ある オンナ
(ゼンペン)
アリシマ タケオ
1
シンバシ を わたる とき、 ハッシャ を しらせる 2 バンメ の ベル が、 キリ と まで は いえない 9 ガツ の アサ の、 けむった クウキ に つつまれて きこえて きた。 ヨウコ は ヘイキ で それ を きいた が、 シャフ は チュウ を とんだ。 そして クルマ が、 ツルヤ と いう マチ の カド の ヤドヤ を まがって、 いつでも ジンバ の むらがる あの キョウドウ イド の アタリ を かけぬける とき、 テイシャジョウ の イリグチ の オオド を しめよう と する エキフ と あらそいながら、 8 ブ-ガタ しまりかかった ト の ところ に つったって こっち を みまもって いる セイネン の スガタ を みた。
「まあ おそく なって すみません でした こと…… まだ まにあいます かしら」
と ヨウコ が いいながら カイダン を のぼる と、 セイネン は ソマツ な ムギワラ ボウシ を ちょっと ぬいで、 だまった まま あおい キップ を わたした。
「おや なぜ イットウ に なさらなかった の。 そう しない と いけない ワケ が ある から かえて くださいまし な」
と いおう と した けれども、 ヒ が つく ばかり に エキフ が せきたてる ので、 ヨウコ は だまった まま セイネン と ならんで コキザミ な アシドリ で、 たった ヒトツ だけ あいて いる カイサツグチ へ と いそいだ。 カイサツ は この フタリ の ジョウキャク を にがにがしげ に みやりながら、 ヒダリテ を のばして まって いた。 フタリ が テンデン に キップ を だそう と する とき、
「ワカオクサマ、 これ を おわすれ に なりました」
と いいながら、 ハッピ の コン の ニオイ の たかく する サッキ の シャフ が、 うすい オオガラ な セル の ヒザカケ を カタ に かけた まま あわてた よう に おいかけて きて、 オリーブ イロ の キヌ ハンケチ に つつんだ ちいさな もの を わたそう と した。
「はやく はやく、 はやく しない と でっちまいます よ」
カイサツ が たまらなく なって カンシャクゴエ を ふりたてた。
セイネン の マエ で 「ワカオクサマ」 と よばれた の と、 カイサツ が がみがみ どなりたてた ので、 ハリ の よう に するどい シンケイ は すぐ カノジョ を アマノジャク に した。 ヨウコ は イマ まで イソギギミ で あった アユミ を ぴったり とめて しまって、 おちついた カオツキ で、 シャフ の ほう に むきなおった。
「そう ゴクロウ よ。 ウチ に かえったら ね、 キョウ は カエリ が おそく なる かも しれません から、 オジョウサン たち だけ で コウユウカイ に いらっしゃい って そう いって おくれ。 それから ヨコハマ の オウミヤ―― セイヨウ コマモノヤ の オウミヤ が きたら、 キョウ こっち から でかけた から って いう よう に って ね」
シャフ は きょときょと と カイサツ と ヨウコ と を カタミガワリ に みやりながら、 ジブン が キシャ に でも のりおくれる よう に あわてて いた。 カイサツ の カオ は だんだん けわしく なって、 あわや ツウロ を しめて しまおう と した とき、 ヨウコ は するする と その ほう に ちかよって、
「どうも すみません でした こと」
と いって キップ を さしだしながら、 カイサツ の メ の サキ で ハナ が さいた よう に ほほえんで みせた。 カイサツ は バカ に なった よう な カオツキ を しながら、 それでも おめおめ と キップ に アナ を いれた。
プラットフォーム では、 エキイン も ミオクリニン も、 たって いる カギリ の ヒトビト は フタリ の ほう に メ を むけて いた。 それ を まったく きづき も しない よう な モノゴシ で、 ヨウコ は したしげ に セイネン と カタ を ならべて、 しずしず と あるきながら、 シャフ の とどけた ツツミモノ の ナカ には ナニ が ある か あてて みろ とか、 ヨコハマ の よう に ジブン の ココロ を ひく マチ は ない とか、 キップ を イッショ に しまって おいて くれろ とか いって、 オンガクシャ の よう に デリケート な その ユビサキ で、 わざとらしく イクド か セイネン の テ に ふれる キカイ を もとめた。 レッシャ の ナカ から は ある カギリ の カオ が フタリ を みむかえ みおくる ので、 セイネン が ものなれない ショジョ の よう に はにかんで、 しかも ジブン ながら ジブン を おこって いる の が ヨウコ には おもしろく ながめやられた。
いちばん ちかい ニトウシャ の ショウコウグチ の ところ に たって いた シャショウ は ミギ の テ を ポッケット に つっこんで、 クツ の ツマサキ で まちどおしそう に シキイシ を たたいて いた が、 ヨウコ が デッキ に アシ を ふみいれる と、 いきなり ミミ を つんざく ばかり に ヨビコ を ならした。 そして セイネン (セイネン は ナ を コトウ と いった) が ヨウコ に つづいて とびのった とき には、 キカンシャ の オウテキ が ゼンポウ で アサ の マチ の にぎやか な サザメキ を やぶって ひびきわたった。
ヨウコ は シカク な ガラス を はめた イリグチ の クリド を コトウ が イキオイ よく あける の を まって、 ナカ に はいろう と して、 8 ブ-ドオリ つまった リョウガワ の ジョウキャク に イナズマ の よう に するどく メ を はしらした が、 ヒダリガワ の チュウオウ ちかく シンブン を みいった、 やせた チュウネン の オトコ に シセン が とまる と、 はっと たちすくむ ほど おどろいた。 しかし その オドロキ は またたく ヒマ も ない うち に、 カオ から も アシ から も きえうせて、 ヨウコ は わるびれ も せず、 とりすまし も せず、 ジシン ある ジョユウ が キゲキ の ブタイ に でも あらわれる よう に、 かるい ビショウ を ミギ の ホオ だけ に うかべながら、 コトウ に つづいて イリグチ に ちかい ミギガワ の クウセキ に コシ を おろす と、 あでやか に セイネン を みかえりながら、 コユビ を なんとも いえない よい カタチ に おりまげた ヒダリテ で、 ビン の オクレゲ を かきなでる ツイデ に、 ジミ に よそおって きた クロ の リボン に さわって みた。 セイネン の マエ に ザ を とって いた 43~44 の あぶらぎった ショウニン-テイ の オトコ は、 あたふた と たちあがって ジブン の ウシロ の シェード を おろして、 おりふし ヨコザシ に ヨウコ に てりつける アサ の コウセン を さえぎった。
コン の カスリ に ショセイ ゲタ を つっかけた セイネン に たいして、 スジョウ が しれぬ ほど カオ にも スガタ にも フクザツ な ヒョウジョウ を たたえた この ジョセイ の タイショウ は、 おさない ショウジョ の チュウイ を すら ひかず には おかなかった。 ジョウキャク イチドウ の シセン は アヤ を なして フタリ の ウエ に みだれとんだ。 ヨウコ は ジブン が セイネン の フシギ な タイショウ に なって いる と いう カンジ を こころよく むかえて でも いる よう に、 セイネン に たいして ことさら したしげ な タイド を みせた。
シナガワ を すぎて みじかい トンネル を キシャ が でよう と する とき、 ヨウコ は きびしく ジブン を みすえる メ を マユ の アタリ に かんじて おもむろに その ほう を みかえった。 それ は ヨウコ が おもった とおり、 シンブン に みいって いる かの やせた オトコ だった。 オトコ の ナ は キベ コキョウ と いった。 ヨウコ が シャナイ に アシ を ふみいれた とき、 ダレ より も サキ に ヨウコ に メ を つけた の は この オトコ で あった が、 ダレ より も サキ に メ を そらした の も この オトコ で、 すぐ シンブン を メハチブ に さしあげて、 それ に よみいって そしらぬ フリ を した の に ヨウコ は キ が ついて いた。 そして ヨウコ に たいする ジョウキャク の コウキシン が おとろえはじめた コロ に なって、 カレ は ホンキ に ヨウコ を みつめはじめた の だ。 ヨウコ は あらかじめ この セツナ に たいする タイド を きめて いた から あわて も さわぎ も しなかった。 メ を スズ の よう に おおきく はって、 したしい コビ の イロ を うかべながら、 だまった まま で かるく うなずこう と、 すこし カタ と カオ と を そっち に ひねって、 こころもち ウワムキ カゲン に なった とき、 イナズマ の よう に カノジョ の ココロ に ひびいた の は、 オトコ が その コウイ に おうじて ほほえみかわす ヨウス の ない と いう こと だった。 じっさい オトコ の イチモンジマユ は ふかく ひそんで、 その リョウガン は ひときわ スルドサ を まして みえた。 それ を みてとる と ヨウコ の ココロ の ウチ は かっと なった が、 えみかまけた ヒトミ は ソノママ で、 するする と オトコ の カオ を とおりこして、 ヒダリガワ の コトウ の ケッキ の いい ホオ の アタリ に おちた。 コトウ は クリド の ガラスゴシ に、 キリワリ の ガケ を ながめて つくねん と して いた。
「また ナニ か かんがえて いらっしゃる のね」
ヨウコ は やせた キベ に これみよがし と いう モノゴシ で はなやか に いった。
コトウ は あまり はずんだ ヨウコ の コエ に ひかされて、 まんじり と その カオ を みまもった。 その セイネン の タンジュン な あからさま な ココロ に、 ジブン の エガオ の オク の にがい しぶい イロ が みぬかれ は しない か と、 ヨウコ は おもわず たじろいだ ほど だった。
「なんにも かんがえて い や しない が、 カゲ に なった ガケ の イロ が、 あまり に きれい だ もん で…… ムラサキ に みえる でしょう。 もう アキ-がかって きた ん です よ」
セイネン は なにも おもって い は しなかった の だ。
「ホントウ に ね」
ヨウコ は タンジュン に おうじて、 もう イチド ちらっと キベ を みた。 やせた キベ の メ は マエ と おなじ に するどく かがやいて いた。 ヨウコ は ショウメン に むきなおる と ともに、 その オトコ の ヒトミ の シタ で、 ユウウツ な けわしい イロ を ひきしめた クチ の アタリ に みなぎらした。 キベ は それ を みて ジブン の タイド を コウカイ す べき はず で ある。
2
ヨウコ は キベ が タマシイ を うちこんだ ハツコイ の マト だった。 それ は ちょうど ニッシン センソウ が シュウキョク を つげて、 コクミン イッパン は ダレカレ の サベツ なく、 この センソウ に カンケイ の あった コトガラ や ジンブツ や に ジジツ イジョウ の コウキシン を そそられて いた コロ で あった が、 キベ は 25 と いう わかい トシ で、 ある ダイ シンブンシャ の ジュウグン キシャ に なって シナ に わたり、 ツキナミ な ツウシンブン の おおい ナカ に、 きわだって カンサツ の とびはなれた シンリョク の ゆらいだ ブンショウ を ハッピョウ して、 テンサイ キシャ と いう ナ を はくして めでたく ガイセン した の で あった。 その コロ ジョリュウ キリスト キョウト の センカクシャ と して、 キリスト-キョウ フジン ドウメイ の フク カイチョウ を して いた ヨウコ の ハハ は、 キベ の ぞくして いた シンブンシャ の シャチョウ と したしい コウサイ の あった カンケイ から、 ある ヒ その シャ の ジュウグン キシャ を ジタク に まねいて イロウ の カイショク を もよおした。 その セキ で、 コガラ で ハクセキ で、 シギン の コエ の ヒソウ な、 カンジョウ の ネツレツ な この ショウソウ ジュウグン キシャ は はじめて ヨウコ を みた の だった。
ヨウコ は その とき 19 だった が、 すでに イクニン も の オトコ に コイ を しむけられて、 その カコミ を テギワ よく くりぬけながら、 ジブン の わかい ココロ を たのしませて ゆく タクト は ジュウブン に もって いた。 15 の とき に、 ハカマ を ヒモ で しめる カワリ に ビジョウ で しめる クフウ を して、 イチジ ジョガクセイ-カイ の リュウコウ を フウビ した の も カノジョ で ある。 その あかい クチビル を すわして シュセキ を しめた ん だ と、 ゲンカク で とおって いる ベイコクジン の ロウコウチョウ に、 おもい も よらぬ ウキナ を おわせた の も カノジョ で ある。 ウエノ の オンガク ガッコウ に はいって ヴァイオリン の ケイコ を はじめて から 2 カゲツ ほど の アイダ に めきめき ジョウタツ して、 キョウシ や セイト の シタ を まかした とき、 ケーベル ハカセ ヒトリ は しぶい カオ を した。 そして ある ヒ 「オマエ の ガッキ は サイ で なる の だ。 テンサイ で なる の では ない」 と ブアイソウ に いって のけた。 それ を きく と 「そう で ございます か」 と ムゾウサ に いいながら、 ヴァイオリン を マド の ソト に ほうりなげて、 そのまま ガッコウ を タイガク して しまった の も カノジョ で ある。 キリスト-キョウ フジン ドウメイ の ジギョウ に ホンソウ し、 シャカイ では オトコマサリ の シッカリモノ と いう ヒョウバン を とり、 カナイ では シュミ の たかい そして イシ の よわい オット を まったく ムシ して ふるまった その ハハ の もっとも ふかい かくれた ジャクテン を、 ボシ と ショクシ との アイダ に ちゃんと おさえて、 イッポ も ヒケ を とらなかった の も カノジョ で ある。 ヨウコ の メ には スベテ の ヒト が、 ことに オトコ が ソコ の ソコ まで みすかせる よう だった。 ヨウコ は それまで オオク の オトコ を かなり チカク まで くぐりこませて おいて、 もう イッポ と いう ところ で つきはなした。 コイ の ハジメ には いつでも ジョセイ が まつりあげられて いて、 ある キカイ を ゼッチョウ に ダンセイ が とつぜん ジョセイ を ふみにじる と いう こと を チョッカク の よう に しって いた ヨウコ は、 どの オトコ に たいして も、 ジブン との カンケイ の ゼッチョウ が どこ に ある か を みぬいて いて、 そこ に きかかる と ナサケヨウシャ も なく その オトコ を ふりすてて しまった。 そうして すてられた オオク の オトコ は、 ヨウコ を うらむ より も ジブン たち の ジュウセイ を はじる よう に みえた。 そして カレラ は ひとしく ヨウコ を みあやまって いた こと を くいる よう に みえた。 なぜ と いう と、 カレラ は ヒトリ と して ヨウコ に たいして エンコン を いだいたり、 フンヌ を もらしたり する モノ は なかった から。 そして すこし ひがんだ モノタチ は ジブン の グ を みとめる より も ヨウコ を トシ フソウトウ に ませた オンナ と みる ほう が カッテ だった から。
それ は コイ に よろしい ワカバ の 6 ガツ の ある ユウガタ だった。 ニホンバシ の クギダナ に ある ヨウコ の イエ には 7~8 ニン の わかい ジュウグン キシャ が まだ センジン の ぬけきらない よう な フウ を して あつまって きた。 19 で いながら 17 にも 16 にも みれば みられる よう な きゃしゃ な カレン な スガタ を した ヨウコ が、 ツツシミ の ナカ にも さいばしった オモカゲ を みせて、 フタリ の イモウト と ともに キュウジ に たった。 そして しいられる まま に、 ケーベル ハカセ から ののしられた ヴァイオリン の ヒトテ も かなでたり した。 キベ の ゼンレイ は ただ ヒトメ で この うつくしい サイキ の みなぎりあふれた ヨウコ の ヨウシ に すいこまれて しまった。 ヨウコ も フシギ に この コガラ な セイネン に キョウミ を かんじた。 そして ウンメイ は フシギ な イタズラ を する もの だ。 キベ は その セイカク ばかり で なく、 ヨウボウ ――ホネボソ な、 カオ の ゾウサク の ととのった、 テンサイ-フウ に あおじろい なめらか な ヒフ の、 よく みる と タ の ブブン の センレイ な ワリアイ に カガクコツ の ハッタツ した―― まで どこ か ヨウコ の それ に にて いた から、 ジイシキ の キョクド に つよい ヨウコ は、 ジブン の スガタ を キベ に みつけだした よう に おもって、 イッシュ の コウキシン を チョウハツ せられず には いなかった。 キベ は もえやすい ココロ に ヨウコ を やく よう に かきいだいて、 ヨウコ は また さいばしった アタマ に キベ の オモカゲ を かるく やどして、 その イチヤ の キョウエン は さりげなく オワリ を つげた。
キベ の キシャ と して の ヒョウバン は ハテンコウ と いって も よかった。 いやしくも ブンガク を かいする モノ は キベ を しらない モノ は なかった。 ヒトビト は キベ が セイジュク した シソウ を ひっさげて ヨノナカ に でて くる とき の ハナバナシサ を ウワサ しあった。 ことに ニッシン センエキ と いう、 その トウジ の ニホン に して は ゼツダイ な ハイケイ を せおって いる ので、 この ネンショウ キシャ は ある ヒトビト から は ヒーロー の ヒトリ と さえ して スウハイ された。 この キベ が たびたび ヨウコ の イエ を おとずれる よう に なった。 その カンショウテキ な、 ドウジ に どこ か タイモウ に もえたった よう な この セイネン の カッキ は、 イエジュウ の ヒトビト の ココロ を とらえない では おかなかった。 ことに ヨウコ の ハハ が マエ から キベ を しって いて、 ヒジョウ に ユウイ タボウ な セイネン だ と ほめそやしたり、 コウシュウ の マエ で ジブン の コ とも オトウト とも つかぬ タイド で キベ を もてあつかったり する の を みる と、 ヨウコ は ムネ の ウチ で せせらわらった。 そして ココロ を ゆるして キベ に コウイ を みせはじめた。 キベ の ネツイ が みるみる おさえがたく つのりだした の は もちろん の こと で ある。
かの 6 ガツ の ヨ が すぎて から ホド も なく キベ と ヨウコ とは コイ と いう コトバ で みられねば ならぬ よう な アイダガラ に なって いた。 こういう バアイ ヨウコ が どれほど コイ の バメン を ギコウカ し ゲイジュツカ する に たくみ で あった か は いう に およばない。 キベ は ねて も おきて も ユメ の ナカ に ある よう に みえた。 25 と いう その コロ まで、 ネッシン な シンジャ で、 セイキョウト-フウ の ホコリ を ユイイツ の タチバ と して いた キベ が この ハツコイ に おいて どれほど シンケン に なって いた か は ソウゾウ する こと が できる。 ヨウコ は おもい も かけず キベ の ヒ の よう な ジョウネツ に やかれよう と する ジブン を みいだす こと が しばしば だった。
その うち に フタリ の アイダガラ は すぐ ヨウコ の ハハ に かんづかれた。 ヨウコ に たいして かねて から ある こと では イッシュ の テキイ を もって さえ いる よう に みえる その ハハ が、 この ジケン に たいして シット とも おもわれる ほど ゲンジュウ な コショウ を もちだした の は、 フシギ で ない と いう べき サカイ を とおりこして いた。 セコ に なれきって、 おちつきはらった チュウネン の フジン が、 ココロ の ソコ の ドウヨウ に シゲキ されて たくらみだす と みえる ザンギャク な ワルダクミ は、 としわかい フタリ の キュウショ を そろそろ と うかがいよって、 ハラワタ も とおれ と つきさして くる。 それ を はらいかねて キベ が イノチカギリ に もがく の を みる と、 ヨウコ の ココロ に ジュンスイ な ドウジョウ と、 オトコ に たいする ムジョウケンテキ な ステミ な タイド が うまれはじめた。 ヨウコ は ジブン で つくりだした ジブン の オトシアナ に タワイ も なく よいはじめた。 ヨウコ は こんな メ も くらむ よう な はればれしい もの を みた こと が なかった。 オンナ の ホンノウ が うまれて はじめて メ を ふきはじめた。 そして メス の よう な ヒゴロ の ヒハンリョク は ナマリ の よう に にぶって しまった。 ヨウコ の ハハ が ボウリョク では およばない の を さとって、 すかしつ なだめつ、 オット まで を ドウグ に つかったり、 キベ の ソンシン する ボクシ を ホウベン に したり して、 あらん カギリ の チリョク を しぼった カイジュウサク も、 なんの カイ も なく、 レイセイ な シリョ-ぶかい サクセン ケイカク を コンキ よく つづければ つづける ほど、 ヨウコ は キベ を ウシロ に かばいながら、 けなげ にも かよわい オンナ の テ ヒトツ で たたかった。 そして キベ の ゼンシン ゼンレイ を ツメ の サキ オモイ の ハテ まで ジブン の もの に しなければ、 しんで も しねない ヨウス が みえた ので、 ハハ も とうとう ガ を おった。 そして 5 カゲツ の おそろしい シレン の ノチ に、 リョウシン の たちあわない ちいさな ケッコン の シキ が、 アキ の ある ゴゴ、 キベ の ゲシュク の ヒトマ で とりおこなわれた。 そして ハハ に たいする ショウリ の ブンドリヒン と して、 キベ は ヨウコ ヒトリ の もの と なった。
キベ は すぐ ハヤマ に ちいさな カクレガ の よう な イエ を みつけだして、 フタリ は むつまじく そこ に うつりすむ こと に なった。 ヨウコ の コイ は しかしながら そろそろ と ひえはじめる の に 2 シュウカン イジョウ を ようしなかった。 カノジョ は キョウソウ す べからぬ カンケイ の キョウソウシャ に たいして みごと に ショウリ を えて しまった。 ニッシン センソウ と いう もの の ヒカリ も タイヨウ が ニシ に しずむ たび ごと に げんじて いった。 それら は それ と して いちばん ヨウコ を シツボウ させた の は ドウセイゴ はじめて オトコ と いう もの の ウラ を かえして みた こと だった。 ヨウコ を カクジツ に センリョウ した と いう イシキ に ウラガキ された キベ は、 イマ まで オクビ にも ヨウコ に みせなかった めめしい ジャクテン を ロコツ に あらわしはじめた。 ウシロ から みた キベ は ヨウコ には トリドコロ の ない ヘイボン な キ の よわい セイリョク の たりない オトコ に すぎなかった。 フデ 1 ポン にぎる こと も せず に アサ から バン まで ヨウコ に コウチャク し、 カンショウテキ な くせ に おそろしく ワガママ で、 コンニチ コンニチ の セイカツ に さえ ことかきながら、 バンジ を ヨウコ の カタ に なげかけて それ が トウゼン な こと でも ある よう な ドンカン な オボッチャン-じみた セイカツ の シカタ が ヨウコ の するどい シンケイ を いらいら させだした。 ハジメ の うち は ヨウコ も それ を キベ の シジン-らしい ムジャキサ から だ と おもって みた。 そして せっせせっせ と セワ ニョウボウ-らしく きりまわす こと に キョウミ を つないで みた。 しかし ココロ の ソコ の おそろしく ブッシツテキ な ヨウコ に どうして こんな シンボウ が いつまでも つづこう ぞ。 ケッコンゼン まで は ヨウコ の ほう から せまって みた にも かかわらず、 スウコウ と みえる まで に キョクタン な ケッペキヤ だった カレ で あった のに、 おもい も かけぬ ドンラン な ロウレツ な ジョウヨク の モチヌシ で、 しかも その ヨッキュウ を ヒンジャク な タイシツ で あらわそう と する の に でくわす と、 ヨウコ は イマ まで ジブン でも キ が つかず に いた ジブン を カガミ で みせつけられた よう な フカイ を かんぜず には いられなかった。 ユウショク を すます と ヨウコ は いつでも フマン と シツボウ と で いらいら しながら ヨル を むかえねば ならなかった。 キベ の ヨウコ に たいする アイチャク が つのれば つのる ほど、 ヨウコ は イッショウ が くらく なりまさる よう に おもった。 こうして しぬ ため に うまれて きた の では ない はず だ。 そう ヨウコ は くさくさ しながら おもいはじめた。 その ココロモチ が また キベ に ひびいた。 キベ は だんだん カンシ の メ を もって ヨウコ の イッキョ イチドウ を チュウイ する よう に なって きた。 ドウセイ して から ハンカゲツ も たたない うち に、 キベ は ややもすると コウアツテキ に ヨウコ の ジユウ を ソクバク する よう な タイド を とる よう に なった。 キベ の アイジョウ は ホネ に しみる ほど しりぬきながら、 にぶって いた ヨウコ の ヒハンリョク は また ミガキ を かけられた。 その するどく なった ヒハンリョク で みる と、 ジブン と によった スガタ なり セイカク なり を キベ に みいだす と いう こと は、 シゼン が コウミョウ な ヒニク を やって いる よう な もの だった。 ジブン も あんな こと を おもい、 あんな こと を いう の か と おもう と、 ヨウコ の ジソンシン は おもうぞんぶん に きずつけられた。
ホカ の ゲンイン も ある。 しかし これ だけ で ジュウブン だった。 フタリ が イッショ に なって から 2 カゲツ-メ に、 ヨウコ は とつぜん シッソウ して、 チチ の シンユウ で、 いわゆる モノゴト の よく わかる タカヤマ と いう イシャ の ビョウシツ に とじこもらして もらって、 ミッカ ばかり は くう もの も くわず に、 あさましく も オトコ の ため に メ の くらんだ ジブン の フカク を なきくやんだ。 キベ が キョウキ の よう に なって、 ようやく ヨウコ の カクレバショ を みつけて あい に きた とき は、 ヨウコ は レイセイ な タイド で しらじらしく メンカイ した。 そして 「アナタ の ショウライ の おため に きっと なりません から」 と なにげなげ に いって のけた。 キベ が その コトバ に ホネ を さす よう な フウシ を みいだしかねて いる の を みる と、 ヨウコ は しろく そろった うつくしい ハ を みせて コエ を だして わらった。
ヨウコ と キベ との アイダガラ は こんな タワイ も ない バメン を クギリ に して はかなく も やぶれて しまった。 キベ は あらん カギリ の シュダン を もちいて、 なだめたり、 すかしたり、 キョウハク まで して みた が、 スベテ は まったく ムエキ だった。 いったん キベ から はなれた ヨウコ の ココロ は、 ナニモノ も ふれた こと の ない ショジョ の それ の よう に さえ みえた。
それから フツウ の キカン を すぎて ヨウコ は キベ の コ を ブンベン した が、 もとより その こと を キベ に しらせなかった ばかり で なく、 ハハ に さえ ある タ の オトコ に よって うんだ コ だ と コクハク した。 じっさい ヨウコ は ソノゴ、 ハハ に その コクハク を しんじさす ほど の セイカツ を あえて して いた の だった。 しかし ハハ は めざとく も その アカンボウ に キベ の オモカゲ を さぐりだして、 キリスト シント に ある まじき アクイ を この あわれ な アカンボウ に くわえよう と した。 アカンボウ は ジョチュウベヤ に はこばれた まま、 ソボ の ヒザ には イチド も のらなかった。 イジ の よわい ヨウコ の チチ だけ は マゴ の カワイサ から そっと アカンボウ を ヨウコ の ウバ の イエ に ひきとる よう に して やった。 そして その みじめ な アカンボウ は ウバ の テ ヒトツ に そだてられて サダコ と いう 6 サイ の ドウジョ に なった。
ソノゴ ヨウコ の チチ は しんだ。 ハハ も しんだ。 キベ は ヨウコ と わかれて から、 キョウラン の よう な セイカツ に ミ を まかせた。 シュウギイン ギイン の コウホ に たって も みたり、 ジュンブンガク に ユビ を そめて も みたり、 タビソウ の よう な ホウロウ セイカツ も おくったり、 ツマ を もち コ を なし、 サケ に ふけり、 ザッシ の ハッコウ も くわだてた。 そして その スベテ に いちいち フマン を かんずる ばかり だった。 そして ヨウコ が ヒサシブリ で キシャ の ナカ で であった イマ は、 サイシ を サト に かえして しまって、 ある ユイショ ある ドウジョウ カゾク の キショクシャ と なって、 これ と いって する シゴト も なく、 ムネ の ウチ だけ には イロイロ な クウソウ を うかべたり けしたり して、 とかく カイソウ に ふけりやすい ヒオクリ を して いる とき だった。
3
その キベ の メ は しゅうねく も つきまつわった。 しかし ヨウコ は そっち を みむこう とも しなかった。 そして ニトウ の キップ でも かまわない から なぜ イットウ に のらなかった の だろう。 こういう こと が きっと ある と おもった から こそ、 のりこむ とき も そう いおう と した の だ のに、 キ が きかない っちゃ ない と おもう と、 チカゴロ に なく オキヌケ から さえざえ して いた キブン が、 しずみかけた アキ の ヒ の よう に かげったり めいったり しだして、 つめたい チ が ポンプ に でも かけられた よう に ノウ の スキマ と いう スキマ を かたく とざした。 たまらなく なって ムカイ の マド から ケシキ でも みよう と する と、 そこ には シェード が おろして あって、 レイ の 43~44 の オトコ が あつい クチビル を ゆるく あけた まま で、 バカ な カオ を しながら まじまじ と ヨウコ を みやって いた。 ヨウコ は むっと して その オトコ の ヒタイ から ハナ に かけた アタリ を、 エンリョ も なく はっし と メ で むちうった。 ショウニン は、 ホントウ に むちうたれた ヒト が なきだす マエ に する よう に、 わらう よう な、 はにかんだ よう な、 フシギ な カオ の ユガメカタ を して、 さすが に カオ を そむけて しまった。 その イクジ の ない ヨウス が また ヨウコ の ココロ を いらいら させた。 ミギ に メ を うつせば 3~4 ニン サキ に キベ が いた。 その するどい ちいさな メ は いぜん と して ヨウコ を みまもって いた。 ヨウコ は フルエ を おぼえる ばかり に ゲッコウ した シンケイ を リョウテ に あつめて、 その リョウテ を にぎりあわせて ヒザ の ウエ の ハンケチ の ツツミ を おさえながら、 ゲタ の サキ を じっと みいって しまった。 イマ は シャナイ の ヒト が もうしあわせて ブジョク でも して いる よう に ヨウコ には おもえた。 コトウ が トナリザ に いる の さえ、 イッシュ の クツウ だった。 その メイソウテキ な ムジャキ な タイド が、 ヨウコ の ナイブテキ ケイケン や クモン と すこしも エン が つづいて いない で、 フタリ の アイダ には こんりんざい リカイ が なりたちえない と おもう と、 カノジョ は トクベツ に ケイロ の かわった ジブン の キョウガイ に、 そっと うかがいよろう と する タンテイ を この セイネン に みいだす よう に おもって、 その ゴブガリ に した ジゾウアタマ まで が かえりみる にも たりない キ の ハシ か なんぞ の よう に みえた。
やせた キベ の ちいさな かがやいた メ は、 いぜん と して ヨウコ を みつめて いた。
なぜ キベ は かほど まで ジブン を ブジョク する の だろう。 カレ は イマ でも ジブン を オンナ と あなどって いる。 ちっぽけ な サイリョク を イマ でも たのんで いる。 オンナ より も あさましい ネツジョウ を ハナ に かけて、 イマ でも ジブン の ウンメイ に さしでがましく たちいろう と して いる。 あの ジシン の ない オクビョウ な オトコ に ジブン は さっき コビ を みせよう と した の だ。 そして カレ は ジブン が これほど まで ホコリ を すてて あたえよう と した トクベツ の コウイ を マナジリ を かえして しりぞけた の だ。
やせた キベ の ちいさな メ は いぜん と して ヨウコ を みつめて いた。
この とき とつぜん けたたましい ワライゴエ が、 ナニ か ネッシン に はなしあって いた フタリ の チュウネン の シンシ の クチ から おこった。 その ワライゴエ と ヨウコ と なんの カンケイ も ない こと は ヨウコ にも わかりきって いた。 しかし カノジョ は それ を きく と、 もう ヨク にも ガマン が しきれなく なった。 そして ミギ の テ を ふかぶか と オビ の アイダ に さしこんだ まま タチアガリザマ、
「キシャ に よった ん でしょう かしらん、 ズツウ が する の」
と すてる よう に コトウ に いいのこして、 いきなり クリド を あけて デッキ に でた。
だいぶ たかく なった ヒ の ヒカリ が ぱっと オオモリ タンボ に てりわたって、 ウミ が わらいながら ひかる の が、 ナミキ の ムコウ に ひろすぎる くらい いちどきに メ に はいる ので、 かるい メマイ を さえ おぼえる ほど だった。 テツ の テスリ に すがって ふりむく と、 コトウ が つづいて でて きた の を しった。 その カオ には シンパイ そう な オドロキ の イロ が あからさま に あらわれて いた。
「ひどく いたむ ん です か」
「ええ かなり ひどく」
と こたえた が メンドウ だ と おもって、
「いい から はいって いて ください。 おおげさ に みえる と いや です から…… だいじょうぶ あぶなか ありません とも……」
と いいたした。 コトウ は しいて とめよう とは しなかった。 そして、
「それじゃ はいって いる が ホントウ に あぶのう ござんす よ…… ヨウ が あったら よんで ください よ」
と だけ いって すなお に はいって いった。
「Simpleton!」
ヨウコ は ココロ の ウチ で こう つぶやく と、 やきすてた よう に コトウ の こと なんぞ は わすれて しまって、 テスリ に ヒジ を ついた まま ホウシン して、 バンカ の ケシキ を つつむ ひきしまった クウキ に カオ を なぶらした。 キベ の こと も おもわない。 ミドリ や アイ や キイロ の ホカ、 これ と いって リンカク の はっきり した シゼン の スガタ も メ に うつらない。 ただ すずしい カゼ が そよそよ と ビン の ケ を そよがして とおる の を こころよい と おもって いた。 キシャ は めまぐるしい ほど の カイソクリョク で はしって いた。 ヨウコ の ココロ は ただ こんとん と くらく かたまった もの の マワリ を あきる こと も なく イクド も イクド も ヒダリ から ミギ に、 ミギ から ヒダリ に まわって いた。 こうして ヨウコ に とって は ながい ジカン が すぎさった と おもわれる コロ、 とつぜん アタマ の ナカ を ひっかきまわす よう な はげしい オト を たてて、 キシャ は ロクゴウガワ の テッキョウ を わたりはじめた。 ヨウコ は おもわず ぎょっと して ユメ から さめた よう に マエ を みる と、 ツリバシ の テツザイ が クモデ に なって ウエ を シタ へ と とびはねる ので、 ヨウコ は おもわず デッキ の パンネル に ミ を ひいて、 リョウソデ で カオ を おさえて モノ を ねんじる よう に した。
そう やって キ を しずめよう と メ を つぶって いる うち に、 マツゲ を とおし ソデ を とおして キベ の カオ と ことに その かがやく ちいさな リョウガン と が まざまざ と ソウゾウ に うかびあがって きた。 ヨウコ の シンケイ は ジシャク に すいよせられた サテツ の よう に、 かたく この ヒトツ の ゲンゾウ の ウエ に シュウチュウ して、 シャナイ に あった とき と ドウヨウ な キンチョウ した おそろしい ジョウタイ に かえった。 テイシャジョウ に ちかづいた キシャ は だんだん と ホド を ゆるめて いた。 タンボ の ここかしこ に、 ゾクアク な イロ で ぬりたてた おおきな コウコク カンバン が つらねて たてて あった。 ヨウコ は ソデ を カオ から はなして、 キモチ の わるい ゲンゾウ を はらいのける よう に、 ヒトツヒトツ その カンバン を みむかえ みおくって いた。 トコロドコロ に ヒ が もえる よう に その カンバン は メ に うつって キベ の スガタ は また おぼろ に なって いった。 その カンバン の ヒトツ に、 ながい クロカミ を さげた ヒメ が キョウカン を もって いる の が あった。 その ムネ に かかれた 「チュウジョウトウ」 と いう モジ を、 なにげなし に 1 ジ ずつ よみくだす と、 カノジョ は とつぜん シセイジ の サダコ の こと を おもいだした。 そして その チチ なる キベ の スガタ は、 かかる ランザツ な レンソウ の チュウシン と なって、 また まざまざ と やきつく よう に あらわれでた。
その あらわれでた キベ の カオ を、 いわば ココロ の ナカ の マナコ で みつめて いる うち に、 だんだん と その ハナ の シタ から ヒゲ が きえうせて いって、 かがやく ヒトミ の イロ は やさしい ニッカンテキ な アタタカミ を もちだして きた。 キシャ は じょじょ に シンコウ を ゆるめて いた。 やや あれはじめた サンジュウ オトコ の ヒフ の ツヤ は、 シンケイテキ な セイネン の あおじろい ハダ の イロ と なって、 くろく ひかった やわらかい ツムリ の ケ が きわだって しろい ヒタイ を なでて いる、 それ さえ が はっきり みえはじめた。 レッシャ は すでに カワサキ テイシャジョウ の プラットフォーム に はいって きた。 ヨウコ の アタマ の ナカ では、 キシャ が とまりきる マエ に シゴト を しおおさねば ならぬ と いう ふう に、 イマ みた ばかり の キベ の スガタ が どんどん わかやいで いった。 そして レッシャ が うごかなく なった とき、 ヨウコ は その ヒト の ソバ に でも いる よう に うっとり と した カオツキ で、 おもわず しらず ヒダリテ を あげて ――コユビ を やさしく おりまげて―― やわらかい ビン の オクレゲ を かきあげて いた。 これ は ヨウコ が ヒト の チュウイ を ひこう と する とき には いつでも する シナ で ある。
この とき、 クリド が けたたましく あいた と おもう と、 ナカ から 2~3 ニン の ジョウキャク が どやどや と あらわれでて きた。
しかも その サイゴ から、 すずしい イロアイ の インバネス を はおった キベ が つづく の を かんづいて、 ヨウコ の シンゾウ は おもわず はっと ショジョ の チ を もった よう に ときめいた。 キベ が ヨウコ の マエ まで きて スレスレ に その ソバ を とおりぬけよう と した とき、 フタリ の メ は もう イチド しみじみ と であった。 キベ の メ は コウイ を こめた ビショウ に ひたされて、 ヨウコ の デヨウ に よって は、 すぐに も モノ を いいだしそう に クチビル さえ ふるえて いた。 ヨウコ も イマ まで つづけて いた カイソウ の ダリョク に ひかされて、 おもわず ほほえみかけた の で あった が、 その シュンカン ツバメガエシ に、 み も しり も せぬ ロボウ の ヒト に あたえる よう な、 レイコク な キョウマン な ヒカリ を その ヒトミ から いだした ので、 キベ の ビショウ は あわれ にも エダ を はなれた カレハ の よう に、 フタリ の アイダ を むなしく ひらめいて きえて しまった。 ヨウコ は キベ の アワテカタ を みる と、 シャナイ で カレ から うけた ブジョク に かなり こきみよく むくいえた と いう ホコリ を かんじて、 ムネ の ウチ が やや すがすがしく なった。 キベ は やせた その ミギカタ を クセ の よう に いからしながら、 イソギアシ に カッポ して カイサツグチ の ところ に ちかづいた が、 キップ を カイチュウ から だす ため に たちどまった とき、 ふかい カナシミ の イロ を マユ の アイダ に みなぎらしながら、 ふりかえって じっと ヨウコ の ヨコガオ に メ を そそいだ。 ヨウコ は それ を しりながら もとより ブベツ の イチベツ をも あたえなかった。
キベ が カイサツグチ を でて スガタ が かくれよう と した とき、 コンド は ヨウコ の メ が じっと その ウシロスガタ を おいかけた。 キベ が みえなく なった ノチ も、 ヨウコ の シセン は そこ を はなれよう とは しなかった。 そして その メ には さびしく ナミダ が たまって いた。
「また あう こと が ある だろう か」
ヨウコ は そぞろ に フシギ な ヒアイ を おぼえながら ココロ の ウチ で そう いって いた の だった。
(ゼンペン)
アリシマ タケオ
1
シンバシ を わたる とき、 ハッシャ を しらせる 2 バンメ の ベル が、 キリ と まで は いえない 9 ガツ の アサ の、 けむった クウキ に つつまれて きこえて きた。 ヨウコ は ヘイキ で それ を きいた が、 シャフ は チュウ を とんだ。 そして クルマ が、 ツルヤ と いう マチ の カド の ヤドヤ を まがって、 いつでも ジンバ の むらがる あの キョウドウ イド の アタリ を かけぬける とき、 テイシャジョウ の イリグチ の オオド を しめよう と する エキフ と あらそいながら、 8 ブ-ガタ しまりかかった ト の ところ に つったって こっち を みまもって いる セイネン の スガタ を みた。
「まあ おそく なって すみません でした こと…… まだ まにあいます かしら」
と ヨウコ が いいながら カイダン を のぼる と、 セイネン は ソマツ な ムギワラ ボウシ を ちょっと ぬいで、 だまった まま あおい キップ を わたした。
「おや なぜ イットウ に なさらなかった の。 そう しない と いけない ワケ が ある から かえて くださいまし な」
と いおう と した けれども、 ヒ が つく ばかり に エキフ が せきたてる ので、 ヨウコ は だまった まま セイネン と ならんで コキザミ な アシドリ で、 たった ヒトツ だけ あいて いる カイサツグチ へ と いそいだ。 カイサツ は この フタリ の ジョウキャク を にがにがしげ に みやりながら、 ヒダリテ を のばして まって いた。 フタリ が テンデン に キップ を だそう と する とき、
「ワカオクサマ、 これ を おわすれ に なりました」
と いいながら、 ハッピ の コン の ニオイ の たかく する サッキ の シャフ が、 うすい オオガラ な セル の ヒザカケ を カタ に かけた まま あわてた よう に おいかけて きて、 オリーブ イロ の キヌ ハンケチ に つつんだ ちいさな もの を わたそう と した。
「はやく はやく、 はやく しない と でっちまいます よ」
カイサツ が たまらなく なって カンシャクゴエ を ふりたてた。
セイネン の マエ で 「ワカオクサマ」 と よばれた の と、 カイサツ が がみがみ どなりたてた ので、 ハリ の よう に するどい シンケイ は すぐ カノジョ を アマノジャク に した。 ヨウコ は イマ まで イソギギミ で あった アユミ を ぴったり とめて しまって、 おちついた カオツキ で、 シャフ の ほう に むきなおった。
「そう ゴクロウ よ。 ウチ に かえったら ね、 キョウ は カエリ が おそく なる かも しれません から、 オジョウサン たち だけ で コウユウカイ に いらっしゃい って そう いって おくれ。 それから ヨコハマ の オウミヤ―― セイヨウ コマモノヤ の オウミヤ が きたら、 キョウ こっち から でかけた から って いう よう に って ね」
シャフ は きょときょと と カイサツ と ヨウコ と を カタミガワリ に みやりながら、 ジブン が キシャ に でも のりおくれる よう に あわてて いた。 カイサツ の カオ は だんだん けわしく なって、 あわや ツウロ を しめて しまおう と した とき、 ヨウコ は するする と その ほう に ちかよって、
「どうも すみません でした こと」
と いって キップ を さしだしながら、 カイサツ の メ の サキ で ハナ が さいた よう に ほほえんで みせた。 カイサツ は バカ に なった よう な カオツキ を しながら、 それでも おめおめ と キップ に アナ を いれた。
プラットフォーム では、 エキイン も ミオクリニン も、 たって いる カギリ の ヒトビト は フタリ の ほう に メ を むけて いた。 それ を まったく きづき も しない よう な モノゴシ で、 ヨウコ は したしげ に セイネン と カタ を ならべて、 しずしず と あるきながら、 シャフ の とどけた ツツミモノ の ナカ には ナニ が ある か あてて みろ とか、 ヨコハマ の よう に ジブン の ココロ を ひく マチ は ない とか、 キップ を イッショ に しまって おいて くれろ とか いって、 オンガクシャ の よう に デリケート な その ユビサキ で、 わざとらしく イクド か セイネン の テ に ふれる キカイ を もとめた。 レッシャ の ナカ から は ある カギリ の カオ が フタリ を みむかえ みおくる ので、 セイネン が ものなれない ショジョ の よう に はにかんで、 しかも ジブン ながら ジブン を おこって いる の が ヨウコ には おもしろく ながめやられた。
いちばん ちかい ニトウシャ の ショウコウグチ の ところ に たって いた シャショウ は ミギ の テ を ポッケット に つっこんで、 クツ の ツマサキ で まちどおしそう に シキイシ を たたいて いた が、 ヨウコ が デッキ に アシ を ふみいれる と、 いきなり ミミ を つんざく ばかり に ヨビコ を ならした。 そして セイネン (セイネン は ナ を コトウ と いった) が ヨウコ に つづいて とびのった とき には、 キカンシャ の オウテキ が ゼンポウ で アサ の マチ の にぎやか な サザメキ を やぶって ひびきわたった。
ヨウコ は シカク な ガラス を はめた イリグチ の クリド を コトウ が イキオイ よく あける の を まって、 ナカ に はいろう と して、 8 ブ-ドオリ つまった リョウガワ の ジョウキャク に イナズマ の よう に するどく メ を はしらした が、 ヒダリガワ の チュウオウ ちかく シンブン を みいった、 やせた チュウネン の オトコ に シセン が とまる と、 はっと たちすくむ ほど おどろいた。 しかし その オドロキ は またたく ヒマ も ない うち に、 カオ から も アシ から も きえうせて、 ヨウコ は わるびれ も せず、 とりすまし も せず、 ジシン ある ジョユウ が キゲキ の ブタイ に でも あらわれる よう に、 かるい ビショウ を ミギ の ホオ だけ に うかべながら、 コトウ に つづいて イリグチ に ちかい ミギガワ の クウセキ に コシ を おろす と、 あでやか に セイネン を みかえりながら、 コユビ を なんとも いえない よい カタチ に おりまげた ヒダリテ で、 ビン の オクレゲ を かきなでる ツイデ に、 ジミ に よそおって きた クロ の リボン に さわって みた。 セイネン の マエ に ザ を とって いた 43~44 の あぶらぎった ショウニン-テイ の オトコ は、 あたふた と たちあがって ジブン の ウシロ の シェード を おろして、 おりふし ヨコザシ に ヨウコ に てりつける アサ の コウセン を さえぎった。
コン の カスリ に ショセイ ゲタ を つっかけた セイネン に たいして、 スジョウ が しれぬ ほど カオ にも スガタ にも フクザツ な ヒョウジョウ を たたえた この ジョセイ の タイショウ は、 おさない ショウジョ の チュウイ を すら ひかず には おかなかった。 ジョウキャク イチドウ の シセン は アヤ を なして フタリ の ウエ に みだれとんだ。 ヨウコ は ジブン が セイネン の フシギ な タイショウ に なって いる と いう カンジ を こころよく むかえて でも いる よう に、 セイネン に たいして ことさら したしげ な タイド を みせた。
シナガワ を すぎて みじかい トンネル を キシャ が でよう と する とき、 ヨウコ は きびしく ジブン を みすえる メ を マユ の アタリ に かんじて おもむろに その ほう を みかえった。 それ は ヨウコ が おもった とおり、 シンブン に みいって いる かの やせた オトコ だった。 オトコ の ナ は キベ コキョウ と いった。 ヨウコ が シャナイ に アシ を ふみいれた とき、 ダレ より も サキ に ヨウコ に メ を つけた の は この オトコ で あった が、 ダレ より も サキ に メ を そらした の も この オトコ で、 すぐ シンブン を メハチブ に さしあげて、 それ に よみいって そしらぬ フリ を した の に ヨウコ は キ が ついて いた。 そして ヨウコ に たいする ジョウキャク の コウキシン が おとろえはじめた コロ に なって、 カレ は ホンキ に ヨウコ を みつめはじめた の だ。 ヨウコ は あらかじめ この セツナ に たいする タイド を きめて いた から あわて も さわぎ も しなかった。 メ を スズ の よう に おおきく はって、 したしい コビ の イロ を うかべながら、 だまった まま で かるく うなずこう と、 すこし カタ と カオ と を そっち に ひねって、 こころもち ウワムキ カゲン に なった とき、 イナズマ の よう に カノジョ の ココロ に ひびいた の は、 オトコ が その コウイ に おうじて ほほえみかわす ヨウス の ない と いう こと だった。 じっさい オトコ の イチモンジマユ は ふかく ひそんで、 その リョウガン は ひときわ スルドサ を まして みえた。 それ を みてとる と ヨウコ の ココロ の ウチ は かっと なった が、 えみかまけた ヒトミ は ソノママ で、 するする と オトコ の カオ を とおりこして、 ヒダリガワ の コトウ の ケッキ の いい ホオ の アタリ に おちた。 コトウ は クリド の ガラスゴシ に、 キリワリ の ガケ を ながめて つくねん と して いた。
「また ナニ か かんがえて いらっしゃる のね」
ヨウコ は やせた キベ に これみよがし と いう モノゴシ で はなやか に いった。
コトウ は あまり はずんだ ヨウコ の コエ に ひかされて、 まんじり と その カオ を みまもった。 その セイネン の タンジュン な あからさま な ココロ に、 ジブン の エガオ の オク の にがい しぶい イロ が みぬかれ は しない か と、 ヨウコ は おもわず たじろいだ ほど だった。
「なんにも かんがえて い や しない が、 カゲ に なった ガケ の イロ が、 あまり に きれい だ もん で…… ムラサキ に みえる でしょう。 もう アキ-がかって きた ん です よ」
セイネン は なにも おもって い は しなかった の だ。
「ホントウ に ね」
ヨウコ は タンジュン に おうじて、 もう イチド ちらっと キベ を みた。 やせた キベ の メ は マエ と おなじ に するどく かがやいて いた。 ヨウコ は ショウメン に むきなおる と ともに、 その オトコ の ヒトミ の シタ で、 ユウウツ な けわしい イロ を ひきしめた クチ の アタリ に みなぎらした。 キベ は それ を みて ジブン の タイド を コウカイ す べき はず で ある。
2
ヨウコ は キベ が タマシイ を うちこんだ ハツコイ の マト だった。 それ は ちょうど ニッシン センソウ が シュウキョク を つげて、 コクミン イッパン は ダレカレ の サベツ なく、 この センソウ に カンケイ の あった コトガラ や ジンブツ や に ジジツ イジョウ の コウキシン を そそられて いた コロ で あった が、 キベ は 25 と いう わかい トシ で、 ある ダイ シンブンシャ の ジュウグン キシャ に なって シナ に わたり、 ツキナミ な ツウシンブン の おおい ナカ に、 きわだって カンサツ の とびはなれた シンリョク の ゆらいだ ブンショウ を ハッピョウ して、 テンサイ キシャ と いう ナ を はくして めでたく ガイセン した の で あった。 その コロ ジョリュウ キリスト キョウト の センカクシャ と して、 キリスト-キョウ フジン ドウメイ の フク カイチョウ を して いた ヨウコ の ハハ は、 キベ の ぞくして いた シンブンシャ の シャチョウ と したしい コウサイ の あった カンケイ から、 ある ヒ その シャ の ジュウグン キシャ を ジタク に まねいて イロウ の カイショク を もよおした。 その セキ で、 コガラ で ハクセキ で、 シギン の コエ の ヒソウ な、 カンジョウ の ネツレツ な この ショウソウ ジュウグン キシャ は はじめて ヨウコ を みた の だった。
ヨウコ は その とき 19 だった が、 すでに イクニン も の オトコ に コイ を しむけられて、 その カコミ を テギワ よく くりぬけながら、 ジブン の わかい ココロ を たのしませて ゆく タクト は ジュウブン に もって いた。 15 の とき に、 ハカマ を ヒモ で しめる カワリ に ビジョウ で しめる クフウ を して、 イチジ ジョガクセイ-カイ の リュウコウ を フウビ した の も カノジョ で ある。 その あかい クチビル を すわして シュセキ を しめた ん だ と、 ゲンカク で とおって いる ベイコクジン の ロウコウチョウ に、 おもい も よらぬ ウキナ を おわせた の も カノジョ で ある。 ウエノ の オンガク ガッコウ に はいって ヴァイオリン の ケイコ を はじめて から 2 カゲツ ほど の アイダ に めきめき ジョウタツ して、 キョウシ や セイト の シタ を まかした とき、 ケーベル ハカセ ヒトリ は しぶい カオ を した。 そして ある ヒ 「オマエ の ガッキ は サイ で なる の だ。 テンサイ で なる の では ない」 と ブアイソウ に いって のけた。 それ を きく と 「そう で ございます か」 と ムゾウサ に いいながら、 ヴァイオリン を マド の ソト に ほうりなげて、 そのまま ガッコウ を タイガク して しまった の も カノジョ で ある。 キリスト-キョウ フジン ドウメイ の ジギョウ に ホンソウ し、 シャカイ では オトコマサリ の シッカリモノ と いう ヒョウバン を とり、 カナイ では シュミ の たかい そして イシ の よわい オット を まったく ムシ して ふるまった その ハハ の もっとも ふかい かくれた ジャクテン を、 ボシ と ショクシ との アイダ に ちゃんと おさえて、 イッポ も ヒケ を とらなかった の も カノジョ で ある。 ヨウコ の メ には スベテ の ヒト が、 ことに オトコ が ソコ の ソコ まで みすかせる よう だった。 ヨウコ は それまで オオク の オトコ を かなり チカク まで くぐりこませて おいて、 もう イッポ と いう ところ で つきはなした。 コイ の ハジメ には いつでも ジョセイ が まつりあげられて いて、 ある キカイ を ゼッチョウ に ダンセイ が とつぜん ジョセイ を ふみにじる と いう こと を チョッカク の よう に しって いた ヨウコ は、 どの オトコ に たいして も、 ジブン との カンケイ の ゼッチョウ が どこ に ある か を みぬいて いて、 そこ に きかかる と ナサケヨウシャ も なく その オトコ を ふりすてて しまった。 そうして すてられた オオク の オトコ は、 ヨウコ を うらむ より も ジブン たち の ジュウセイ を はじる よう に みえた。 そして カレラ は ひとしく ヨウコ を みあやまって いた こと を くいる よう に みえた。 なぜ と いう と、 カレラ は ヒトリ と して ヨウコ に たいして エンコン を いだいたり、 フンヌ を もらしたり する モノ は なかった から。 そして すこし ひがんだ モノタチ は ジブン の グ を みとめる より も ヨウコ を トシ フソウトウ に ませた オンナ と みる ほう が カッテ だった から。
それ は コイ に よろしい ワカバ の 6 ガツ の ある ユウガタ だった。 ニホンバシ の クギダナ に ある ヨウコ の イエ には 7~8 ニン の わかい ジュウグン キシャ が まだ センジン の ぬけきらない よう な フウ を して あつまって きた。 19 で いながら 17 にも 16 にも みれば みられる よう な きゃしゃ な カレン な スガタ を した ヨウコ が、 ツツシミ の ナカ にも さいばしった オモカゲ を みせて、 フタリ の イモウト と ともに キュウジ に たった。 そして しいられる まま に、 ケーベル ハカセ から ののしられた ヴァイオリン の ヒトテ も かなでたり した。 キベ の ゼンレイ は ただ ヒトメ で この うつくしい サイキ の みなぎりあふれた ヨウコ の ヨウシ に すいこまれて しまった。 ヨウコ も フシギ に この コガラ な セイネン に キョウミ を かんじた。 そして ウンメイ は フシギ な イタズラ を する もの だ。 キベ は その セイカク ばかり で なく、 ヨウボウ ――ホネボソ な、 カオ の ゾウサク の ととのった、 テンサイ-フウ に あおじろい なめらか な ヒフ の、 よく みる と タ の ブブン の センレイ な ワリアイ に カガクコツ の ハッタツ した―― まで どこ か ヨウコ の それ に にて いた から、 ジイシキ の キョクド に つよい ヨウコ は、 ジブン の スガタ を キベ に みつけだした よう に おもって、 イッシュ の コウキシン を チョウハツ せられず には いなかった。 キベ は もえやすい ココロ に ヨウコ を やく よう に かきいだいて、 ヨウコ は また さいばしった アタマ に キベ の オモカゲ を かるく やどして、 その イチヤ の キョウエン は さりげなく オワリ を つげた。
キベ の キシャ と して の ヒョウバン は ハテンコウ と いって も よかった。 いやしくも ブンガク を かいする モノ は キベ を しらない モノ は なかった。 ヒトビト は キベ が セイジュク した シソウ を ひっさげて ヨノナカ に でて くる とき の ハナバナシサ を ウワサ しあった。 ことに ニッシン センエキ と いう、 その トウジ の ニホン に して は ゼツダイ な ハイケイ を せおって いる ので、 この ネンショウ キシャ は ある ヒトビト から は ヒーロー の ヒトリ と さえ して スウハイ された。 この キベ が たびたび ヨウコ の イエ を おとずれる よう に なった。 その カンショウテキ な、 ドウジ に どこ か タイモウ に もえたった よう な この セイネン の カッキ は、 イエジュウ の ヒトビト の ココロ を とらえない では おかなかった。 ことに ヨウコ の ハハ が マエ から キベ を しって いて、 ヒジョウ に ユウイ タボウ な セイネン だ と ほめそやしたり、 コウシュウ の マエ で ジブン の コ とも オトウト とも つかぬ タイド で キベ を もてあつかったり する の を みる と、 ヨウコ は ムネ の ウチ で せせらわらった。 そして ココロ を ゆるして キベ に コウイ を みせはじめた。 キベ の ネツイ が みるみる おさえがたく つのりだした の は もちろん の こと で ある。
かの 6 ガツ の ヨ が すぎて から ホド も なく キベ と ヨウコ とは コイ と いう コトバ で みられねば ならぬ よう な アイダガラ に なって いた。 こういう バアイ ヨウコ が どれほど コイ の バメン を ギコウカ し ゲイジュツカ する に たくみ で あった か は いう に およばない。 キベ は ねて も おきて も ユメ の ナカ に ある よう に みえた。 25 と いう その コロ まで、 ネッシン な シンジャ で、 セイキョウト-フウ の ホコリ を ユイイツ の タチバ と して いた キベ が この ハツコイ に おいて どれほど シンケン に なって いた か は ソウゾウ する こと が できる。 ヨウコ は おもい も かけず キベ の ヒ の よう な ジョウネツ に やかれよう と する ジブン を みいだす こと が しばしば だった。
その うち に フタリ の アイダガラ は すぐ ヨウコ の ハハ に かんづかれた。 ヨウコ に たいして かねて から ある こと では イッシュ の テキイ を もって さえ いる よう に みえる その ハハ が、 この ジケン に たいして シット とも おもわれる ほど ゲンジュウ な コショウ を もちだした の は、 フシギ で ない と いう べき サカイ を とおりこして いた。 セコ に なれきって、 おちつきはらった チュウネン の フジン が、 ココロ の ソコ の ドウヨウ に シゲキ されて たくらみだす と みえる ザンギャク な ワルダクミ は、 としわかい フタリ の キュウショ を そろそろ と うかがいよって、 ハラワタ も とおれ と つきさして くる。 それ を はらいかねて キベ が イノチカギリ に もがく の を みる と、 ヨウコ の ココロ に ジュンスイ な ドウジョウ と、 オトコ に たいする ムジョウケンテキ な ステミ な タイド が うまれはじめた。 ヨウコ は ジブン で つくりだした ジブン の オトシアナ に タワイ も なく よいはじめた。 ヨウコ は こんな メ も くらむ よう な はればれしい もの を みた こと が なかった。 オンナ の ホンノウ が うまれて はじめて メ を ふきはじめた。 そして メス の よう な ヒゴロ の ヒハンリョク は ナマリ の よう に にぶって しまった。 ヨウコ の ハハ が ボウリョク では およばない の を さとって、 すかしつ なだめつ、 オット まで を ドウグ に つかったり、 キベ の ソンシン する ボクシ を ホウベン に したり して、 あらん カギリ の チリョク を しぼった カイジュウサク も、 なんの カイ も なく、 レイセイ な シリョ-ぶかい サクセン ケイカク を コンキ よく つづければ つづける ほど、 ヨウコ は キベ を ウシロ に かばいながら、 けなげ にも かよわい オンナ の テ ヒトツ で たたかった。 そして キベ の ゼンシン ゼンレイ を ツメ の サキ オモイ の ハテ まで ジブン の もの に しなければ、 しんで も しねない ヨウス が みえた ので、 ハハ も とうとう ガ を おった。 そして 5 カゲツ の おそろしい シレン の ノチ に、 リョウシン の たちあわない ちいさな ケッコン の シキ が、 アキ の ある ゴゴ、 キベ の ゲシュク の ヒトマ で とりおこなわれた。 そして ハハ に たいする ショウリ の ブンドリヒン と して、 キベ は ヨウコ ヒトリ の もの と なった。
キベ は すぐ ハヤマ に ちいさな カクレガ の よう な イエ を みつけだして、 フタリ は むつまじく そこ に うつりすむ こと に なった。 ヨウコ の コイ は しかしながら そろそろ と ひえはじめる の に 2 シュウカン イジョウ を ようしなかった。 カノジョ は キョウソウ す べからぬ カンケイ の キョウソウシャ に たいして みごと に ショウリ を えて しまった。 ニッシン センソウ と いう もの の ヒカリ も タイヨウ が ニシ に しずむ たび ごと に げんじて いった。 それら は それ と して いちばん ヨウコ を シツボウ させた の は ドウセイゴ はじめて オトコ と いう もの の ウラ を かえして みた こと だった。 ヨウコ を カクジツ に センリョウ した と いう イシキ に ウラガキ された キベ は、 イマ まで オクビ にも ヨウコ に みせなかった めめしい ジャクテン を ロコツ に あらわしはじめた。 ウシロ から みた キベ は ヨウコ には トリドコロ の ない ヘイボン な キ の よわい セイリョク の たりない オトコ に すぎなかった。 フデ 1 ポン にぎる こと も せず に アサ から バン まで ヨウコ に コウチャク し、 カンショウテキ な くせ に おそろしく ワガママ で、 コンニチ コンニチ の セイカツ に さえ ことかきながら、 バンジ を ヨウコ の カタ に なげかけて それ が トウゼン な こと でも ある よう な ドンカン な オボッチャン-じみた セイカツ の シカタ が ヨウコ の するどい シンケイ を いらいら させだした。 ハジメ の うち は ヨウコ も それ を キベ の シジン-らしい ムジャキサ から だ と おもって みた。 そして せっせせっせ と セワ ニョウボウ-らしく きりまわす こと に キョウミ を つないで みた。 しかし ココロ の ソコ の おそろしく ブッシツテキ な ヨウコ に どうして こんな シンボウ が いつまでも つづこう ぞ。 ケッコンゼン まで は ヨウコ の ほう から せまって みた にも かかわらず、 スウコウ と みえる まで に キョクタン な ケッペキヤ だった カレ で あった のに、 おもい も かけぬ ドンラン な ロウレツ な ジョウヨク の モチヌシ で、 しかも その ヨッキュウ を ヒンジャク な タイシツ で あらわそう と する の に でくわす と、 ヨウコ は イマ まで ジブン でも キ が つかず に いた ジブン を カガミ で みせつけられた よう な フカイ を かんぜず には いられなかった。 ユウショク を すます と ヨウコ は いつでも フマン と シツボウ と で いらいら しながら ヨル を むかえねば ならなかった。 キベ の ヨウコ に たいする アイチャク が つのれば つのる ほど、 ヨウコ は イッショウ が くらく なりまさる よう に おもった。 こうして しぬ ため に うまれて きた の では ない はず だ。 そう ヨウコ は くさくさ しながら おもいはじめた。 その ココロモチ が また キベ に ひびいた。 キベ は だんだん カンシ の メ を もって ヨウコ の イッキョ イチドウ を チュウイ する よう に なって きた。 ドウセイ して から ハンカゲツ も たたない うち に、 キベ は ややもすると コウアツテキ に ヨウコ の ジユウ を ソクバク する よう な タイド を とる よう に なった。 キベ の アイジョウ は ホネ に しみる ほど しりぬきながら、 にぶって いた ヨウコ の ヒハンリョク は また ミガキ を かけられた。 その するどく なった ヒハンリョク で みる と、 ジブン と によった スガタ なり セイカク なり を キベ に みいだす と いう こと は、 シゼン が コウミョウ な ヒニク を やって いる よう な もの だった。 ジブン も あんな こと を おもい、 あんな こと を いう の か と おもう と、 ヨウコ の ジソンシン は おもうぞんぶん に きずつけられた。
ホカ の ゲンイン も ある。 しかし これ だけ で ジュウブン だった。 フタリ が イッショ に なって から 2 カゲツ-メ に、 ヨウコ は とつぜん シッソウ して、 チチ の シンユウ で、 いわゆる モノゴト の よく わかる タカヤマ と いう イシャ の ビョウシツ に とじこもらして もらって、 ミッカ ばかり は くう もの も くわず に、 あさましく も オトコ の ため に メ の くらんだ ジブン の フカク を なきくやんだ。 キベ が キョウキ の よう に なって、 ようやく ヨウコ の カクレバショ を みつけて あい に きた とき は、 ヨウコ は レイセイ な タイド で しらじらしく メンカイ した。 そして 「アナタ の ショウライ の おため に きっと なりません から」 と なにげなげ に いって のけた。 キベ が その コトバ に ホネ を さす よう な フウシ を みいだしかねて いる の を みる と、 ヨウコ は しろく そろった うつくしい ハ を みせて コエ を だして わらった。
ヨウコ と キベ との アイダガラ は こんな タワイ も ない バメン を クギリ に して はかなく も やぶれて しまった。 キベ は あらん カギリ の シュダン を もちいて、 なだめたり、 すかしたり、 キョウハク まで して みた が、 スベテ は まったく ムエキ だった。 いったん キベ から はなれた ヨウコ の ココロ は、 ナニモノ も ふれた こと の ない ショジョ の それ の よう に さえ みえた。
それから フツウ の キカン を すぎて ヨウコ は キベ の コ を ブンベン した が、 もとより その こと を キベ に しらせなかった ばかり で なく、 ハハ に さえ ある タ の オトコ に よって うんだ コ だ と コクハク した。 じっさい ヨウコ は ソノゴ、 ハハ に その コクハク を しんじさす ほど の セイカツ を あえて して いた の だった。 しかし ハハ は めざとく も その アカンボウ に キベ の オモカゲ を さぐりだして、 キリスト シント に ある まじき アクイ を この あわれ な アカンボウ に くわえよう と した。 アカンボウ は ジョチュウベヤ に はこばれた まま、 ソボ の ヒザ には イチド も のらなかった。 イジ の よわい ヨウコ の チチ だけ は マゴ の カワイサ から そっと アカンボウ を ヨウコ の ウバ の イエ に ひきとる よう に して やった。 そして その みじめ な アカンボウ は ウバ の テ ヒトツ に そだてられて サダコ と いう 6 サイ の ドウジョ に なった。
ソノゴ ヨウコ の チチ は しんだ。 ハハ も しんだ。 キベ は ヨウコ と わかれて から、 キョウラン の よう な セイカツ に ミ を まかせた。 シュウギイン ギイン の コウホ に たって も みたり、 ジュンブンガク に ユビ を そめて も みたり、 タビソウ の よう な ホウロウ セイカツ も おくったり、 ツマ を もち コ を なし、 サケ に ふけり、 ザッシ の ハッコウ も くわだてた。 そして その スベテ に いちいち フマン を かんずる ばかり だった。 そして ヨウコ が ヒサシブリ で キシャ の ナカ で であった イマ は、 サイシ を サト に かえして しまって、 ある ユイショ ある ドウジョウ カゾク の キショクシャ と なって、 これ と いって する シゴト も なく、 ムネ の ウチ だけ には イロイロ な クウソウ を うかべたり けしたり して、 とかく カイソウ に ふけりやすい ヒオクリ を して いる とき だった。
3
その キベ の メ は しゅうねく も つきまつわった。 しかし ヨウコ は そっち を みむこう とも しなかった。 そして ニトウ の キップ でも かまわない から なぜ イットウ に のらなかった の だろう。 こういう こと が きっと ある と おもった から こそ、 のりこむ とき も そう いおう と した の だ のに、 キ が きかない っちゃ ない と おもう と、 チカゴロ に なく オキヌケ から さえざえ して いた キブン が、 しずみかけた アキ の ヒ の よう に かげったり めいったり しだして、 つめたい チ が ポンプ に でも かけられた よう に ノウ の スキマ と いう スキマ を かたく とざした。 たまらなく なって ムカイ の マド から ケシキ でも みよう と する と、 そこ には シェード が おろして あって、 レイ の 43~44 の オトコ が あつい クチビル を ゆるく あけた まま で、 バカ な カオ を しながら まじまじ と ヨウコ を みやって いた。 ヨウコ は むっと して その オトコ の ヒタイ から ハナ に かけた アタリ を、 エンリョ も なく はっし と メ で むちうった。 ショウニン は、 ホントウ に むちうたれた ヒト が なきだす マエ に する よう に、 わらう よう な、 はにかんだ よう な、 フシギ な カオ の ユガメカタ を して、 さすが に カオ を そむけて しまった。 その イクジ の ない ヨウス が また ヨウコ の ココロ を いらいら させた。 ミギ に メ を うつせば 3~4 ニン サキ に キベ が いた。 その するどい ちいさな メ は いぜん と して ヨウコ を みまもって いた。 ヨウコ は フルエ を おぼえる ばかり に ゲッコウ した シンケイ を リョウテ に あつめて、 その リョウテ を にぎりあわせて ヒザ の ウエ の ハンケチ の ツツミ を おさえながら、 ゲタ の サキ を じっと みいって しまった。 イマ は シャナイ の ヒト が もうしあわせて ブジョク でも して いる よう に ヨウコ には おもえた。 コトウ が トナリザ に いる の さえ、 イッシュ の クツウ だった。 その メイソウテキ な ムジャキ な タイド が、 ヨウコ の ナイブテキ ケイケン や クモン と すこしも エン が つづいて いない で、 フタリ の アイダ には こんりんざい リカイ が なりたちえない と おもう と、 カノジョ は トクベツ に ケイロ の かわった ジブン の キョウガイ に、 そっと うかがいよろう と する タンテイ を この セイネン に みいだす よう に おもって、 その ゴブガリ に した ジゾウアタマ まで が かえりみる にも たりない キ の ハシ か なんぞ の よう に みえた。
やせた キベ の ちいさな かがやいた メ は、 いぜん と して ヨウコ を みつめて いた。
なぜ キベ は かほど まで ジブン を ブジョク する の だろう。 カレ は イマ でも ジブン を オンナ と あなどって いる。 ちっぽけ な サイリョク を イマ でも たのんで いる。 オンナ より も あさましい ネツジョウ を ハナ に かけて、 イマ でも ジブン の ウンメイ に さしでがましく たちいろう と して いる。 あの ジシン の ない オクビョウ な オトコ に ジブン は さっき コビ を みせよう と した の だ。 そして カレ は ジブン が これほど まで ホコリ を すてて あたえよう と した トクベツ の コウイ を マナジリ を かえして しりぞけた の だ。
やせた キベ の ちいさな メ は いぜん と して ヨウコ を みつめて いた。
この とき とつぜん けたたましい ワライゴエ が、 ナニ か ネッシン に はなしあって いた フタリ の チュウネン の シンシ の クチ から おこった。 その ワライゴエ と ヨウコ と なんの カンケイ も ない こと は ヨウコ にも わかりきって いた。 しかし カノジョ は それ を きく と、 もう ヨク にも ガマン が しきれなく なった。 そして ミギ の テ を ふかぶか と オビ の アイダ に さしこんだ まま タチアガリザマ、
「キシャ に よった ん でしょう かしらん、 ズツウ が する の」
と すてる よう に コトウ に いいのこして、 いきなり クリド を あけて デッキ に でた。
だいぶ たかく なった ヒ の ヒカリ が ぱっと オオモリ タンボ に てりわたって、 ウミ が わらいながら ひかる の が、 ナミキ の ムコウ に ひろすぎる くらい いちどきに メ に はいる ので、 かるい メマイ を さえ おぼえる ほど だった。 テツ の テスリ に すがって ふりむく と、 コトウ が つづいて でて きた の を しった。 その カオ には シンパイ そう な オドロキ の イロ が あからさま に あらわれて いた。
「ひどく いたむ ん です か」
「ええ かなり ひどく」
と こたえた が メンドウ だ と おもって、
「いい から はいって いて ください。 おおげさ に みえる と いや です から…… だいじょうぶ あぶなか ありません とも……」
と いいたした。 コトウ は しいて とめよう とは しなかった。 そして、
「それじゃ はいって いる が ホントウ に あぶのう ござんす よ…… ヨウ が あったら よんで ください よ」
と だけ いって すなお に はいって いった。
「Simpleton!」
ヨウコ は ココロ の ウチ で こう つぶやく と、 やきすてた よう に コトウ の こと なんぞ は わすれて しまって、 テスリ に ヒジ を ついた まま ホウシン して、 バンカ の ケシキ を つつむ ひきしまった クウキ に カオ を なぶらした。 キベ の こと も おもわない。 ミドリ や アイ や キイロ の ホカ、 これ と いって リンカク の はっきり した シゼン の スガタ も メ に うつらない。 ただ すずしい カゼ が そよそよ と ビン の ケ を そよがして とおる の を こころよい と おもって いた。 キシャ は めまぐるしい ほど の カイソクリョク で はしって いた。 ヨウコ の ココロ は ただ こんとん と くらく かたまった もの の マワリ を あきる こと も なく イクド も イクド も ヒダリ から ミギ に、 ミギ から ヒダリ に まわって いた。 こうして ヨウコ に とって は ながい ジカン が すぎさった と おもわれる コロ、 とつぜん アタマ の ナカ を ひっかきまわす よう な はげしい オト を たてて、 キシャ は ロクゴウガワ の テッキョウ を わたりはじめた。 ヨウコ は おもわず ぎょっと して ユメ から さめた よう に マエ を みる と、 ツリバシ の テツザイ が クモデ に なって ウエ を シタ へ と とびはねる ので、 ヨウコ は おもわず デッキ の パンネル に ミ を ひいて、 リョウソデ で カオ を おさえて モノ を ねんじる よう に した。
そう やって キ を しずめよう と メ を つぶって いる うち に、 マツゲ を とおし ソデ を とおして キベ の カオ と ことに その かがやく ちいさな リョウガン と が まざまざ と ソウゾウ に うかびあがって きた。 ヨウコ の シンケイ は ジシャク に すいよせられた サテツ の よう に、 かたく この ヒトツ の ゲンゾウ の ウエ に シュウチュウ して、 シャナイ に あった とき と ドウヨウ な キンチョウ した おそろしい ジョウタイ に かえった。 テイシャジョウ に ちかづいた キシャ は だんだん と ホド を ゆるめて いた。 タンボ の ここかしこ に、 ゾクアク な イロ で ぬりたてた おおきな コウコク カンバン が つらねて たてて あった。 ヨウコ は ソデ を カオ から はなして、 キモチ の わるい ゲンゾウ を はらいのける よう に、 ヒトツヒトツ その カンバン を みむかえ みおくって いた。 トコロドコロ に ヒ が もえる よう に その カンバン は メ に うつって キベ の スガタ は また おぼろ に なって いった。 その カンバン の ヒトツ に、 ながい クロカミ を さげた ヒメ が キョウカン を もって いる の が あった。 その ムネ に かかれた 「チュウジョウトウ」 と いう モジ を、 なにげなし に 1 ジ ずつ よみくだす と、 カノジョ は とつぜん シセイジ の サダコ の こと を おもいだした。 そして その チチ なる キベ の スガタ は、 かかる ランザツ な レンソウ の チュウシン と なって、 また まざまざ と やきつく よう に あらわれでた。
その あらわれでた キベ の カオ を、 いわば ココロ の ナカ の マナコ で みつめて いる うち に、 だんだん と その ハナ の シタ から ヒゲ が きえうせて いって、 かがやく ヒトミ の イロ は やさしい ニッカンテキ な アタタカミ を もちだして きた。 キシャ は じょじょ に シンコウ を ゆるめて いた。 やや あれはじめた サンジュウ オトコ の ヒフ の ツヤ は、 シンケイテキ な セイネン の あおじろい ハダ の イロ と なって、 くろく ひかった やわらかい ツムリ の ケ が きわだって しろい ヒタイ を なでて いる、 それ さえ が はっきり みえはじめた。 レッシャ は すでに カワサキ テイシャジョウ の プラットフォーム に はいって きた。 ヨウコ の アタマ の ナカ では、 キシャ が とまりきる マエ に シゴト を しおおさねば ならぬ と いう ふう に、 イマ みた ばかり の キベ の スガタ が どんどん わかやいで いった。 そして レッシャ が うごかなく なった とき、 ヨウコ は その ヒト の ソバ に でも いる よう に うっとり と した カオツキ で、 おもわず しらず ヒダリテ を あげて ――コユビ を やさしく おりまげて―― やわらかい ビン の オクレゲ を かきあげて いた。 これ は ヨウコ が ヒト の チュウイ を ひこう と する とき には いつでも する シナ で ある。
この とき、 クリド が けたたましく あいた と おもう と、 ナカ から 2~3 ニン の ジョウキャク が どやどや と あらわれでて きた。
しかも その サイゴ から、 すずしい イロアイ の インバネス を はおった キベ が つづく の を かんづいて、 ヨウコ の シンゾウ は おもわず はっと ショジョ の チ を もった よう に ときめいた。 キベ が ヨウコ の マエ まで きて スレスレ に その ソバ を とおりぬけよう と した とき、 フタリ の メ は もう イチド しみじみ と であった。 キベ の メ は コウイ を こめた ビショウ に ひたされて、 ヨウコ の デヨウ に よって は、 すぐに も モノ を いいだしそう に クチビル さえ ふるえて いた。 ヨウコ も イマ まで つづけて いた カイソウ の ダリョク に ひかされて、 おもわず ほほえみかけた の で あった が、 その シュンカン ツバメガエシ に、 み も しり も せぬ ロボウ の ヒト に あたえる よう な、 レイコク な キョウマン な ヒカリ を その ヒトミ から いだした ので、 キベ の ビショウ は あわれ にも エダ を はなれた カレハ の よう に、 フタリ の アイダ を むなしく ひらめいて きえて しまった。 ヨウコ は キベ の アワテカタ を みる と、 シャナイ で カレ から うけた ブジョク に かなり こきみよく むくいえた と いう ホコリ を かんじて、 ムネ の ウチ が やや すがすがしく なった。 キベ は やせた その ミギカタ を クセ の よう に いからしながら、 イソギアシ に カッポ して カイサツグチ の ところ に ちかづいた が、 キップ を カイチュウ から だす ため に たちどまった とき、 ふかい カナシミ の イロ を マユ の アイダ に みなぎらしながら、 ふりかえって じっと ヨウコ の ヨコガオ に メ を そそいだ。 ヨウコ は それ を しりながら もとより ブベツ の イチベツ をも あたえなかった。
キベ が カイサツグチ を でて スガタ が かくれよう と した とき、 コンド は ヨウコ の メ が じっと その ウシロスガタ を おいかけた。 キベ が みえなく なった ノチ も、 ヨウコ の シセン は そこ を はなれよう とは しなかった。 そして その メ には さびしく ナミダ が たまって いた。
「また あう こと が ある だろう か」
ヨウコ は そぞろ に フシギ な ヒアイ を おぼえながら ココロ の ウチ で そう いって いた の だった。