J’sてんてんてまり

はじまりは黎明期。今は、記憶と記録。

アメーラの一生

2007年06月18日 | 人にぞっこん

   ”トマトのブランド「アメーラ」の苗をくださあい。”
   こんな風に買いにこられると、無いと言うんだけど。

稲吉正博さんは、冗談交じりにそういう。

なぜなら、アメーラは品種名ではなく、ブランド名だからだ。
トマトの品種である桃太郎を、特別な育て方で、丹精込めると、アメーラになるのだ。

どんな風にって、こんな風にである。






適温適湿に保たれ、必要な光を当てる昼夜が計算されたお部屋で、アメーラになるべく桃太郎が芽を出す。

毎日の状況は、全て、一覧表にチェックしてゆく。






ふわぁ、ふわぁ、となきごえの聞こえそうな、赤ちゃん苗。





やがて、次の生育段階へ。

だいぶ、しっかりしてきた。真ん中の段階だ。





視察に来た人々は、高さの揃った苗の生育状況に驚くという。

通常は、ひ弱の苗があったり、ひょろりと伸びる苗が在ったりするものらしい。

アメーラになる桃太郎の苗は、ほぼすべてが順調に大きくなっていく。

彼らにとってのいい環境を整えている結果が生みだした光景だ。





それは、この中で行われている。

そして、いい具合になってきたら、温室デビュー。





さあ、もうそろそろだよ。




個別のポットに定植された苗は、温室で均等に日が当たるように、風が通るように、計算された間隔で並べられる。

病害虫を呼ぶ雑草が生えないために、地にはシートが敷かれている。

ここへ来てからも、毎日、日のあたり具合や、実りの向きをチェックして、くるりとポットの向きを替えたり、
温度や湿度を丁寧に観察しながら、水遣りが行われる。

大事に大事に、いい子になるように。






たいへんっ!!
稲吉さん、枯れてる?!

いやいや、実は、これが、桃太郎がアメーラになる秘密なのだ。

始めたころは、近所の人が「また、あそこは枯らしてるよ」と言われていたという。

枯れて死んでしまうか、トマトの踏ん張る力でいい実を残すか、ぎりぎりの水遣りに抑えるのだ。

葉が生育して伸びている時は、グングン成長するように水遣りをして、花が咲き、実りが始まると、押さえ込んでゆく。
すると、トマトはぎっしりと詰まった栄養価の高い、糖度の増した実になる。

大きさは他のトマトの三分の一程度、糖度は1,5倍から2倍のアメーラになる。
歯ごたえもみっちりとして、タネよりも果肉が多いので、食べ応えもある。

乾燥したアンデス原産だけあって、トマトの生命力は強いのだ。

フランスでも、乾燥した年のワインは、葡萄がしっかりと甘みと旨味が載って、いい出来になる。
もとより、雨が多いと水っぽくなったり、肥大するのが、果物や野菜だ。

しかし、ぎりぎりの線を計るために、彼らは毎日トマトの様子を見る。
まさしく、わが子の成長だ。
休日でも、ふと立ち寄って見ていく社員が多いらしい。

トマトと人の根競べでもあるだろうに、稲吉さんのトマトを見る眼差しを見ていると、やはり、愛情を感じる。





そして、教えてくれた。

トマトって随分毛深いなあと思っていたら、乾燥した時に空中の水分を吸収しようと、気根ができるのだそうだ。




◎気根
http://www.weblio.jp/content/%E6%B0%97%E6%A0%B9

◎気根 園芸豆知識
http://www.yonemura.co.jp/main/engei/mame/003/003n.htm




かなり、気根つくりに気持ちが傾いているトマト君だが、ここには、まだない。






これだ。

ここから、空気から水分を得ようとしている。

可哀想みたいだけどねえ、と稲吉さんは寂しげに言い、その言葉から、大事に思う気持ちを滲ませた。

案外、アメーラにはそれが伝わっているのではないだろうか。

本当に、毎日の日の加減、湿度が変化する中で、丁寧に丁寧に見守っているのでなければ出来ない芸当だ。

こうして桃太郎は、アメーラになった。



ちなみに、こういうトマトを育ててみようか、という話になった時、まだ見ぬトマトの名前を考えていた。

トマトといえばアメーラ、という代名詞になるといいよなあ、という雑談の中で、
商標登録の話しが出た。

冗談で、とっておこうか、と登録した。

冗談で、と稲吉さんは言ったが、それは決意表明であり、支えにもなったのではないだろうか。

アメーラと呼べるのは、アメーラだけなのである。




◎アメーラサイト
http://www.amela.jp/

◎静岡の美味しいものを次々と~高糖度トマト、アメーラ KIRIN
http://www.kirin.co.jp/about/area/shizuoka/0604oishii/index.html

◎トマト 静岡県
http://www.agri-exp.pref.shizuoka.jp/mametisiki/tomato.htm



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2 コメント

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取材ありがとうございました。 (稲吉正博)
2007-06-20 09:20:11
㈱サンファーマーズの稲吉です。取材ありがとうございました。気根の事や枯れているトマトの木をこんな風に観察してくれた方は初めてです。私もアメーラについて再認識させられました。ラジオの方もとても良くまとまっていて、消費者の方に録音を聞いて頂いております。秋にはルビンズが出ます。そちらも可愛がって下さい。
こちらこそ、お世話になりました。 (本人)
2007-06-21 00:22:58
込められている気持ちや努力を、そのもの自体の言葉で語るのでなく、今あるアメーラから語る稲吉さんの姿勢が、ステキです。
ルビンズの、パキッという噛んだ瞬間の音が、キレイでしたねえ。
アメーラ、トマト好きの家族と毎日一個を丸ごとかじってる幸せ者です。

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