(『芋虫』)/カネコアツシ(『蟲』)
出演)浅野忠信 成宮寛貴 松田龍平 大森南朋 岡元夕紀子 緒川たまき
満足度)★★★★ (満点は★5つです)
テアトル新宿にて

江戸川乱歩の短編4作品を映画化したオムニバス映画。
『火星の運河』 荒野をさ迷う青年(浅野忠信)。彼は、湖の辺で過去の情事を幻覚に見る。
『鏡地獄』 次々と変死する、鎌倉のお茶会に参加する女性たち。名探偵・明智小五郎(浅野忠信)が捜査に乗り出すが、彼女たちが和鏡職人斎透(成宮寛貴)と関係を持っていたことが明らかになる。
『芋虫』 戦地で手足を失って帰ってきた須永中尉(大森南朋)。最初は甲斐甲斐しく世話をする妻・時子(岡元夕紀子)だったが、彼女はやがて彼にサディスティックな欲望を感じ始める。それを影から見つめる書生の平井太郎(松田龍平)・・・。
『蟲』 厭人病の征木愛造(浅野忠信)は、女優の木下芙蓉(緒川たまき)の運転手を務めている。彼女への思いをつのらせた彼は、彼女を独占しようと試みるが・・・。


ストーリーを書いていて思ったんですが、この映画においては話の筋ってあんまり重要ではない気がします。とにかく映像!
エロくてグロいインモラルな題材を如何にスタイリッシュに美しく観せるか、ここに各監督が腕を思い切り振るっているわけです。まともに観たらかなりちょっと居た堪れなくなるようなムゴい場面がバシバシ出てくるのですが、これを力技で「美しい・・・」と観せるべく、江戸川乱歩の耽美な世界を表現すべく、皆さん奮闘しているんですね。

俳優陣もそれらしい人選で、特に嵌っていたのが『鏡地獄』の成宮寛貴。ちょっと尋常ではないナルシスティックな和鏡職人の様子がぴったりでした。たまにニヤッと笑うだけで狂気を感じさせる、素晴らしい演技。

この成宮寛貴の出ている『鏡地獄』、本オムニバスの中ではいちばんマトモな作品だったと思うのですが、単独作品として切り離して観ても結構いけますね。人気の途絶えた鎌倉の町並み、海辺に並べられた日本鏡の数々など、映像のスタイリッシュぶりは、他の3作と比べても際立っていました。実相時監督、他にも乱歩作品を撮っているそうで、それも観てみたくなりました。

この作品、かなりグロいので生理的に受け付けない人が多いと思います。
僕も「何だ、こりゃ」と最初思ったのですが、ここまで徹底されると、後味は意外なことに悪くないんですよね。僕は素直にその耽美な世界を認めます。

PS この映画、R-15指定なのですが、R-18指定じゃなくて良いの??「インサイド・ディープ・スロート」(R-18指定)よりもよっぽどヤバイと思うんですが・・・。
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【映画】ロバと王女(デジタルニューマスター版)

2005-11-16 00:43:31 | 映画ら行

"Peau d'Âne"

1970年フランス
監督)ジャック・ドゥミ
出演)カトリーヌ・ドヌーヴ ジャン・マレー ジャック・ペラン デルフィーヌ・セイリグ
音楽)ミシェル・ルグラン
満足度)★★★★☆ (満点は★5つです)
ル・シネマにて

美しい王妃を亡くした青の国の王様(ジャン・マレー)は、彼女よりも美しい女性が現れない限り再婚しない、と誓う。家臣達は世界中を探しまわるが、王妃より美しい女性はなかなか現れない。唯一王様の目に止まったのは何と王妃との間に出来た自分の娘である王女(カトリーヌ・ドヌーヴ、王妃と2役)。父親からの求婚に戸惑う彼女は(当然ですよね)、リラの妖精(デルフィーヌ・セイリグ)の助言に従い、王様からの贈り物である、財宝を産むロバの皮をかぶって城を後にする。身分を隠して下女として働く彼女の元に、ある日赤の国の王子様(ジャック・ぺラン)が現れる。
原作は「赤頭巾」等で知られるシャルル・ペローの童話。


「シェルブールの雨傘」「ロシュフォールの恋人たち」に続いて、ジャック・ドゥミがミシェル・ルグランを音楽に、カトリーヌ・ドヌーヴを主演に迎えて作ったミュージカル映画。日本では当時公開されたもののそのままビデオ化もされずにいた、ということなので「大したことないのでは」と思って期待しないで観にいったのですが、この優雅さ、洒脱さ!前2作と全然遜色ないですよ。

ドゥミ監督、カトリーヌ・ドヌーヴ大好きだったんでしょうね。空のドレス、月のドレス、太陽のドレスなど、やり過ぎな位デコラティブな衣装の数々。こんなの似合う人いないよ、というような衣装を何とも優雅に着こなすドヌーヴ。こういう俳優をスタァというんですね。

かと言ってカトリーヌ・ドヌーヴの為だけの映画になっているかと言うと決してそんなことは無く、わがままな王様のジャン・マレー、若さ溢れる王子のジャック・ぺラン、ちょっとそそっかしい妖精のデルフィーヌ・セイリグも皆チャーミング。

嫌味なくらいゴテゴテした調度類に囲まれて、チャーミングな俳優陣がチャーミングなルグランの曲に合わせて歌うこの映画は何故か新鮮に見えます。それは、CGの技術の新しさに眼が行き勝ちな今、映画の主役は俳優であるという当たり前のことを再確認させてくれるからなのかもしれないと僕は思います。
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【映画】ランド・オブ・プレンティ

2005-11-04 18:40:23 | 映画ら行


"Land of Plenty"

2004年アメリカ/ドイツ
監督)ヴィム・ヴェンダース
出演)ミシェル・ウィリアムズ ジョン・ディール
満足度)★★★★ (満点は★5つです)
シネカノン有楽町にて

アメリカで生まれイスラエルで育ったラナ(ミシェル・ウィリアムズ)は、唯一の身寄りである伯父ポール(ジョン・ディール)を訪ねるために、アメリカに10年振りに帰国する。ベトナム戦争のトラウマに悩むポールは、今なおアメリカを守ることに執着しており、一人、LAの街を巡回監視して回る日常を送っている。
ある日、彼が監視していたアラブ系青年が目の前で殺されてしまい、ポールとラナはその亡骸を故郷である郊外のトロナまで送り届けることになる。
原題は、カナダのシンガー・ソング・ライターのレナード・コーエンの曲名から。

ヴィム・ヴェンダース、久々にイイ映画を撮りました。最近の彼は「エンド・オブ・バイオレンス」「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」がどうも好きになれなくて、「ミリオンダラー・ホテル」も結局観なかったのですが、この映画はじっくりイイですよ。

ロード・ムービー感が堪らないです。といっても、主人公達がトロナに向かってロードに出るのは映画の終盤。それまでは、丹念に丹念に2人の主人公の人となりが描かれてゆきます。

アメリカ帰国後、スラムの伝道所で働くラナが眼の辺りにするのは貧困にあえぐ人々。献身的に彼等につくすラナ。その様はとても爽やか。
伝道所の屋上でiPodの音楽に合わせて踊るところなんて、味わい深いです。

一方の伯父ポールはパラノイアックで偏見に凝り固まっている。アラブ系の人を見ると、もうそれだけでテロリストと決め付けてしまい、カメラやら何やらがついた重装備のヴァンで執拗に尾行する。もうこれが痛々しい。

そんな2人がトロナに向かって旅に向かい、その中でポールが癒されてゆく、という解りやすい話なのですが、この前半の丁寧な人物造形があるので、そのありきたりの話がストンと腑に落ちるんですよね。

ヴェンダースは、結局、9.11後のアメリカに対して「憎悪ではなく寛容を」みたいなことを言いたいんだと思うのですが、そういう側面だけで観るとこの映画の良さを見失ってしまうような気がします。ラナとポールの、世代も育ち方も考え方も違う2人の心の交流の物語。僕はそこにこの映画の味を感じました。

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【映画】リヴ・フォーエヴァー

2005-09-29 06:24:00 | 映画ら行


"Live Forever"
2002年イギリス
監督)ジョン・ダウアー
満足度)★★★★ (満点は★5つです)
BSにて

1990年中頃にイギリスで盛り上がった”ブリット・ポップ”ムーブメント。その時代の狂騒を、当事者であるギャラガー兄弟(オアシス)、デーモン・アルバーン(ブラー)、ジャービス・コッカー(パルプ)、3D(マッシブ・アタック)、ルイーズ・ウェナー(スリーパー)らが語るロック・ドキュメンタリー。

ブリット・ポップが盛り上がったこの時代って、感覚的にそんなに前だとは思っていなかったのですが、もう振り返るような映画が出来てしまうんですね。
と言うようなことを思いながら観始めたのですが、引き込まれました。

何が興味深いかというと、このムーブメントが、保守党から労働党への政権移譲、それに伴うイギリス社会の漠然とした開放感と呼応していた、というこの映画のテーマです。
保守党長期政権下に効率化の元進められた、乱暴に言ってしまえば「アメリカ化」政策、膨らんだ失業率等に倦んだ国民がついに労働党に政権を渡す決断を下す。それが1997年。
この下地にあったのが、「イギリスらしさ」の復活への潜在的な渇望であり、その表象化の一つがブリット・ポップだった、というのがこの映画の論旨です。

確かに当時(というか今も現役の方が多いですが)のバンド、イギリスの匂いがプンプンしましたよね。スタジアム・ロック版ビートルズなオアシス、キンクスのような捻くれたユーモアを感じさせるブラー、さらに病的に捻くれたパルプ、デビッド・ボウイ系の美意識をプンプンさせていたスエードなどなど。。。

そんなバンドの方々がインタビューに答えているのですが、みなさん「らしい」ですね。
「俺達を目指せ!」と決め決めのポーズでのたまわるリアム・ギャラガー。
ウクレレ片手に、「ブレアは自分の子供を公立校に入れるべきだって言ったら、口止めされちゃたよ」と皮肉な笑いを浮かべるデーモン・アルバーン(太ったね、しかし)。
神経質そうにベッドのゴミを拾っては捨てながらインタビューに答えるジャービス・コッカー(この人はもうちょっと太ったほうがよいです)。

個人的にうれしかったのは、スリーパーのルイーズさんが結構出てたことですね。好きだったんです、スリーパー。というかルイーズさんの声。「トレスポ」でのレントンとダイアンが出会うシーンで流れた"Atomic"とか鳥肌でしたよね。
インタビュー観てると、この人、何というか、まじめそうな方です。
ブリット・ポップの学級委員長さんですね。

その後、政権を取ったブレアの労働党は、「ニュー・レイバー」のスローガンのもと労働組合頼みの体制から方向転換し、保守党の政策を基本的には継承してゆきます。それとブリット・ポップ・ムーブメントの終焉が関係あるのかどうかは分かりませんが。。。

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【映画】レディキラーズ

2005-09-24 22:40:50 | 映画ら行

"The Ladykillers"

2004年アメリカ
監督)イーサン・コーエン ジョエル・コーエン
出演)トム・ハンクス アーマ・P・ホール
満足度)★★★☆ (満点は★5つです)
BSにて

舞台はアメリカ南部ミシシッピ川の河口の近くの田舎町。老未亡人のマーヴァ(アーマ・P・ホール)は、大学教授を名乗る男ドー(トム・ハンクス)を下宿させる。実は、彼は近くに浮かぶカジノ・ボートを狙う強盗だった。ドーは4人の強盗仲間と共に着々と計画を進めるが。。。
1955年のイギリス映画「マダムと泥棒」のリメイク。


コーエン兄弟らしい気の利いた犯罪コメディなのですが、アメリカ南部の片田舎が舞台ということで、かなりユルめの出来になっています。このユルさが合うかどうかが、この映画の好き嫌いを分けるところでしょう。
コーエン兄弟の神経症的なコメディーを期待しているとちょっと肩透かしですね。 僕はこのユルさ、結構好きです。

ミシシッピ川をゆったりと走るゴミ運搬船。
だだっ広い街道沿いにポツンと建つ保安官事務所。
中には、隣人が大音量でかけている「ヒッピホップ」について苦情を申し立てる太った黒人の老婦人マーヴァ。
僕はこの時点でこの映画に引き込まれました。あとはこのユルさに身を任せるだけでした。

トム・ハンクスも田舎紳士みたいな強盗をチャーミングに演じています。僕は、「グリーン・マイル」のようなシリアスな映画よりも、こういう映画での力の抜けた、だけど器用なところも見せるトム・ハンクスの方が好きです。

そしてこの緩さを彩る音楽、今回はゴスペルです。音楽を監修したTボーン・バーネット、また良い仕事してますね!
サントラ買わなきゃ。
コメント (2)
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