これで完結『武士の一分』(2006年の17本目)

   
あ~原作を読んでおくんだったな。
観終わってからすごく後悔した。


なぜならストーリーに大きな展開がなく、
そこを期待していくと空振りしてしまうからだ。


監督の山田洋次さんが
「藤沢さんの素晴らしい時代劇がたくさんあるなかで、
一本の映画にするには、あまりにも短かったり、断片的だったりして、
なかなか一本の映画にするのは難しい。~(中略)~
『盲目剣谺返し』はちゃんと一本の映画ができる素材なんです。
それをやり残しているな、という思いがずっとありまして、
これで打ち止めにするなら、
『盲目剣谺返し』しかないだろうと思いました」

と言っている。


「たそがれ清兵衛」(2002年)や、「隠し剣 鬼の爪」(2004年)は
藤沢作品の短編を何篇かつなぎ合わせたオリジナル脚本だけど
この映画はほぼ原作に近い。

原作は文庫本でわずか47ページということなので本当の短編。
そうするとストーリーがすごくシンプルだったのもよく理解できる。

それと原作は盲目モノの定石どおり、
視覚を失ったことにより、聴覚や嗅覚が研ぎ澄まされ、
そのために妻の不貞に気がつくとなっているのだけど、
映画ではおしゃべりな叔母の告げ口から不貞に気がつくというふうに
変えられて盲目剣士という凄みはあまりない。

でも一般の人が妻(夫)の不倫に気がつく場合、
より相手への猜疑心に悩まされたり、
武士のプライドを傷つけられるとしたら、
それは告げ口の方ではないだろうか?

そこを変えたあたりに山田監督のこの映画の意図があるのかな。
『武士の一分』というタイトルどおり映画の主人公の方が
より武士の誇りに強くこだわっていて
原作の主人公はもっと夫婦間の愛情だけで動いているといった印象。

その変化の部分で47ページの短編を
2時間の映画へと膨らませていった印象を受けた。

ただやはりその膨らましたことの影響か
映画の前半の展開はすごく進むのが遅く感じた。
そのわりには失明後の中盤から後半にかけての山場は
何となく進むのが早く個人的に前半を短めで、ここからを時間をかけて
もっともっと濃く描いてほしかった。

ストリーや展開にサプライズがあるタイプの映画ではないので
あとはいわゆる芝居部分と映像の面白さに興味が移る。
話題性が高いのはやはりキムタク初の本格時代劇というところだと思う。

随所によくモノマネの芸人さんが真似をするキムタクらしい口調があったけど
それも役者の個性と思える程度だったし、
失明前のそのキムタクらしい部分が失明後の表情や口調から
ドンドン消えていくことで主人公の気持ちの変化をよく表現していたと思う。
さらに最後にはまたキムタクらしい表情と口調に戻ることで、
また夫婦間に心が通い合う様子を表していたと思う。

ただ突っ込みを入れるとしたら、あの貝の毒にあたったシーン。
キムタクは体の不調を必死に堪えるけど、あれってどうなの?
そりゃ他の役職なら武士らしく『忍耐』が必要かもしれないけど
いわば『モニター』の毒見役なら、体調の変化を敏感に感じて
いち早く危険を伝えるのが役目じゃないのかな~?
ちょっと不思議な感じを受けるシーンだった。

共演者では女房役の壇れいはよかったと思う。時代劇に合う女優だと感じた。
「蛍が飛んでいるか」と聞かれ目のみえない夫を思いやり
「まだです」と答えるシーンはとても印象的だった。

徳平役の笹野高史の存在は大きかった。
風景と同化するくらいに自然な存在感と演技で
キムタクと壇の情愛を際立たせていたのは見事でした。
彼がいなかったらハッキリ言って成り立たない映画だったなと思う。

叔母役の桃井かおりの存在はキムタクとの掛け合いでは面白かったけど
キムタクを活かす存在以外にこの映画に必ず必要な役だったかは疑問。

あと坂東三津五郎は「何か裏がありそうないい人役」にはぴったり。

部分部分ではすごくいい要素が多かったし決して悪い映画ではないのだけど
残念ながらオレとしてはさほど心に残る映画ではなかった。

後読みした原作の方が短くシンプルな作品だった分、
とても余韻の残る味わいが深さがあった。
私見だけど、より楽しむため『観る前に読む』をお薦めしたい映画。
特に映画をストーリー中心に楽しむ方はその方がいいんじゃないかな。
そうすればより監督の意図や俳優の演技、映像が作り出す藤沢ワールドを
より楽しめると思う。
(11日に少し言葉足らずな部分があり加筆)


『武士の一分』公式サイト

庄内新聞『海坂かわら版』原作を読む暇がない人、藤沢周平に興味ある人にお薦めのサイトです。

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コメント
 
 
 
TBどうもです (たいむ)
2006-12-10 15:45:36
こんにちは。
私も原作を読んでいませんが、意味不明に感じることもなく、十分に堪能できました。
原作で自分の世界観を作っていると、どうしても違和感を持ってしまう部分ができてしまうので、それはそれで良いのでは?と思いますが・・・
どちらかといえば、観てから読む、の方が理解度が深まるかな?と思っています。
 
 
 
コメントありがとうございます (傷だらけの天使)
2006-12-10 23:03:06
たいむさん>
自分もどちらかというと原作を読まずに観るほうが多いのですが
この作品はおっしゃるとおり原作を読まなくても、簡単に先が読めるストーリーなので
ストーリー展開を重視する方は逆に原作を読んでから観た方がストーリー展開のサプライズに過度の期待を寄せず
別な部分に面白みをさがせるんじゃなかなと思いました。
あくまでも自分が観た感想ですけど(笑)
 
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