揺れていた、影。その心だけが揺れている。
久方ぶりに駆けてきた東京地方は、陽が翳ったあとの暗転、小春日和の午後となった。相変わらずの喧騒。怒号さえ、街の佇まいに溶けてはいるが、いつ、なんどき悲痛な響きを伴った声を発する、ことか、無償に落ち着きを取り戻せない。
僕は、この街でかつての彼女と八月(やつき)を過ごした。
無論、今では苔むすアパートの跡も無く、壮麗なマンションが立ち並び、あの頃の . . . 本文を読む
卒業間近、好きな女の子にひとこと、「好きでした」と告げて別れたい・・・なんて想いは大嘘。やはり、告げる限りはその後、長らく結ばれたいと純真に素直に想い描いていた、あの頃。いや、長らく結ばれたいなんて、また真っ赤な大嘘。きっと未来永劫、結ばれたいと強く強くこのこころに念じて・・・。そう、いうものが10代のあまりにもいま、振り返ればこっぱずかしいほどの執着、一途心。
何故、ああも焦がれたのか!?少 . . . 本文を読む
いじめに附いて、謂いえる想いは、わたしの幼い頃から、つまりずっと以前から、「そう、いうものはあった」という事実、のみだ。「昔は、陰湿じゃあ、無かった」「いまは、痛みを知らないから、こんなことをしたら死んでしまうといった見境が判らない」どこかでそんな言葉を聞いたが、いじめられていた、つまりいじめられっ子であったわたしから言わせれば(ただ、或る時期を過ぎ、その世界は消滅したけれど)昔もいまと変わらず . . . 本文を読む
風鈴がちりりと奏でぬのちの夕暮れ時、ヒグラシが鳴いている。夏、です。
僕はお風呂あがりで縁側に向かい、ひとり静かにビールを飲んでいる。寂しいもんです。なのに心は乾いており、ひどくこの風情が心地良く想えるのは、何故だろう?
と、そこへ幼馴染がやって来る。
「ほれ・・・」
縁側越しにつまみなどをくるんだビニール袋を差し出すと、
「よし、俺も付き合おう」
と傍らにどさりと座る。あぐらを組ん . . . 本文を読む