英語と書評 de 海馬之玄関

KABU家のブログです
*コメントレスは当分ブログ友以外
原則免除にさせてください。

街は英語教育の<素材>の宝庫 (1) 冠詞と名詞

2005年06月12日 15時01分28秒 | 街は英語教育の素材の宝庫

通勤の小田急線車中で、面白い英文を見つけました。「このスーツケース、爆弾とか危険物かも」と疑われるようなものを見つけたら駅員まで知らせてくださいという、よくあるあれです。数日前、新宿行き列車の車窓から多摩川を眺めていたら、扉の脇の小さな広告スペースに次のように書いてありました。

Please notify station staff or crew members
when you see any abandoned belongings or suspicious objects
either on a train car or at the station.


KABU試訳:車内または駅構内で不審な物や持ち主のわからない荷物を見かけられましたら
       駅員または乗務員にお知らせください。

どうということもない英文ですが、この24語の中にも授業に使えそうな論点は結構入っています。多分、腕のいい先生やおしゃべりの先生なら(笑)、この1センテンスで50分の授業をもたせることは十分可能でしょうね(しかも、この英文には、同僚のアメリカ人達と(ということは、アメリカ人同士でも!)激論をかわすことになった論点が含まれていたのです)。

この小田急テキスト(?)を教材として使う場合、どの先生も「美味しい」と思われるのは、"・・when you see any abandoned belongings・・・"の箇所でしょう。そう、時や条件を表す副詞節の中で未来のことを語る場合には、述語動詞の形は「will+動詞」ではなく「動詞の現在形」を用いる。だから、もしこの when が導く副詞節の主語が Tom, Hiroko, he, she, it などの三人称単数だっとしたら when 以下は"・・when he(she, it, Hiroko, Tom)sees ・・・"とsee には三単現の"s"(エス)がつくんだよ、と。このポイントが身近な題材を使って説明できるのだから、これ美味しい例文です。この論点は高校入試やセンター試験の(あるいは、TOEICで470点程度を目指すうえでは)最重要論点の一つでしょうから。

ボキャブラリーと構文の上でも、notify, abandoned, suspicious がセンター試験(あるいは、staff, crew, belongings も含めてTOEICで470点以上を目指す場合)の必須単語でしょうし、either ~ or の構文は中学生や高校生の方には必ず覚えて欲しいものだと思います。これらの内容を、幾つか他の例文や単語を紹介しながら説明していたら、あっと言う間に「キンコーン、カーンコーン」になっちゃいます。では今日はここまで。てなわけにはいきません。

お子様や受験生相手の場合には、逆に、これくらいの内容を確実に「今日」覚えてもらうだけにした方がいいかもしれない。逆に、これ以上の内容を<押し付ける>のはむしろ教える方の自己満足である節がなきにしもあらずです。まあ、やる先生の方は「俺は/私は今日こんなにも生徒達に教えた。俺は/私はなんて優秀で熱意溢れる教師なんだろう。うっとり」と自己陶酔されるかもしれないが、それは「教えた」のではなく「生徒に向かって叫んだ」だけかもしれない。

教育もセールスも政治も、相手のニーズの状況や受け入れるマインドセットのありようを踏まえて<敵>に働きかけないと、そう韓国の今の大統領のように日米を相手に<独り相撲の裸踊り>の滑稽をさらすことになりかねないです。さて、このブログは英語が得意かどうかは問わず、英語にまつわる異文化コミュニケーションの話題には興味のある方が読んでくださっていると(勝手に)想定しています。その異文化コミュニケーションの観点からは、上の小田急テキストは実に面白い。そう、それだけで通年の講義ができるくらいのヘビーな論点が入っている。私にはそう思えましたし、はたして、それを巡ってアメリカ人同士の激論にまで発展しました。それは・・・。

テキストセンテンスの最後、"either on a train car or at the station"の箇所で、"at the station" は "at a station"と書いてはいけないのだろうか、ということでした。その他にも、このわずか24語のセンテンスには可算名詞(C)と不可算名詞(U)の区別(★)を説明するのに最適の単語群;staff, crew members, belongings, objects が含まれているので冠詞と名詞の可算・不可算という性質を考える上では最適の例文と言えると思います。


一体、"the station" と "a station"とはどう違うのでしょうか。
"the station" と言えば、乗客個々によって思い浮かべる具体的な駅名は違うにしても、それは私にとっては最寄駅と降車駅の「新百合ヶ丘駅」と「新宿駅」がイメージされ、次に、時々利用する「生田駅」「町田駅」「藤沢駅」がそのイメージのすぐ周辺に広がり、最後に滅多に利用しない駅に向けて中心から裾野にむけて「駅」のイメージが拡散していく。そんな「駅」のイメージの全体として"the station"はとらえられます。くどいですけれど、これが同じ小田急線でも「柿生駅」が最寄り駅で「成城学園駅」まで毎日通学している方にとっては、「柿生駅」と「成城学園駅」を中心にして、次に、ご自分がよく利用される駅→滅多に利用しない小田急線の駅という構図で"the station"のイメージは広がると思います。そこでは、"the station"は不特定多数の駅を表現しているには違いないのですが(具体的な駅名は個々の乗客によって異なるにせよ)、乗客各自は具体的な「あの駅」「この駅」を「駅」のイメージの中心にすえているのです。

それに対して、 "a station"はどうか(a/an と the の違いに関しては下の註で紹介している拙稿を参照していただければと思います)、"a station"と言えばそれは本当に不特定多数の「小田急線内の任意の駅」という意味になってしまいます。それは、文法的には間違いではないのですが、これは生身の乗客利用者にとってはちょっと異常な感覚になります。

例えば、「あー、この落書きは2年前に元彼としたものだよ。ということはその時は私達はこの車輌に乗っていたんだね」、なんかは稀な事件でしょう? つまり、普通、乗客は自分がどの列車車輌に乗っているかなんかそう意識しないです。この「列車車輌」と「駅」の違いが冠詞の選択のキーポイントになります。「車輌」はあくまでも不特定多数だから"a train car"になり、「駅」の方は(このテキストを読む個々の乗客にとっては)完全には不特定多数ではないから、"a station"ではなく"the station" になる。そう考えてこのテキストの著者は冠詞を使い分けられたのだと思います。

これについて、同僚のアメリカ人が面白いことを言っていました、「毎日、仕事で多数の駅で乗り降りするような乗客で、特に使用頻度が高い駅がないような乗客にとっては、このテキストは"at a station"であるべきだ」、と。そう小田急線沿いに住所がなく、小田急線各駅の自動販売機のチェックや駅のポスターの張替えなどをされている方にとっては、ここは"at a station"の方が、文法的にも正しく、彼/彼女の心象風景にもぴったりの表現なんだろうと思います。


★註:可算名詞と不可算名詞の区別
名詞とは簡単に言えば<ものの名前>です。で、難しく言えば(さあ、皆さん歯を食いしばってください!)、それは<人間の思考の対象>です。でもって、ものの名前や思考の対象というからには、名詞はこの世の森羅万象から、ある(明確とは言わないが)公共的な基準でもって「もの」や「対象」が他と区別して切り取られなければ存在できない。そして、その公共的な基準なるものは、英語なら英語を話してきた人々、日本語なら日本語を話してきた人々の慣習と伝統の中で形成され蓄積されたものなのです。

日本人はカツオとマグロを別の「もの」や「対象」として区別するが大部分の英語の母語話者はそれらは普通 tuna で一括りにして理解する(もちろん、bonitoという単語はありますけどね)。逆に、我々日本語の母語話者にとっては生後1年未満の羊も3年目の羊も同じ羊だけれど、英語の母語話者にとっては lamb とram と sheep は全く別物です。要は、思考の対象を特定するルールは言葉が変わればそれにともない変わってくる。で、英語をものにするには、理屈抜きにこの英語特有の「もの」や「対象」を他の物事から切り取るルールを覚えなければならない。ここが大切なポイントです。

英語の母語話者の感覚では、名詞が世間から切り取ってくる「もの」や「対象」は大きく二つのグループに分かれているらしいのです。それが、可算名詞と不可算名詞の区別です。文字通り、「1個、2個、3個・・・」と数えられる「もの」や「対象」と数えられないものがある。前者の可算名詞には、普通名詞・集合名詞が含まれ、後者の不可算名詞には物質名詞・抽象名詞・固有名詞が属している。これらの内容については(あくまでもご興味があればですが、)お手元の英文法の参考書で確認してみてください。

大切なことは、可算名詞が1個の場合には(単数の場合には)必ず、冠詞(the/a/an)や冠詞相当語句(my/your/his/her/any・・)が名詞の前につくということです。英米人にとっては、単数の可算名詞に冠詞(や冠詞相当語句)がつかないのを見たり聞いたりすることは「一種異常な体験」です。

つまり、彼等にとって「apple」や「train car」はまだ「林檎」や「列車の車輌」という意味はなく、「an apple」や「a train car」の形になって初めて、彼等の思考中で「林檎」や「列車の車輌」という意味が像を結ぶ。このことを英語のネーティブスピーカーの英語教師は、The indifinite article of "a" is an integral part of "a train car."(冠詞の"a" は"a train car"の不可欠の部分である)と言います。私に言わせれば、名詞に冠詞が付くのではなく(語の配列から言っても≒思考の順序から言っても)、冠詞に名詞が付くのだと思っています。詳しくは下記の拙稿を参照していただければうれしいです。


・『THE がよくわかる本』と『a と the の物語』
http://blogs.yahoo.co.jp/kabu2kaiba/785033.html



ブログ・ランキングに参加しています。
応援してくださる方はクリックをお願いします


 ↓  ↓  ↓

にほんブログ村 英会話ブログ

コメント (4)    この記事についてブログを書く
« 英米大学院留学のTipsの... | トップ | 小学校からの英語は必要か »
最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Interesting! (ハイジ)
2005-06-12 15:25:10
大変興味深く読ませていただき勉強になりました。

実は私もこの英文を見て"at the station"か"at a station"か・・・考えたことがありました。



ちょうど先日私も冠詞について、少し話題はちがいますが、書いたところです。トラックバックさせていただきましたので、よろしかったらお読みくださいませ。



これからも寄らせていただきますね♪
気になりましたよね (KABU)
2005-06-13 06:52:21
ハイジさん>

TBありがとうございました。横浜にお住まいなんですよね? この英文、気になりましたよね。ハイジさんのブログで冠詞を教える二つの方法の最初:気にしない、には目が点になりながら納得してしまいました。また、大人の生徒さんが、「理屈を教えてくれ」と叫ぶ場面はデジャブーの感覚です。実は、ハイジさんの「使えない英語」の記事には反論があります。しかし、言わんとされることはわかります。そうなると議論の帰趨は、「正しい英語」とは何で、広い意味の「英語の授業」はどこにストライクゾーンを設定すべきかという、むしろ、哲学とか政策のマターになってしまうのかなと考えています。近々、本家ブログ収録の英語関係の記事の主要なものもこちらに移します(あっちこっち行くのは面倒という世論が強いので)。その際には、この哲学・政策の話も旧稿をリファーしていただきながらコメントさせていただきたいと思っています。今後とも宜しくお願いいたします。
冠詞ってなんなんだ (yのママ)
2005-06-13 10:37:10
私も小田急線沿いですので、この短い英文は過去に目にしていました。「英語ではこんな風に表現するのか」と思いつつ、「日本人の英語はあてにならないからネイティブの人にはどう映るのかしらん」などと疑っていました。

冠詞はむずかしいですね。私は細かいことが気になるタチで、"a"か"the"か…で悩んで結局わからずに言葉が出なくなってしまった経験が沢山ありました。英語挫折の一つの要因であったようにも振り返ります。「なんでこういう違いがあるのか? どうしてなんだ?」と悩んでしまったのですね。KABU先生の文章をこれから読みます。
冠詞と前置詞は躓きの石 (KABU)
2005-06-13 13:22:40
冠詞と前置詞は、日本人の場合、初心者から上級者まで苦手な項目だと思います。感覚的な壁がどこまで行っても乗り越えられない。いっぱい書いて教養ある英語のネーティブに赤ペン入れてもらうことと、ドイツ語とかフランス語とかの他の印欧語系の言語を学んでそれとの比較で英語の場合の理解も深めるのが「王道」ですけれど、それでも、微妙な場合はわかりません。で、ハイジ先生が下記のTBでも言っておられる通り、「あきらめて気にしない」のも一つの手だと思います。どうせわかんない所で躓いているより、先に進んでどんどん話したりした方がいいのかも。これ、「一利」だけでなく「一理」あると思います。

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

街は英語教育の素材の宝庫」カテゴリの最新記事