エコクリティシズムの案内書の中で脱・人間中心主義の文学作品として紹介されていたベルナール・ウェルベルの蟻・三部作のうち『蟻』を読み蟻から見た想像世界に先ごろ暫時浸ったせいもあり折を見付けてブラガの森の狩猟小屋の周りで蟻の生態を観察しようとしていた所フタバガキ科の樹幹に蟻たちが群がって赤っぽい色をした何かに咬みついたりそれを運んだりしているのを目にした。私がその有り様を写真に撮っているのを見て何を記録しているのかを探りに来たプナンのある女性は蟻たちは「テナガザルの骨」を食べているところだと断じた。人がテナガザルの肉を調理して食べた時に嚥下できず周囲の土の上に吐き捨てた骨の欠片を蟻が捕食者たちから逃れて安全だと思われる木の幹まで運んで酸をかけ解躰し巣に運んでいたのである。テナガザルは果実や昆虫を食べるとされるが人間によって狩り殺されその肉は人間によって食べられその過程でその骨は人間によって投捨され蟻によって見付けられ運ばれ解躰されて蟻の巣へと持っていかれるのだ。テナガザルは果実だけでなく昆虫を食べる存在者である一方で人間に捕食され食べられる脱・存在者となる。人間によって土の上に無造作に打ち捨てられた残余の骨は蟻によって食べられるだけでなくそのあらゆる部位はそのほかの多くの有機的な存在者によって消費されるであろう。劃してテナガザルの不在は人間と蟻の生命を構成する助けになるが他方でそれらの生命もまた近い未来に巡り巡って他の存在者が生きる為の糧となる。