部族虐殺―夜明けの新聞の匂い(新潮文庫)
曽野 綾子 (著)
文庫: 419ページ
出版社: 新潮社 (2002/07)
ISBN-10: 4101146381
ISBN-13: 978-4101146386
発売日: 2002/07
人間がどれほど、どのような理由で、残酷になりうるか。
700万前後の人口のうち、100日間で実に139万人が
部族虐殺の被害者とそれに伴う難民となったルワンダの悲劇。
「世界的な貧困を知る旅」で虐殺の地を訪れた著者は、なお臭気の漂う現場で
人間の弱さを痛感し、宗教とは何かを再考する。目を背けてはならない大きな
問いを発する表題作をはじめ、教育、政治、介護保険など、
いま日本で起きている事態を作家の目で鋭く観察した33本のエッセイ。
(出版社/著者からの内容紹介 より引用)
※
カソリック信者としても知られる作家 曽野 綾子さんの著作です。
1995年から2005年まで日本財団会長職を務め、
2009年10月からは日本郵政取締役でもあります。
多くの慈善事業に携わり、世界の貧困と荒廃を見てきた方の、力強い著作です。
「アフリカで暴動・虐殺」とくれば
「民族対立による過激派が煽動した武力衝突だろう。」
「武器も"悪魔の銃"=カラシニコフAK47が使われたのだろう。」
そんな風に安易に想像してしまいますが、この1994年に起きたルワンダの悲劇を
綴った「部族虐殺」では、もっと恐ろしい事実―実際には市井のあらゆる人々―官吏
・学者・教師・医師・看護婦・裁判官・神父・修道女まであらゆる層のしかもインテ
リやホワイトカラーが参加したと記されています。
武器も銃や手榴弾どころか、草刈り鎌や手製の槍、山刀、"マス"とよばれる民族的な
武器=先端に爪の付いた棍棒まで使われており、検死の結果を見るにいかに執拗に
"虐殺"が行われたのかがわかるのだそうです。
人が人を殺そうとおもったら、武器も心得もいらない。
そして、その抑制に、スポーツも武道も、いわんや信仰でさえも、文化的なもの一切
がまったく役に立たない、という事実に戦慄します。
本書では上記以外にも、1996年に起きたテロリスト「トゥパク・アマル」による
ペルー日本大使公邸人質事件を綴った「アンバサダーホテルの最後の日々」があります。
この人質篭城事件は、1996年(平成8年)12月17日(現地時間)から翌19
97年(平成9年)4月22日まで、ペルー警察の突入とテロリスト全員の射殺によって
よって事件が解決するまで、実に4ヶ月間以上かかりました。
テロリストたちは、素朴な貧しい農村出身が多く、学校にもいっていない。
彼らのリーダー、セルパから「2週間くらいで占拠がうまく終わって目的を達したら、
ジャングルに戻って報奨金をもらえる」と素朴に信じていたようです。
その報奨金でコーヒー園を買ったり、小型バスを買って運転手になることを夢見ていたり。
中には人質となった人々に「これ(篭城)が終わったら、軍隊に入りたいがどうしたら
(軍隊に)はいれるのか?」といささかあきれるようなことを聞いているものもいたとか。
またホテルの浴室で熱いシャワーを生まれて初めて浴びて驚いたり。
人質に差し入れられるベントー(弁当)を「こんなにうまいものがあるのか」と貪り食って
10Kg近く太ったり、テレビの昼メロドラマにはまったり…
そうしたとき、機関銃は床におかれていたそうです。
だからといって、無知であった彼らの罪が許される訳ではなく、全員が射殺されたという
結末は覆しようもありません。
※
「ただでさえ毎日、うっとうしい日常を過ごしているのによくもそんな本を読むな?」と
いわれることもあるんですが…この手の本、記事やルポタージュ、エッセイを読むと暗澹
とした気持ちもなりますが、できるだけ読むように心がけています。
世界にはこんなこともあるのだ、と知ること。
こういうことがありえるのだ、と受け止めることにしています。
その一方で「日本はこんなに豊かなのに…」「こんな悲惨な人々もいるのに日本は…」とは
考えないようにしています。安易に考えたとしても、TVのコメンテーターや深夜の討論番組
の出演者の真似事でおわってしまうからです。
安っぽい浅慮より先に、まずは知ること、次にはできるだけ深くそのことを知ること。
それが大事だと思っています。
オススメというには暗くて重い内容ですが、もし興味を持った方がいればそれだけでも幸いです。
"夜明けの新聞の匂い" と題されたエッセイ集は、まだあります。
ほかにも「近ごろ好きな言葉」「沈船検死」「戦争を知っていてよかった」など数冊が文庫になっています。
※
追記
住民321人殺害か=キリスト教原理主義勢力 - コンゴ
2010年3月29日(月)06:03 時事通信社
アフリカ中部コンゴ民主共和国(旧ザイール)北東部の村々が2009年12月、隣国ウガンダのキリスト教原理主義勢力「神の抵抗軍(LRA)」に襲撃され、少なくとも321人が殺害されたとみられている。英BBC放送(電子版)が28日伝えた。多数の子供が誘拐されており、少年兵や性的奴隷にされたとみられている。
Update 2010.04.07
Update 2017.02.08
曽野 綾子 (著)
文庫: 419ページ
出版社: 新潮社 (2002/07)
ISBN-10: 4101146381
ISBN-13: 978-4101146386
発売日: 2002/07
人間がどれほど、どのような理由で、残酷になりうるか。
700万前後の人口のうち、100日間で実に139万人が
部族虐殺の被害者とそれに伴う難民となったルワンダの悲劇。
「世界的な貧困を知る旅」で虐殺の地を訪れた著者は、なお臭気の漂う現場で
人間の弱さを痛感し、宗教とは何かを再考する。目を背けてはならない大きな
問いを発する表題作をはじめ、教育、政治、介護保険など、
いま日本で起きている事態を作家の目で鋭く観察した33本のエッセイ。
(出版社/著者からの内容紹介 より引用)
※
カソリック信者としても知られる作家 曽野 綾子さんの著作です。
1995年から2005年まで日本財団会長職を務め、
2009年10月からは日本郵政取締役でもあります。
多くの慈善事業に携わり、世界の貧困と荒廃を見てきた方の、力強い著作です。
「アフリカで暴動・虐殺」とくれば
「民族対立による過激派が煽動した武力衝突だろう。」
「武器も"悪魔の銃"=カラシニコフAK47が使われたのだろう。」
そんな風に安易に想像してしまいますが、この1994年に起きたルワンダの悲劇を
綴った「部族虐殺」では、もっと恐ろしい事実―実際には市井のあらゆる人々―官吏
・学者・教師・医師・看護婦・裁判官・神父・修道女まであらゆる層のしかもインテ
リやホワイトカラーが参加したと記されています。
武器も銃や手榴弾どころか、草刈り鎌や手製の槍、山刀、"マス"とよばれる民族的な
武器=先端に爪の付いた棍棒まで使われており、検死の結果を見るにいかに執拗に
"虐殺"が行われたのかがわかるのだそうです。
人が人を殺そうとおもったら、武器も心得もいらない。
そして、その抑制に、スポーツも武道も、いわんや信仰でさえも、文化的なもの一切
がまったく役に立たない、という事実に戦慄します。
本書では上記以外にも、1996年に起きたテロリスト「トゥパク・アマル」による
ペルー日本大使公邸人質事件を綴った「アンバサダーホテルの最後の日々」があります。
この人質篭城事件は、1996年(平成8年)12月17日(現地時間)から翌19
97年(平成9年)4月22日まで、ペルー警察の突入とテロリスト全員の射殺によって
よって事件が解決するまで、実に4ヶ月間以上かかりました。
テロリストたちは、素朴な貧しい農村出身が多く、学校にもいっていない。
彼らのリーダー、セルパから「2週間くらいで占拠がうまく終わって目的を達したら、
ジャングルに戻って報奨金をもらえる」と素朴に信じていたようです。
その報奨金でコーヒー園を買ったり、小型バスを買って運転手になることを夢見ていたり。
中には人質となった人々に「これ(篭城)が終わったら、軍隊に入りたいがどうしたら
(軍隊に)はいれるのか?」といささかあきれるようなことを聞いているものもいたとか。
またホテルの浴室で熱いシャワーを生まれて初めて浴びて驚いたり。
人質に差し入れられるベントー(弁当)を「こんなにうまいものがあるのか」と貪り食って
10Kg近く太ったり、テレビの昼メロドラマにはまったり…
そうしたとき、機関銃は床におかれていたそうです。
だからといって、無知であった彼らの罪が許される訳ではなく、全員が射殺されたという
結末は覆しようもありません。
※
「ただでさえ毎日、うっとうしい日常を過ごしているのによくもそんな本を読むな?」と
いわれることもあるんですが…この手の本、記事やルポタージュ、エッセイを読むと暗澹
とした気持ちもなりますが、できるだけ読むように心がけています。
世界にはこんなこともあるのだ、と知ること。
こういうことがありえるのだ、と受け止めることにしています。
その一方で「日本はこんなに豊かなのに…」「こんな悲惨な人々もいるのに日本は…」とは
考えないようにしています。安易に考えたとしても、TVのコメンテーターや深夜の討論番組
の出演者の真似事でおわってしまうからです。
安っぽい浅慮より先に、まずは知ること、次にはできるだけ深くそのことを知ること。
それが大事だと思っています。
オススメというには暗くて重い内容ですが、もし興味を持った方がいればそれだけでも幸いです。
"夜明けの新聞の匂い" と題されたエッセイ集は、まだあります。
ほかにも「近ごろ好きな言葉」「沈船検死」「戦争を知っていてよかった」など数冊が文庫になっています。
※
追記
住民321人殺害か=キリスト教原理主義勢力 - コンゴ
2010年3月29日(月)06:03 時事通信社
アフリカ中部コンゴ民主共和国(旧ザイール)北東部の村々が2009年12月、隣国ウガンダのキリスト教原理主義勢力「神の抵抗軍(LRA)」に襲撃され、少なくとも321人が殺害されたとみられている。英BBC放送(電子版)が28日伝えた。多数の子供が誘拐されており、少年兵や性的奴隷にされたとみられている。
Update 2010.04.07
Update 2017.02.08