僕の新書はなぜか入試にやたらと引用されるのだけど、某法科大学院の入試論文にも登場したらしい。
送られてきた見本をみると、なかなか良い設問なので、ここはひとつ筆者として解答してみたい。
まず、拙著「3年で辞めた若者はどこへ行ったのか アウトサイダーの時代」129p~の官僚編が引用される。
要するに、官僚の天下りはそれ自体がコストであるが、あらゆる改革が彼ら自身の“既得権”という
フィルターを通して実施されるため、骨抜きになりますよというお話。
それに対して、まず以下のような小論が提示される。
【要旨】
アフリカの途上国を見てもわかるように、国家の安定した発展のためには、強固で安定した公務員組織が
不可欠だ。そのため、国家公務員は一致団結し、一歯車として国家のために活動すべきである。
そう考えると、公務員がおのおのキャリアを磨き、転職市場で評価されるような専門性を身につけて
しまうと、公務員組織が不安定になってしまう。
しかも公務員には民間と違って幅の広い視野が必要だから、一芸に秀でた専門職より、行政全般に
精通したゼネラリストを育成すべきだ。
年功序列と終身雇用を維持してこそ、官僚は仕事に専念でき、国家は繁栄する。
天下りによって官僚のモチベーションが維持できるなら、むしろそれは国家にとって望ましいことだ。
【設問】
設問は、拙著を踏まえた上で上記ロジックに800字以内で反論しろというもの。
城繁幸なりに論述すれば、こうなる。
【解答例】
目標となる国家像が明確な場合、中央官僚による一極支配はそれなりに有効である。
つまり、戦後、新興の工業国としてアメリカという先進国にキャッチアップする過程では、
強固な官僚組織に依存するだけである程度の効果はあった。
ところが、ポスト工業化の段階ではこの方法は限界があり、民間の裁量に委ねるしかない。
官から民へ。民営化や規制緩和といったキーワードが主役になる。
ところが、年功序列制度の官僚機構は、中高年の消化のために大量の天下りポストを必要とするから
こういった改革に対する抵抗勢力となってしまう。
実質破たん状態にも関わらず「賦課方式だから年金は破綻してないですよ」と平気で嘘をつく厚労省の
天下り官僚などが代表だ。
「官僚の人事制度」という本丸に手をつけることなく天下りだけを禁止すれば、組織は崩壊して
政策や法案の作成能力は大幅に低下するだろう。
そもそも、彼らも全力で抵抗するだろうから、改革案の骨抜き→国民失望→政権交代といった
おなじみのプロセスが今後もずっと続くかもしれない。
逆に、序列ではなく成果に応じてキャッシュを支払う年俸制などに移行すれば、霞が関は抵抗勢力から
改革の推進者に生まれ変わるだろう。公務員制度改革こそ、すべての改革の一里塚である。
以上。
送られてきた見本をみると、なかなか良い設問なので、ここはひとつ筆者として解答してみたい。
まず、拙著「3年で辞めた若者はどこへ行ったのか アウトサイダーの時代」129p~の官僚編が引用される。
要するに、官僚の天下りはそれ自体がコストであるが、あらゆる改革が彼ら自身の“既得権”という
フィルターを通して実施されるため、骨抜きになりますよというお話。
それに対して、まず以下のような小論が提示される。
【要旨】
アフリカの途上国を見てもわかるように、国家の安定した発展のためには、強固で安定した公務員組織が
不可欠だ。そのため、国家公務員は一致団結し、一歯車として国家のために活動すべきである。
そう考えると、公務員がおのおのキャリアを磨き、転職市場で評価されるような専門性を身につけて
しまうと、公務員組織が不安定になってしまう。
しかも公務員には民間と違って幅の広い視野が必要だから、一芸に秀でた専門職より、行政全般に
精通したゼネラリストを育成すべきだ。
年功序列と終身雇用を維持してこそ、官僚は仕事に専念でき、国家は繁栄する。
天下りによって官僚のモチベーションが維持できるなら、むしろそれは国家にとって望ましいことだ。
【設問】
設問は、拙著を踏まえた上で上記ロジックに800字以内で反論しろというもの。
城繁幸なりに論述すれば、こうなる。
【解答例】
目標となる国家像が明確な場合、中央官僚による一極支配はそれなりに有効である。
つまり、戦後、新興の工業国としてアメリカという先進国にキャッチアップする過程では、
強固な官僚組織に依存するだけである程度の効果はあった。
ところが、ポスト工業化の段階ではこの方法は限界があり、民間の裁量に委ねるしかない。
官から民へ。民営化や規制緩和といったキーワードが主役になる。
ところが、年功序列制度の官僚機構は、中高年の消化のために大量の天下りポストを必要とするから
こういった改革に対する抵抗勢力となってしまう。
実質破たん状態にも関わらず「賦課方式だから年金は破綻してないですよ」と平気で嘘をつく厚労省の
天下り官僚などが代表だ。
「官僚の人事制度」という本丸に手をつけることなく天下りだけを禁止すれば、組織は崩壊して
政策や法案の作成能力は大幅に低下するだろう。
そもそも、彼らも全力で抵抗するだろうから、改革案の骨抜き→国民失望→政権交代といった
おなじみのプロセスが今後もずっと続くかもしれない。
逆に、序列ではなく成果に応じてキャッシュを支払う年俸制などに移行すれば、霞が関は抵抗勢力から
改革の推進者に生まれ変わるだろう。公務員制度改革こそ、すべての改革の一里塚である。
以上。
どうしても素人考えだと「官僚=悪」みたいな考えになっちゃうんですが、ここまでの日本を作るのに彼らはすごく貢献もしているんですよね。もちろん、今は抵抗勢力的にもなってますが。
なんというか、時代や環境とかによって、どんな組織も毒にも薬にもなっちゃうんですね。そう思うと常に「変幻自在」でないといけないな、と考えてしまいます。
一応国家公務員の身分保障には、
>年功序列と終身雇用を維持してこそ、官僚は仕事に専念でき、国家は繁栄する。
というのが理由としてありますよね。労働権の一部制限の代償の意味ももちろんありますが。
全然関係ないですが、昨日のたかじんのそこまでいって委員会で新社会党という謎の党が「若者の雇用のために海外の工場を国内に戻すべき」と言い、「具体的な…」→「内部留保を」と返してみんなに突っ込まれているのに笑いました。おおむね城さんの主張通り+売れ残りも入ってると、完全にやっつけられてました。他の質問でも論に具体的なビジョンが全くなく、あんなのが国政に出るのは勘弁願いたいです。
それならば、強固で安定した公務員組織があれば国家の安定した発展があるか?
これは一概には言えない。つまり国家の発展と公務員組織とは関係がないということである。一つの国だけではなく、色々な国がアルから、その競争は民間会社のそれと何等変わらない。したがって国の行政組織と民間の組織とそれぞれ別物では無く、国家を構成する一部分である。パーツである。設問にはその考えはない。
何故であろうか?
それが設問の限界である。
したがって
>しかも公務員には民間と違って幅の広い視野が必要だから、一芸に秀でた専門職より、行政全般に
精通したゼネラリストを育成すべきだ。
現代世界を知らない時代遅れのうぬぼれた見方が出てくる。行政府の一員と民間の一員の相互交換ができる組織が必要である。
銭がほしい人は民間へ行く事である。つまりモチベーシィオンは
>天下りによって官僚のモチベーションが維持できるなら
では無く別のところに、持つ道徳を持った人々がなる事だろう。
興味深いのは「アフリカの途上国」以外は全て「終身雇用のゼネラリストなら国家が繁栄するから、終身雇用のゼネラリストにすべき」というトートロジーで貫かれていることですね。
現実に公務員の皆様が行う反論(?)にとても似た性質の文で、その意味でも興味深いです。
日本はアフリカの途上国じゃないから! 笑
それとも報酬を(生産性に合わせて)アフリカ並みにしてでも終身雇用にしろっていう意味でしょうか 笑
まだこんなのいるんだ(笑)
でも地上波でも突っ込まれるとは、だいぶ視聴者のリテラシーも上がってきたな、よしよし。
>設問の小論、面白いですね。
この設問の作成者は、おそらく元役人かそれに近いポジションで働いた経験があり、問題の本質をよく理解していると思う。
25歳ヒラより40歳課長の方が給料は高い
のは誰が見ても明らか
30歳ヒラより30歳主任の方が給料が高い
はまあそうだろうと思う。
ここまではだれしも納得はできる。
しかるに
35歳ヒラと35歳係長の毎月の支払い額(=手取り)はほぼ一緒でボーナスに多少差が有る程度
とか
45歳課長より45歳係長どころかその年でヒラの方が総年収は多い
とかいう状況は改善するべきかもしれません。
清家教授も言っていましたが、プロを否定するのではなく、いかに政治家が官僚を使いこなすかが大事な点ではないでしょうか。いい仕事をさせるための天下りにかわる仕組みが不可欠でしょう。一般的には年俸制はなじまないと思いますが、課題が明確な一部のポスト(政治任用職など)であれば年俸制の方がいいかもしれません。
政治家は素人に頼るな 清家篤慶應大学教授(07/09日経「領空侵犯」)
官僚との関係でも政治家が十分に責任を果たしていないところがあります。 官僚は行政の各分野の専門家で政治家はその助けを借りて行政を進めます。 専門家である官僚が自分の分野が重要だと考えるのは当然だし、また、そうでなければプロにはなれません。そうした中、それぞれの分野に軽重をつけるのが、素人の良識を持った政治家の仕事でしょう。ですから『縦割り行政はけしからん』 などと言う政治家は自らの役割を忘れているとしかいえません。
官僚も官僚で、もっともらしい説明はするが、そこに正確性・正当性が一切見あたりません。結局マスコミを抱き込んで嘘八百流してるだけです。
(経営者も、大して能力のある人とは思えませんが、底は城さんが知ってらっしゃいますので、例の富士通の・・・)
結局、日本社会は「バカがさっさと偉くなってるだけ」です。そんな人間には一秒でも早くお亡くなりになった方がいいと思います。その方が犠牲が少なくてすみます。(どうせ「バカは死ななきゃ直らない」って言うくらいですから、このくらい問題ないでしょう。)
たまに、城さんへの反論を目にするのですが、そのほとんどが、「終身雇用・年功序列破壊が前提にあってケシカラン。終身雇用・年功序列を維持したままで国家が発展していく方法をまずは考えるべき!」といった内容ですよね。これも、前提が全く異なっているので、当然論点がかみ合う訳ないですよね。。。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100309-00000053-san-bus_all
城さん的には「想定の範囲内」てとこですか。
これからどんどん厳しくなりそうですなあ。