はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

母校惜別

2017-03-06 22:25:34 | はがき随筆
 ふるさとの日置市吉利小学校が来春閉校する。由緒ある小松家のお仮屋跡にあり、校庭には明治時代に米国の副大統領が植えた日米樹が茂っている。 
 閉校が決まると、同級生が発起人となり、記念誌の作成が始まった。多くの卒業生から原稿が届いた。終戦を経験した世代は、村や学校での苦しい体験と思い出を克明につづっている。
 母校は私が小学2年生のときに空襲で全焼し、内外地から転校生が加わり、600人を超えた。食糧は乏しく、みんな貧しかった。母校への感謝と惜別を込めて「吉利くんありがとう」と名付けた記念誌が完成した。
  鹿児島市 田中健一郎2017/3/1 毎日新聞鹿児島版掲載

風になりたい

2017-03-06 22:15:38 | はがき随筆
 転勤したその中学校は荒れていた。1年担任だった。他教科より授業時間の少ない美術科の私は生徒たちとの接触時間をふやすために始業30分前には教室に居た。彼らの登校がおのずと早くなった。そして図らずも、力を誇示しに来る上級生たちから彼らを守る結果となった。
「帝釈天に行きたい」とA夫が言った。「よし、行こう! 着いたら全員合唱だ」。学級活動として校長の許可を得て学校の裏山のその場所へ行った。街並みを見下ろして<風になりたい>を歌った。「高音と低音が調和してそれは街中に響き渡りました」と校長に報告した。
 出水市 中島征士 2017/2/28 毎日新聞鹿児島版掲載

オレンジ色は?

2017-03-06 22:03:40 | はがき随筆
 わが家の入口にオレンジ色の花が落ちている? なんとそれはキンカンの皮でした。キンカンの木は我が家の左隣の庭にある。ひと気のある所では食べずに、右隣の空き家のブロックの上で食べたらしい。こうして挟まれた我が家の入口がオレンジ色の落花場所になったということ。何鳥の仕業なのか食べる姿を見たくなるものの、運よく見られるものでもない。冬にお墓の菊の花びらを食べられることがあるので、キンカンはいい食料かもしれない。朝の目覚めに鳥のさえずりを聞き心和むことがある。こうして鳥たちとも共存している気がする。
  霧島市 口町円子 2017/2/27 毎日新聞鹿児島版掲載

梅の花

2017-03-06 21:50:54 | はがき随筆
 雨が上がり珍しく暖かい朝、八分咲きの梅に日が差している。夫の誕生日も過ぎ、一日賑やかだった我が家はまた静かな2人だけの暮らしに戻った。咲き初めた梅の花に小鳥たちが来て蜜を吸っている可愛い仕草に心が和む。この花が咲くと亡き父や母を思い出す。とにかく花好きで、紅梅白梅、桃色の花と盆鉢に植えて楽しんでいた。その父も2月には27回忌を迎えた。いつも笑顔で話をしてくれた父に今も感謝している。長生きしてみて人生の基はやはり優しさと思いやりだと思う。寒さに負けず、今からでも人と自然に優しく接しながら生きてゆきたい。
  出水市 橋口礼子 2017/2/26 毎日新聞鹿児島版掲載

書いていて

2017-03-06 21:38:16 | はがき随筆
 気がついたら何やら書いていて。「山の彼方の空遠く」などとそらんじていて。手さぐりで詩らしきものを書いていて。詩論など少しばかりかじったりしていて。仲間とガリ版刷りの同人誌を作ったりして。子供を産んでも書いていて。「まだ詩を引きずってるの?」とからかわれたりして。
 この年になってまだ詩というものがわからなくて。だからなお書きたくて。書かずにいられなくて。
 ゴールが見えなくて。たどりつきたくて。その世界を知りたくて。ボードレールに逢いたくて。
 鹿屋市 伊地知咲子 2017/2/25 毎日新聞鹿児島版掲載

リサイクル

2017-03-06 21:30:46 | はがき随筆
 折々に若い頃の衣服を始末している。えんじ色のこの着物は、嫁ぐ私に母が縫ってくれたもの。勤めていて気ぜわしい普段から、日曜だけは着物を着てゆったりした若い頃を思いだす。
 着物の布も色もしっかりしているが、もらってくれる人がいないので布団皮にしようと解きだした。一針一針母が丁寧に塗った着物を一針一針解きながら母をしのんだ。綿打ち直し屋さんに相談して、布団皮持ち込みで再生することにした。リサイクルに持ち込めば、もうお別れになる。思い出の着物が敷き布団に再生されると思うとうれしくなった。
  出水市 年神貞子 2017/2/24 毎日新聞鹿児島版掲載