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孫崎享 『戦後史の正体』 『アメリカに潰された政治家たち』 『日米同盟の正体』  その1

2013年10月19日 | ジャーナリズム 大森実 ・孫崎

孫崎享の本を3冊。

2009年、最初に『日米同盟の正体』講談社 を読んだ、大使まで務めた人で、アメリカにこれだけのことを言える人は稀。日本の情報畑で長年務め、一般人の入手し得ない情報に触れてきていたはず。公務員・公職を辞し、一気に胸に溜まっていたものを出すとこのような本になるのだろう。「対米従属」という、占領以後日本に蔓延している深い病をどうしたらよいのか、学者さんたちが書く日本外交史にはない、知見も得られる。

不思議なことだが、眠り続け、忘れ去ろうとしている、

お前は「国家をどうするのだ」という問いが重くのしかかってくる。

明治維新からまもなく150年になろうとしている日本。

なんと、それなのに

近代日本の150年のうち、

約半分の歴史は、米国の半植民地状態におかれているという歴史認識。これほど長期間一国に従属しても、そのことに触れようとしない、また変えようともしないでやり過ごしてきた国と国民は世界中どこを探してもどこにもないぞ、とこれらの本で納得させられることだろう。 創元社の戦後再発見双書シリーズの前泊博盛の『日米地位協定入門』2013年も合わせ読むことで、忘却の底に沈ませていた、内なる植民地民衆状態の怒りを自分のものとすることもできるだろう。

朝日新聞は、コラムで孫崎の著者を「陰謀論」の類でかたづけていて、ネット空間では多くの論駁を読むことができるようになって来ている。

しかし、読売新聞・産経新聞・日本経済新聞は、当然のこととして朝日新聞・毎日新聞にいたる大手メディアは、アメリカを刺激するようなことは、もはや原則タブーになっているのだろう。きちんと、書評や、論説で孫崎の論を扱おうとしない。孫崎は、現役時代だったころ、中央公論に外交論を掲載し、年に3・4回はお願いしますと言われたそうだが、論考を読んだ編集部からは、その後原稿依頼が途切れたというから、アメリカへの鋭い苦言は失礼なので、タブーとする、会社の方針が存在しているのではないだろうか。

 

 

 

  

▲ 孫崎享 『戦後史の正体』 2012年 創元社の「戦後再発見双書」のシリーズ①として刊行されたもの 定価 1500+税

初版は2012年の8月10日。今私が持っているのは2012年10月10日発行で8刷りとなっている。随分前30万部突破となっているので、今は50万部を越えているのか。これは、国民必読の書かも知れない。500万部売れれば、国民はこんどこそ覚醒するかもしれないが。

日本の時局を扱う本には珍しく、索引がついていて、これを参考文献にして、調べるのに便利。巻末の年表は首相・外務大臣・外務次官・米国大統領・米国国務長官を項目としてあげ、日米外交の交渉を誰が担当しているのかわかる。外務大臣はわかっても、外務次官は、なかなか、戦後史年表や、戦後史事典類には収載されていない。我が家にある『戦後史大事典』1991年 三省堂 の巻末にある資料でも内閣一覧はあっても、外務次官クラスの記載はない。日米外交史をひもとく以外にない。歴代北米局長などなど、官僚の人材配置も戦後史のリアルな復元のためには必要になるのだろう。長い間・外交・情報畑を歩いてきた 孫崎はかなりディープな情報を収集しているはずである。

なぜ「高校生でも読める」戦後史の本を書くのか

という導入部となる章で、太字ではっきりと自説というか、事実を述べている。

「戦後の日本外交は、米国に対する「追随」路線と、「自主」路線の戦いでした」 6p

「米国からの圧力や裏工作は、現実に存在します」 8p

「すこしでも、歴史の勉強をすると、国際政治のかなりの部分が謀略によって動いていることがわかります。日本も戦前、中国大陸では数々の謀略をしかけていますし、米国もベトナム戦争でトンキン湾事件という謀略をしかけ、北爆(北ベトナムへの空爆)の口実としたことがあきらかになっています。

もっとひどい例としては、

米国の軍部がケネディ政権時代、自国の船を撃沈するなど、偽のテロ活動を行って、それを理由にキューバへ、侵攻する計画を立てていたことがわかっています。(「ノースウッド作戦」 )ケネディ政権はこの計画を却下したので実行はされませんでしたが、当時の参謀本部議長のサインが入った関連文書を、ジョージ・ワシントン大学公文書館のサイトで見ることができます。

http://www2.gwu.edu/~nsarchiv/news/20010430/

▲ 今でも資料入手できます。ぜひどうぞ(ブログ主より)

 

学者や評論家がそうした事実を知らないまま国際政治を語っているのは、おそらく世界で日本だけでしょう。」 11p

 孫崎は、同じ2次大戦の敗戦国であるイタリアに対し、当時裏工作を担当していた本人のウィリアム・コルビーの著書から、工作の実在を引用している。(コルビーは後にCIAの長官も務めた)

「秘密チャンネルによる直接的な政治的、準軍事的援助によって「干渉」することは、数世紀にわたって国家関係の特徴となってきた。(略)各国は自衛のために武力を行使する道徳的権利をもち、その目的に必要な程度の武力行使を許されている。もしそのような軍事的干渉が許されるなら、同じ状況下でそれ以下の形での干渉は正当化されよう」 

(『栄光の男たち ー コルビー元CIA長官回顧録』 政治広報センター)

「これらの活動で根本的に重要なのは秘密保持である。米国政府が支援しているとの証拠がでては絶対にいけない。そのため、金にせよ、(略)たんなるアドヴァイスにせよ、何の関係もなく、米国大使館とも関係のない第三者を通じて渡された。」 (同前)

 

敗戦国イタリアに対して、過去を自慢げに語っていたコルビー、一線を越えた語りが、誰かの虎の尾を踏んだのかわからないが、コルビーは、孫崎の調査では水死しているという。作家Z・グラントは殺されたと言っていることを付け加えている。

「米国からの圧力とそれへの抵抗を軸に戦後史を見ると、大きな歴史の流れが見えてきます。」 14P

この序章を読むだけで、アメリカの敗戦国に対する、陰謀・工作・干渉はあったし、正当化されていたということがわかる。

コルビーの著書は、 政治広報センターで訳しているのであるから、外交に関わる書として、記憶にとどめおくべき書なはず。日本の戦前の中国への工作など枚挙にいとまないのであるから、外交に工作が重要な位置を占めていたことは、歴史のイロハなのだが、対米外交においては、どうも絶対のタブーなようだ。外交に関わる人々は、

孫崎が掲げた例の偽旗作戦 米国が工作したにもかかわらず、敵対する相手国キューバの攻撃に見せかけて、国民世論の怒りを爆発させ、キューバに侵攻しようと計画していた計画。「ノースウッド作戦」を知っているのだろうか。

これは、ケネディ暗殺にも関わる、アイゼンハワー大統領から引き継がれたキューバ政策の裏工作なのだが、ほぼアメリカの裏工作に興味のある人なら誰でもしっていること。ニクソンが大統領になったら間違いなく実行に踏み切ったと思われることが、思わぬ僅差のケネディの当選で、ケネディに役が回ってきた、巨大な陰謀作戦だった。副大統領だったニクソンは、多分老齢のアイゼンハワーを巧みにあしらい、計画の全貌を把握していた・あるいはこの計画に深く関わっていたことは間違いあるまい。

アイゼンハワーの大統領辞任演説で表現された「軍産複合体」への警告は、国民の知らぬところで暴走しつつある機関とネットワークに対して、第2次大戦を戦ってきた戦争の残酷さを知った上での憂慮であったことは確かであるだろう。

それにしても、孫崎が、序章の中で、「ノースウッド作戦」の例を序章に持ってきたことは、なみなみならぬ決意を表しているのではないだろうか。

「米国の軍部がケネディ政権時代、自国の船を撃沈するなど、偽のテロ活動を行って、それを理由にキューバへ、侵攻する計画を立てていたことがわかっています。(「ノースウッド作戦」 )ケネディ政権はこの計画を却下したので実行はされませんでした」 11P

この計画は実施されなかったものの、米国がキューバ近くに派遣した自国の軍船を沈めること。国籍マークを消した飛行機を飛ばし、自爆させキューバの攻撃に見せかけること。自国の軍人の載った軍艦も巻き込む爆破を行い、それを、敵国キューバのことにして犠牲者がでたと、非道さを煽り、キューバに侵攻するというのだから、心底、ここまで狂っている計画を着々と進めていた政府内政府に深い悲しみと怒りを覚える。「アメリカの国益という呪文」を唱えれば、ここまで許されるのか。ニクソンが大統領選で勝利していたら確実にこの陰謀は実施されていたのではないだろうか。19

偽旗作戦、ノースウッズ作戦については、これだけに特化した詳しい本や、論文は見たことがないが、さしあたり日本ではウィキペディアの該当部分が参考にはなる。

単著ではないが、桜井清彦 『テロ帝国アメリカは21世紀に耐えられない』 2005年 三一書房 の第4章113頁~114頁の中にノースウッズ作戦の説明がある。この本の巻末の資料の中に 「キューバ「危機」とアメリカの謀略」 という部分がある。資料も添付され、これが日本では現在のところ一番詳しいか。桜井のこの本はアメリカの秘密工作を曝く試みとしては、よく資料にあたり、日本ではこれを凌ぐものは見あたらないようだ。「アメリカを「自由と民主主義の国」と呼ぶことはできないと」 著者はあとがきで締めくくっている。第2次世界大戦前から、アメリカの親ファシズム勢力はエリートの内部に存在していたこともこの本で突きとめている。戦前には、リベラル派ルーズベルト大統領暗殺の動きもあったというから、金融業界の腐敗も他国に劣らずすごいもので、ファシズム化はヨーロッパ・日本軍部だけの問題だけではなく、アメリカウォール街にも根深くあったことにも深い探索を入れている。松本清張の「深層海流」のように。

『戦後史の正体』の著者は、長く政府内にあって、日本の政府周囲の内部から日米問題を追及しているが、桜井清彦は、ジャーナリストの目で、アメリカ帝国に真っ向から挑んでいる。これをまっとうに書評する大手新聞はついに現れなかったのではないか。

 ▲ 桜井清彦 『テロ帝国アメリカは21世紀に耐えられない』 2005年 三一書房

これはカバーなしの状態、読み出したらやめられない強烈な濃い味の本。アメリカは民主党・共和党の二大政党の民主国家であるという皮相な理解を根底的に覆す本。サブタイトルにあるように「アメリカによるテロの歴史」。911事件のあと、どうもあやしいぞとその手の本を読み出した頃、この本が出版された。私は通勤の電車やバスの中で読んだがこの本に夢中になり、バスは家の前を通り過ぎ、再び起点の駅にもどりつつあった。カバーは311震災の後、行方不明。よって定価は不詳だが2800円位だったか。さらに桜井清彦には続編を期待する。

 

また「ヒロさん日記」のブログも大いに参考になる。

http://hiro-san.seesaa.net/article/250625521.html

さきほど孫崎があげたアクセス先に、以前公開書類をみたことがあるのだが、閲覧できることを今回も再確認したのでもう一度再掲する。PDF書類でダウンロードできる。

http://www2.gwu.edu/~nsarchiv/news/20010430/

「911事件」真相追求のビデオ作品 『Loose Change 2』の冒頭にはこの、「ノースウッズ作戦」と911事件の酷似性に言及していた。

奇しくも今年は、ケネディ暗殺50年の年である。日米衛星中継50年の年でもあるわけだ。

ケネディ暗殺事件の年は、ようやくテレビの宇宙中継が始まった年で、事件認識と情報収集量では格段の時代差があるが、大手メディアの反応の鈍さと、追求力のなさは、911事件の時の追及力のなさと全く同じである。これを深追いすると危ないと記者たち本能的に身構えてしまうのか。

NHKBS放送では11月から深夜のドキュメンタリー枠で、過去の放送を中心に3週間ほど、ケネディ大統領の特集を計画しているようだ。再放送が多いが、かつてブログでも触れた、オペレ-ション40のメンバーだったマリータ・ロレンツの証言などの取材番組もあったのだが、再放送してくれるだろうか。

「ヒロさん日記」のブログでは、ハワード・ハントに触れた番組を頼りに、「ハワード・ハントが臨終のとき、息子の前で、告白録音をして、ケネディ暗殺のコード・ネームが「Big・Event」だったことを明かしている」 という。死ぬ前、ハントは遺言で、自分とCIAが絡んでいたことを証言したということだ。ということは、政府の一部がケネディ暗殺に直接関わっていたということになるだろう。

ハワード・ハントの息子は、生涯、父が、CIA職員としてケネディ暗殺に関わったのではないかとして、ハント裁判のとき、自宅にいたと証言した父親に対してその日はいなかったとして、ケネディ暗殺の日本当はどこにいたのと詰問したというが、これはまさに本当だったのだ。その日、ハントは家族と一緒に自宅にいなかったのだ。 (当ブログに記事あり 2012年7月18日・19日 マーク・レーンの『大がかりな嘘 誰がケネディを殺ったのか』 )

 

以下続く

 

 

 ▲ 孫崎享 『日米同盟の正体』 2009年 講談社 現代新書 定価 本体760円+税

 

 ▲ 孫崎享 『アメリカに潰された政治家たち』 2012年 小学館 定価 本体1200円+税

 



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