ヒトフサ の ブドウ
アリシマ タケオ
ボク は ちいさい とき に エ を かく こと が すき でした。 ボク の かよって いた ガッコウ は ヨコハマ の ヤマノテ と いう ところ に ありました が、 そこいら は セイヨウジン ばかり すんで いる マチ で、 ボク の ガッコウ も キョウシ は セイヨウジン ばかり でした。 そして その ガッコウ の ユキカエリ には、 いつでも ホテル や セイヨウジン の カイシャ など が、 ならんで いる カイガン の トオリ を とおる の でした。 トオリ の ウミゾイ に たって みる と、 マッサオ な ウミ の ウエ に グンカン だの ショウセン だの が いっぱい ならんで いて、 エントツ から ケムリ の でて いる の や、 ホバシラ から ホバシラ へ バンコクキ を かけわたした の や が あって、 メ が いたい よう に きれい でした。 ボク は よく キシ に たって その ケシキ を みわたして、 イエ に かえる と、 おぼえて いる だけ を できる だけ うつくしく エ に かいて みよう と しました。 けれども あの すきとおる よう な ウミ の アイイロ と、 しろい ホマエセン など の ミズギワ チカク に ぬって ある ヨウコウショク とは、 ボク の もって いる エノグ では どうしても うまく だせません でした。 いくら かいて も かいて も ホントウ の ケシキ で みる よう な イロ には かけません でした。
ふと ボク は ガッコウ の トモダチ の もって いる セイヨウ エノグ を おもいだしました。 その トモダチ は やはり セイヨウジン で、 しかも ボク より フタツ くらい トシ が ウエ でした から、 セイ は みあげる よう に おおきい コ でした。 ジム と いう その コ の もって いる エノグ は ハクライ の ジョウトウ の もの で、 かるい キ の ハコ の ナカ に、 12 シュ の エノグ が、 ちいさな スミ の よう に シカク な カタチ に かためられて、 2 レツ に ならんで いました。 どの イロ も うつくしかった が、 とりわけて アイ と ヨウコウ とは びっくり する ほど うつくしい もの でした。 ジム は ボク より セイ が たかい くせ に、 エ は ずっと ヘタ でした。 それでも その エノグ を ぬる と、 ヘタ な エ さえ なんだか みちがえる よう に うつくしく なる の です。 ボク は いつでも それ を うらやましい と おもって いました。 あんな エノグ さえ あれば、 ボク だって ウミ の ケシキ を、 ホントウ に ウミ に みえる よう に かいて みせる のに なあ と、 ジブン の わるい エノグ を うらみながら かんがえました。 そう したら、 その ヒ から ジム の エノグ が ほしくって ほしくって たまらなく なりました。 けれども ボク は なんだか オクビョウ に なって、 パパ にも ママ にも かって ください と ねがう キ に なれない ので、 マイニチ マイニチ その エノグ の こと を ココロ の ナカ で おもいつづける ばかり で イクニチ か ヒ が たちました。
イマ では いつ の コロ だった か おぼえて は いません が、 アキ だった の でしょう。 ブドウ の ミ が じゅくして いた の です から。 テンキ は フユ が くる マエ の アキ に よく ある よう に、 ソラ の オク の オク まで みすかされそう に はれわたった ヒ でした。 ボクタチ は センセイ と イッショ に ベントウ を たべました が、 その タノシミ な ベントウ の サイチュウ でも、 ボク の ココロ は なんだか おちつかない で、 その ヒ の ソラ とは ウラハラ に くらかった の です。 ボク は ジブン ヒトリ で かんがえこんで いました。 ダレ か が キ が ついて みたら、 カオ も きっと あおかった かも しれません。 ボク は ジム の エノグ が ほしくって ほしくって たまらなく なって しまった の です。 ムネ が いたむ ほど ほしく なって しまった の です。 ジム は ボク の ムネ の ナカ で かんがえて いる こと を しって いる に ちがいない と おもって、 そっと その カオ を みる と、 ジム は なんにも しらない よう に、 おもしろそう に わらったり して、 ワキ に すわって いる セイト と ハナシ を して いる の です。 でも その わらって いる の が ボク の こと を しって いて わらって いる よう にも おもえる し、 ナニ か ハナシ を して いる の が、 「いまに みろ、 あの ニホンジン が ボク の エノグ を とる に ちがいない から」 と いって いる よう にも おもえる の です。 ボク は いや な キモチ に なりました。 けれども、 ジム が ボク を うたがって いる よう に みえれば みえる ほど、 ボク は その エノグ が ほしくて ならなく なる の です。
ボク は かわいい カオ は して いた かも しれない が、 カラダ も ココロ も よわい コ でした。 そのうえ オクビョウモノ で、 いいたい こと も いわず に すます よう な タチ でした。 だから あんまり ヒト から は、 かわいがられなかった し、 トモダチ も ない ほう でした。 ヒルゴハン が すむ と ホカ の コドモ たち は カッパツ に ウンドウジョウ に でて はしりまわって あそびはじめました が、 ボク だけ は なおさら その ヒ は へんに ココロ が しずんで、 ヒトリ だけ キョウジョウ に はいって いました。 ソト が あかるい だけ に キョウジョウ の ナカ は くらく なって、 ボク の ココロ の ナカ の よう でした。 ジブン の セキ に すわって いながら、 ボク の メ は ときどき ジム の テーブル の ほう に はしりました。 ナイフ で イロイロ な イタズラガキ が ほりつけて あって、 テアカ で マックロ に なって いる あの フタ を あげる と、 その ナカ に ホン や ザッキチョウ や セキバン と イッショ に なって、 アメ の よう な キ の イロ の エノグバコ が ある ん だ。 そして その ハコ の ナカ には ちいさい スミ の よう な カタチ を した アイ や ヨウコウ の エノグ が…… ボク は カオ が あかく なった よう な キ が して、 おもわず ソッポ を むいて しまう の です。 けれども すぐ また ヨコメ で ジム の テーブル の ほう を みない では いられません でした。 ムネ の ところ が どきどき と して くるしい ほど でした。 じっと すわって いながら、 ユメ で オニ に でも おいかけられた とき の よう に キ ばかり せかせか して いました。
キョウジョウ に はいる カネ が かんかん と なりました。 ボク は おもわず ぎょっと して たちあがりました。 セイト たち が おおきな コエ で わらったり どなったり しながら、 センメンジョ の ほう に テ を あらい に でかけて いく の が マド から みえました。 ボク は キュウ に アタマ の ナカ が コオリ の よう に つめたく なる の を きみわるく おもいながら、 ふらふら と ジム の テーブル の ところ に いって、 ハンブン ユメ の よう に そこ の フタ を あげて みました。 そこ には ボク が かんがえて いた とおり、 ザッキチョウ や エンピツバコ と まじって、 ミオボエ の ある エノグバコ が しまって ありました。 なんの ため だ か しらない が ボク は あっちこち を むやみ に みまわして から、 てばやく その ハコ の フタ を あけて アイ と コウヨウ との 2 ショク を とりあげる が はやい か、 ポッケット の ナカ に おしこみました。 そして いそいで いつも セイレツ して センセイ を まって いる ところ に はしって いきました。
ボクタチ は わかい オンナ の センセイ に つれられて キョウジョウ に はいり メイメイ の セキ に すわりました。 ボク は ジム が どんな カオ を して いる か みたくって たまらなかった けれども、 どうしても そっち の ほう を ふりむく こと が できません でした。 でも ボク の した こと を ダレ も キ の ついた ヨウス が ない ので、 キミ が わるい よう な アンシン した よう な ココロモチ で いました。 ボク の だいすき な わかい オンナ の センセイ の おっしゃる こと なんか は ミミ に はいり は はいって も、 なんの こと だ か ちっとも わかりません でした。 センセイ も ときどき フシギ そう に ボク の ほう を みて いる よう でした。
ボク は しかし センセイ の メ を みる の が その ヒ に かぎって なんだか いや でした。 そんな ふう で 1 ジカン が たちました。 なんだか ミンナ ミミコスリ でも して いる よう だ と おもいながら 1 ジカン が たちました。
キョウジョウ を でる カネ が なった ので ボク は ほっと アンシン して タメイキ を つきました。 けれども センセイ が いって しまう と、 ボク は ボク の キュウ で いちばん おおきな、 そして よく できる セイト に 「ちょっと こっち に おいで」 と ヒジ の ところ を つかまれて いました。 ボク の ムネ は、 シュクダイ を なまけた のに センセイ に ナ を さされた とき の よう に、 おもわず どきん と ふるえはじめました。 けれども ボク は できる だけ しらない フリ を して いなければ ならない と おもって、 わざと ヘイキ な カオ を した つもり で、 しかたなし に ウンドウジョウ の スミ に つれて いかれました。
「キミ は ジム の エノグ を もって いる だろう。 ここ に だしたまえ」
そう いって その セイト は ボク の マエ に おおきく ひろげた テ を つきだしました。 そう いわれる と ボク は かえって ココロ が おちついて、
「そんな もの、 ボク もって や しない」 と、 つい デタラメ を いって しまいました。 そう する と 3~4 ニン の トモダチ と イッショ に ボク の ソバ に きて いた ジム が、
「ボク は ヒルヤスミ の マエ に ちゃんと エノグバコ を しらべて おいた ん だよ。 ヒトツ も なくなって は いなかった ん だよ。 そして ヒルヤスミ が すんだら フタツ なくなって いた ん だよ。 そして ヤスミ の ジカン に キョウジョウ に いた の は キミ だけ じゃ ない か」 と すこし コトバ を ふるわしながら いいかえしました。
ボク は もう ダメ だ と おもう と キュウ に アタマ の ナカ に チ が ながれこんで きて カオ が マッカ に なった よう でした。 すると ダレ だった か そこ に たって いた ヒトリ が いきなり ボク の ポッケット に テ を さしこもう と しました。 ボク は イッショウ ケンメイ に そう は させまい と しました けれども、 タゼイ に ブゼイ で とても かないません。 ボク の ポッケット の ナカ から は、 みるみる マーブル-ダマ (イマ の ビーダマ の こと です) や ナマリ の メンコ など と イッショ に、 フタツ の エノグ の カタマリ が つかみだされて しまいました。 「それ みろ」 と いわん ばかり の カオ を して、 コドモ たち は にくらしそう に ボク の カオ を にらみつけました。 ボク の カラダ は ひとりでに ぶるぶる ふるえて、 メノマエ が マックラ に なる よう でした。 いい オテンキ なのに、 ミンナ ヤスミ ジカン を おもしろそう に あそびまわって いる のに、 ボク だけ は ホントウ に ココロ から しおれて しまいました。 あんな こと を なぜ して しまった ん だろう。 トリカエシ の つかない こと に なって しまった。 もう ボク は ダメ だ。 そんな に おもう と ヨワムシ だった ボク は さびしく かなしく なって きて、 しくしく と なきだして しまいました。
「ないて おどかしたって ダメ だよ」 と よく できる おおきな コ が バカ に する よう な、 にくみきった よう な コエ で いって、 うごくまい と する ボク を ミンナ で よって たかって 2 カイ に ひっぱって いこう と しました。 ボク は できる だけ いくまい と した けれども、 とうとう チカラマカセ に ひきずられて、 ハシゴダン を のぼらせられて しまいました。 そこ に ボク の すき な ウケモチ の センセイ の ヘヤ が ある の です。
やがて その ヘヤ の ト を ジム が ノック しました。 ノック する とは はいって も いい か と ト を たたく こと なの です。 ナカ から は やさしく 「おはいり」 と いう センセイ の コエ が きこえました。 ボク は その ヘヤ に はいる とき ほど いや だ と おもった こと は またと ありません。
ナニ か カキモノ を して いた センセイ は、 どやどや と はいって きた ボクタチ を みる と、 すこし おどろいた よう でした。 が、 オンナ の くせ に オトコ の よう に クビ の ところ で ぶつり と きった カミノケ を ミギ の テ で なであげながら、 イツモ の とおり の やさしい カオ を こちら に むけて、 ちょっと クビ を かしげた だけ で なんの ゴヨウ と いう フウ を しなさいました。 そう する と よく できる おおきな コ が マエ に でて、 ボク が ジム の エノグ を とった こと を くわしく センセイ に いいつけました。 センセイ は すこし くもった カオツキ を して マジメ に ミンナ の カオ や、 ハンブン なきかかって いる ボク の カオ を みくらべて いなさいました が、 ボク に 「それ は ホントウ です か」 と きかれました。 ホントウ なん だ けれども、 ボク が そんな いや な ヤツ だ と いう こと を、 どうしても ボク の すき な センセイ に しられる の が つらかった の です。 だから ボク は こたえる カワリ に ホントウ に なきだして しまいました。
センセイ は しばらく ボク を みつめて いました が、 やがて セイト たち に むかって しずか に 「もう いって も よう ございます」 と いって、 ミンナ を かえして しまわれました。 セイト たち は すこし ものたらなそう に どやどや と シタ に おりて いって しまいました。
センセイ は すこし の アイダ なんとも いわず に、 ボク の ほう も むかず に、 ジブン の テ の ツメ を みつめて いました が、 やがて しずか に たって きて、 ボク の カタ の ところ を だきすくめる よう に して 「エノグ は もう かえしました か」 と ちいさな コエ で おっしゃいました。 ボク は かえした こと を しっかり センセイ に しって もらいたい ので ふかぶか と うなずいて みせました。
「アナタ は ジブン の した こと を いや な こと だった と おもって います か」
もう イチド そう センセイ が しずか に おっしゃった とき には、 ボク は もう たまりません でした。 ぶるぶる と ふるえて シカタ が ない クチビル を、 かみしめて も かみしめて も ナキゴエ が でて、 メ から は ナミダ が むやみ に ながれて くる の です。 もう センセイ に だかれた まま しんで しまいたい よう な ココロモチ に なって しまいました。
「アナタ は もう なく ん じゃ ない。 よく わかったら それ で いい から なく の を やめましょう、 ね。 ツギ の ジカン には キョウジョウ に でない でも よろしい から、 ワタシ の この オヘヤ に いらっしゃい。 しずか に して ここ に いらっしゃい。 ワタシ が キョウジョウ から かえる まで ここ に いらっしゃい よ。 いい」 と おっしゃりながら ボク を ナガイス に すわらせて、 その とき また ベンキョウ の カネ が なった ので、 ツクエ の ウエ の ショモツ を とりあげて、 ボク の ほう を みて いられました が、 2 カイ の マド まで たかく はいあがった ブドウヅル から、 ヒトフサ の セイヨウ ブドウ を もぎって、 しくしく と なきつづけて いた ボク の ヒザ の ウエ に それ を おいて、 しずか に ヘヤ を でて いきなさいました。
イチジ がやがや と やかましかった セイト たち は ミンナ キョウジョウ に はいって、 キュウ に しんと する ほど アタリ が しずか に なりました。 ボク は さびしくって さびしくって シヨウ が ない ほど かなしく なりました。 あの くらい すき な センセイ を くるしめた か と おもう と、 ボク は ホントウ に わるい こと を して しまった と おもいました。 ブドウ など は とても たべる キ に なれない で、 いつまでも ないて いました。
ふと ボク は カタ を かるく ゆすぶられて メ を さましました。 ボク は センセイ の ヘヤ で いつのまにか ナキネイリ を して いた と みえます。 すこし やせて セイ の たかい センセイ は、 エガオ を みせて ボク を みおろして いられました。 ボク は ねむった ため に キブン が よく なって イマ まで あった こと は わすれて しまって、 すこし はずかしそう に わらいかえしながら、 あわてて ヒザ の ウエ から すべりおちそう に なって いた ブドウ の フサ を つまみあげました が、 すぐ かなしい こと を おもいだして、 ワライ も なにも ひっこんで しまいました。
「そんな に かなしい カオ を しない でも よろしい。 もう ミンナ は かえって しまいました から、 アナタ も おかえりなさい。 そして アシタ は どんな こと が あって も ガッコウ に こなければ いけません よ。 アナタ の カオ を みない と ワタシ は かなしく おもいます よ。 きっと です よ」
そう いって センセイ は ボク の カバン の ナカ に そっと ブドウ の フサ を いれて くださいました。 ボク は イツモ の よう に カイガンドオリ を、 ウミ を ながめたり フネ を ながめたり しながら、 つまらなく イエ に かえりました。 そして ブドウ を おいしく たべて しまいました。
けれども ツギ の ヒ が くる と ボク は なかなか ガッコウ に いく キ には なれません でした。 オナカ が いたく なれば いい と おもったり、 ズツウ が すれば いい と おもったり した けれども、 その ヒ に かぎって ムシバ 1 ポン いたみ も しない の です。 しかたなし に いやいや ながら イエ は でました が、 ぶらぶら と かんがえながら あるきました。 どうしても ガッコウ の モン を はいる こと は できない よう に おもわれた の です。 けれども センセイ の ワカレ の とき の コトバ を おもいだす と、 ボク は センセイ の カオ だけ は なんと いって も みたくて シカタ が ありません でした。 ボク が いかなかったら センセイ は きっと かなしく おもわれる に ちがいない。 もう イチド センセイ の やさしい メ で みられたい。 ただ その ヒトコト が ある ばかり で ボク は ガッコウ の モン を くぐりました。
そう したら どう でしょう、 まず ダイイチ に まちきって いた よう に ジム が とんで きて、 ボク の テ を にぎって くれました。 そして キノウ の こと なんか わすれて しまった よう に、 シンセツ に ボク の テ を ひいて、 どぎまぎ して いる ボク を センセイ の ヘヤ に つれて いく の です。 ボク は なんだか ワケ が わかりません でした。 ガッコウ に いったら ミンナ が トオク の ほう から ボク を みて 「みろ ドロボウ の ウソツキ の ニホンジン が きた」 と でも ワルクチ を いう だろう と おもって いた のに、 こんな ふう に される と キミ が わるい ほど でした。
フタリ の アシオト を ききつけて か、 センセイ は ジム が ノック しない マエ に ト を あけて くださいました。 フタリ は ヘヤ の ナカ に はいりました。
「ジム、 アナタ は いい コ、 よく ワタシ の いった こと が わかって くれました ね。 ジム は もう アナタ から あやまって もらわなくって も いい と いって います。 フタリ は イマ から いい オトモダチ に なれば それ で いい ん です。 フタリ とも ジョウズ に アクシュ を なさい」 と センセイ は にこにこ しながら ボクタチ を むかいあわせました。 ボク は でも あんまり カッテ-すぎる よう で もじもじ して います と、 ジム は ぶらさげて いる ボク の テ を いそいそ と ひっぱりだして かたく にぎって くれました。 ボク は もう なんと いって この ウレシサ を あらわせば いい の か わからない で、 ただ はずかしく わらう ほか ありません でした。 ジム も キモチ よさそう に、 エガオ を して いました。 センセイ は にこにこ しながら ボク に、
「キノウ の ブドウ は おいしかった の」 と とわれました。 ボク は カオ を マッカ に して 「ええ」 と ハクジョウ する より シカタ が ありません でした。
「そんなら また あげましょう ね」
そう いって、 センセイ は マッシロ な リンネル の キモノ に つつまれた カラダ を マド から のびださせて、 ブドウ の ヒトフサ を もぎとって、 まっしろい ヒダリ の テ の ウエ に コ の ふいた ムラサキイロ の フサ を のせて、 ほそながい ギンイロ の ハサミ で マンナカ から ぷつり と フタツ に きって、 ジム と ボク と に くださいました。 まっしろい テノヒラ に ムラサキイロ の ブドウ の ツブ が かさなって のって いた その ウツクシサ を ボク は イマ でも はっきり と おもいだす こと が できます。
ボク は その とき から マエ より すこし いい コ に なり、 すこし ハニカミヤ で なくなった よう です。
それにしても ボク の だいすき な あの いい センセイ は どこ に いかれた でしょう。 もう ニド とは あえない と しりながら、 ボク は イマ でも あの センセイ が いたら なあ と おもいます。 アキ に なる と いつでも ブドウ の フサ は ムラサキイロ に いろづいて うつくしく コ を ふきます けれども、 それ を うけた ダイリセキ の よう な しろい うつくしい テ は どこ にも みつかりません。
アリシマ タケオ
ボク は ちいさい とき に エ を かく こと が すき でした。 ボク の かよって いた ガッコウ は ヨコハマ の ヤマノテ と いう ところ に ありました が、 そこいら は セイヨウジン ばかり すんで いる マチ で、 ボク の ガッコウ も キョウシ は セイヨウジン ばかり でした。 そして その ガッコウ の ユキカエリ には、 いつでも ホテル や セイヨウジン の カイシャ など が、 ならんで いる カイガン の トオリ を とおる の でした。 トオリ の ウミゾイ に たって みる と、 マッサオ な ウミ の ウエ に グンカン だの ショウセン だの が いっぱい ならんで いて、 エントツ から ケムリ の でて いる の や、 ホバシラ から ホバシラ へ バンコクキ を かけわたした の や が あって、 メ が いたい よう に きれい でした。 ボク は よく キシ に たって その ケシキ を みわたして、 イエ に かえる と、 おぼえて いる だけ を できる だけ うつくしく エ に かいて みよう と しました。 けれども あの すきとおる よう な ウミ の アイイロ と、 しろい ホマエセン など の ミズギワ チカク に ぬって ある ヨウコウショク とは、 ボク の もって いる エノグ では どうしても うまく だせません でした。 いくら かいて も かいて も ホントウ の ケシキ で みる よう な イロ には かけません でした。
ふと ボク は ガッコウ の トモダチ の もって いる セイヨウ エノグ を おもいだしました。 その トモダチ は やはり セイヨウジン で、 しかも ボク より フタツ くらい トシ が ウエ でした から、 セイ は みあげる よう に おおきい コ でした。 ジム と いう その コ の もって いる エノグ は ハクライ の ジョウトウ の もの で、 かるい キ の ハコ の ナカ に、 12 シュ の エノグ が、 ちいさな スミ の よう に シカク な カタチ に かためられて、 2 レツ に ならんで いました。 どの イロ も うつくしかった が、 とりわけて アイ と ヨウコウ とは びっくり する ほど うつくしい もの でした。 ジム は ボク より セイ が たかい くせ に、 エ は ずっと ヘタ でした。 それでも その エノグ を ぬる と、 ヘタ な エ さえ なんだか みちがえる よう に うつくしく なる の です。 ボク は いつでも それ を うらやましい と おもって いました。 あんな エノグ さえ あれば、 ボク だって ウミ の ケシキ を、 ホントウ に ウミ に みえる よう に かいて みせる のに なあ と、 ジブン の わるい エノグ を うらみながら かんがえました。 そう したら、 その ヒ から ジム の エノグ が ほしくって ほしくって たまらなく なりました。 けれども ボク は なんだか オクビョウ に なって、 パパ にも ママ にも かって ください と ねがう キ に なれない ので、 マイニチ マイニチ その エノグ の こと を ココロ の ナカ で おもいつづける ばかり で イクニチ か ヒ が たちました。
イマ では いつ の コロ だった か おぼえて は いません が、 アキ だった の でしょう。 ブドウ の ミ が じゅくして いた の です から。 テンキ は フユ が くる マエ の アキ に よく ある よう に、 ソラ の オク の オク まで みすかされそう に はれわたった ヒ でした。 ボクタチ は センセイ と イッショ に ベントウ を たべました が、 その タノシミ な ベントウ の サイチュウ でも、 ボク の ココロ は なんだか おちつかない で、 その ヒ の ソラ とは ウラハラ に くらかった の です。 ボク は ジブン ヒトリ で かんがえこんで いました。 ダレ か が キ が ついて みたら、 カオ も きっと あおかった かも しれません。 ボク は ジム の エノグ が ほしくって ほしくって たまらなく なって しまった の です。 ムネ が いたむ ほど ほしく なって しまった の です。 ジム は ボク の ムネ の ナカ で かんがえて いる こと を しって いる に ちがいない と おもって、 そっと その カオ を みる と、 ジム は なんにも しらない よう に、 おもしろそう に わらったり して、 ワキ に すわって いる セイト と ハナシ を して いる の です。 でも その わらって いる の が ボク の こと を しって いて わらって いる よう にも おもえる し、 ナニ か ハナシ を して いる の が、 「いまに みろ、 あの ニホンジン が ボク の エノグ を とる に ちがいない から」 と いって いる よう にも おもえる の です。 ボク は いや な キモチ に なりました。 けれども、 ジム が ボク を うたがって いる よう に みえれば みえる ほど、 ボク は その エノグ が ほしくて ならなく なる の です。
ボク は かわいい カオ は して いた かも しれない が、 カラダ も ココロ も よわい コ でした。 そのうえ オクビョウモノ で、 いいたい こと も いわず に すます よう な タチ でした。 だから あんまり ヒト から は、 かわいがられなかった し、 トモダチ も ない ほう でした。 ヒルゴハン が すむ と ホカ の コドモ たち は カッパツ に ウンドウジョウ に でて はしりまわって あそびはじめました が、 ボク だけ は なおさら その ヒ は へんに ココロ が しずんで、 ヒトリ だけ キョウジョウ に はいって いました。 ソト が あかるい だけ に キョウジョウ の ナカ は くらく なって、 ボク の ココロ の ナカ の よう でした。 ジブン の セキ に すわって いながら、 ボク の メ は ときどき ジム の テーブル の ほう に はしりました。 ナイフ で イロイロ な イタズラガキ が ほりつけて あって、 テアカ で マックロ に なって いる あの フタ を あげる と、 その ナカ に ホン や ザッキチョウ や セキバン と イッショ に なって、 アメ の よう な キ の イロ の エノグバコ が ある ん だ。 そして その ハコ の ナカ には ちいさい スミ の よう な カタチ を した アイ や ヨウコウ の エノグ が…… ボク は カオ が あかく なった よう な キ が して、 おもわず ソッポ を むいて しまう の です。 けれども すぐ また ヨコメ で ジム の テーブル の ほう を みない では いられません でした。 ムネ の ところ が どきどき と して くるしい ほど でした。 じっと すわって いながら、 ユメ で オニ に でも おいかけられた とき の よう に キ ばかり せかせか して いました。
キョウジョウ に はいる カネ が かんかん と なりました。 ボク は おもわず ぎょっと して たちあがりました。 セイト たち が おおきな コエ で わらったり どなったり しながら、 センメンジョ の ほう に テ を あらい に でかけて いく の が マド から みえました。 ボク は キュウ に アタマ の ナカ が コオリ の よう に つめたく なる の を きみわるく おもいながら、 ふらふら と ジム の テーブル の ところ に いって、 ハンブン ユメ の よう に そこ の フタ を あげて みました。 そこ には ボク が かんがえて いた とおり、 ザッキチョウ や エンピツバコ と まじって、 ミオボエ の ある エノグバコ が しまって ありました。 なんの ため だ か しらない が ボク は あっちこち を むやみ に みまわして から、 てばやく その ハコ の フタ を あけて アイ と コウヨウ との 2 ショク を とりあげる が はやい か、 ポッケット の ナカ に おしこみました。 そして いそいで いつも セイレツ して センセイ を まって いる ところ に はしって いきました。
ボクタチ は わかい オンナ の センセイ に つれられて キョウジョウ に はいり メイメイ の セキ に すわりました。 ボク は ジム が どんな カオ を して いる か みたくって たまらなかった けれども、 どうしても そっち の ほう を ふりむく こと が できません でした。 でも ボク の した こと を ダレ も キ の ついた ヨウス が ない ので、 キミ が わるい よう な アンシン した よう な ココロモチ で いました。 ボク の だいすき な わかい オンナ の センセイ の おっしゃる こと なんか は ミミ に はいり は はいって も、 なんの こと だ か ちっとも わかりません でした。 センセイ も ときどき フシギ そう に ボク の ほう を みて いる よう でした。
ボク は しかし センセイ の メ を みる の が その ヒ に かぎって なんだか いや でした。 そんな ふう で 1 ジカン が たちました。 なんだか ミンナ ミミコスリ でも して いる よう だ と おもいながら 1 ジカン が たちました。
キョウジョウ を でる カネ が なった ので ボク は ほっと アンシン して タメイキ を つきました。 けれども センセイ が いって しまう と、 ボク は ボク の キュウ で いちばん おおきな、 そして よく できる セイト に 「ちょっと こっち に おいで」 と ヒジ の ところ を つかまれて いました。 ボク の ムネ は、 シュクダイ を なまけた のに センセイ に ナ を さされた とき の よう に、 おもわず どきん と ふるえはじめました。 けれども ボク は できる だけ しらない フリ を して いなければ ならない と おもって、 わざと ヘイキ な カオ を した つもり で、 しかたなし に ウンドウジョウ の スミ に つれて いかれました。
「キミ は ジム の エノグ を もって いる だろう。 ここ に だしたまえ」
そう いって その セイト は ボク の マエ に おおきく ひろげた テ を つきだしました。 そう いわれる と ボク は かえって ココロ が おちついて、
「そんな もの、 ボク もって や しない」 と、 つい デタラメ を いって しまいました。 そう する と 3~4 ニン の トモダチ と イッショ に ボク の ソバ に きて いた ジム が、
「ボク は ヒルヤスミ の マエ に ちゃんと エノグバコ を しらべて おいた ん だよ。 ヒトツ も なくなって は いなかった ん だよ。 そして ヒルヤスミ が すんだら フタツ なくなって いた ん だよ。 そして ヤスミ の ジカン に キョウジョウ に いた の は キミ だけ じゃ ない か」 と すこし コトバ を ふるわしながら いいかえしました。
ボク は もう ダメ だ と おもう と キュウ に アタマ の ナカ に チ が ながれこんで きて カオ が マッカ に なった よう でした。 すると ダレ だった か そこ に たって いた ヒトリ が いきなり ボク の ポッケット に テ を さしこもう と しました。 ボク は イッショウ ケンメイ に そう は させまい と しました けれども、 タゼイ に ブゼイ で とても かないません。 ボク の ポッケット の ナカ から は、 みるみる マーブル-ダマ (イマ の ビーダマ の こと です) や ナマリ の メンコ など と イッショ に、 フタツ の エノグ の カタマリ が つかみだされて しまいました。 「それ みろ」 と いわん ばかり の カオ を して、 コドモ たち は にくらしそう に ボク の カオ を にらみつけました。 ボク の カラダ は ひとりでに ぶるぶる ふるえて、 メノマエ が マックラ に なる よう でした。 いい オテンキ なのに、 ミンナ ヤスミ ジカン を おもしろそう に あそびまわって いる のに、 ボク だけ は ホントウ に ココロ から しおれて しまいました。 あんな こと を なぜ して しまった ん だろう。 トリカエシ の つかない こと に なって しまった。 もう ボク は ダメ だ。 そんな に おもう と ヨワムシ だった ボク は さびしく かなしく なって きて、 しくしく と なきだして しまいました。
「ないて おどかしたって ダメ だよ」 と よく できる おおきな コ が バカ に する よう な、 にくみきった よう な コエ で いって、 うごくまい と する ボク を ミンナ で よって たかって 2 カイ に ひっぱって いこう と しました。 ボク は できる だけ いくまい と した けれども、 とうとう チカラマカセ に ひきずられて、 ハシゴダン を のぼらせられて しまいました。 そこ に ボク の すき な ウケモチ の センセイ の ヘヤ が ある の です。
やがて その ヘヤ の ト を ジム が ノック しました。 ノック する とは はいって も いい か と ト を たたく こと なの です。 ナカ から は やさしく 「おはいり」 と いう センセイ の コエ が きこえました。 ボク は その ヘヤ に はいる とき ほど いや だ と おもった こと は またと ありません。
ナニ か カキモノ を して いた センセイ は、 どやどや と はいって きた ボクタチ を みる と、 すこし おどろいた よう でした。 が、 オンナ の くせ に オトコ の よう に クビ の ところ で ぶつり と きった カミノケ を ミギ の テ で なであげながら、 イツモ の とおり の やさしい カオ を こちら に むけて、 ちょっと クビ を かしげた だけ で なんの ゴヨウ と いう フウ を しなさいました。 そう する と よく できる おおきな コ が マエ に でて、 ボク が ジム の エノグ を とった こと を くわしく センセイ に いいつけました。 センセイ は すこし くもった カオツキ を して マジメ に ミンナ の カオ や、 ハンブン なきかかって いる ボク の カオ を みくらべて いなさいました が、 ボク に 「それ は ホントウ です か」 と きかれました。 ホントウ なん だ けれども、 ボク が そんな いや な ヤツ だ と いう こと を、 どうしても ボク の すき な センセイ に しられる の が つらかった の です。 だから ボク は こたえる カワリ に ホントウ に なきだして しまいました。
センセイ は しばらく ボク を みつめて いました が、 やがて セイト たち に むかって しずか に 「もう いって も よう ございます」 と いって、 ミンナ を かえして しまわれました。 セイト たち は すこし ものたらなそう に どやどや と シタ に おりて いって しまいました。
センセイ は すこし の アイダ なんとも いわず に、 ボク の ほう も むかず に、 ジブン の テ の ツメ を みつめて いました が、 やがて しずか に たって きて、 ボク の カタ の ところ を だきすくめる よう に して 「エノグ は もう かえしました か」 と ちいさな コエ で おっしゃいました。 ボク は かえした こと を しっかり センセイ に しって もらいたい ので ふかぶか と うなずいて みせました。
「アナタ は ジブン の した こと を いや な こと だった と おもって います か」
もう イチド そう センセイ が しずか に おっしゃった とき には、 ボク は もう たまりません でした。 ぶるぶる と ふるえて シカタ が ない クチビル を、 かみしめて も かみしめて も ナキゴエ が でて、 メ から は ナミダ が むやみ に ながれて くる の です。 もう センセイ に だかれた まま しんで しまいたい よう な ココロモチ に なって しまいました。
「アナタ は もう なく ん じゃ ない。 よく わかったら それ で いい から なく の を やめましょう、 ね。 ツギ の ジカン には キョウジョウ に でない でも よろしい から、 ワタシ の この オヘヤ に いらっしゃい。 しずか に して ここ に いらっしゃい。 ワタシ が キョウジョウ から かえる まで ここ に いらっしゃい よ。 いい」 と おっしゃりながら ボク を ナガイス に すわらせて、 その とき また ベンキョウ の カネ が なった ので、 ツクエ の ウエ の ショモツ を とりあげて、 ボク の ほう を みて いられました が、 2 カイ の マド まで たかく はいあがった ブドウヅル から、 ヒトフサ の セイヨウ ブドウ を もぎって、 しくしく と なきつづけて いた ボク の ヒザ の ウエ に それ を おいて、 しずか に ヘヤ を でて いきなさいました。
イチジ がやがや と やかましかった セイト たち は ミンナ キョウジョウ に はいって、 キュウ に しんと する ほど アタリ が しずか に なりました。 ボク は さびしくって さびしくって シヨウ が ない ほど かなしく なりました。 あの くらい すき な センセイ を くるしめた か と おもう と、 ボク は ホントウ に わるい こと を して しまった と おもいました。 ブドウ など は とても たべる キ に なれない で、 いつまでも ないて いました。
ふと ボク は カタ を かるく ゆすぶられて メ を さましました。 ボク は センセイ の ヘヤ で いつのまにか ナキネイリ を して いた と みえます。 すこし やせて セイ の たかい センセイ は、 エガオ を みせて ボク を みおろして いられました。 ボク は ねむった ため に キブン が よく なって イマ まで あった こと は わすれて しまって、 すこし はずかしそう に わらいかえしながら、 あわてて ヒザ の ウエ から すべりおちそう に なって いた ブドウ の フサ を つまみあげました が、 すぐ かなしい こと を おもいだして、 ワライ も なにも ひっこんで しまいました。
「そんな に かなしい カオ を しない でも よろしい。 もう ミンナ は かえって しまいました から、 アナタ も おかえりなさい。 そして アシタ は どんな こと が あって も ガッコウ に こなければ いけません よ。 アナタ の カオ を みない と ワタシ は かなしく おもいます よ。 きっと です よ」
そう いって センセイ は ボク の カバン の ナカ に そっと ブドウ の フサ を いれて くださいました。 ボク は イツモ の よう に カイガンドオリ を、 ウミ を ながめたり フネ を ながめたり しながら、 つまらなく イエ に かえりました。 そして ブドウ を おいしく たべて しまいました。
けれども ツギ の ヒ が くる と ボク は なかなか ガッコウ に いく キ には なれません でした。 オナカ が いたく なれば いい と おもったり、 ズツウ が すれば いい と おもったり した けれども、 その ヒ に かぎって ムシバ 1 ポン いたみ も しない の です。 しかたなし に いやいや ながら イエ は でました が、 ぶらぶら と かんがえながら あるきました。 どうしても ガッコウ の モン を はいる こと は できない よう に おもわれた の です。 けれども センセイ の ワカレ の とき の コトバ を おもいだす と、 ボク は センセイ の カオ だけ は なんと いって も みたくて シカタ が ありません でした。 ボク が いかなかったら センセイ は きっと かなしく おもわれる に ちがいない。 もう イチド センセイ の やさしい メ で みられたい。 ただ その ヒトコト が ある ばかり で ボク は ガッコウ の モン を くぐりました。
そう したら どう でしょう、 まず ダイイチ に まちきって いた よう に ジム が とんで きて、 ボク の テ を にぎって くれました。 そして キノウ の こと なんか わすれて しまった よう に、 シンセツ に ボク の テ を ひいて、 どぎまぎ して いる ボク を センセイ の ヘヤ に つれて いく の です。 ボク は なんだか ワケ が わかりません でした。 ガッコウ に いったら ミンナ が トオク の ほう から ボク を みて 「みろ ドロボウ の ウソツキ の ニホンジン が きた」 と でも ワルクチ を いう だろう と おもって いた のに、 こんな ふう に される と キミ が わるい ほど でした。
フタリ の アシオト を ききつけて か、 センセイ は ジム が ノック しない マエ に ト を あけて くださいました。 フタリ は ヘヤ の ナカ に はいりました。
「ジム、 アナタ は いい コ、 よく ワタシ の いった こと が わかって くれました ね。 ジム は もう アナタ から あやまって もらわなくって も いい と いって います。 フタリ は イマ から いい オトモダチ に なれば それ で いい ん です。 フタリ とも ジョウズ に アクシュ を なさい」 と センセイ は にこにこ しながら ボクタチ を むかいあわせました。 ボク は でも あんまり カッテ-すぎる よう で もじもじ して います と、 ジム は ぶらさげて いる ボク の テ を いそいそ と ひっぱりだして かたく にぎって くれました。 ボク は もう なんと いって この ウレシサ を あらわせば いい の か わからない で、 ただ はずかしく わらう ほか ありません でした。 ジム も キモチ よさそう に、 エガオ を して いました。 センセイ は にこにこ しながら ボク に、
「キノウ の ブドウ は おいしかった の」 と とわれました。 ボク は カオ を マッカ に して 「ええ」 と ハクジョウ する より シカタ が ありません でした。
「そんなら また あげましょう ね」
そう いって、 センセイ は マッシロ な リンネル の キモノ に つつまれた カラダ を マド から のびださせて、 ブドウ の ヒトフサ を もぎとって、 まっしろい ヒダリ の テ の ウエ に コ の ふいた ムラサキイロ の フサ を のせて、 ほそながい ギンイロ の ハサミ で マンナカ から ぷつり と フタツ に きって、 ジム と ボク と に くださいました。 まっしろい テノヒラ に ムラサキイロ の ブドウ の ツブ が かさなって のって いた その ウツクシサ を ボク は イマ でも はっきり と おもいだす こと が できます。
ボク は その とき から マエ より すこし いい コ に なり、 すこし ハニカミヤ で なくなった よう です。
それにしても ボク の だいすき な あの いい センセイ は どこ に いかれた でしょう。 もう ニド とは あえない と しりながら、 ボク は イマ でも あの センセイ が いたら なあ と おもいます。 アキ に なる と いつでも ブドウ の フサ は ムラサキイロ に いろづいて うつくしく コ を ふきます けれども、 それ を うけた ダイリセキ の よう な しろい うつくしい テ は どこ にも みつかりません。