はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

買い物メモ

2015-07-31 07:36:13 | 岩国エッセイサロンより
2015年7月29日 (水)



   岩国市   会 員   林 治子

 近所のスーパーが閉店した。そんなに利用度がないと思っていたが、なくなってみると、不自由が身にしみる。ちょっと買い足したいとか、忘れた物を買わねばと走り、意外に重宝していたのだ。
 スーパーといえば、メモを見ながら買い物する人を見てはいつも感心している。私には、そういうこまめな習慣がない。思いついたら買い物袋を片手に飛び出す。道すがらあれこれ考える。お店で今日のサービス品と言われると、つい別物を買ってしまう。
 そのため、家族が食べたいという希望の献立から、えらく離れた料理になることも、しばしばある。私も必要な物をメモして買い物に行く習慣を身につけなくてはと思う。
 ある日、しっかりとメモして出掛けた。何度も何度も見直して念を押した。それなのに、スーパーに着き財布からメモを取り出そうとしたら、ない…。出掛ける前にメモを入れたはずなのに。入れ間違いをしたかと、袋の中をあちこち捜してみるが、見つからない。
 かなり時間をかけて、ほぼ思い出したが、あと一つがどうしても思い出せない。暗い気分でレジに並ぶ。顔見知りのレジの女性に「メモを忘れて、どうしても何を買うのか一つ分からない」と話した。  
 「メモは家でお留守番しているよ」。彼女の一言は、私の失敗を大笑いに変えた。

     (2015.07.29 中国新聞「こだま」掲載)岩国エッセイサロンより転載

私は留学生

2015-07-26 17:53:11 | はがき随筆
 100日が過ぎた。鹿児島へ留学生として来てから。生まれて初めて両親と離れた。
 父親と電話するとき「今日は寂しくなかったの?」と聞かれた。心から分かるようになった。父も5年間一人で東京で働いたとき寂しかったよね。
 私は話す。「ううん。むしろ楽しいよ。自分自身において責任感も強くなったし、1人でできることも増えたよ。世の中にはすてきな人々が多いし、とっても広いね。私、強くなっていくことを感じるよ」と。
 留学を迷う人いますか。かきねの中からは外は見えません。
 鹿児島市 李恵隣 2015/7/26 毎日新聞鹿児島版掲載


必達

2015-07-26 17:51:04 | ペン&ぺん

 東芝の水増し会計問題で先週、歴代3社長がそろって辞任した。記者会見で現社長は「140年の歴史の中で、最大ともいえるブランドイメージの毀損があった。一朝一夕では回復できない」と述べ、事態の深刻さへの認識を示した。
 「140年の歴史」というのは1875(明治8)年、電信機の受注拡大に伴い、銀座に工場を設けた旧田中製造所の創業が始まり。やがて「芝浦製作所」と改称し、同じ三井財閥の中野東京電気と合併して「東京芝浦電気」へ、さらに1984年に「東芝」に社名を変更した。グループ売上高6兆5000億円超、従業員約20万人というから、日本を代表する大企業の一つには違いない。
 かつて日本一といわれた三井三池炭坑があった福岡県大牟田市で私は勤務したことがあるのだが、鉱山機械を作る地元の三池製作所と並んで東芝の名前は知られていた。石炭で日本のエネルギー供給を担った三池炭坑と、同じ三井グループの中で炭車製造や電気部門を担当した〝東京・芝浦製作所〟。こんなイメージで周囲の人は親近感を抱いていたように思う。
 そんな歴史のある企業でなぜ巨額の水増しが起きたのか。第三者委員会は「長期的な視点ではなく、当期利益至上主義から『チャレンジ』という収益改善の目標値が示され、損失先送りなどを行わざるを得ない状況に追い込まれた」などと指摘している。記者会見で社長は「チャレンジという言葉ではなく『必達目標値』という言葉を使っていた」と述べたが、社長から「必達」と言われて誰が逆らえようか。
 「組織の三菱、人の三井」と言われることがある。今回の第三者委は提言で「上司の意向に逆らえない企業風土を改革する」ことを挙げている。トップの暴走を止める人材を誰がどう育てるのか。今回の問題はこんな問いを投げかけているようにもみえる。
 鹿児島支局長 西貴晴 2015/7/26 毎日新聞鹿児島版掲載


母の日記帳

2015-07-26 17:50:27 | はがき随筆

 母が他界してから間もなく17年になる。この間、私にはどうしても決断できないことが一つある。それは二十数冊も遺された母の日記帖のことである。
 実は七回忌法要が終わった時点で段ボール箱に入れて処分しようとしたけれども、そのとき母の日記を読んでしまった。
 息子夫婦が帰郷して継職した喜び。自分より先に逝った夫の看病や子育て時代の追憶。それに90歳過ぎるまで生きた老・病・死に対する心境などが、そこはかとなくつづられていた。
 日記帖を見る度に、優しく接すればよかったという慚愧の念が、私の決断を鈍らせている。
  志布志市 一木法明 2015/7/25 毎日新聞鹿児島版掲載

妻を癒すアサガオ

2015-07-25 09:51:24 | 岩国エッセイサロンより


2015年7月25日 (土)

    岩国市   会 員   片山清勝

 数年前の夏、体調を崩した妻が毎朝、楽しみにしたのはアサガオだった。カーテンを開け、しばらく眺めることが日課になった。花と妻が会話しているように見えた。朝顔の花が終わる頃、体調は回復した。
  「来年も咲かせたい」と妻は採種を促した。癒やしてくれた花への感謝の思いだろうと思い、よく膨らんだ種を残した。次の夏もよく咲いた。それからは毎年、採種し、翌年に種をまき、苗を育ててプランターへ移植して咲かせている。
 今年も梅雨入りの頃から咲き始めた。妻は、あの夏と同じように、力ーテンを開けるのを毎朝の楽しみにしている。
 晴れた日の朝夕、水やりをするくらいで、特別な手入れなどはしていない。それでも、細いつるのどこに力があるのか、その伸び方に感心する。
 伸びれば花の数も増えてくる。そんな自然の力に癒やしの力があるのだろう。来年は花数を増やす工夫をしよう。妻の背中越しにアサガオを眺めながら思う。

        (2015.07.25 中国新聞「広場」記載)岩国エッセイサロンより転載

ありがとう燕

2015-07-25 08:49:00 | はがき随筆


 燕はなんと6羽が誕生した。雛は大きい口を開いて餌をねだって鳴く。つがいでせっせと餌を運んでは口移しで与える。豪雨も何のその。懸命な子育てだ。雛が巣の縁から尻を出してフンをするのを目撃。可愛い。その時落下したのか2羽が消えた。4羽になった雛は見る見る間に太り大きくなって子燕へ。
 ある時、空を見ると家族6羽で舞っている。巣立ったのかと思ったら夕方には巣に戻り、また餌をもらっている。それが10日ほど続いて、大きくなった4羽はもう巣からはみ出している。巣立つ日も近いだろう。2ヶ月間家族のようだった。
  霧島市 秋峯いくよ 2015/7/24 毎日新聞鹿児島版掲載

雨とアジサイ

2015-07-23 17:04:35 | はがき随筆

 
「まこて雨ん種も、うかもんじやっよう降っ!」と梅雨時になると亡き義母が口にしていたのを思い出しながら、窓辺のアジサイに見とれている。薄紫色の粒のかたまりが花で額縁のように並ぶのは装飾花だと知り、面白い花だと植えた株がたくさん花をつけた。額は風にひらひら舞い、葉っぱは小雨にぬれてつやつや。大粒の雨はピアノを弾くようにぴこっぴこっと額を震わせる。まばたきするとリズムがよく合うフフッ。土砂降りになり雨と額の花の競演は上下左右に激しく奏で始めた。梅雨の終わりを告げるように。
  薩摩川内市 田中由利子 2015/7/23 毎日新聞鹿児島版掲載


はがき随筆 6月度

2015-07-23 16:59:45 | はがき随筆
 はがき随筆の6月度入賞者は次の皆さんです。(敬称略)

【優秀作】14日「もってのほか」田中由利子(73)=薩摩川内市宮里町
【佳作】6日「今がベスト」永野町子(67)=鹿児島市武岡
   ▼18日「枇杷の思い出」伊尻清子(65)=出水市武本

「もってのほか」 エジプト旅行で知り合った人との長男の結婚が無事まとまり、山形の実家を訪ねた時の勘違いが内容です。「もってのほか」という言葉を連発するので、結婚に反対かと心配したら、それは料理の名前でした。長男の結婚を心配する母親の気持ちが、次に何が起こるかというドラマ仕立てに描かれていて、なかなか読ませます。
 「今がベスト」 人生には勉強したいという時がかならずある、という学生時代の先生の言葉は事実だった。ただ少し遅かったようで、勉強はしたいが、60歳を過ぎた今ではなにかと大変で、脳の働きをはじめ心身ともに疲れ切ってしまう。しかし今がベストだ。頑張ろうという、自己激励の内容です。読んでいて、気持ちの良い文章です。
 「枇杷の思い出」 自分でも気づかない初恋を描いた、美しい文章です。工事に来た若い大工さんに子供のとき親しくなった。その人が入院したとき、見舞いに行ったら、枇杷の実をもらったが、なぜか恥ずかしかった。今でも枇杷の甘酸っぱさを忘れない。こんなのいいですね。
 次に3編をご紹介します。
 堀之内泉さんの「ぷんか」は、3歳の子供の桜島観察が可愛らしく描かれています。そこに、桜島のように、たくましく美しい青年に育つようにという願いも込められています。
 高野幸祐さんの「いとおかし」は、80歳過ぎの同級生たちが集まって何かやっているらしい。聞いて見ると、自分の「はがき随筆」を批評し合っているらしい。友はありがたいものだ、これからも発憤しよう。私の同級生は、ネットで連句をやっています。
 堀美代子さんの「何かを伝えたい」は、危篤状態のご主人の枕元に家族が寄り添い、励ましの言葉をかけた。なぜか娘たちの声には反応しないが、自分の声には反応する。病室に野球のグラブが置いてあったせいか、ご主人が酸素マスクのままで、キャッチボールをしている夢を見た。人の意識の深層について考えさせられます。
  (鹿児島大学名誉教授 石田 忠彦)   2015/7/22 毎日新聞鹿児島版掲載


野生児

2015-07-23 16:53:56 | はがき随筆
 5月に小3の長女が友達の家でお泊まり会をしていただいた。そのお返しに友達に我が家の遊びに付き合ってもらった。
 鹿児島市内から車でⅠ時間弱。姶良の重富海岸で、磯の生き物探し兼ピクニックだ。松原にシートを敷いて、買ってきた弁当を準備、早速観察だ。
 我が家の野生児たちは、ケースに大量のカニやヤドカリを入れたり、ウミブドウのような海藻を拾ったりと、気ままに過ごした。一方、外遊びに慣れない友達は生き物を怖がり、潮の引く様子を見てぼうぜん。終始戸惑っていたが、自然に親しむきっかけになったらいいと思う。
   鹿児島市 津島友子 2015/7/22 毎日新聞鹿児島版掲載

夢見る金婚式

2015-07-23 16:51:47 | はがき随筆
 「思い出の札幌」と記された、てのひらほどのホタテ貝が手元にあります。1978年5月「屯田の館」とも。新婚旅行(私28歳、妻21歳)で訪れた北海道の居酒屋の店主にプレゼントされたものです。あれから37年の年月が……。
 その間、私たちのまわりではいくつかの命が生まれ、またかけがえのないいくつかの命が召され、2人の暮らしも「がむしゃら」から「穏やか」へと移りました。願わくばあと13年、この健やかな日々よ続けと思います。妻71歳、私78歳。これまで思いもしなかった「金婚式」を夢見る近ごろの私です。
  霧島市 久野茂樹 2015/7/21 毎日新聞鹿児島版掲載

砂に埋もれて

2015-07-20 22:38:52 | はがき随筆
 指宿温泉に1泊で出掛けた。心ウキウキで砂蒸し風呂にいったのですが……。
 浴衣の上にのせられた砂があまりにも重く、そのうえ熱い。砂に埋もれた痩身をもがきながら手足を砂から出して我慢した。脱出の時がきたが、起き上がれない。砂蒸しされた身体はふにゃふにゃ。息子に手を引き上げてもらったが足元が定まらない。「だめだこりゃ」と慌てて渡された冷水を飲んだ。
 ようやく乱れていた鼓動も落ち着いた。気持ちで思うほどの体力のなさに「こんなはずでは」と思いつつも,年相応かもと思った。
  鹿児島市 竹之内美知子 2015/7/20 毎日新聞鹿児島版掲載

新緑

2015-07-20 22:38:13 | はがき随筆
 カモメに迎えられた復員船は新緑映える久里浜に着いた。5年にも及ぶ大陸の荒野を駆け回った思いを胸に、夢にも見た祖国の土を踏んだ。言い得ない安心感。天をつかむような解放された空気が去来する。空虚の感に浸るを覚える。
 国鉄に復職間のない頃、妻を迎え隼人国分に人生を謳歌するなか、池田、西富の両友人と新妻を伴い霧島ツツジを見に行った。当時神宮最高段本殿左の入り口から小暗い木立の小道を小一時間、高千穂河原へ。左新燃裾野のツツジ。新妻の手をとり深呼吸をした。忘れ得ない新緑、懐かしくよみがえる。
  鹿屋市 森園愛吉 2015/7/19 毎日新聞鹿児島版掲載

うれしい雨

2015-07-20 22:37:36 | はがき随筆
 雨が小降りになるのを待って、網戸をはずす。そして2枚ひと組として庭の敷石の上に、バンガローの形に建てる。再び降り出す雨にこの網戸を洗ってもらうのだ。
 その間に私はサッシの溝を吹いたり、台所の片付けなどをする。つゆ時の雨は網戸をすっかりきれいにしてくれる。
 この作業が梅雨時の我が家の風物となっている。長雨を憂えてばかりでなく、逆手に捉えて生活を楽しむ。もっといえば、自然を味方につけた気分になっている私である。だからストレスとは無縁。この年齢で肩こりも知らない。ありがたい。
  鹿屋市 門倉キヨ子 2015/7/18 毎日新聞鹿児島版掲載

忘れ得ぬ人

2015-07-17 23:03:25 | はがき随筆
 50年ほど前になるだろうか。
 狭い田舎道でバス同士が鉢合わせしてしまった。女声乗務員が笛で誘導、バックして無事にすれ違うことができた。
 その直後、美しい小浮いょ目にした。 
 運転手が女性乗務員の乗車したことを確かめてバスを発車させただけのことだけれど、彼女を気づかう彼のさりげない支線の奥にやさしさが透けて見え、「これぞ男!」と心打たれた。
 男らしさは、やさしさに裏打ちされてこそ輝く。
 ハンドルを握る運転手さんの頼もしい後ろ姿がいまも心の目に焼き付いている。
  鹿屋市 伊地知咲子 2015/7/17 毎日新聞鹿児島版掲載


ネジバナ

2015-07-17 22:38:31 | はがき随筆


 母の祥月命日に墓参した折、水場付近でネジバナを見つけた。そぼ降る雨に、ピンクの花列も鮮やかに咲いている。辺りの風景を損ねない程度に摘んで帰った。
 山野草図鑑によると「ラン科ネジバナ属の多年草、別名モジズリ」とある」小花をよく見ると、確かにランの花に煮て優雅である。
 モジズリから百人一首の「陸奥のしのぶもぢずり誰ゆえにみだれむと思う我ならなくに」という歌が思い浮かび調べてみた。すると源氏物語の光源氏のモデルとされる河原左大臣の歌と知り、学生時代を思い出した。
  鹿児島市 斉藤三千代 2015/7/16 毎日新聞鹿児島版掲載