”トマトのブランド「アメーラ」の苗をくださあい。”
こんな風に買いにこられると、無いと言うんだけど。
稲吉正博さんは、冗談交じりにそういう。
なぜなら、アメーラは品種名ではなく、ブランド名だからだ。
トマトの品種である桃太郎を、特別な育て方で、丹精込めると、アメーラになるのだ。
どんな風にって、こんな風にである。
適温適湿に保たれ、必要な光を当てる昼夜が計算されたお部屋で、アメーラになるべく桃太郎が芽を出す。
毎日の状況は、全て、一覧表にチェックしてゆく。
ふわぁ、ふわぁ、となきごえの聞こえそうな、赤ちゃん苗。
やがて、次の生育段階へ。
だいぶ、しっかりしてきた。真ん中の段階だ。
視察に来た人々は、高さの揃った苗の生育状況に驚くという。
通常は、ひ弱の苗があったり、ひょろりと伸びる苗が在ったりするものらしい。
アメーラになる桃太郎の苗は、ほぼすべてが順調に大きくなっていく。
彼らにとってのいい環境を整えている結果が生みだした光景だ。
それは、この中で行われている。
そして、いい具合になってきたら、温室デビュー。
さあ、もうそろそろだよ。
個別のポットに定植された苗は、温室で均等に日が当たるように、風が通るように、計算された間隔で並べられる。
病害虫を呼ぶ雑草が生えないために、地にはシートが敷かれている。
ここへ来てからも、毎日、日のあたり具合や、実りの向きをチェックして、くるりとポットの向きを替えたり、
温度や湿度を丁寧に観察しながら、水遣りが行われる。
大事に大事に、いい子になるように。
たいへんっ!!
稲吉さん、枯れてる?!
いやいや、実は、これが、桃太郎がアメーラになる秘密なのだ。
始めたころは、近所の人が「また、あそこは枯らしてるよ」と言われていたという。
枯れて死んでしまうか、トマトの踏ん張る力でいい実を残すか、ぎりぎりの水遣りに抑えるのだ。
葉が生育して伸びている時は、グングン成長するように水遣りをして、花が咲き、実りが始まると、押さえ込んでゆく。
すると、トマトはぎっしりと詰まった栄養価の高い、糖度の増した実になる。
大きさは他のトマトの三分の一程度、糖度は1,5倍から2倍のアメーラになる。
歯ごたえもみっちりとして、タネよりも果肉が多いので、食べ応えもある。
乾燥したアンデス原産だけあって、トマトの生命力は強いのだ。
フランスでも、乾燥した年のワインは、葡萄がしっかりと甘みと旨味が載って、いい出来になる。
もとより、雨が多いと水っぽくなったり、肥大するのが、果物や野菜だ。
しかし、ぎりぎりの線を計るために、彼らは毎日トマトの様子を見る。
まさしく、わが子の成長だ。
休日でも、ふと立ち寄って見ていく社員が多いらしい。
トマトと人の根競べでもあるだろうに、稲吉さんのトマトを見る眼差しを見ていると、やはり、愛情を感じる。
そして、教えてくれた。
トマトって随分毛深いなあと思っていたら、乾燥した時に空中の水分を吸収しようと、気根ができるのだそうだ。
◎気根
http://www.weblio.jp/content/%E6%B0%97%E6%A0%B9
◎気根 園芸豆知識
http://www.yonemura.co.jp/main/engei/mame/003/003n.htm
かなり、気根つくりに気持ちが傾いているトマト君だが、ここには、まだない。
これだ。
ここから、空気から水分を得ようとしている。
可哀想みたいだけどねえ、と稲吉さんは寂しげに言い、その言葉から、大事に思う気持ちを滲ませた。
案外、アメーラにはそれが伝わっているのではないだろうか。
本当に、毎日の日の加減、湿度が変化する中で、丁寧に丁寧に見守っているのでなければ出来ない芸当だ。
こうして桃太郎は、アメーラになった。
ちなみに、こういうトマトを育ててみようか、という話になった時、まだ見ぬトマトの名前を考えていた。
トマトといえばアメーラ、という代名詞になるといいよなあ、という雑談の中で、
商標登録の話しが出た。
冗談で、とっておこうか、と登録した。
冗談で、と稲吉さんは言ったが、それは決意表明であり、支えにもなったのではないだろうか。
アメーラと呼べるのは、アメーラだけなのである。
◎アメーラサイト
http://www.amela.jp/
◎静岡の美味しいものを次々と~高糖度トマト、アメーラ KIRIN
http://www.kirin.co.jp/about/area/shizuoka/0604oishii/index.html
◎トマト 静岡県
http://www.agri-exp.pref.shizuoka.jp/mametisiki/tomato.htm
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ルビンズの、パキッという噛んだ瞬間の音が、キレイでしたねえ。
アメーラ、トマト好きの家族と毎日一個を丸ごとかじってる幸せ者です。