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複素数を拡張する方向。

2012-03-25 14:21:26 | mathematics
最近,複素行列の理論は複素数の拡張という側面も持っているということに気付いたわけだが,いわゆる「超」複素数といえば,Hamilton の四元数や Cayley の八元数があることを忘れていた。

複素数や四元数と行列の理論との関連はよく知られている。
例えば,2次元 Euclid 空間における,原点を中心とする角θの回転変換を R(θ) とおくと,それは

cosθ -sinθ
sinθ cosθ

と行列表示することができる。θ=90°のときは

0 -1
1 0

という行列になるが,90度の回転を2回続けると,180度の回転

-1 0
0 -1

になる。

このような観察に基づくと,E:=R(0°),I:=R(90°) とおくとき,実数 x, y に対して

X=xE+yI

と定義される実2次行列 X の全体は複素数の集合 C と同型になる。
つまり,複素数とは xE+yI の形の行列のことだと言ってよいわけである。

ちなみに,複素共役をとるということは,I を -I に置き換えることに相当する。
I の転置行列 tI が -I に等しいので,行列版の複素数においては,複素共役と行列の転置とが対応することとなる。
また,複素数 X の実部とは行列 X の対称部分であり,虚部は反対称部分に対応する。

では,四元数を行列で表すとしたらどうなるであろうか。

四元数には,1, i, j, k という4種類の単位があり,これらの間には
i2=j2=k2=-1,
ijk=-1
という条件が課されている。

例えば,ijk=-1 の両辺に左から i をかけると,
i2jk=-i
であるが,i2=-1 と決めてあるので,jk=i がわかる。
この両辺の左から j をかけると,ji=-k となる。
一方,ijk=-1 の両辺に右から k をかけると -ij=-k,つまり ij=k が得られるので,ij と ji は異なることがわかる。

さて,四元数 q は,4つの実数 x, y, z, w を用いて

q=x1+yi+zj+wk

と表されるものであるが,k=ij なので,zj+wk=zj+wij=(z+wi)j となる。つまり,

q=(x1+yi)+(z1+wi)j

のように表せることがわかる。変な言い方だが,q の「実部」は x1+yi で,「虚部」は z1+wi だという感じになる。そこで,2つの複素数αとβを用いて表される行列 Q

Q=αE+βI

は,q=α+βj の行列版にちゃんんと対応しているであろうか?

その前に,共役について考察しておくべきだったかもしれない。

q=x1+yi+zj+wk の共役は,q*=x1-yi-zj-wk と定義することにする。要するに,i, j, k の係数の符号を全て変えるのである。

そうすると,q=(x1+yi)+(z1+wi)j にこのルールを適用した場合,

q*=(x1-yi)+(z1-wi)(-j)=x1-yi-zj+wij=x1-yi-zj+wk

となって,うまく行かない。

実は,この計算においてまずい点が一箇所ある。
それは,(z1+wi)j の共役を,安直に (z1+wi)*j* としてしまったところである。

実際には,2つの四元数 p, q に対し,(pq)*=q*p* という計算規則が成り立つので,

((z1+wi)j)*=-j(z1-wi)=-zj+wji=-zj-wk

となってうまく行く。
(このような積と共役の関係は,共役行列の性質を思い起こさせる。)

そして,qq*=x2+y2+z2+w2 となるはずなのだが,上に定義した Q=αE+βI ではそうはならない。ここも,置き方がちょっと安直過ぎただろうか。
そもそも,
αE=(xE+yI)E=xE+yI,
βI=(zE+wI)I=zI-wE
なので,Q=(x-w)E+(y+z)I となり,これでは普通の複素数 (x-w)+(y+z)i であって,四元数ではなくなってしまう。

やはり j に対応する行列 J を見出す必要がある。その J をどう探すか。

もう少しちゃんとした考察をしなければいけないようだが,今はこれ以上のアイデアがない。


四元数を具体的に行列でどう表せばよいかの答えは,代数の教科書を見れば書いてある。
ここでは,それを見ないで自力で導けるか試してみたのだが,できなかった。

もともと行列は積に関して可換性でないことが一般的なので,やはり積が非可換な四元数とは非常に相性がよいのではないかと期待される。そういう意味では,

なお,量子物理でよく用いられる Pauli のスピン行列というのがあるが,その交換関係が示唆するとおり,スピン行列は単位行列と合わせて四元数の4つの単位を形成するのである。

そういうわけで,有限準位の量子論というのは四元数やら八元数やらで記述できるのではないかと思うのだが,どうなのかなぁ。
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